第17話

  ガキキキキン


 魔獣の歯と風剣がぶつかった。俺は両手を振り次々と襲いかかってくる魔獣の攻撃を受け流した。魔獣の力はそこまで強くない。俺が本気を出せば普通に勝てるだろう。顔さえ見なければ……。


「どうした、ロゼ。やっぱり殺せないんだろ?」

 ガロスは嘲笑いながら水魔法で三匹の魔獣を操っていた。俺はちょうどポタの顔をした魔獣の攻撃を受け止めていた。

「うるせーよ」

 そう言いながらも目線の先にあるポタの悲しそうな顔を見て俺は力が緩んだ。

「ガルルルルルルル」

 ポタの顔の表情とは裏腹に、魔獣の力に押し負けてしまった俺は、そのまま尻もちを付いた。

「今だ、行け」

 ガロスは手を振り下ろした。同時に三匹の魔獣が襲いかかって来る。


「ロゼ君、危ない」

 その瞬間、魔獣の中でダニーの顔をした魔獣に思いっきり体当たりしてくる人物が俺の目に入った。リックだった。魔力量40万を持つリックの力により、ダニーの魔獣はその横にいたポタ、カロの魔獣をも巻き込んで吹き飛んでいった。


「何? リック君、君も邪魔する気か?」

 ガロスは吹き飛ばされた魔獣を見ながら聞いた。

「これ以上、僕の友達に手を出すのは許さないよ」

「だはっはっはっはっ。これは面白いね。君たちは本当に愚かだな。でもそれでいい。そうやって愚か者として死んでいくがいい。水巻融合ウォーターフュージョン

魔力量2万


 すると魔獣三匹は顔を残したまま液状化し、そのまま一つの新たな魔獣となった。

一つの体に3つの顔がそれぞれ、ロゼとリックを睨む。


「リック」

「は、はい?」

「ありがとう」

「うん……」

 俺はリックの勇気ある行動に感謝した。そうだった、俺は止まってる暇なんてない。俺は王になるという星の下に生まれ変わった筈だ。これから先こんなものじゃない困難にぶつかるかもしれない。決断しなければ王とは言えない。


大雷来玉ビッグサンダーボール」 魔力量2万

 俺の目の前に巨大な雷の塊ができる。それは怒りの一撃となって目の前の魔獣に向かっていった。水魔術は雷魔術に弱い。水魔法術で操られていた魔獣は電撃を浴びて機能不全を起こした。


「やはり単純な攻撃ではロゼに押されるか…。なら……お前らプランBだ。リックだけでも取り押さえろ」

「やっと俺たちの出番だぜ」

「いくぞー」

 ガロスの後方で控えていた50人余りの村人達が一斉に武器を振り回して向かってきた。


「来させるかよ。大土壁おおつちかべ」 魔力量3000

 俺と村人の間に大きな土の壁が現れた。見たところ村人の殆どが魔術を使えない。この壁を越えるのは時間がかかるだろう。そう思った時だった。


岩砕乱ロキシラン」魔力量 5000

 声とともに土壁にヒビが入ると上の方から順番に音を立てて崩れていった。

崩れた時に出来た土煙の向こう側から村人達が走ってこちらに向かってくる。


土竜呼モッコス」 魔力量5000

 突然、俺は足に強烈な痛みを感じた。下を見ると地面の中から何者かの手が出ている。その手にはナイフが握られていた。ナイフは俺の足を堂々と貫通して突き刺さっている。

「グッ、いつのまに………」

 はじめての感覚だった。前世では引きこもりだったから、いや多分引きこもりじゃなくても足首辺りにナイフが貫通して突き刺さるなんて無いだろう。痛みで俺はその場にうずくまった。

「ふっ子供の足はやっぱり刺さりがいいな」

地面の中から声がする。


「さすがテウ様。後は俺たちで止めを刺しますよ」

 村人達がもうそこまで来ていた。足首が熱い。俺は止まらない血を見て、かつていじめられていた学生時代に靴の中に画鋲を入れられた事を思い出していた。あの時、気づかずに靴を履いてしまったせいで、足の裏に画鋲が刺さってとても痛かった。痛くてうずくまっている様子を画鋲を入れた奴らが、廊下の隅から見て笑っていた。無力で何も出来なかった前世。今の俺はどうだ。状況は違うが同じようにうずくまっているではないか。結局は無力だった。俺はポタもダニーもカロも、そして俺が動けなくなった今、リックも助からないだろう。


 武器を持った村人の一部が俺のことを取り囲んだ。残りはリックを捉えらえるような動きをしている。結局は前世と変わることが出来なかった。違う人生なんて歩めなかった。

「ここでくたばれ」

 村人達が俺に武器を振りかざして来た。痛みで魔術すら発動出来ない。俺は目を瞑って覚悟した。


「そこまでだ。三魔合斬さんまごうざん」 魔力量5万

 空から声が聞こえて来た。魔術の暗唱。よく俺が耳にしていた声だ。


 炎、風、雷が合わさった魔術の刃がロゼとリックの周りにいた全ての敵を切り刻んでいく。それは地面の中にいたテウも例外ではなかった。刃によって戦場は一気に形成逆転した。気づけば、魔獣を利用して身を守ったガロス以外は全員が刃に倒れていた。


「大丈夫かロゼ様」

「サウザーさん、なんでここが?」

「感知魔術さ。ロゼ様に何かあったら俺は国中に顔向け出来ない。俺はロゼ様を守るのが自分の役目だしな」


「クリスタル王国最強の戦士サウザーが来るとはな。少し部が悪いな」

 ガロスはそう言って腕を振った。魔獣が襲いかかって来る。

「くだらん」

 三尖刀を構えたサウザーは駆け出した。目にも止まらぬほどの猛烈なスピードで魔獣とすれ違った。その瞬間、魔獣の体は真っ二つに切れた。体液が空中に噴き出る。魔獣がまだ完全に地面に倒れない間に既にガロスの元に詰め寄っていた。

 −な、避けられない。


 ガロスはなすすべもなくサウザーに投げられた。サウザーはそのまま、ガロスの上に乗っかる。

「ガロス、お前を憲法違反で逮捕する」

 ガロスの手首に手錠が付けられる。


 サウザーの手によって全てが終わった。魔軍局の軍団が後に続いてジャック村に入ってきた。リックの捕獲計画に携わった村人達とテウも全員捕まった。

 一方で下級国民ジャラスに行くまでの橋の上で戦ったウェルトの姿は何処にも無かった。俺が倒した時は、川に浮かんで気絶していたのを覚えている。いつのまにか逃げ出したらしい。まぁ、あいつが所属するシルバーエンジェル自体が父親で現国王のサーロンの専属部隊の為、サウザーを含む魔軍局でも手出しが出来ないらしい。まさに法を超越した存在なのだろう。

 俺はというと、足首の負傷により、病院送りとなった。どうやら骨をナイフが貫通していたらしい。道理で立てないと思った訳だ。ああ、それから俺が下級国民ジャラスのいる地に無断で行っていたのもかなり問題らしい。エレナにこっぴどく怒られた後、会議の議題に挙げられることとなった。そういうところだけはやけに厳しいんだなと俺は思った。

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