第11話

「クソ生意気な野郎だな。まぁいいぜ。ボコボコにして上級国民ジースに送り返してやるから覚悟しよろ」

 ポタはそういって踵を返した。

「ボンボン、ついてきなよ」

 カロが手招きする。

 俺は軽やかに屋根が降りると、三人の後に続いた。


 しばらくすると開け場所に出た。広場を囲むように木造の古びた民家が並んでいる。中央にはやはり俺と同じぐらいの年齢の子がザッと10人ぐらい居る。

「おいポタ、誰だよそいつは」

「こいつ、俺たちのボールを奪って返さないんだ。返して欲しけりゃ魔力ボールで勝負しろってよ」

「なるほど、ちょうど人数が一人足りなかったんだ」

「じゃあさっさとやろうぜ」

 俺は準備運動をした。


 魔力をともなったボールが中に浮かび上がる。それを足でトラップする。俺はこの競技が前世でのサッカーにそっくりだとすぐに分かった。かつてのデブだった俺は完全に戦力外だった。でも今は違う。

火加速ひのかそく」 魔力量1000

俺は火力で力をブーストさせた。相手のパスをすんでのところで切り、ボールを自分のものにした。敵が正面に二人。仕掛けた。

水壁みずかべ」 魔力量500

 相手の二人の目の前に水を出して、視界を消した。俺はその間を通り抜ける。最後にゴールキーパーと一対一になった。

「お前が如きが、止めてやるよ。土地獄アースロスト」 魔力量500

足元が沈んだ。動きを止められた。俺は土の中に足が埋まっていくのを確認した。

「どうかな? 風空浮遊スカイドライブ」 魔力量5000


 俺の周りに風が舞い上がった。足元を埋めていた土が風に吹かれて飛んでいく。そのまま勢いは弱まらず、俺とボールを浮かび上がらせた。

 そのまま、体を捻って頭を地面に向けた。オーバーヘッドだ。足を天から振り下ろした。ボールは強い力で勢いよく押し出され、キーパーが反応するよりも早くゴールに突き刺さった。

「ゴーーール。ボンボンが華麗なオーバーヘッドで決めたぞ」

 パチパチパチパチ

 俺たち子供の試合を見ていた近所のおじさんが解説のようにそういった。他の観客も拍手している。

「いやぁ、それほどでも」

 俺は少し照れ笑いをした。素直に嬉しかった。今までこんなに誰だかに褒められたことはなかったからだ。前世だとスポーツをするときは必ず馬鹿にされてきた。嫌な思い出ばかりだった。

「な……なんだ。このボンボンやるじゃねぇか」

 ポタが驚いてこっちを見てきた。

「いやぁ、すごいゴールを見させてもらったな。ちなみにお前、名前は?」

「ロゼだよ。キング・ロゼ」

「ん? キング・ロゼって聞いたことがあるような…」

「ポタくん、聞いたことがあるどころじゃないよ。この国でキングと名付けられているのはただ一つ。クリスタル王国の国王の血筋だよ」

「なんだと? そんな奴がなんで俺たちみたいなのが住んでる所に来てるんだ?」

 ポタがいった。

「とある老人から魔石を探して欲しいとおつかいを頼まれたのさ」

「おつかい? ボンボン王子様がこんなところまで?」

 ポタがまた、馬鹿にしたような口調で言った。それは俺にとって良い気分ではなかった。

「俺はボンボン王子様ではなく、ロゼなんだが、まぁとにかく魔力ボールは楽しかったぜ。俺がゴールを決めてチームを勝たせたんだ。褒美としてこの魔石の場所を教えてくれないかな? 頼むよ」

「チェッ、仕方がねぇな。ダニー、カロ、案内してやろうぜ。リックのところまで」


 その場所は入り組んだ道を歩いた先にあった。道の排水溝には水が流れていない。飲んだ後のペットボトルが散乱していた。薄暗い屋根の下でガラスの中の魔石を置いて一人の男の子立っていた。といっても表情は全く分からない。深く帽子を被り、マスクで目以外見えないようにしていた。


 だが、それよりも驚いたことがある。俺はその男の子を見た時に、目を疑ったのだ。魔力量40万と表示されていたからだ。この辺りに住む人々の魔力量の数値はだいたい平均で5000ちょっとだった。この世の平均魔力の数値もそれぐらいだ。魔力量40万はクリスタル王国全土でもトップクラスの魔力量だ。何故、今まで見つかっていないのか不思議なぐらいだった。


「い、いらっしゃいませ。カロさん、ポタさん、ダニーさん久しぶりですね」

 俺達四人を見てまるで何かから怯えているようにそう答えた。

「おう、リック、実はロゼって奴が魔石を買いたくてよ、そんで俺がこの店を紹介してやったんだ」

「ロゼだよ。よろしくね」

「リ、リックです。よろしくお願いします」

 リックはロゼの差し伸べた手にゆっくりと触って握手を交わした。

「ここで、映像が観れるB級の魔石が売ってるてのは本当か?」

「はい、こちらです。少し高いですが…1万ルーです」

 ルーというのはこの世界の単位だった。魔石は紫色に輝いていた。前世では見たことのない輝き。石の中に魔力が込められているのだろう。

「値段は俺にとって問題じゃないんだよリック。それよりも気持ちさ。困っていた誰かが魔石によって救われる。だから、リックは必要な存在なんだ」

 ロゼのその言葉にリックはハッとしたように頭を上げた。リックにはロゼが眩しく見えた。

 夕焼けが川に映っていた。橋の所まで三人とも出迎えてくれた。下級国民ジャラスの子供達はフレンドリーだった。色々あったがどうやら仲良くなれたらしい。

「楽しかったぜポタ。ありがとうな」

「おう、ロゼ、俺たちは基本いつでもやってるぜ。また、遊びに来いよな」

「じゃあねロゼくん」

「なんだかんだ楽しかったぜロゼ」

「じゃあな」

 俺は三人に手を振って別れてた。半ば強引にだが友達を作れた。俺が密かに目標としていたことだ。クリスタル王国内は大人ばかりだったからな。少しは子供としての人生を堪能するのもありだなとロゼは思った。


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