「まっ、待てぇえええええぇ~っ!」


 気が付くと、僕は彼らに駆け寄りながら叫んでしまっていた。なぜそんな行動に出たのか、僕自信にも分からない。


 ただ、おそらくそのまま放っておいたらいけないって本能が強く感じたからなんだと思う。


 女の子は僕と目が合った瞬間、小さく息を呑んだようだった。それと同時にあの膨れあがっていた力の気配は影もなく消え失せる。


 一方、チンピラたちは敵意むき出しの目をして僕を睨み付けてくる。



 こ、怖い……ッ!



 僕は血の気が退いていき、背筋が寒くなる。足は震えが止まらない。


「なんだ、クソガキ? 邪魔すんじゃねぇよ!」


「ガキは引っ込んでな!」


「あ……そ、その女の子、嫌がって……ままま……ますよ……」


 精一杯の勇気を振り絞って出た言葉はそれだけだった。彼らの間に割って入るどころか、自然と後ずさりしてしまっていて今にも腰が抜けそうだ。


 我ながら……情けないけど……。


「っせぇんだよ! クソガキっ!!」


「うわっ!」


 チンピラのひとりに肩を突き飛ばされ、僕は後ろによろけた。そして踏ん張りきれず、バランスを崩したままペタンと尻餅をついてしまう。


「あははははっ! なんだ、コイツ? 冒険者みたいな格好してるクセに単なる見かけ倒しかよ?」


「このガキ、ボコボコにしちまおっか?」


「それはそれで楽しいかもな」


 ふたりはニヤニヤしながら、へたり込んでいる僕に歩み寄ってくる。


 そして僕の横に立つなり、鳩尾に向かって全力の蹴りを繰り出してきた。



 目の前に火花が散り、その衝撃と痛みで意識を失いそうになる。呼吸もうまく出来ない。さらに口から胃液が吐き出され、苦みと酸っぱさと鉄のような味が口の中に広がる。


 そんな僕を嘲笑しながら見下ろしているチンピラたち。続けざまに攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気だ。


 でもその時、女の子が深いため息を吐いて冷めた視線をチンピラたちに向ける。


「クズどもめ。同族を痛めつけて何が面白い? それとも自分より弱い者にしか力を振るえんのか? 臆病者の野良犬はさっさと山に帰れ。キャンキャンうるさくて堪ったものではない」


「なんだと?」


「テメェも痛い目に遭わされたいのか?」


 激高したふたりの矛先が僕から女の子の方へと向いた。


 それどころか最悪なことに、彼らはポケットからナイフを取り出して身構えている。


 脅す目的だけならまだマシだけど、もしあんなものを振り回して女の子の肌に当たったら取り返しの付かないことになるかもしれない。大した怪我でなかったとしても、傷跡が残ってしまう可能性は充分にある。


 いや、切り裂かれるのが髪や服であったとしても、彼女の心は抉られてしまうだろう。



 う……ぐ……僕に戦う力と勇気があれば……。



 足が動かない。もはや勇気も振り絞れない。怖くて胸が締め付けられる。僕は自分の不甲斐なさをあらためて痛感し、拳を握りしめながら歯ぎしりをする。


 それから程なくチンピラたちはナイフを突き出しながら女の子へ襲いかかる。


 でもその直後――。


「恥を知れっ!」


 女の子がカッと目を見開くと、彼女の体の内側から衝撃波のようなものが吹き出した。


 それはチンピラたちのいる方向にだけ放たれ、空間を歪ませながら波紋のように伝播していく。また、周りの空気は稲妻のようにビリビリと震え、瞬時にチンピラたちを弾き飛ばす。


 彼らは近くの家の壁まで吹っ飛ばされ、背中を強く打ち付けてそのまま地面へとずり落ちた。


 一様に表情は苦痛に歪み、手足は軽く痙攣している。あの感じだとすぐには起き上がってこられないと思う。



 ――それにしても、今の攻撃は何だ? 女の子は魔法でも使ったのだろうか?



 でも呪文スペルの詠唱をしているようには見えなかったし、あの瞬きをするような短時間でそれが可能だったとも思えないけど……。


 その後、彼女はチンピラたちのところへ静かに歩み寄ると、氷のように冷たい瞳で彼らを見下ろした。そして開いた右手を彼らに向けて制止させる。


「……死ね」


 直後、彼女の右の手のひらには漆黒の炎が浮かび上がり、薄気味悪く燃え始めた。


 それは次第に大きく膨れあがり、渦を巻きながら闇夜を凝縮したような塊へと成長していく。


 あんな炎の色、見たことがない。トンモロ村にも炎系の魔法を使う人が何人かいたけど、それは火打ち石などで熾した炎と同じ色だった。


 つまりあれは未知の理というか、特別な系統の魔法なのかもしれない。


「ヒィイイイイイィッ!」


「たっ、助けてくれっ!」


 チンピラたちの瞳は恐怖に染まり、全身を小刻みに震わせていた。


 圧倒的な力の差。得体の知れない攻撃と魔法を目の当たりにして、完全に戦意を喪失している。


 逃げようにも後ろは壁で後ずさりすら出来ない。左右から逃げだそうにも、大きなダメージを負っている今の状態ではあっという間に追いつかれてしまうだろう。



 ――では、ここでダイス判定。六面ダイスを二個振ろう。数値の合計は?



●6以上……→26へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116737875


●5以下……→32へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116899077


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