第31話 女の子に〇〇〇〇思〇〇〇〇〇たら霊が〇〇見〇〇〇〇〇〇た話 中
その日は私は夢の中で・・・いえ、もしかしたら現実だったのかもしれません、とにかく私はその日、阿部さんと会いました。
「やあ優ちゃん、久しぶりやな」
「阿部さん・・・?」
「そうやでー阿部さんや。俺の最後の作品、うけとってくれたんやろ?」
「はい、まだ読んでいませんが楽しみにしています!」
私はてっきり夢だと思い込んでいたので、夢に出て来た阿部さんと色々な事を喋りました。
阿部さんが書いた小説についてや、学校であったことについて、書店で見つけたおもしろい本について、そして・・・阿部さんについて・・・
「阿部さん・・・そういえばどうして阿部さんは最後の方本を出さなくなっていたんですか?」
私は夢の中だろうと思い、普段ではあまり聞かないような事を聞いてしまいました。小説家が本を出さないという事はそれなりの理由があるという事で、それはもしかしたらとても言いづらい事なのかもしれないのに・・・。
やはり何某かの言いづらい理由でもあったのか阿部さんは私の質問を聞いて一瞬表情が固まりました。
表情どころか動きも固まった阿部さんに私は声を掛けようとしたのですが・・・
「あ・・・阿部さん・・・?」
『 なん や ?』
「ひっ・・・!」
声をかけた阿部さんには・・・顔が無かったんです。
顔が・・・顔のパーツが会った筈の場所には唯々黒い穴があって、そこから声が聞こえて来たんです。
『 ど うし た ん や?』
私が怯えていると阿部さんは私に近づいて来て、顔を覗き込むように寄せてきました。
私は寄せられた顔の穴に吸い込まれるかと思って恐怖して、声も出せずに震えていたのですが・・・
「どうしたん?そんな顔して、なんか怖い事でもあったか?」
いきなり阿部さんの顔は元に戻りました。
私は一度目をこすってから阿部さんの顔を見ましたがやはり普通の顔で、先程までの様な穴ではありませんでした。
「い・・・いえ、なんでもありません」
夢だからそんな事もあるかと気にしないようにすると、次の瞬間にはその事は忘れてしまいました。
何を考えていたんでしたっけ?と思っていると、阿部さんは私の質問に対する答えを話してくれました。
「本を出さんくなった理由なぁ・・・まぁスランプって奴やろな。突然書けんくなったんやわ・・・」
私はその時になって聞かない方が良かったかな・・・と思ったんですが、阿部さんは話を続けました。
「なんや机の前に向かっても上手く文章が頭に浮かばへんのや・・・気分転換の為に旅行に行ったり、遊んだりしたけどあかへんかったわ・・・」
「阿部さん・・・」
余りに悲痛そうに話すので、私は心配になって手を差し伸べようとしたんです。そうしたら俯いていた阿部さんはいきなり私の方に顔を向けました。
その顔は・・・まるで人形の様に無表情でした。
「けどそん時や、優ちゃんに助けられたんわ」
「え・・・?」
「雄一と飲むために家に行ったら優ちゃんだけ居った時あったよな?」
大体の日にちも言われたので思い出すと、覚えがあったので私は頷きました。
確かその日は・・・
「もうすぐ帰ってくる言うて上がらせてもろて、雄一が返ってくるまでに色々はなしてたやん?」
そうです、折角憧れの作家さんと二人になれたのですから色々話しました。
今まで読んだ小説の事や次の展開、書いていた時に何を思っていたか等色々です。
「何気ない話やったけど、あれで初心っちゅうのかな・・・色々思い出せてな?家に帰ったら頭に浮かんできてな、また物語を綴る事ができたんや」
阿部さんは嬉しそうな声でそう言ったんですが、顔を見るとやはり無表情で少し怖くなったんですけど、私はそのまま話の続きを聞きました。
「んでな、書けた話が今日優ちゃんが受け取ったあの本や。まぁ本いうても俺が個人的に作った同人誌みたいなもんやけどな」
「え・・・?」
「あの話な?出版社の担当に見せたんやけど酷評されてもうてな、没くらったんや。担当が言うには『ありきたり過ぎる、もっといつもと違う斬新な展開がほしい』だそうや」
「そ・・・そんな」
「まぁ後から知ったんやけど、俺には上がえらく期待しとったみたいでな、担当もオーケー出したかったんやけどあかん言われとったそうや。まぁあの時の俺にはそんな事言うてもあかんかったやろけどな」
確かに出版社の人の考えも解らなくはありませんでした。と言うのも、阿部さんは一時期凄い売れていた時があって、恐らくその時の事があって期待されていたんだと思います。
「あの時の俺にとっては会心の出来やった・・・そう・・・会心の出来や った んや・・・ 久しぶり に綴れた物語、懐かしい気持 ちでようや く書 け たんや・・・ そ そ それを ぉ ぉお あ のおぉお ぉ クソど も ぉぉ お おお おおお オォオオォォ』
その時の悔しい気持ちを思い出したのか、阿部さんの口調と声が乱れました。いえ、乱れたというような優しいものではありませんでした。
『ユる さんん ん んんん アノク そ どもがぁぁがぁぁ ガガガガ ユルサ ん 許さん ゆる さ n 許サン ゆるさ ん ゆる SA ん ユルさん YU るサン ゆゆゆうううるうう サン 許さん 許さん 許さん 許さん 許さん・・・・・・』
狂気にまみれていました。
無表情のまま口から呪詛を垂れ流し、気配も不穏なモノが漂っていました。
私はその様子に絶句していたのですが、阿部さんは突然動きを止め私を見ました。
「まぁそんなわけで、全てを否定された気がした俺は本だけ作って自殺したんや」
「・・・えっ!?」
いきなり真面に戻ったと思ったらやはりおかしかったのか、そんな事を言ったのです。
「まぁ優ちゃんにだけはあの本を読んでほしくて、最後に雄一に渡したんやけどな。それがようやく今日届いたって訳や」
しかし話している内容的には本当の事みたいで、私は動揺しながらも頷きました。
「脱線とかもしたけど、まぁこんな所やな」
「は・・・はい、話しづらい事を聞いてしまってすいませんでした・・・」
これで私が質問した『本を出さなくなった理由』は終わりみたいでした。やはり聞かなければよかった、どうしようと思ったのですが後の祭りでした。
そんな事を考えていたら、今までの無表情が嘘みたいに笑顔になった阿部さんがこちらを見ているのに気づきました。
見慣れた笑顔でしたが、少し前までの無表情とのギャップに少し恐ろしいモノを感じていたのですが、阿部さんの口から出た言葉にそんな気持ちが上限値を振りきったのか、思考が停止しました。
「なぁ優ちゃん、頼みがあるんや。死んでくれへん?」
「・・・?」
「あぁ、すまんすまん、話をはしょりすぎたわ。俺って死んどる訳やん?んでちょっと寂しいから優ちゃん一緒に居てくれへんかなってな。優ちゃんやったら俺、ずっと一緒に居ってもええと思えるんや」
「???」
「前に雄一にも優ちゃんくれって言うたんやが断られてな?それから何でか雄一に干渉する事も出来んくなってな。今やったらまた話せるんやけどどうせ答えは変わらんやろ。そんなら本人に言うた方がええかと思てな?」
「え・・・?あの・・・?」
「ええやん、優ちゃんも俺の事は好きやろ?俺も死ぬ前から優ちゃんの事は好きやし、死んでからは寧ろ愛してるんや。な?ええやろ?死んで一緒に居てや?」
段々と言ってる言葉を理解して来たのですが、理解したくありませんでした。
言っている意味が解っても、意味が解りませんでした。
「な?な?ええやろ?一生・・・いや、永遠に大事にするで?だから死んでや、な?」
しかし阿部さんは答えを迫ってきたので、私はなんとか思考を回転させ答えました。
「む・・・無理です、ごめんなさい・・・」
生きているときに普通に言われたのであれば解りませんでしたが、その愛の告白ともとれるような言葉を私は拒絶しました。
しかし阿部さんは諦めませんでした。
「えぇ?なんでや?ほんまに大事にするで?何よりも優先するし楽しませる、そして永遠に愛し続けるで?な?ええやろ?」
「そ・・・そんな事言われても・・・」
「頼むっ!今更気づいたけど愛してるんや!優ちゃんは俺の救いの女神なんや!」
そんな風に告白しては振り、告白しては振りを私達は続けていました。この時普通だったら、そもそも一緒に居たいから死んでくれ等、意味が解らなく気持ち悪い言葉なんて取り合わなかったんでしょうけど、状況が状況だったからか、私は真面目に答えを返していました。
そうやって暫く問答を続けていたんですけど、私が言ったある言葉でこの問答は終わりを・・・迎えてしまいました。
「死ぬってそんな・・・無理です。お父さんが心配ですし友達や知人もいます。阿部さんの気持ちは嬉しいですけど、全てを放り投げて一緒になるのは・・・」
「な るほ ど 」
それまでとは打って変わり、おかしなトーンで阿部さんは喋りました。私は驚いてしまい阿部さんの顔を見たのですが・・・また無表情でした。
しかし直ぐに笑顔に変わり、テンション高く喋り始めました。
耳を疑うような狂気的な内容を・・・。
「成程な、全て理解や。要するに生きていたく無くなればええんや」
「な・・・え?」
「そうや、簡単やんんん。絶望してもう生きていたくない、死んで俺と一緒に居たいと思ってくれればえええええんんややぁぁ」
「あ・・・あべさ・・・」
「そう やそうや そ う やそうや。それで ええや ん』
段々と阿部さんの顔が黒くなっていったかと思うと、遂には顔が消え黒い穴になってしまい、私は言葉を出せなくなりました。
『ほ ほ ほ ほな手始めにぃイイ雄一ィィイイイ カラや。あああいつはそそそ そもそも お俺達の仲をひひひ引き裂く敵ィィイやああ』
『 ま っ て て な 』
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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