第30話 女の子に〇〇〇〇思〇〇〇〇〇たら霊が〇〇見〇〇〇〇〇〇た話 上
物が雑多に置かれた棚がある部屋の中で、少年が少女を取り押さえていた。
その時に激しく揉み合ったのだろうか、少年の顔には少し傷が出来ていて息も少し上がっていた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・っぐ・・・」
「どいてください・・・」
「駄目だよ・・・離したらまた・・・」
「もう・・・大丈夫です・・・」
少女がそう言うと、少年は少女の目をジッと見た。その目からは先程の焦燥感や絶望感だけしか感じられない目では無かった為、少女の拘束を解いた。
「解った、信じるよ。・・・ふぅ」
少年は病み上がりだった為体力を使い果たしたのか、しんどそうに床に座り込んだ。そしてチラリと少女の方を見るが、大人しく座っていた為安堵したのか大きく息を吐き出した。
「ふぅ~・・・それにしても・・・あれは?よくは見えなかったけどあれって・・・」
少年は自分の考えを整理するつもりで独り言を呟いた。だがそれは少女にも聞こえ、少女への質問と捉えたのか小さな声で答えた。
「あれは・・・いえ・・・」
しかし直ぐに話すのを止めてしまったが、少年はそもそも質問したつもりはなかったので何も言わなかった。
暫くは二人共無言で座っていたのだが、少女が小さな声で呟きだした。
それは始まりの・・・否、始まってしまう前の物語。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
それは何でもない平日の夜でした。
「ただいま・・・」
玄関の扉が開き、挨拶と共に父が帰ってきました。
「おかえりなさいお父さん。・・・でも今日帰ってくる日でした?」
私の記憶だとお父さんが帰ってくるのはもう少し先の筈なのに、何故か帰って来たのです。
しかもどこか元気が無さそうでした。
私はてっきり、病気か怪我が理由で予定より早く帰宅したのかな?と思ったのですが、父の口からは予想外の言葉が出て来たのです。
「優には連絡がまだいっていなかったのか・・・。あのな優・・・母さん、いやお祖母ちゃんが亡くなったそうだ」
「え・・・?」
これは涼真も知っていると思うのですが・・・、祖母は今でこそ直接会うのは少なくなっていましたが、昔は頻繁に家へ来てくれて私達の面倒をよく見てくれていました。
なので私は・・・いえ、涼真もでしたね、私達は祖母をとても慕っていました。
だから私はその話を聞いて、とてもショックを受けました・・・。
「そう・・・なんだ・・・。・・・解りました。それでお父さんは帰って来たんですね?」
「あぁ、父さんは長男だしな。色々やらなきゃいけなくてな」
「成程、私も手伝いますね」
でも私は昔祖母が言っていた事を思い出して、前を向くために気持ちを切り替えました。
祖母は昔、私にこう言いました。
私は貴方より早く死ぬ、だけどその時が来たら笑顔で送り出してね?そして心を強く持って周りを助けてあげて。と。
その他にも常々私に、人には優しく、困っている人には手を差し伸べる、人に恥じる行いはしない等の今の私を形作る姿勢を教えてくれましたが、今思うと幼少期ワンパクだった私を如何にかしようと掛けていた言葉かも知れませんが・・・。
ともかく、私は祖母の教えに従い悲しくなりショックは受けましたが、気持ちを前向きに祖母を笑って送り出す為に行動を始めたのです。
それから私と父は忙しく動きました。涼真は知っていると思いますが、一時期学校に公欠で休んでいた時期です。
その辺りから少しづつ歯車が狂い出したんです・・・。
祖母の通夜が終わった夜、私と父は一旦家に帰ってきました。
「優、悪いが直ぐにとんぼ返りするから、着替えや風呂をさっさと済まそう」
「解りました。取りあえずお父さんが先にお風呂へどうぞ」
「解った。上がったら言う」
そう言って父はお風呂へと向かったので、私は自室へと向かいました。
自室へと入ると着替え等を準備してお風呂へ入る準備をしていたのですが・・・。
「うん・・・?あ・・・紐が千切れちゃってる・・・」
その時、私は胸元に提げていた昔祖母からもらったお守りの紐が切れていることに気付いたんです。
直そうかなとも思っていたんですが・・・。
「大分汚れちゃってますね・・・後で綺麗して、その時に直しましょうか」
長年肌身離さず持っていた物ですから、少し綺麗にしようと棚に置いておいたんです。
今思うと、その時に一度効力を失くしたのでしょうね・・・。
棚にお守りを置いて直ぐ、部屋の扉がノックされ父が声をかけてきました。
「優、上がったぞ」
「はい、解りました」
お風呂を上がったとの事なので私は直ぐに返事をしてお風呂に入り、その後直ぐに家を出て祖母の家へと向かいました。
その時辺りから何かを感じていたのですが、忙しさで気にしている余裕がなく、時間は過ぎていきました。
やがて祖母のお葬式や火葬も終わり、無事祖母を送り出し家に帰ってきました。
「優、お前は強いな・・・」
「お婆ちゃんが死ぬときは笑って送り出してくれって言っていたので・・・。お父さんは大丈夫じゃなさそうですね・・・」
私は背を丸くして座っている父の背中を撫でながらそう言いました。まるで親子逆転の様ですが・・・
「あぁ・・・一年位前に達也も逝ってしまったし、流石に親しい人が連続で亡くなると少しな・・・」
父の親友とも呼べる人が一年ほど前に亡くなったのも会って、父は大分参っていたんです。
最近ようやく立ち直って執筆を再開させていた矢先の事でしたから、私は心配でした。
「かと言って優がそんな風にしているんだ、父さんも元気出さなきゃな」
しかし父はそう言って私の頭を撫でてくれました。
「うん・・・」
父の力になれた様で嬉しくなり、私は父に甘えました。そして心の中で祖母に「お祖母ちゃんのおかげでお父さんの力になれました、ありがとうございます」と感謝をしていると、私の頭を撫でていた父が「そういえば・・・」と何かを思い出したのか自分の部屋に入って行きました。
父は自室から一冊の本を持って来ると、私に差し出してきました。
「すっかり忘れていた・・・これ、達也から優にって亡くなる少し前に預かってたんだ・・・。何で忘れていたんだ・・・すまん達也・・・」
私は父から差し出された本を受け取りその本を確認すると驚きました。
「この阿部さんの本初めて見たんですけど、これってまさか・・・?」
「あぁ、あいつの・・・最後の作品ってやつだな・・・」
「阿部さん・・・」
私は阿部さんの書く本が好きで、大抵の本は読んでいました。亡くなる少し前はあまり本を出さなくなっていましたが、最後の作品と聞いて少し不謹慎ですが喜んでしまいました。
「まぁ・・・楽しんで読んでやってくれ。それがあいつにとっても一番いいだろうしな」
父は少し遠い目をしながらそんな事を言いました。私はその言葉に頷き、その本に視線を向けて呟きました。
「阿部さん、後で楽しませてもらいます・・・」
感謝を込めて言葉を発し、一度本をぎゅっと抱きしめました。
その時です・・・
「んっ・・・」
立ちくらみが起こった時の様に頭がぼやぁ~っとしました。幸い座ったままでしたので何ともなりませんでしたが、その様子を父が見て心配したのか私に言ってきました。
「優、自分では気づいていないだけできっと疲れ切っているんだ。今日はもう寝なさい」
私は父の言葉を受け、確かにそうかもしれないと思い寝る事にしました。私は阿部さんの本をリビングのテーブルへと置き、自室へと向かい直ぐに寝てしまいました。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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