第26話
優は早速九重のレポートを見ながら買ってきた物を部屋の中央にあるローテーブルへと広げる。
「えーっと、先ずは防御札から作るか。材料はこれとこれ・・・後これとこれとこれもか」
優が取り出したのは半紙、筆、墨とまるで習字でも始めるかの様な道具、それに線香と金属製の皿に蝋燭だった。
「あ、後はお水と硯もいるか、チャッカマンも」
優は机の横に置いてあった、昔使っていた習字用鞄の中から硯を取り出し、そのあと一度自室を出て水とチャッカマンを持ってきた。
道具を揃えると、レポートへと目をやり手順を確認する。
「まずは半紙に蝋燭で霊力を流しながら以下の図を書くと・・・」
霊力が必要との事なので、まだ慣れないながらも霊力を生み出し手に持った蝋燭へと流す。
そして半紙を一枚取り出し、蝋燭の下方を使い図を書きだす。透明でかけているのかわからなかったが、光の反射などで確認をしながら書き続ける。
「よし・・・できたかな?」
完成すると、半紙の中央に金属製の皿を乗せそこに火をつけた線香を乗せ、励起文言を唱える。
すると、蝋燭で書かれた透明の線が少し光を放つ。少し驚いたが、励起文言を途絶えさせずに唱える事に成功する。
「光るんだ・・・っとと、次次」
続いて、硯を裏返し、裏側に先程と同じように蝋燭で図を書いて行く。それが終わると組んできた水が入ったコップに人差し指を入れる。
「ふぅ~・・・霊力注入っと・・・」
そう言いながら人差し指から霊力を出し、水へと放出する。
そしてそれを硯へと少し注ぎ、そこへ先程線香を燃やした時に出た灰を一つまみ分入れる。
「そして後は、墨に霊力を流しながら励起文言を唱えてすると・・・」
優は墨に霊力を流しながら励起文言を唱えつつひたすらにすり続ける。それは意外と大変で、一すり毎に霊力が水へと流れ出る様に減っていくのを感じた。
やがて励起文言を唱え終わる頃に黒々と色が出たので、これでいいだろうと墨をするのを止めた。
「ふぅ・・・、後は半紙をイイぐらいの大きさに切ってっと・・・」
ハサミを取り出すと半紙を使いやすく、されど書くのに小さすぎないくらいの大きさへと切り出す。
そして紙と墨が用意できたら、いよいよ札の製作へと取り掛かる。
「ふぅ~・・・俺の無駄な習字3段の見せ所!いざっ!」
そう言って優は筆に墨を浸け霊力を流し、紙へと図を書きだす。
それはとても集中力のいる作業で、優は時間も忘れ札づくりに没頭した。
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『グゥ~~~・・・』
「む・・・お腹減った・・・」
札づくりに集中していた優は、自分のお腹の音で集中が途切れたのでそこで筆を置き札作りを止めた。
「おぉ・・・これだけ用意したら大丈夫かな?というか作る予定のなかった物まであるな」
集中して作っていたので、どのくらい作ったかもイマイチ把握していなかった優は、そこで初めて自分が結構な量の札を作った事に気付いた。
しかし霊の対処用にいくら札はあっても困る事は無いと思い、作ったものを分類別に分けてレポートに書いてあった保管方法を行う事にした。
「お腹は減ったけどこれだけしておこう。っていうか今何時だ?」
時計を見ると夜の8時を少し回った所だった。もうこんな時間だったのかと少し驚き、早く作った札だけ保管しようと行動を始めた。
札の保管にも札・・・というか札に掛かれている霊力文字がいるので、先ずは残っていた墨でそれを仕上げてしまう。
次に物置となっている部屋に行き、九重が使っていたような大き目の鞄を持ってきた。
「オブジェとなっていたジュラルミンケースが初めて役に立つな・・・」
何時からあったのかも覚えていないジュラルミン製のケース・・・恐らく父親が買ったのだと思うが、それがちょうどいいサイズだったので、ずっと物置部屋に置いてあった物を引っ張り出してきたのだ。
ジュラルミンケースの表面に霊力を流しながら蝋燭で図を書いて行く。それが終わると内側へ書いてあった札を貼り付け励起文言を唱える。
すると一瞬霊力文字が光りを放ち結果の成功を知らせて来たので、大きな札で包み小分けした札を、霊力文字を書いた紙袋に入れてジュラルミンケースの中へと収めた。
これでよしと頷いた優だが、少し考えるそぶりをすると、九重からもらった紙袋等の霊と関連する物もジュラルミンケースの中へと収めた。
「これでよしっと。折角保管場所作ったんだしな、仕舞っといて損はないだろう。よし、ご飯にしよう」
レポートの通りに保管が出来たので、ジュラルミンケースを色々置いてある棚の前へと置きキッチンへと優は向かった。
「なんか何時もよりお腹が空いてる気がする。やっぱり霊力を使うとお腹が減るのかな?」
何時もよりお腹が空いているし明日はいよいよ本番なので、今日はガッツリ食べて英気を養おうと考えながら、優は晩御飯の用意を始める。
そして予定通りにガッツリと作った料理をぺろりと平らげ、早めに休む為にお風呂をサッと済ますと、直ぐにベッドへと入り就寝した。
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涼真に取り付いた霊の対処を行おうと決めた日、この日はあいにくと天気はよろしくなかった。
雨が降るまではいかないのだが、空には黒い雲がかかっていた。
「まぁ天気の良し悪しが霊の対処に関わってくるとは書いてなかったし、決行だな」
優はすでに準備を終え、いつでも出かけられる準備を終えていたのだが、本来持っていくつもりはなかったジュラルミンケースも持っていく事に決め、部屋から持ってきた。
「バッグに入れた札とかはこっちに仕舞ってっと。よし、これで万が一雨が降っても濡れないだろう」
ジュラルミンケースは、少し大きく重く荷物になる物だったが、中に札等を入れておけば防水になる為持っていく事を決めたのだ。
病院までは少し距離があるので、準備が出来た優は携帯を取り出し電話をしてタクシーを呼んだ。
20分程待つとタクシーが家の前に到着したので、それに乗り病院へと向かい、何事もなく病院へ到着すると運転手にお礼を言って代金を渡す。
「ありがとうございました~、またのご利用を~」
そう言ってドアを閉め出発したタクシーを見送ると、病院へと振り返る。
「よ・・・よし。行くぞっ・・・!」
いざ病院へ着くと緊張してしまったが、恐れる事なく病院へと入り涼真の病室へと向かう。
『コンコン』
「はい、どうぞ」
「お・・・おはようございます静さん」
「あら、優。おはよう」
病室には静が居て、ベッド横に椅子を置いてそこに座っていた。優は静に挨拶をすると、一度静から涼真の方へと視線を移すのだが、依然腕の様な霊が涼真に巻き付いていた。
それを確認した後、再び静の方へと視線を戻し話しかけた。
「幸平おじさんはお店なんですか?」
「そうよ、私も少ししたら店に戻るわ。その時一緒に車に乗って行く?」
「いえ、私は暫くいるつもりなので大丈夫です」
どうやら静はもう少ししたら店に行くつもりらしいが、これは優にとっては好都合である。
涼真を助ける為霊の対処を行うつもりの優だが、霊の対処は普通の人から見ると霊感商法や宗教の呪いの類に見えてしまう。その為、最初の予定では人が居なくなった隙を見計らって行う予定だったのだ。
「そう、わかったわ。そういえば優、あなた・・・」
静は優の予定を聞くと世間話を始め、暫く小声で話をしていたのだが、時間が来たのか静は帰る準備を始めた。
「それじゃあ私は帰るわね?涼真の事よろしく頼んだわ」
「はい、と言っても傍にいる事しかできないですけど」
「それでいいのよ。きっと涼真も喜ぶわ」
最後に「じゃあね」と挨拶をして静は病室を出ていった。
「さてと・・・」
優は静が居なくなると一度病室のドアから顔を出して廊下を確認する。人気が少ないのを確認すると病室内に戻り、ジュラルミンケースからある札を取り出し病室の扉へと張り付けた。
そして直ぐに励起文言を唱えて札を起動させる。
「よし、これで暫く人はこない筈だ」
優が使った札は『人払いの札』と言い、これはその名の通り『札を張った場所にしばらく人を寄せ付けない』といった効果をもたらす札だった。
この札は先日札を作った時、あると便利だから作っておこう、と思って追加で作成した札だった。
こうして暫く邪魔されない環境を作った優は、ジュラルミンケースから道具を取り出し準備を始めた。
防御札と結界札を涼真へと施し、自分にも防御札を施す。
そして準備が出来たらもう一度九重のレポートを確認し、抜けが無いかチェックする。
「よし、大丈夫だ」
問題ない事を確認しレポートを仕舞うと、一度心を落ち着ける為に深呼吸をする。
「すぅ~・・・はぁ~・・・すぅ~・・・はぁ~・・・・・・・・・・よし」
ついでに霊力も励起させ、そのお陰かいつも以上に心が落ち着いた優は涼真の横に立った。
そして涼真の手を自分の両手で包み声をかける。
「起きたらお前に謝りたいんだ・・・だから・・・だから絶対に助けるからな!」
自分の決意を涼真へと語り掛けると、そっと涼真の手を元に戻し、優はベッドから少し離れて大きく息を吐いた。
「ふぅ~・・・・・・いくぞ!」
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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『最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~』
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