第25話
巨大な霊は時たま声の様な物を上げる以外は何も行動はせず、唯々ぽっかりと空いた目の穴を優の方に向けていた。
優はその巨大な霊の目の穴に吸い込まれる様な錯覚がして、まるで凍ってしまったかのように固まっていた。
『チチチッチッ』
霊も優も動かず見合ったままでいると、神社の森の方から鳥が飛んできた。
その鳥は巨大な霊の目の前を通り過ぎようとしていたのだが、突然姿が見えなくなった。
『チチチッチチッ』
しかし何処からか鳥の声は聞こえてくる。優は無意識に鳥の声が聞こえてくる方向を探してしまい、何処から声が聞こえて来たのかを知ってしまった。
『ォ ォ ォ チチチッチッ ゥ ィ チチッチッ ォ ォ ォ ゥ ィ 』
鳥の声は巨大な霊に空いている穴から聞こえていたのだ。
「ひっ・・・ぁ・・・」
思わずうめき声をあげてしまう優だが、依然体は動いてくれない。もしかしてこのまま自分もあの穴へと吸い込まれるのか・・・!?と恐怖していると、突如凍っていた体を溶かす様に体が熱を帯びた。
「・・・っ!」
体が動くようになった優は弾かれた様に自転車を漕ぎだし、全力でその場から離れた。
覚えていた霊避けの札の励起文言を呟きながら自転車を漕ぎ、途中でチラリと霊の方を確認するがどうも追ってはこない様だった。
巨大な霊が見えなくなるまで離れた辺りで限界が来たので、一度自転車を停め乱れた呼吸を整える。
「ぜぇ・・・はぁ・・・ぜぇ・・・はぁ・・・あ・・・あれは流石に無理だろ・・・」
あの様な霊が殆どなら流石に手に負えないと、早々に自信を喪失仕掛ける優だったが、残っていた体の熱が再び強くなり、恐怖が解かされるように薄れていった。
「いや、これで挫けちゃ駄目だ。笑って過ごせる未来の為に頑張るんだ」
優は自分を奮起させるようにそう呟き、こんな時こそ冷静にだよなと一度深呼吸をしてクールダウンを図る。
「ふぅ・・・しかし助かったな」
恐怖していた時に感じた不思議な熱さに助けられた優は、あれは一体何だったんだろうと考え、目を瞑って未だに感じる熱の出所を探す。
「・・・お腹と胸、もしかして霊力?」
体の中で一番熱いと感じられたのがお腹と胸、つまり丹田と心臓だった。という事は感じられた熱は霊力だったのではないかと優は考えた。
霊力にそんな力もあるのか?と驚愕し、帰ったら九重のレポートを再び読むことを決め、再び自転車を漕ぎ出し家路へと進み出した。
・
・
・
「ふぅ、さっぱりした。よし、早速始めるか」
あれから優は帰り道で霊を三回程見たのだが、何事もなく家に帰り着いた。
そして今は、晩御飯を食べた後お風呂に入り、自室で九重のレポートを広げている所だった。
「まずは霊力について先に見るか」
恐怖した時にそれを和らげてくれた霊力、先ずはその事を調べてみる事にした。
九重のレポートの霊力の事について書いてある部分を先ずは読み、その他にも霊力について書かれてある部分を読む。
しかし霊力については優が理解していた以上の事は記しては無く、調べものは空振りに終わった。
「まぁ霊力については奥が深いみたいな感じで書いてあったし、師匠も全てを知っている訳ではないか」
書いてないものは仕方ないと霊力の事は考えるのを止め、本来の目的が記してあるレポートを取り出す。
「人に取り付いた霊の対処方法、前にも見たけど見逃した所は無いよな」
本来の目的である『涼真に憑いている霊の対処』について、抜けがないかを確認すると、優は対処に使う道具の用意をし始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
退治について・・・
◎霊が人に憑いている場合
霊は人に憑き影響を及ぼす場合がある。
この様な時は先ず、憑りつかれている人の安全を確保する必要がある。何故なら、憑いている霊への対処時に霊が暴れ、憑りつかれている人へ攻撃を仕掛ける場合があるからだ。
安全を確保する方法だが、別紙に記してある『防御札・六』を使う事を推奨する。
これを憑りつかれている人へ施し安全を確保したなら、相手が動かない場合結界を使い対処する事を推奨する。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「使用する結界札は『結界札・三』と・・・。うん、防御札六と結界札三、後は結界を張る為の縄だな」
優は防御札と結界札の作り方のレポートを見る。
「ふむふむ・・・材料をそろえる為に明日は買い物だな。縄とかもないしな」
レポートを見ると足りない材料があり、今すぐは作れない様だった。
取りあえず買う物を調べメモに書き出し、それが終わると明日に備えて早めに就寝へとついた。
・
・
・
翌朝出かける準備を終えると、早速優は自転車に乗り店へと向かった。向かう店は、様々な物が要るみたいなのでホームセンターだ。
ホームセンターへと無事たどり着くと、メモを見ながら材料を籠に入れていき、全て集まった事を確認してレジへ向かった。
「いらっしゃいませ。ロープが一点~半紙が一点~・・・・」
レジの店員が商品をレジに通し、合計金額を告げてきた。
しかし優は店員の背後を見つめたまま動かなかったので、聞こえてなかったのかな?と思った店員は再び金額を告げた。
すると優は無言で財布を取り出し、コイントレイにお金を乗せた。
「お客様、ポイントカードはお持ちですか?」
「・・・」
「・・・?お客様、ポイントカードはお持ちですか?」
店員がポイントカードの有無を尋ねると、再び優は無言だった。店員は不思議に思ったが取りあえず再度聞き直す。
すると優はチラリと財布の中を見て、店のポイントカードを取り出しコイントレイに乗せる。
店員はその後マニュアル通りに接客を進めるのだが、その間優は店員の背後をジッと見ていた。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ~」
店員は優がレジから出ていくと、そんなに気になる物があったのかな?と、背後を確認するのだが・・・。
「何もないわね?なんだったのかし・・・あ、いらっしゃいませ。洗剤が2点~・・・」
優が見ていた背後には特に変わったものは無く不思議に思ったが、次々に来るお客の対応をしているとその事について考える暇は無く、やがてすっかり忘れてしまった。
・
・
・
「あの霊は店員の人に憑いていたのかな?」
優は自転車を漕ぎ帰り道を進みながらそんな事を考えていた。
優がホームセンターで店員の背後をじっと見ていたのは店員の背後にいた霊で、その霊は優の事を気にもかけず、店員の頭の天辺辺りをジーっと見たまま動かない、そんな今まで見たことが無いタイプの霊だった。
「あいつも涼真に憑いているのと同じように、あの店員に影響を及ぼしているのかな?・・・何かした方がよかったのかな」
こんな時こそ霊の事を見る事が出来る自分が対処するべきなのだろうか、そう考えたのだが、今は涼真の方を優先させてもらう事にした。
自分はまだ、知らない他人を助ける為に霊に対処する、といった大層な事が出来る人間ではないと思っていたし、その実力もあると言えなかったからだ。
身近な人の為に自分に関わってくる霊には対処するし対処すべきなのだが、知らない人の為に霊の対処を行うという事は、自分を危険に追い込んだり、ましてやその人を危険に曝すかも知れないので踏み込むことが躊躇われるのだ。
「取りあえず、他人の事を気にかけるのは自分の周りが落ち着いてからにしよう、っともう家だった」
自分の中で結論付けていると、何時の間にか家に到着していた。少しボーっとしていたようだ。
事故らなくて良かった、と安堵しながら買って来た物を自転車から降ろす。
「待っていろよ涼真、もうすぐだからな」
優は買ってきた荷物を持ち、自室へと急いだ。
------------------------------------
作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
※カクヨムコンテストに応募中です。ぜひ応援をよろしくお願いします。
↓もコンテストに出してます。ぜひ応援をよろしくお願いします。
『最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます