第15話

 明けて火曜日、あいにくとこの日も雨であった。


 しかし優の心は軽やかで、今の天気の良し悪し等気にもならなかった。それは何故かと言うと・・・。


「ふんふん~。昨日の夜は楽しかったなぁ。女になって一番良かった事は、あの二人と親しくなれた事かもしれないなぁ」


 そう、女子生徒である佐十優の友達、三崎弘子と中森結のおかげである。


 昨晩3人で長い間メッセージのやり取りをし、それが凄く楽しかった優は朝からご機嫌だったのだ。


「ふんふ~ん、用意も出来たし、学校行こ~っと」


 既に登校の準備を済ませていた優は靴を履き、傘を開いて玄関の鍵をかけて家を出た。


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『ガラッ』


「おはようございます」


「ちぃ~っす」「おはよー」「おはよう!」


 優が自分の教室の扉を開け挨拶をすると、パラパラと挨拶が返ってくる。優は挨拶を受けた後自分の席へと行き腰を掛ける。すると今日も既に登校していた弘子と結が近寄って来た。


「おはよう優!」


「おはよう優ちゃん」


「おはようございます弘子、結」


 3人は挨拶を交わした後、朝のHRの予鈴が鳴るまで楽しくお喋りをしていた。二人が席に戻って行く中、優は騒めく教室の喧騒を感じながら今日も楽しい一日になりますようにと天に願った。


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 ・

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「以上、帰りのHRは終わりだ。気を付けて帰る様に」


 担任教師がそう締めくくり、帰りのHRは終了する。クラスメイト達はそれぞれの放課後を過ごす為、席を立ち始める。


「優、部活行こ~」


「行きましょう優ちゃん」


「はい、行きましょう」


 優達3人も部活に行くため、教室を後にした。そして教室を出て部室に行く途中、ご機嫌な様子の優に二人から質問が飛んできた。


「ねえ優?何で今日はそんなにご機嫌なの?良い事でもあった?」


「え?私そんな機嫌良く見えますか?」


「うん。今日の優ちゃんいつもの3割増しくらいニコニコしてるよ?」


「そ・・・そうですか?」


 優は自分の頬に両手を当て、そんなにニコニコしてるかな?と確かめた。


 確かに今日は朝起きた時から気分が良く、朝に二人と喋って更に気分が良くなった。その後も休み時間ごとに二人と楽しく過ごしたし、おまけに今日は体育がありすこし刺激的な体験もあった。

 これらの事があったので機嫌が良くなるのも仕方ない、そう優は思い、何故機嫌が良いのかを二人に話した。


「ん~、きっと二人と楽しく過ごせたから、ですかね?いつも仲良くしてくれてありがとうございます弘子、結」


「ゆ・・・優っ!」


「優ちゃん・・・!」


 二人に感謝のお礼を言うと、二人は感極まったのか抱き着いてきた。そんな二人に優は心の中で、二人の刺激的な姿が見れたのも機嫌がいい理由です、そうこっそり感謝しておいた。


 やがて3人は部室に到着し、部活動を始めた。昨日でそれまで作っていた物を作り上げてしまったので、今日は次に何を作るかの話し合いをしていた。だがいつの間にか話は脱線し、雑談へと変わっていた。


 因みにだが、優が所属するこの手芸部は部活と言っても方針がゆるゆるらしく、大体の者が雑談などをしながら作業をしていた。なので優達が作業をせずに雑談をしていても咎めるものは誰もいなかった。

 なので優達の雑談も捗どり、次の作成する物については忘れ去られてしまった。


 そんな風に雑談をしていると、気分が良かった優はポロリと昨日の事を漏らしてしまう。


「そういえば、昨日携帯を忘れて部室に取りに戻った時に変なモノを見たんですよね。それで昨日は少し調子がおかしくなってしまって・・・本当に二人にはご心配をお掛けしました」


「なるほどね!いやあー理由がわかってスッキリしたよー!」


「本当だよ!もしかしたら誰かに虐められたのかと思って心配したんだよ?」


「本当にすいませんでした・・・。でも心配してくれて嬉しいです」


 三人はそんな感じで和気あいあいと喋っていたのだが、ふと結がこんなことを言い出した。


「そういえば、変なモノを見たってあれかな?七不思議のやつ」


「あー!そんなのあったね!」


「七不思議・・・ですか?」


「あれ?優ちゃん知らない?」


「知らないですね?」


 優は自分の中の記憶を引っ張り出してみたが、そんなものはトンと聞いたことがなかった。そうやって記憶を思い出すのにウンウンと唸っていると、知らないと見た二人は七不思議の事を話し出した。


「知らない優にこの弘子さんが教えて進ぜよう!まず一つ目、優が見たと言う変なモノ。恐らくそれはこの裁縫室で時たま見られると言う発光するオーブだね。これは見られるとラッキーになるって言われてるね!」


「私も教えてあげるね?二つ目は、校長室にある歴代校長先生の絵が動くって話だよ。続いて三つ目、走る人体模型。夜中に廊下を走っているところが目撃されたんだって」


 優が止める間もなく話し出してしまったので今更は止められず、優は話を聞くことになってしまった。霊が見える前ならばこのような怪談話も笑って聞いていられた優だが、流石に今は笑えず生唾を飲み込んでしまう。


 そんな様子の優を見て、弘子は少しニヤッとしてから話を再開させた。



「ここから少し怖くなるかもよ~?おほん・・・。この学校には、学校が創立された時からずっと働いている若い先生がいるって話があるんだ。それなのに誰もどの人がその人なのか解らないんだって・・・。これが四つ目!何時までも若いまま、ずっと勤務しているけど誰も知らない先生!」



 弘子の話の後、結も少しかしこまった様になって話を始めた。



「それじゃあ次は私が話すね・・・?この学校、何故か毎年何人か行方不明者がでるらしいの・・・。それはこの学校にある幾つかの倉庫、その一つが異次元への扉になっていて、そこに入って別の世界に飛ばされているからなんだって・・・。これが五つ目の異次元に繋がる倉庫」



「後二つあるんだけど、私片方しか知らないからそっちを話すね!おほん・・・。この学校の裏にある林なんだけど・・・昔そこにとても凶悪な鬼が住んでいたんだって。その鬼はある時えらいお坊さんに封じられたらしいんだけど、その鬼を封じたお地蔵さんが今でも林の中にあるって話。これが六つ目」



 二人の話は普通に聞いたならそんな事あるわけないと言える筈なのだが、本当に霊という超常の存在が見えてしまう優からすると、もしかしたら本当に・・・と考えてしまい、とても恐ろしい物ばかりだった。


 優が本気で怖がっているのに気づかず、二人は後一つ残っている七不思議の事を話し合っていた。


「後一つが思い出せないなあ・・・。結は?」


「私も覚えがないよ。何だったかなあ?」


 二人が顔を突き合わせ、ウーンウーンと悩んでいると、二人の後ろから声がかかる。


「後一つは誰も知らない、よ。誰も知らないけどあるっていうのが七つ目なのよ。そしてお二人さん?佐十さん本気で怖がってるわよ?」


 声をかけて来たのは部長の三橋であった。そして三橋に声をかけられた二人は優を見て慌てだす。


 二人が覚えている限り優はそこまで怖い話に弱くなかった。だが今回は何故か少し怖がっていたので、すこしだけ怖がった顔が見たいなと思った二人だったのだが、まさかここまで本気で怖がるとは思っていなかったのだ。


「ゆ、優ごめん!まさかそんなに怖かった!?」


「ごめんね優ちゃん!」


 優は内心まだビクビクだったが、それよりも二人に罪悪感を感じてほしくないと思い強がった。


「だ、大丈夫ですよ?二人の話し方が上手かっただけで話し事態は怖くありませんでしたから・・・」


 プルプルと震え若干涙目で強がる優に、その場にいた三人は胸を打たれた。


「うっ・・・。な・・・ならもう少し怖い話しちゃおうかな」


「そ・・・それもいいかもしれないね弘子」


「はゎゎ・・・佐十さん、私もとっておきの怖い話があるのだけれど・・・聞かない?」


 流石にそれは勘弁だった優は三人にすがり付き、勘弁してくださいと頼み込んだ。しかしその頼み方にまた胸を打たれた三人は感極まり、優に抱き着いた。


 そしてその後優は、部活の終わりまで三人にもみくちゃにされてしまった。


 ・

 ・

 ・


「うぅ・・・最後は良かったけど、今となっては怖い話は勘弁・・・」


 優はバス停から自宅への道を歩いている途中だった。


 あの後三人にもみくちゃにされて気分は少し良くなったものの、聞いてしまった七不思議は優へと大分恐怖を与えていた。


「でも・・・一つ気になるのがあったな。異次元への扉かぁ」


 優は聞いた七不思議の一つ、異次元へと繋がる倉庫の事を思い出した。


 もしかすると、これが優の性別が変わってしまった事に関係がある事ではないか、優はそう考えた。


「しかしこれも師匠に聞いてからかな・・・迂闊に手を出すと危なそうだ」


 優はこれも師匠への質問案件だなと頭の中にメモをする。そして余裕があれば他の七不思議も聞いた方がいいのかなと考えていると・・・。


「・・・っ!」



 優の傘に当たる雨音が止まった。



 もしかしてまた・・・と思っていたのだが、周りをチラリと見ると傘を閉じている人がチラホラと見えた。どうやら本当に雨が降りやんだらしい。


「ふぅ・・・よかった」


 優も傘を閉じ、空を見上げる。


 空には雲の切れ間が出来て薄明かりが差し込んでいたが、優の心は曇ったままだった。


「はぁ・・・早く週末にならないかなぁ・・・」



 優は、早く霊に怯えないで生活が送りたいのに、約束の日曜日までまだ遠いなぁと心の中で愚痴りながら家路を進んだ。



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