第6話

 自室へ戻り、着替えを終えた優は買い物をするため商店街へと向かっていた。使用出来なくなってしまった布団一式と食材一式を買うためである。布団は配達で送ってもらうにしても、帰りに食材を持って帰らなければいけないため、優は商店街までは自転車で行く事にした。


「到着っと。まずはどうしようかなぁ・・・」


 商店街に到着した優は、まず何処から行くべきかと頭の中でシミュレートをする。その結果、食材は最後に回すとして、まずは布団屋へ行こうと考えた。


「自転車に鍵かけてっと。よし」


 まずは商店街入り口付近にある自転車置き場に自転車を駐輪する。乗り入れても大丈夫なのだが、色々回る予定なので自転車は置いて行く事にした。

 自転車を置いた後は、商店街の中に1件だけある布団を扱っている店へと向かった。


「いらっしゃいませぇ~」


 布団を扱っている店へと入ると、店員の挨拶が聞こえて来た。この店は昔からある店で、布団の他にも注文制ではあるが畳も販売していた。

 元は布団を扱う店と畳を扱う店が隣あっていたのだが、それが合わさり布団と畳を販売するという店になった・・・と言う話を、昔優は父親から聞いたような覚えがあった。


「あの、掛布団と敷布団がほしいんですけど」


 挨拶をしてきた店員に優はそう話しかけ、布団を購入する旨を伝える。店員に大体こんな布団がほしいと伝えると、店員はそれを受けて希望に合致する布団を選んでくれて、優はその中で店員がお勧めだと言ってくれた布団を選ぶ。


「ではこちらとこちらでよろしかったですね?」


「はい、お願いします。配達もお願いできますか?」


「はい、承りました」


 優は店員へ布団の配達をお願いし、自宅の住所を用紙へ記入して代金と共に渡した。すると店員は少しお待ちくださいねと言い、清算などの為に店の奥へと入って行く。その間手持無沙汰になった優は、店内を何となしに見回した。


「・・・ん?」


 適当に目についた物を次々と見ていた優は、ある畳に目が行った時にそこで不思議なものを見た。


「何だろう・・・?ささくれてるにしては凄いな・・・」



 目に入った不思議な物、それは畳からでるささくれの様な物だった。



 畳の表面に、茶色い糸状の物が幾つもピョコピョコと飛び出していた。



 更にそれは、不思議に思ってずっと見ているとゆらゆらと風もないのに動いているようにも見える。



 一瞬虫かと思うものの、流石にそんな事は無いだろうと考えから除外する。しかしよく見るとやはり動いているように見えて、虫かと疑う。


 この店で布団を買ったの大丈夫かな・・・と思っていた時、店の奥に言っていた店員が戻ってくる。


「お待たせいたしましたお客様。手続きが完了いたしました。こちらレシートになります」


「あ、はい。どうも」


 店員が話しかけてきたので、畳から目を離し店員と会話をする。少し会話をかわした後、店員に伴われながら店の出入り口へと向かった。

 その時に、あの見ていた畳の横を通ったので、優は通り過ぎる時に畳へと目を向ける。


「綺麗な畳だ・・・」


「はい?どうなされましたお客様?」


「あ、いえ。なんでもないです」


「そうですか、本日は誠にありがとうございました。また後で配達に伺わせてもらいます」


「よろしくお願いします」


 畳を見てつい漏れてしまった言葉に反応されたが、何でもないと言い店から退店する。店員は最後まで丁寧に接してくれて、そんな店員がいる店の商品に対して失礼な事を思ってしまったなと優は恥じた。


「しかし昨日といい目の調子が悪いなぁ・・・視力が落ちたのかな」


 昨日も川で変な物を見たし、更に本日も畳の上に変なものを見てしまった優は、目をごしごしと擦りポツリと呟く。しかし視力が落ちたにしては見え方に変わりがないなと不思議がりながら歩く。と、その時優の鼻にとてもいい香りが届いた。


「ん・・・、いい匂いだなぁ・・・。あ、あの店か」


 うっとりするような甘く香しい匂いの出所は、商店街にあるスイーツを出すお店であった。


「でもあの店に入るにはハードルが高いんだよなぁ・・・あ、でも今なら」


 その店の外観はとてもファンシーで訪れるのは主に女性客ばかり、その為男であった時の優にはとても入りづらいお店であった。しかし優は、今の女になった自分であるならば気兼ねなく入れる事に気付いた。ちらりとスマホを確認すると12時にはまだなっていないが、11時を回り早めの昼食代わりにはいいかもしれないと優は考えた。


「体が変わったからかご飯も前ほど入らないし、丁度イイかも・・・」


 そう言って優はフラフラと、花の蜜に吸い寄せられる蜂の様にそのお店へと歩いて行った。


『カラン カラン』


「いらっしゃいませー、お一人様ですか?」


「はい、そうです」


「かしこまりましたー。ご案内しますねー」


 店に入った優は店員に案内されて席へとついた。まだ早い時間だったからか店は空いていて、優は4人掛けの席へと案内された。


「ではご注文がお決まりになりましたら御呼びください」


「はい、ありがとうございます」


 店員はメニュー表を渡し、優の元から離れていった。優は早速メニュー表を開き商品を確認する。メニュー表に書いてあるのはどれも洒落た物ばかりで、所謂『える』と呼ばれそうな物が多かった。

 優はその中でも、『七色のパフェ』なる物を頼んでみた。


「なんだ七色って・・・すごい気になるじゃないか!」


 商品が来るまでの間にそんな事を言いつつ、凄くワクワクしながら『七色のパフェ』が来るのを待つ。やがて商品を持って店員が優の元へ現れた。


「お待たせいたしました。ご注文の七色のパフェにブレンドコーヒーでございます。こちらミルクと砂糖も失礼いたします。ご注文以上でよろしかったでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


「かしこまりました、ではごゆっくりどうぞ」


 店員は最後に伝票をテーブルに置き離れていった。それを確認してから優は商品へと目を移す。


「うわぁ・・・本当に七色だ。すっご。写真とっとこっと」


 七色のパフェは本当に七色だった。メニュー表には洒落た言葉が書かれているのみで、何味かまでは書いてなかったが、それも食べてみるまでわからないワクワク感があるので良しだった。


 優は取りあえずスマホを取り出し、食べる前にパフェの写真を撮った。SNSに写真を上げるなどはしないものの、誰か知り合いにでも見せようと思ったのだ。


 上手い感じに写真を撮り終えたのでスマホをしまい、いよいよ優は七色のパフェへと取り掛かる。


「ん・・・んまっ!あー、赤は苺ね。予想通り予想通り。橙は・・・みかんだっ!」


 その様に優ははしゃぎながらパフェを食べていた。



 すると半分ほど食べた辺りで、斜め前の席に誰かが座わる音が聞こえた。



 優は、ん?と思いながら顔を上げてそちらをちらりと見る。


 その人は店内に入ったというのに帽子をかぶったまま席に座っていた。更にうつむき加減で座っているので、優からは帽子と口に付けたままの白いマスクしか見えなかった。


 優は頭にハテナマークを浮かべながら周囲を見る。すると、何時の間にか店内には人が増え、席は満席になっていた。


 それを見た優は、なるほど込んできたから相席か、と考えた。しかし、普通は元からいた人に聞いてから相席にするのでは?とも思ったが、パフェから新たに出て来た味に驚き、まぁいいかと気にしないことにした。


 そのまま優はパフェに集中し食べ進め、やがて最後まで食べきった。そして、まだ残っていたコーヒーを飲んでいると、店員が優の元に訪れ話しかけて来た。


「申し訳ございませんお客様、店内が大変込み合っております。相席よろしいでしょうか?」


 優は店員の言葉に、え?と思った。すでに1人相席しているのに、そこへ更に?


「あ、もうコーヒーも飲み終わるので、お会計します」


 流石にぎゅうぎゅうになってゆっくりコーヒーを飲むというのもあれなので、優は店員にそう告げた。店員は少し申し訳なさそうに謝ってきたが、込んでいる店内を見ると文句も言えないので、気にしないでくださいと優は店員に伝えると、店員は再び謝り離れていった。


「ふぅ、じゃあ伝票持ってっと・・・」


 店員に告げた通り直ぐにコーヒーを飲みほし、お会計を済ませるために伝票をもって席を立ち、レジへと向かおうとして相席していた人の横を通り過ぎる時、優はふと気づく。


 斜め前に座っていた人は、最初に優が見たままの状態でそこにいた。



 うつむき加減もそのまま。帽子もそのまま。帽子から見えていたマスクもそのまま。




 何も乗っていないテーブルもそのまま。




 流石におかしく感じ、通り過ぎた後優は振り向こうとしたが。


「わっ・・・」


「も、申し訳ありません!お客様!」


 店員にぶつかりそうになり驚く。ぶつかりかけた店員は謝り、その後優が伝票を持っているのに気づいてそのままレジへと案内をしてくれた。



 結局相席した人の事は確認できないまま、清算を終えた優は店をでる事となった。



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