好きで生きる

シヨゥ

第1話

「なぜ苦手なことをしなければいけないのか」

「それはそうしないと成り立たないものがあるからだよ」

「ならそれが好きな人にすべてを任せるよ」

「そうしたら君の思う通りにならないかもしれないよ?」

「それは仕方がないことだろ? だって人に任せるんだから。例え僕の思った通りの結果にならなくても、絶対に僕がやるよりはきっとちゃんとやってくれるはずさ」

「それはそうかもしれないけど」

「時間は有限だ」

「いきなりどうしたの?」

「限られた時間を苦手なことをで消費するなんてバカみたいじゃないか」

「その気持ちは分かるけど」

「タイムテーブルを全て好きなことで埋め尽くす。それを目指す以外に生きる価値なんてあるかな?」

 ぼくはこの質問に答えられそうにない。

「好きなことで相手を助け、相手も好きなことで助ける。欠けたところを互いの好きで補いあっていけば、きっとそれは幸せだと思うんだ」

「たしかに幸せだとは思うけどさ」

 ぼくは最後の文字をタイプし、印刷をボタンを押した。プリンターから何枚もの紙が吐き出されていく。

「君は物語を作るのが好きだ。だけど評価されるのはむず痒くて嫌いだ。そして僕は評価されるのが好きで、でも評価されるための努力をするのが嫌いだ。僕らはその点において好きで嫌いを補い合っていると思うんだ」

「たしかにその通りだ」

 印刷された紙を封筒に仕舞った友人が立ち上がる。

「しっかりと目を通して、話を理解してから公開するように」

「分かっているよ。この読み込む時間も誰か替わってくれないかな」

 そうぼやく友人は世間ではスーパースター。大ヒットを何本も飛ばす作家様だ。その陰で僕はひっそりと生きている。それが好きだから。好きで生きることに戸惑いはない。

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好きで生きる シヨゥ @Shiyoxu

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