⑤
俺達の初陣は、散々な結果だった。猫には逃げられ、アイリスは地団駄を踏みながら俺の作戦を罵倒。瑠利子は我関せずとスマホを見ながらお菓子を頬張り、克実は俺とアイリスを交互に見ながらあわあわとしていたが、すぐに俯いてゲームをし始める。その様子を、俺は溢れる冷や汗と目眩を抱えて、ただ黙って受け入れていた。
そして、怒れるアイリスがこの場を後にしたのを契機に、自然解散という流れになる。それでも俺は、その場にまだ立ちすくんでいた。
冷や汗を拭う。吸血鬼たちが居なくなったのに、目眩が酷い。それでも、考えなければならない事が、沢山ある。
上手く行かない、ペアリングの課題。
その課題クリアに必要な吸血鬼たちの協力が、得られない現状。
そしてその根本的な原因は、その一端は確実に、俺にある。
誰も居ない路地裏で、俺は一人舌打ちをした。焦燥感は募るが、解決の糸口が見えない。だからひとまず、しなければならない事をしよう。
俺はスマホを取り出すと、金指先生に電話を掛ける。課題の結果を伝えるためだ。メッセージでの報告は禁止されていて、電話での口頭報告が必須と言われている。正直、今は誰とも話したいという気持ちが微塵も湧いてこないが、仕方がない。
数コール後、先生と電話がつながった。
『失敗したな?』
開口一番そう言われ、俺は一瞬言葉に詰まる。
「……わかってるなら、報告なんていらないでしょうに」
『自分でそれを口にしないと、受け入れ難い事もある。頭でっかちで、わかった気になりやすい、お前の様なタイプは特にな』
聞こえるのも構わず、俺は舌打ちをした。それを電話越しに先生に笑われ、俺は更に苛立つ。
「失敗するってわかってたなら、助言なり何なりするのが、教師の役目なんじゃないんですか?」
『ワシも言ってわかる奴にはそうするが、お前、話聞かねぇだろ?』
「聞きますよ、話ぐらい!」
『……そういう意味じゃねぇのは、お前もわかってんだろ?』
その言葉に、俺は無言になる事しか出来ない。先生が、露骨に溜息を付いたのがわかった。
『……お前、どうしたいんだ?』
「どう、って……。当然、課題をクリアしたいに決まってます」
『何のために?』
「自分のために。退学になるわけには、いきませんから」
俺の答えが気に入らないのか、また溜息が聞こえてくる。意味がわからない。自分自身のために何かを成そうとするのは、いけないことなのか?
『まぁ、今はそれで良いか。で、お前が退学にならないために課題をこなす必要があるとして、だ。それをするのに、何が必要になる?』
「それは、あいつらとの協力が――」
『お前、協力って言葉の意味、わかってるか?』
金指先生が俺の言葉を遮る。
『協力って字はな? 力を合わす、調子が合う、話し合いをしてまとめるって意味の協と、他の物を動かす働き、何かをする時の助けになるもの、効果って意味の力と書いて、協力って書くんだよ』
「話し合い、助けになる……」
『お前、一緒に組んでたのが人間でも、そうやってうだうだやってたのか?』
その言葉に、俺は息を飲む。路傍の石を蹴飛ばした様な雑さで放たれたその言葉が、すっと俺の中に突き刺さった。
『お前が相手を嫌ってるわけじゃねぇなら、どうにかしてぇと思ってるなら、どうにか出来るだろうが』
じゃあな、と言って、金指先生は一方的に電話を切った。通話が切れた事を知らせる話中音が、やけに俺の耳に響いている。俺はスマホを耳元から離し、少しの間、誰ともつながっていない、それでいて、やろうと思えばつなげられるそれを、黙って見つめていた。
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