吸血鬼たちの茶飯事は姦しい
メグリくくる
序章
序章
「ねぇねぇ、とうまくんの血って、どんな味がするの?」
そう言ったのは確か、同じ幼稚園に通っていた子供だったと思う。
その子は曇り一つない純白の髪に、煌めく鈍色の瞳で俺の事を見つめていた。陶磁器の様な肌に、艷やかな唇は、柔和な笑みを形作っている。幼稚園児であっても、その整った顔立ちに、人間なら誰しも目を奪われるだろう。
「うーん、じぶんの血の味なんて、わからないや」
問われた俺は、小首を傾げながらそう返した。するとその子は、愛らしい唇を三日月型に変えて、再度問う。
「なら、味見しても、いい?」
その疑問に、俺はたいして深く考えもせずに、こう返してしまったのだ。
「うん、いいよっ!」
ああ、本当に、俺は迂闊すぎたのだ。目の前のこの子に、いや、彼らにとってそれが一体どういう意味を持っているのか、俺は何もわかっていたのだ。
もし過去に戻ることが出来るのなら、俺はこの時の自分を全力でぶん殴ってやりたい。それはもう、頭蓋骨が少しぐらい変形したとしても、構いはしない。頭の形が変わるぐらいで、これからの俺の人生が変えられるのなら、そんなのは許容範囲内だ。
それなのに、あぁ、記憶の中のあの子は、もうその蠱惑的な唇に笑みを浮かべ、そこから二本、鋭い犬歯を覗かせているではないかっ!
やめろ! とどれだけ叫んだ所で、俺の声は幼い俺には届かない。手を伸ばしても、その手は決して届かない。
もう俺も気づいている。これは、俺の夢だ。
過去の過ちを、俺は今、見ているのだ。
だから俺は、これから自分の身に、何が起こるのかも知っている。見たくもないのに、その光景が俺の眼前に突きつけられる。
幼い俺に、二本の牙を生やしたその子が、近づいてくる。そして――
「いただきまぁすぅ」
その後すぐに、俺の視界は真っ白に染まる。俺の記憶が、途切れたからだ。ここで俺は、倒れたのだ。
そう、吸血鬼(ヴァンパイア)に、血を吸われすぎて。
これは人間と、そしてその隣人として、当たり前に吸血鬼が暮らすようになった世界の物語。
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