第351話 ファイア・ボール

<<マ国軍 旗艦シンクウ 飛行甲板>>


エウさんと一緒の超音速ファイターで、まずは垂直に浮上する。

ジェットエンジンをアイドリングさせながら・・・


俺は、第2世界の超音速戦闘機をイメージしながら、ボディ兼務の空間バリアを顕現させていく。


慎重に、慎重に・・・


そして、エウさんがゆっくりと、機体をレーダーが指し示す方に向けながら、加速させていく。


俺は、前席に座るエウさんを見る。


あいかわらずの、茶髪のナチュラルボブ。ヘッドセットの隙間からはみ出した短めの髪が僅かに揺れる。


エウさんは、「時速900で行く。大丈夫」と言って、操縦桿を前に倒していく。


俺の頭の後ろからは、パリパリと赤く細い触手が飛び出ており、それはいる。

本来、その先には、トモヨが付いている。今回は、移動時の加速が速いのと、の意味を込めて、トモヨの頭部は、温泉アナザルームに置いてきている。


俺は、復座の後部座席で、バリアの維持に集中しながら、どうやってガイアのケツを叩こうかと思考した。あいつのケツは、絶対に叩く。



◇◇◇

<<夜の荒野を飛ぶ岩手>>


空飛ぶ岩手、ビュウビュウと風を切りながら、モンスターの大軍に向けて突き進む。


そして、翻る銀のシングルドリル。


そのシングルドリルの持ち主は、岩手の手の甲辺りに立ち、軽く腕組みをしながら眼前の敵群を見る。


今は完全に日が落ち、全貌の視認はできないが、赤く光る目玉の部分と、大群が風を切る音がごうごうと唸り、まるで空全体が迫ってくるような感覚を覚える。


シングルドリルの持ち主は、ガイアナーテ・タマクロー。


名門タマクロー家の10女・・・そのガイアの体には、小さな青く輝くナニカが付いていた。


青藍色ウルトラマリンに輝く光の粒。その正体は、魔術的処理が施された超高濃度核物質。


その時、岩手の目前に、小判鮫のようなシールド型モンスターが迫る。


「くっ」


ガイアは衝撃に耐えるため、咄嗟にしゃがみこむ。


次の瞬間、モンスターと岩手が緩衝し、衝撃が起こる。


正面衝突ではなかったようで、揺れは若干で済んだようだ。だが、このまま進めばモンスターに囲まれてしまうと思われた。


「ここまでか」と、ガイアが呟く。


今、どれだけ飛んだであろうか。


小型の岩手を出撃命令と偽り出動させ、敵味方識別信号を切って密かにスタンピードのど真ん中に向けて突き進んだ。


かれこれ1時間近くは飛んだような気がする。


ここまでくれば、そろそろいいだろうかと、ガイアは考えた。あまり人里に近いと迷惑を掛けるが、あまり離れ過ぎても今度はモンスターを駆除出来ない。


そうなれば本末転倒だ。死んでも死にきれない。


だが、この破壊魔術は、地上で炸裂させては駄目だと、言い伝えられている。なぜならば、その土地で人が住めなくなるから。


それが何故なのか、ガイアは分からなかったが、その通りにしないといけないと考えて、岩手の高度を上げていく。


そして・・・


ガイアは、自分の腕に埋め込まれている青い粒を見る。


驚くほど深い深い青。一体これにどれほどのエネルギーが蓄積されているのか・・・真の青色というのは、本来自然界には存在しない。ガイアは、その不思議な色を不気味と感じた。


不思議で不気味な青い粒。古の時代から残されている物質を究極まで濃縮し、魔術によって固め保護された呪われし光る石。


その数は12粒。両手、両肩、背中、殿部、太股、足首あたりに付いている。


この粒は、微弱な毒を出しているらしい。本当は、人など一瞬で死ぬほどの毒を出しているけれど、魔術でそれを防いでいるとか。でも、それは完璧ではなく、長く付けておくと体がむしばまれる。


特に、子供を生むことが出来る、いや、生む予定のある男女は、近づくことすら禁止されている。


ところで、サイレンの兵器の準備段階には、レベルがある。


核物質は、普段、サイレンの地下秘密倉庫に保管されているが、いざ戦争となると、その準備レベルが引き上げられ、戦場に持ち込まれる。

この段階では、まだ核物質はキャリアの体に埋め込まれておらず、バラバラの専用ケースにて保管される。


そして、準備段階が1レベル引き上げられると、その核物質が起爆者キャリアの体に埋め込まれるのだ。数刻前のカテジナーテのように、そして、今のガイアのように・・・


だが、そこから実際の起爆までには、さらにステップが必要であり、そこにはまだまだ大きなハードルがある。だが、術者達にとっては、やはり、核物質を体に宿すステップが、ある種特別なものであった。


今回のキャリアは、カテジナーテだった。彼女は、ガイアの実の姉。脳死状態にあり、もう子供は産めない。だからといって、まだ死んではいない。ガイアにとって、それはあまりにも残酷なことであった。


自分も、子供を持ちたかったなと、ガイアは少しだけ考えた。

出来れば好きな男性と。でも、あの人は、姉や他の女性たちの元にあり、自分はどんどん遠ざかる・・・


考え毎をしていると、相当上空まで上がって来ていた。


今、航空モンスター達は、眼下にいる。


ガイアは、考えること全てを放棄した。


そして、子供の頃から教わっていた、その起爆方法・・・タマクロー家に生まれた以上はかならず身に付けなければならない古の魔術。


今、その魔術を使用する。


ガイアは、岩手の移動を止め、ゆっくりと立ち上がる。


その時、周りが強烈に明るくなったような気がした。しかし、時はすでに遅かった。


「究極破壊魔術、ファイア・ボール」


12の青が宙に舞い、胸の前で一つになる。


そこから、究極のエネルギーが、生み出される。



◇◇◇

<<バルバロ平野 上空>>


「動きが消えた。マズいわ」と、エウさんが言った。


ガイアのやつ。予想通り、敵味方識別信号を消していやがっており、これまでは、スタンピードと逆走する赤い点を追っていたのだ。


だが、ここに来て赤い点がなくなった。考えられることは、移動を止めたと言うこと。今の索敵システムは、動く物体に赤いマーキングをするだけの簡易的なプログラムなのだから。


だったらまずい。ここで起爆するつもりか?


「エウさん、照明弾撃てる? ガイアは、消えたとこの上か下だ」


エウさんは、「多分、上! アレは、地表で爆破させてはいけない決まり」と言って、照明弾数発を上空に放つ。


瞬時に強烈な光が生まれ、辺りを照らす。


・・・いた。


巨大な手。岩手が、宙に浮いている。


直ぐに、超音速ファイターが螺旋状に飛び、岩手に肉薄する。


俺は、飛び降りる準備をする。


絶対に、あいつのケツを叩く。


超音速ファイターが、岩手の真横を横切る。


岩手の上、翻るはシングルドリル。


いた! やっぱりいた。あのシングルドリルはガイアだ。


「エウさん、飛び移る。減速!」


「了解!」


「ガイア~~~~!」


超音速ファイターから飛び降り、ありったけの反重力を叩き込む。

そして、ガイアの元に。


岩手の上、ガイアの周りには、青い光を放つものが浮遊している。


照明弾の光にも負けないほどの強い光・・・


まさか、あれが・・・あれが核物質。あの小さな粒に、一体どれほどのエネルギーが・・・


行くぞ! 間に合う。まだ、間に合う。ガイアに向けて、手を伸ばす。


「ガイア! この・・・」


青い粒が、ガイアの前で一つになる。


そして、俺は見た。見てしまった。


絶対に見てはいけない、本来は、見ることすら出来ないもの。


十数個の青い粒が一つになり、強烈な青い光が生まれる。そして生じる火球。


これが、これこそが、核分裂の際に現われると言われる、ファイア・ボール。






◇◇◇

<<バルバロ平野上空 エウロペア>>


バルバロ平野上空に、究極破壊魔術で生み出された『ファイア・ボール』が、出現する。


その大きさは、直径数十m程度で、一瞬、強烈な輝きを出した、いや、出たと思ったが、直ぐになる。今は、直径数十mの真っ黒な球が宙に浮いている状態だ。


「何? どうなった!?」と、超音速ファイターに一人乗るエウロペアが言った。


エウロペアは、自分の夫が岩手に飛び込んだところまでは見届けたが、次の瞬間、夫どころか岩手ごと真っ黒になってしまった。


だが、エウロペアは、その黒いものが何なのか、ある程度予想が付いていた。


それは、例えばブラックホールと言われるもの。ブラックホールとは、光すらも通さない異なる時空域。

ブラックホールの中は、まるで時間の流れが違うのだという。


エウロペアは、超音速ファイターを減速させ、その黒い玉を見続けた。


・・・


その黒い玉は徐々に小さくなり、何かの造形をかたどっていく。


その造形は、巨大な人の手。


その人の手は、岩で出来ているようだった。岩手だ。


そして、黒い球は徐々に小さくなっていき、その岩手の上に2人の人物を形作る。

最初は塵のような状態から、徐々に人の形になっていく。


その2人は、銀髪の女性と黒髪のおっさん・・・


そして、黒い球は最終的に野球ボールくらいの大きさになり、銀髪の女性の胸辺りで停止する。


銀髪の女性と、黒髪のおっさんが、岩手の上で見つめ合う。


黒髪のおっさんの背中には、水で出来た何かが上半身だけを時空の隙間から出していて、おっさんを後ろから抱きしめている。


おっさんに見つめられる銀髪の女性は、おっさんに何か言っている気がする。


相対するおっさんは、少しきょとんとしており、状況把握に手間取っているようだ。


だが、ここは敵陣。眼下には、大量のモンスターが蠢いている。


エウロペアは、2人に注意を促すべく、超音速ファイターを岩手に寄せていく。


その時、おっさんがおもむろに銀髪の女性を抱き寄せたかと思うと、脇に抱え、お尻を叩き出させ、お尻を叩きだした。


4,5発叩いた後、物足りなくなったのか、ズボンをずらしに掛かっている。きっと、生で叩くつもりだろう。


銀髪の女性の方は、ジタバタと抵抗しているようだが、おっさんの方が一枚上手で、ずるりとズボンを剥かれてしまう。


エウロペアは渋い顔をして、自分の旦那の蛮行を止めるべく、超音速ファイターで岩手の手の甲に降りていった。

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