第250話 異世界野球対決 野球大会本番 11月上旬

<<アメリカ>>


大歓声が轟くメジャーリーグの野球場の控え室の隅に、俺と徳済さん、そして陰の監督である斉藤さんが、隠れながらグランドの方を見据える。


「しかし、メディアも凄い数。何台カメラがあるのよ」と、徳済さんが言った。

確かに、観客席には大量のカメラがスタンバイされている様子がテレビに写っていた。


マウンドでは、ガイアが投球練習を始めている。キャッチャーはドネリーだ。


今日のガイアは、ヘアスタイルを変えている。

いつもの頭の頂上のシングルドリルではなく、後頭部から細いドリルが10本ほど出ているスタイルだ。

帽子やヘルメットに対応したのだろう。


システィーナもいつものツインドリルの位置を下の方に変えている。

システィーナも、キャップをかぶるために調整したのだろう。ちなみに、システィーナはショートだ。


そして、モルディはセンター。

モルディは、書類上、監督になっている。


ガイアが、小さく振りかぶって投げる!


ズバン!


ガイアの投球が、キャッチャーミットに突き刺さる。


会場で大歓声が起こる。


身長150センチも無いような小さく可憐に見える女性が、時速160キロを越えるストレートを放るのだ。

そりゃびっくりする。


素振りをしていた相手の第一バッターが、びっくりした顔のまま固まってガイアを凝視している。


「さて。一番バッターはメジャーリーガーよ。どう出てくるかしら」と、斉藤さんが言った。


「でも、ガイアってストレートしか投げられないんだろ?」


「そうね。でも、球速はランダムに変えるように言ってあるわ」


なんと、全てピッチャー任せ。サインとかも何も無し。


ま、可愛ければいいのか、それで。後はデッドボールが無ければ。


そうこうしているうちに、一番バッターがボックスに入り構える。それを確認したガイアが小さく振りかぶる。


ズバン! 「ストラ~イク!」と、アンパイアがポーズを決めて叫ぶ。 


相手さん、様子見か? 今のはど真ん中だったぞ?

ガイアはボールを受け取ると、直ぐに投球モーションに入る。


ズバン! 「ストライクツ~!」


そして、直ぐに3球目・・・コォン! む、当てられた。


「ファール」


そして、ガイアは直ちに4球目を投げようとする。


「ちょ、ガイア、早い早い。投げるペースが早い」


「サインも何もないから・・・」と、斉藤さんがため息交じりに言った。


ズバン!


「あ、三振」


「ガイアさん。やるわね。160キロ剛速球からの100キロスローボール。初見殺し」と、斉藤さんがガッツポーズを決めて言った。


バッターチェンジの隙にドネリーが立ち上がり、ガイアの方に駆け寄る。落ち着くように言っているようだ。


・・・


次のバッターは女性だった。ジャイ○ンみたいなとても大柄な女性。まあ、うちの怪人達には劣る。


「彼女、女子ソフトのレジェンドね。5割バッターよ」と、斉藤さんが言った。5割? マジかよ。


こぉ~ん!


「あ!? 当たった?」


「フライよ・・・よし、取ったぁ! ツーアウト!」と、斉藤さんが興奮気味に言った。


おお~。一球で仕留めるとは。基本、ストレートだから展開が早いな。でも、そろそろ相手も分ってくるんじゃ。


次のバッターは若い男性。斉藤さんも知らない人らしい。若いから高校野球あたりから連れてきたのかも、とのこと。

こちらは中学生もいるしね。


こぉ~ん!


あ、コレもフライ。今度はセンターのモルディが取った。


・・・


3アウトチェンジ。ガイアが皆に褒められながら、ベンチに戻ってくる。


「ガイア! すごいじゃん。初マウンドで三者凡退とは」


「まぐれなのじゃ。次は、こううまくはいかないのではないかな」と、ガイアが謙遜する。


そう言いつつも、顔はニッコニコだ。


「もう、こちらの球種がストレートのみっていうのは向こうも気付いていると思うわ。親善試合で何処まで本気で来るかしらね」と、斉藤さんが言った。


「まあ、とにかく、点を入れないことには始まらない」


「そうね。少なくとも点が入るような勝負をしないとしらけるし。よし、シスちゃんがんばれ!」と、斉藤さんが叫ぶ。


一番バッターはシスティーナだ。


投球練習が終わり、システィーナがバッターボックスに近づくと、大歓声が起こる。

中学生だからな。金髪ツインドリルの美少女だし。

アメリカ人も好きなのかな。ツインドリル。


システィーナがゆっくりと、左打者用のバッターボックスに入る。


「さて。シスちゃんのバントは通用するかしら・・・」と、斉藤さんが言った。


やっぱりバント走法なんだ。相手ピッチャーは男性でメジャーリーガーだとか。


コン!


「あ、やっぱり初球打ち、相手も相当手加減してたけど」


メジャーリーガーさんも鬼ではなく、ちゃんと優しい玉を投げていた。


会場大歓声!


「走れぇ~~~~~~!」


意表を突かれた相手キャッチャーの反応が遅れる。


「早いなシスティーナ」


あいつ、前よりかなり早くなっている。スプリンターって感じだ。


「セ~フ!」と言って、アンパイアがジェスチャーする。


おお。初出塁。やるなぁ。相手キャッチャーは、ファーストに投げることも出来ず、呆然としている。


会場の大歓声が収まらない。メジャーリーガー相手に中学生の女子が出塁してしまった。しかも、足がとんでもなく早い。女子のみに暫定的に認められている身体強化系の生物魔術だ。もちろん、システィーナは晶達と一緒に走り込みをしていたので、素の身体能力も高いのだろう。


次はブレブナー家の男性。歓声が半分くらいに収まる。皆分かりやすい。


ズバン!


「アウト!」


彼は三振。システィーナの時と全然球速が違う。流石はプロ。


次はドネリー。ヤツは身長190を越える巨体だ。

ドネリーが出てきて素振りを開始すると、会場がどよめく。


うん。あの揉み上げだからね。レ型の揉み上げ。


ブン! 「ストラ~イク!」


「ああ、フォークボールね。卑怯だわ!」と、斉藤さんが言った。


フォークが卑怯とは? まあ、俺には分らない異世界ルールがあるのだろう。


ドネリーもびっくりした顔をしている。まさか、フォークボールを知らないのか? 若しくは異世界ルールで禁止とか。


コン! 「ファール」


コン! 「ファール」


ドネリーも合わせて来ているようだ。さすがだ。


ゴン! 「「打ったぁ~~~~~ぎゃぁあああ~~~~~~~」」


女性陣2人の歓声が煩いのだが・・・


「ああ~~~取られたぁ・・・」「惜しいわね。あのライト良い足ね」


これで2アウトか。しれっと、システィーナが犠打で2塁まで走っている。


ここでも会場大歓声。

そして、監督兼4番センターのモルディの登場だ。大柄な女性で化粧っ気もないが、顔は美形なのだ。そして監督兼4番バッター、そりゃ目立つ。


2アウト2塁の4番。こういう時はどうするんだ? やっぱホームラン狙いか?

モルディが真剣な表情をして、バッターボックスにゆっくりと入って行く。


そして、相手ピッチャーは何度かキャッチャーとコミュニケーションを取った後、軽くうなずく。そして振りかぶり・・・


ブン! 一投目は空振り。風切り音がここまで響いてくる。もの凄いスイングだ。


「あ!? カーブね。素人相手に何てことするのよ」と、斉藤さんが言った。


だが、モルディは謎の余裕の笑み。


あいつ、魔術で変なことしないだろうな・・・意外と負けず嫌いだからな。


コォン!  「「打ったぁ~~~入れ~~~~ぎゃぁあああああ~~~~」」


いや、大ファールだ。


バシン! 「ボール」


モルディが落ち着いて見送りボール。何気に今回始めてなんじゃないかな。見送りボール。


コン! 「ファールボゥ」


粘るな。モルディのやつ。一度バッターボックスから離れ、2,3度軽く素振りをしてボックスに戻る。


相手のピッチャーが首を左右に振る。サインを断っているのか? 俺は良く分らないけど。


「勝負に出ますね」と、俺の後ろにいたツツが言った。


え? ツツさん? この距離で解るの?


うちもしっかりサインを決めていたら、ツツさんセンサーで相手の出方が解ったんじゃ・・・まあ、あまり卑怯なことをしてもいけないとは思うけど。


コォン! 「当たった!」 真っ直ぐに打ち返した。


「いや、少し低いわね・・・」


「入れぇ~~~~~~~」


いや、これは流石に・・・ センターが取ったか・・・

これで、3アウトチェンジ。お互い0点のまま、1回が終わる。


・・・・


「よし。いっちょ行ってくるかの」と言って、ベンチのガイアが元気よく立ち上がる。


「がんばって来いよ~」


ベンチ席の後ろの部屋からガイアに声をかける。


「任せておけ」と、ガイアが振り向いて言った。


うん。頼もしい。ストレート以外投げられないけど。


ガイアは、手をさっと上げて、そのままピッチャーマウンドに歩いて行った。


・・・


ズバン!


うん、いい音だ。


相手4番バッターは、初球を様子見で見逃し。さてさて・・・


「彼もメジャーリーガーね。器用に打ち分ける選手よ」と、斉藤さんが解説してくれる。


ふむふむ・・・


ゴン! 「あれ?」


ガイアが少し前につんのめる。後頭部を叩かれたような感じだ。


ガイアもびっくりして後ろを振り返っている。


なんだ? いや、これは、蛍光紫の輝き・・・


タァン・・・


「銃声!?」


タタタ!     タタタ!


「はぁ?」


思わず、ベンチ側に飛び出した。


「タビラさん!」


ツツが追いかけてくる。


マウンドに立つガイアの周りに、瞬時に展開される薄紫の膜が見える。しかし、あれはもう・・・割れそう・・・


「ガイアぁあああああ~~~~~~~!」


反重力魔術で加速する。


ガイアがスローモーションで見える。


脇腹、足、肩付近の障壁に何かが当たる。体がよろめくも耐える。


が、次の一発は障壁を貫通して体に当たる。


小さな体が大きく揺さぶられる。


そして、次の瞬間、頭が揺れる。


顎の辺りが赤く染まる。


次に、足がはじける。


「ガイア!」


銃弾の中に飛び込む。


ドンドンドンと何かが俺の空間バリアにぶつかる。そこそこの衝撃だ。


くそ。観客席からの銃撃だろう。


敵の事はいい。今はガイアだ。俺のバリアは貫けないだろう。


「ガイア! しっかりしろ!」


倒れ込むガイアを抱き留める。


「タビラ! ゆっくり寝かせるんだ。首をやられている」と、遠くからモルディの声がした。


モルディが走って来ている。危ないというのに・・・


いや、いつの間にか銃声が止んでいる。


「タビラさん。よく聞いてください。彼女を確実に助ける方法があります」と、駆け寄って来たツツが言った。


「ツツ殿。そんなものは無い。一か八か私の生物魔術で」と、俺たちの目の前に来たモルディが言った。


「温泉に、連れて行きましょう」と、ツツがゆっくりと言った。


「なに?」


一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。


俺の両腕の中、横たわるガイアの顔からは、血がドクドクと流れ出ている。


ツツが地面に落ちた何かを拾い集めている。恐らく、ガイアの一部だ。


そして、「時間がありません。温泉アナザルームのゲートを開いてください」と、ツツが言った。


「分った」


特別なゲート・・・本当は、絶対にやってはいけないこと。


ここに、温泉アナザルームに直接繋がるゲートを出現させる。だって、間に合わないかもしれないから。


あの温泉を思い出す。ここに、現われるよう念じる。そして、俺とガイアの目の前に、引き戸式の扉が出現する。ほんのりと、硫黄臭が漂う。


ガイアを抱いたまま、足で引き戸を蹴飛ばすように開ける。

そして、ゲートに飛び込む。両腕に抱いたガイアが重たい。ガイアの体に、反重力魔力が入って行かない。まだ間に合う。まだ、ガイアは・・・死んでいない!


土足のまま、服も着たまま、温泉に直行する。


「ガイアが、治りますように!」


全身全霊で祈る。


そして、魔法の温泉に、飛び込んだ。

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