第234話 とある雑誌記者の脅迫 10月下旬

<<清洋建設特別室>>


今日も朝から清洋建設特別室に行く。なお、怪人会議は一旦解散し、新人は異世界で魔術訓練真っ最中だ。


「おはようございます」と、いつものベクトルさんが言った。


「おはようございます。五星リゾート班は、無事古城に到着したそうです」


「そうですか。では、お客様は何時お呼びしてもいいと?」


「流石に今すぐは無理でしょうけど。今回はラメヒー王国側も本気です。準備と訓練含めても数日後なら大丈夫でしょう」


「ほう。そうでございますか。では、美容だけではなく、食事や恐竜ツアーなんかも準備がほぼ整ったと」


今回、ラメヒー王国は、古城の無償貸与、王宮料理人の派遣、古城周辺の警備にスタッフの生活物資や食料を提供してくれる。それから、定期便の利用も無料で出来て、タマクロー家のマルチロール2機も観光用に配備されるようだ。


タマクロー家はすでにマルチロールを6機ほど所有しているので、2機を外貨獲得のために回すのも可能なのだろう。

軍部も魔石と魔王の魔道具は持っているので、魔道飛行機を入手するのも時間の問題だ。


「観光も問題ないでしょう。王家が乗り気なんですよ。文化の相互理解は必要とか言っていました。少しびっくりしましたね」


「そうですか。私も最初は彼らは内向的かと捉えておりましたがね。こちらにとってはありがたい話です」


「さてと、今日は徳済さんの様子でも見てくるかなぁ」


・・・


一旦、補給物資を五稜郭建設予定地に運び、帰りにオキタを連れてくる。そしてそのまま『シリーズ・ゲート』を駆使して茅ヶ崎に行く。


まこくさん達に世話を焼かれながら、水着とウェットスーツを着る。

その格好のままサーフボードを持って海に出かける。


今日は穏やかであまり波が立っていない。

まあ、俺に取ってはちょうどいいか。オキタは少し物足りないかもしれないけど。


サーフィンをして遊んでいると、遠くで人だかりが出来ているのが見えた。

その中心には、徳済さんがいる。今日も地元の人に囲まれながらサーフィンを楽しんでいるようだ。


元気そうで何よりだ。さて、俺は異世界に帰るか。



◇◇◇

<<茅ヶ崎駅前>>


駅前に『アマビエ新党』ののぼりが揚がる。

そこに、たすきを掛けた徳済多恵と、支援者である辞め国家公務員数名がスピーカーマイクを持って気勢をあげる。


「皆さん! 私は、異世界から帰ってきました。しかし、この国の政治は異世界交流に積極的ではありません! それは非常にもったいないことです! 異世界を積極的に利用する! このくらいの気概を持とうではありませんか!」


「がんばってぇーー!」と、女性や若者からの声援があがる。


「お前はこの街のために何ができるんだよ! 言って見ろ!」と、年配の人からはヤジが飛ぶ。


確かに、『何でこの街からの出馬なのか』の理由は、『総理にムカついたから』であり、政治目標は『異世界規制派に釘を刺す』程度なので、仕方の無い話だろう。


「私が出馬しているのは国政選挙です! 国の方針として異世界の積極利用を進めるのです! そうすれば、きっとこの街にも良いことはある! 例えば、異世界の海は恐竜が怖くて泳げない。ここの海は安全です。きっと異世界の人もマリンスポーツに興味を持ってくれる。旅行に来てくれるんです!」


実際に、とあるおっさんが連れて来た女の子は、サーフィンが気に入っている。


「この国の政治家は外交音痴です。任せておいたらあっという間に外国勢力と異世界が接近し、日本はつまはじきになるでしょう。そうなった時にはもう遅いのです。いや、そうしようとしている人物こそが小石川という人物なんです」


「お前は最近引っ越してきたばっかだろ!」と、ヤジが飛ぶ。


「外から来たからこそ、見えることもある。というか、ここの街はベッドタウンでしょ? 多くの方が引っ越して住み着いた人達です! ここには、もう道路も鉄道もある。でも、古くからの産業は少ない! だから、言うの! 異世界をちゃんと認めて、人を呼び込むの! 皆で楽しく暮らしましょうと!」


わーわーわー・・・



・・・・

<<徳済多恵の選挙事務所>>


「お疲れさまでした。流石です、徳済さん」と言って、彼女の支援者がお茶を注ぐ。


「ありがと。喉ががらがらね。普段大声出さないから・・・」


ここの選挙事務所には、黒目の入っていない、大きな丸い不思議な生物の模型が置いてある。


だるま型のアマビエだ。


「今日はどうなさいますか?」


「これから、党首と電話連絡ね。お互い選挙応援し合うって約束しているし。時間とか相談しないと」


「移動に時間は掛からないから、直前でいいじゃないですか」


「それは秘密でしょ。どんな難癖付けられるかたまったものじゃない。ゲート使うのは公職選挙法違反とか言いだし兼ねない」


「そうでした。申し分けありません」


と、そこに別の支援者が慌てて部屋に入ってくる。


「済みません。週刊誌を名乗る男が徳済さんを訪ねて・・・」と、女性の支援者が言った。


「ばか。取材はテレビだろうが、週刊誌だろうが、全てシャットアウトって話だろうが!」と、元国家公務員の一人が凄む。


「いえ、それが、何でも明日出版する予定の記事が徳済さんのことを特集しているらしくって・・・」


「どうでもいいわよ。書きたいなら書いてって言ってきて」と、徳済多恵も言った。


「しかし・・・」


「あ~もう、めんどくさいわね。私から直接言ってあげる」と言って、徳済多恵は立ち上がる。


・・・・


「これはこれは徳済さんですね。私は・・・」


「手短に。私の事なら書いていいわ」


「よろしいのでしょうか。このネタは貴方のことを知り尽くした方からの情報なんですがね」と雑誌記者が言って、下卑た笑みを浮べる。


「だから何だって言うの? 書きたければ書きなさい。じゃ」と言って、徳済多恵は部屋を出ようとする。


「お、お待ちください。情報は貴方の別れた旦那からなんですよ?」


「あん? あいつが今更なんと」


雑誌記者は、さっと出版予定の雑誌を見せる。


見せられた雑誌のタイトルにはこうあった。


『スクープ 徳済多恵 元夫の告白』


曰く、徳済多恵は、一方的に離婚を迫って、子供を奪った。きっと異世界で男が出来たに違いない。

曰く、別れる際に暴行を受けた。医師の診断書付き。訴訟の準備も出来ている。

曰く、徳済多恵は、エッチの時に尻を叩くように強要する。自分はいやいやながら毎回尻を必死に叩いていた。叩くと喜んですぐ行く。

曰く、徳済多恵は、顔面騎乗○が大好き。いつも最後はお掃除顔面○乗位を強要する。

曰く、徳済多恵は、異世界で別人に入れ替わった可能性がある。


「おおう。典型的なカス取り雑誌の記事ね。素晴らしいわ。じゃ」と言って、徳済多恵が踵を返す。


「え? あの、いいのですか? 今なら記事を取り下げることも可能です。というか、これは事実なのですか?」


「貴方達って、事実かどうかなんて関係ないじゃない。こんな記事どうでもいいわ。それから何? 私を恐喝でもするつもりだったの?」


「いえ、決して恐喝などとは。要望はですね、我々に異世界取材をさせてください!」と、とある雑誌記者が懇願する。本音はこちらなのかもしれない。


「却下」


「じゃあ、事実なんですね」


「知らん」


「あの~、わたくし、さっきからここにいるんですが、無視しないでくださいます?」と、いつの間にか顔に特徴のない人が、部屋の隅に立っていた。


「ひぃい!? いつの間に?」と、雑誌記者はビビる。


「最初からいたわよ。で? どうしたのかしら?」と、徳済多恵が落ち着いて言った。彼女は気付いていたようだ。


「あ、これ、お土産のたこ焼きです。余り物の自家製ですが、おいしいと思いますよ?」と言って、どこからともなくたこ焼きを取り出す。


「ありがとう。ところでご用は?」


「ここで言っちゃっていいんですかねぇ。スクープを持ってきたんです」


この女性はどこかつかみ所が無い、まるで幽霊のような感じであった。


「スクープですと?」


気になるのか、週刊誌記者が幽霊のような女の人の手元を除き込む。


「小石川さんって、息子さんが3人いらっしゃるじゃないですかぁ」


「そうみたいね。それがどうしたの?」


「これが長男の太一くん。既婚のサラリーマンですが、愛人がC国人でした。不倫ですね」


女性がバサッと、大きく現像した写真をテーブルに広げる。


「へぇえ。お盛んね。よくこんなセッ○ス写真撮れたわね。あら、彼女、3人くらいいらっしゃるのね。しかも同時に。凄いわね」


「いえいえ。で、次男の進二郎くん。彼は、彼女と彼がC国人でした」


女性はさらに、次の写真数枚を取り出す。


「あらあら、前から後ろから・・・しっかり入ったり、入れられているところも見えるわね。彼って、婚約者がいたわよね。確かアナウンサー。ふうん」


「そして、三男のしげるくん。鳥取大学の学生さんなんですが、彼女がC国人とR国人とK国人の留学生でした。もう一人は日本人で、獣医師の娘です」


さらにバサっと、写真を広げる。


「あちゃ~。彼は女性のみ4人なのね。全員若いわ。未成年じゃないのこれ。しかもこれ、何か煙たいもの焚いてない?」


「そうですね。甘ったるい匂いがしてましたね。あ、学生証の映しならここにあります。全員未成年でした。お酒飲んでる写真もありますよ? そして、これが最後です。場所は首相官邸の多目的トイレの中ですね」


さらにバサっと。


「あらあら。彼女はおもてなしの君じゃないかしら?」


「そうだと思います。確か多岐川アナウンサーですね。ドヤ顔で有名なハーフタレント兼アナウンサーです。次男、進二郎さんのフィアンセでもあります」


「そのアナウンサーさんが、もうすぐ義理の父になる小石川さんとトイレで立ちバックかぁ~。これって、愛はあるのかしら」


「そこまではわかりませんね。はい。2人の顔が同時に映っている写真と、繋がっている所のアップの写真の両方があります。もちろん、動画も」


「ふむふむ。少なくとも片方は不倫ね。じゃあ、これをネットに流しましょう」


「あ、あの。徳済さん? その写真は?」と、雑誌記者が言った。


「え? 総理一家のスキャンダル写真ですけど?」


「ちなみに、この約1週間で総理がお会いした方の写真は全て撮影しています。そういえば、貴方のおかお、見覚えがありますねぇ・・・」と言って、幽霊のような女性が雑誌記者の顔をじっと見つめる。


「ひぃえ? いや、その・・・」


「その中に、あいつの顔はあったのかしら。私の元旦那」


「ありますね。料亭で4名くらいとご一緒されていた記憶が」と言って、幽霊のような女性は、デジカメの写真を確認する。


「あった、あった。これですね・・・あれぇ、これってぇ・・・あなたですよね?」

と言って、雑誌記者の顔をいきなりのぞき込む。


「ひぃやああああああ!?」


「よし。これも流しましょう。そして、今日の会話は録音してる?」


「もちろんです。この記事と一緒にインターネットに流してしまいましょう。バズること間違い無しです」


「や、やめ・・・」


「じゃあ、今日は解散しましょう」


「でわ~」


「ひゃぁ~~~~」


・・・・


とある雑誌記者が心を折られ、ふらふらになって帰った後、残った2人で少しまったりする。


「さて、帰ったわね。言っておくけど、本当に流したら駄目だから」と、徳済多恵が言った。


「何故です? せっかく撮影したのに」と、幽霊のような女性が言った。


「貴方達の努力は認めます。ですが、これを本当に流したら、私達の目的が達成できない可能性があるの」


「異世界が規制されると?」


「そう。貴方達は優秀過ぎる。一国の総理のスキャンダルを、こんなに簡単に入手できるとなると、当然、人々は魔術を疑う。そうなると、結局魔術の規制、異世界の技術そのものを規制しようという話になりかねない。最悪、貴方達異世界の人が差別や迫害の対象になるわ。大衆に恐れを抱かせては駄目。絶対」と、徳済多恵が写真をペラペラとめくりながら言った。


「そうですか。理解できました。我々が優秀過ぎるのがいけないのですね。罪な才能・・・」と言って、女性は斜め上を見上げる。


「だけどそうね。少しはいいのかしら。ネットの匿名投稿だしね・・・この写真なんかはどうかしらね」と言って、徳済多恵は、当たり障りのない写真を数枚ピックアップする。


「こんなのどうとでも言い訳出来ますよ。面白くないです!」


「相手を徹底的にやっつければいいってもんじゃないの、民主主義は。それに、この街はいい街よ。少なくとも、国内政治はしっかりしているのよ。あの総理」


「ぶー」


幽霊のような女性はほおを膨らませるが、全然可愛くないと、徳済多恵は思った。



◇◇◇

<<清洋建設特別室>>


「おや。ネットが荒れてるな。ええ? 総理にスキャンダルが出たんです?」


「ん? 多比良さんご存じではなかったのですか? 私はてっきり・・・」と言って、ベクトルさんが意外そうな顔をする。


「いえ、知りませんね。怪人キャッスルが投稿? 総理のスキャンダル写真? いえいえ。怪人キャッスルは私が使うハンドルネームではありますが・・・」


「・・・これは本当の写真なんでしょうか」


「う~む。確認してみたらすぐに分かりますけどね。でも、これはまこくさんの仕事の可能性が高い。おそらく事実ですよ。あまりやり過ぎると恐れの気持ちから、異世界が規制される雰囲気になると思って、俺はこの手は控えていたんですがね」


「そうですか。何か空間的な魔術を使用なさっていらっしゃるのでしょうか」


「彼らの仕事っぷりは、詳しくは私も知らないんですよ。ですが、空間魔術があれば出来ることではありますね。そうとう根気がいる仕事でしょうけど。これ、ずっと監視していないと撮れない写真ですよね」


「あはは。そうですな。しかし、これでは少し弱いでしょう。移動中にスマホでゲーム程度。まあ、ゲームのタイトルも全てばらしていますがね。7本もやっていらっしゃるとは。しかも、待ち受けに多岐川アナウンサー。息子さんのフィアンセですからね、イメージはダウンするでしょう」


ゲーム7本の中には、戦争ゲームもあったらしい。

このゲームは任意の実在の国を指定して開始できる。


彼が日本以外の国を選択してゲームしているところまで暴露している。このゲーム、日本国は弱いそうだから気持ちは解る。

それから、アイドルを植木鉢で育てるゲームにもはまっているらしく、こちらも物議を醸している。


「徳済さんのことです。これでもきっと手加減していると思いますよ。それに、これ出されてるのってソース無しのネットの匿名投稿サイトですから、結局テレビが騒がないと事実とは認識されないところがありますよね。この国って」


「そうでしょうな。今の総理はメディアが味方に付いています。選挙に与える影響は限定的でしょう。しかし、インテリジェントの世界ではそうでは無いかもしれません。この情報収集力は侮れないと認識されたと思います」


俺は嫌な想像をする。マ国の諜報能力を恐れたこっちの世界の国家が、マ国の諜報に対処するために神聖グィネヴィア帝国あたりと接近してしまう未来。

それは一番避ける必要があると思う。


この会話は当然、ツツも聞いている。俺が何かしなくても、彼らなら何とかするだろう。


まあ、なるようにしかならないか。


投票まであと数日、もはや、俺が出来ることはない。後は待つのみだ。

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