第220話 異世界旅行の枠組み造り 10月中旬

◇◇◇

<<清洋建設 特別室>>


「おはようございます」


「おはようございます。お待ちしておりました。今日は、魔力判定の続きと、五星リゾートとの会議ですね」と、いつものごとく、ベクトルさんがここにいた。


「こんにちは、お久しぶりです。徳済です」「前田ですよろしく」


今日は徳済さんと前田さんも連れてきている。異世界旅行の枠組みを話会うためだ。ちなみに、高遠さんは欠席。仕事のキャパを越えたらしい。


「じゃあ、糸目達は選定業務の続きお願い」


「はぁ~い」


ここで一旦、ノルンと糸目と船医は別行動。アナザルームを使っての魔力判定の続きをやってもらう。


「さて、もう少ししたら五星も来ると思います。聞いた話では問い合わせが多すぎて忙殺されているそうです。客層が上客過ぎて大変なようです」


スーパーリッチはすべからくわがままだからな。俺の偏見だけど。


「少し同情してしまいますね。ヴェロニカさんが帰国したらさらに凄いことになりそうだ」


「ははは。そこら辺はあまり聞かないことにしておきましょう。ま、私達が一番先に楽しんだんですがね」と、ベクトルさんが言って、ニマニマとした表情を見せる。


「でも、ちゃんと旅行でいらっしゃる方は、恐竜観察ツアーにモンスター討伐体験などを企画します。別料金ですが、美容魔術を受けることもできます。もちろん、街歩きも出来ますし」


恐竜観察ツアーは、ヴェロニカさんの時は少しぐだぐだだったけど、ちゃんと恐竜の生態を調べてツアールートを決めれば結構楽しいと思うのだ。


「今日はその辺りの話というわけですな」と、ベクトルさんが言って、徳済さんと前田さんの方を向く。


「ええ。有意義な話が出来れば幸いですわ」


・・・・


「お待たせしました」


五星さんがやってきた。台車を転がしながら。あの台車には、秘密兵器が乗っているのだ。


「済みません、急なお呼び立てで」


「いえ、いいのです。異世界ツアーを顧客に打診したところ凄い反響でして。極秘にも関わらず、問い合わせが凄いのです。今日、お呼びいただいたお陰で、問い会わせから逃げてくることが出来ました」


五星さんは、相変らず人懐っこい感じだ。ひとまず、徳済さんと前田さんを紹介して、会議開始。


・・・・


会議はブレインストーミング形式で行われた。要は何でも意見を言っていいというような会議形式だ。まとめ役は五星さん。流石に手慣れているのか、かなり上手だ。


「なるほど。いただいたご意見は、大きく分けて3つに別れますね。まずは恐竜見学やモンスターハントを行うアドベンチャーツアー。それから、美容魔術、これはもうアンチエイジング魔術と言っても過言ではありませんよね。それから単純な医療目的も合わせた、生物魔術目的のツアーですね。最後が、動植物や鉱物、あるいは地下資源などを探しに行く探検ツアーの3つでしょうか」


「概ねそうなりますね」


「なるほど。私としましては、この中に、さらに異世界の自然、風土、文化を楽しむ何かがあってもよろしいかと思います。異世界でしか体験できない何か、それは恐竜や生物魔術だけでは無いはずです」


「なるほど。ツアーの後の食事の時などにそういった要素を入れるのもいいかもしれませんね。後は、お祭りとか? その辺りは私達も勉強しないといけません」


「ええ。もちろん、当社のスタッフも勉強すべきことですね」


「そうなると、やっぱりこの間の古城がいいって話になるよな。歴史的だし風景も綺麗だろ? 一晩百万位で借りることが出来るしな」とは前田さん。


「怖い恐竜もいるけど、そこは逆に考えればいいよな。出来ればマルチロールが1機あれば安全になるな」


「マルチロールは、配備できるのですか?」と五星さん。


それは実際問題、魔力の供給元があれば、俺のさじ加減・・・


「まあ、ラメヒー王国との相談次第ですね。彼らの移動砦を魔力供給基地としていいのなら、『魔王の魔道具』1個つきタイプならいいかなって思っています。高速輸送艇時代のやつ。親機の設定をラメヒー王国の物にしたら魔力の補充も問題なくなるし。クルーに広域魔術障壁持ちが乗れば安全面も問題ないと思うし」


「お、多比良さん、それって冒険者に貸してもらったりできる?」と、前田さんが期待した目を向ける。


「そうですね。ラメヒー王国と相談してからになるけど。多額の旅費を取るんなら、異世界ならではを楽しんでもらいたい」


「いよっし!」


「後は、バッファ男爵の了解か。そこの娘さんと知り合いなんで、私から頼んでみましょう。古城はラメヒー王国のヘレナという貿易都市にも割と近いんで、面白いと思いますよ」


「そうね。スーパーリッチをあまり人気ひとけの無い古城に閉じ込めておくのも悪いもの。アンチエイジングは最低でも1週間くらいは施術に必要だから、退屈させない工夫も必要ね」とは徳済さん。


さて、議論は大体出尽くした。


「よし、では行きますか。ラメヒー王国に」


「はい。コレも持って行くんですよね」と、五星さんが言って、自分が持ってきた台車に目線を移す。


「はい。もちろんです。それがあると話が早いんです」



・・・・

<<ラメヒー王国 執務室>>


善は急げ、サイレンに転移してバルバロ家の庭をうろついていたクリスを拉致し、マ国大使館を通って軍務卿に即アポ。ウィスキーを渡すと言ったら即落ちした。というか、この人は俺に借りがあるのだ。


なので、そのまま執務室に通してもらった。


「こちら、ラメヒー王国、ラメヒー外務卿です」


「日本国、五星と申します。まずは、こちらをお納めください」と言って、五星さんが台車ごと大量のウィスキーを渡す。


「う、うむ。ウィスキーがこんなに沢山。すまないな。それで? タビラたってのお願いということで時間を取ったのだ。お主は、確かバッファ家の者だな。そうなると、大体想像は付くな」と、軍務卿が言った。


軍務卿はウィスキーを大事そうに抱きかかえ、給仕係に渡す。背が小さいので、動きがどこかコミカルに見える。


俺とこの軍務卿は、なんやかんやと腐れ縁がある。城壁工事の検査、切子売り、古城での軍への協力、そして、先日の強引な指名依頼でも顔を会わせた。実は王族らしいし、ディーとも親戚にあたる。


「異世界旅行のお話です。以前、タマクロー家を通してお伺いしていたと思います」


「うむ。我が国の外貨獲得施策として、許可を出しているな。今もお一人いらしている」


ヴェロニカさんのことだ。今はマ国の方に行っているけど。


「こちらは、卿のおっしゃられるとおり、チーネクリス・バッファです。例の古城を所管する男爵家の者です。古城をおもてなしの舞台にしたいなと考えまして」


「ほう。いいんじゃないか? 第2世界の有力者達に、我が国の文化に触れてもらい、相互理解していただくことは意義があろう」と、軍務卿が言った。


意外とすんなりいきそうだ。


「それで、移動砦を1基送迎用として利用したいんですよ。例の2基は、魔石ハントと交互に王城・ヘレナ空路で使用されると伺いまして」


「定期便の時間的タイミングが合えば、乗っていただいて途中の古城で乗降する分にはよいだろう。お主には魔道具の件で協力して貰っているからな」


ふむ。話がすんなり通った。今まで投資した甲斐があったというものだ。


「タマクロー家の艦載機も近日中に納品される予定です。魔石ハントも加速度的に上がるでしょう。そこで、この観光用に私からも艦載機を1基出しますので、魔力をラメヒー王国の移動砦から供給させていただきたく思いまして」


加藤さんの方は、マ国の技術者も合流して生産能力が上がっているとか。と、いうか、マ国はすでにコピーして独自生産している。


「うむ。何としてもスタンピード前までに航空戦力を増やさねばな。そのためには魔石ハントだ。我が国も艦載機には期待しておる。さて、軍の話はこれまでにして、旅行の方は、国もバックアップしよう。さっそくヘレナ空路の所轄責任者を紹介しよう。観光用の艦載機に魔力を回すのもいいだろう。バッファ男爵家への書状もしたためる。これは我が国のためでもある。しっかり歓待させようぞ」


「「「ありがとうございます」」」



・・・・

<<サイレン 日本居酒屋>>


「いらっしゃい! あら、多比良さん、お久しぶり」と、祥子さんが言った。


「おひさ、祥子さん。あ、ラムさんも」


仕事が一段落ついたので、皆を連れて日本居酒屋へ。

ハイカウンターには、すでにラムさんが座っていた。この人は、軽空母に設置しているマ国のシリーズ・ゲートのゲートキーパー兼俺の護衛兼監視的な役割のはずなのに、結構自由にしている。


「ああ、先にいただいているよ」と、ラムさんが振り返る。


「そっか。ええつと、祥子さん、7名」


「はいはい。そちらのお客さんは、新しい日本の方?」と、祥子さんが五星さんはの方を向いて言った。


「うん」


それぞれ自己紹介をしてテーブルに座る。

今日は、俺、ツツ、徳済さんに前田さんにクリス。そこに連れてきた五星さんにベクトルさんが加わっている。


料理とお酒をそれぞれ頼んで人心地。


「いやいや、それにしても多比良さんの異世界人脈には驚かされます」と、着いてきていたベクトルさんが言った。


「ほぼノーアポで軍務卿と会談できて、その日のうちに旅行事業の枠組みが出来上がるとは・・・」とは五星さん。


「まあ、移動に時間が掛からないですからね」


「それだけではないでしょうに・・・では、10名程度なら新しく日本人を連れてきて良いのですね?」


旅行や営利目的の入国は、入国税がかけられる見通しだが、国の要請がある場合などは、除外される。


「そうですね。大丈夫です。こちらの窓口は当面クリスでいいか?」


仕事はどんどん人に任せて身軽になりたい。


「いいっすよ。しばらくはバッファ領との顔繋ぎ役も必要でしょうし。ですが、バルバロ領も人手不足で」


「それはすまないな。クリスはあそこで警備を担当しているんだろ?」


「そう。最近冒険者も人手不足っすからねぇ。貴族出身の冒険者が軍に取られてしまって」


「後4ヶ月半後にはスタンピードだからなぁ。うちとしては早く冒険者を増やしたいんだが、連れてきたとしても訓練に時間がかかるからな」とは前田さん。


「冒険者は戦闘だけじゃないらしいね。意外と専門職って聞いた」


「冒険者と、今度我々が出す防衛部隊とは異なるのですかな?」とはベクトルさん。ベクトルさんも気になるようだ。


「そうですねぇ。冒険者も1箇所で見張りや防衛はしますが、それだけじゃ無いんです。まずは地理を知っておかないといけません。移動途中の休憩所やどこにどういう恐竜が出るのか、といった事も知っておかないと護衛計画が立てられませんからね。当然、モンスター討伐の経験と知識も必要です」とは前田さん。


「なるほど。人材としては、例えば警備会社の職員とかはどうでしょう。警備員は、身体能力もさることながら、機密保持や職業モラルも訓練されているはずです。ゼネコンは警備会社とは繋がりがありますから、紹介しましょうか?」とはベクトルさん。


五稜郭の防衛部隊にも警備会社を巻き込む予定だ。冒険者もいいのだろう。


「なるほど。一度面談できませんか? 私にはそう言ったコネがないもので」


「わかりました。少しお時間ください。実はもう一つ楽な解決方法があるんですがね」とベクトルさんが申し訳なさそうに言った。俺はピンときた。


「それって、アメリカですか?」


「そうなんですがね。外国勢力を入れては駄目ですか?」


「軍人さんが来ちゃいそうね。それって。でもね、海外勢力も無視は出来なくなる時が来ると思うわ」と、徳済さんが会話に入る。


「あはは。フランスの傭兵とか元CIAとかカッコよさそうだな。冒険者ギルドとしちゃ人種差別はしないぜ?」


「どうしよう。ベクトルさんに情報収集だけでもしてもらいましょうか。実際に連れてくるかは置いておいて。でも、ロビィストがらみとか、諜報機関のスリーパーとか、マフィア関係者とかは嫌ですよ?」


「その辺りは信頼ください。では、警備会社の方は、今築城の防衛部隊を相談しているところに伝えてみますね」


異世界旅行と冒険者の増強が前に進み出した。

冒険者ギルドはラメヒー王国案件であるため、冒険者ギルドにある『パラレル・ゲート』を使用して打ち合わせを進めてもらうことになった。


この日はベクトルさん達を日本に届けてお開きとなった。

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