第203話 対策会議と今後の方針 お金儲けの話合 10月上旬

<<サイレン タマクロー邸>>


ガイアが軍区に帰ったのを見計らい、ディーが口を開く。


「さて、日本人会の幹部が全員揃っているのか。呼ぶ手間が省けたな・・・」と、ディーが俺たちをゆっくりと見渡しながら言った。


こちらのメンバーを見て事情を察したのだろう。


「込み入った話になると思って、皆で来た」


「わかった。サロン室に行こう」


・・・・


みんなでサロン室に移動して着席する。


早速ディーが切り出した。


「事態の全貌が徐々に解ってきた。過去類を見ないほどの巨大な転移門が3つ、バルバロ平野に生えてきた。その大きさの門なら、どんなモンスターが出てくることやら。それで、だ。我が国としては、異世界を頼るということを選択肢の一つとして考えるだろう。何か情報と意見を聞いておきたい」


「あ、はい。冒険者ギルドの前田です。私はハンターズギルドからもそのお話を聞いています。ハンターズギルドの大半が討伐隊に編入されるであろうこと、それから、貴族出身の冒険者に対しての従軍要請などを打診されています。そうなると護衛任務やモンスター駆除の人員が足らなくなるため、冒険者の増員要請を受けました」


「うむ。ハンターズギルドは元々軍の別働隊だ。この国難にあって、それは当然のことだろう。しかし、冒険者の増員は可能なのか?」


「希望するあちら側の人間を引き入れれば増やすことは可能だと思います。しかし、それはこの国の富が日本に吸われるということでもあります」と、前田さんが言った。


「ふむ。我が国の財政のことは、今は考えずともよい。忌憚ない意見を言ってくれ。しかし、冒険者を志す日本人がいるのであれば、我が国としては許可を出す方向で調整すべきだろう。流石に何人でもという分けには行かぬがな」と、ディーが言った。


確かに、武装する予定の一般人を何万人も入れるわけにはいかないだろう。


「はい。高遠です。我が社から、エンジニアの増員を出せるとの話があれば、受け入れることは可能でしょうか」


「うむ。今はロングバレル用の鋼材と量産化の研究を進めているが、異世界のエンジニアが居た方がよいなら、許可を出すのも可能だろう。『ラボ』に入れてもいいし、国軍に相談してもいい」


「分りました。会社と相談しましょう」


ふむ。俺のゲートを使っての兵器開発ってどうなんだろう、と思ってしまった。

まあ、今はいいか。今度エンパイアを含めてゲート利権について話合いがあるはずだ。遅かれ早かれ、ラメヒー王国は独自のゲートを持つことになるだろう。誰のゲートを使おうと、結果は一緒のことだ。


「だが、いざ量産化となれば、当然コストの話になるだろう。結局外貨がないと貿易は出来ない。今日の相談は、お前達が日本だけでなく、我が国にも配慮した意見を言ってくれると信じてのことだ。何かよい外貨獲得の手段はないだろうか」と、ディーはこちら全員に視線を移しながら言った。


今、あちらの国や武器商人に声を掛けたら、喜んで武器をくれそうな気もしなくは無いが、その代わりいろんなことを求められそうだ。実際に日本や同盟国のアメリカを頼るにしても、外貨は持っておくに越したことは無いだろう。


「まず、異世界の素材や魔道具は売れると思います」とは高遠さん。


「医学に関しては、医学留学や医療患者を受け入れるだけで、かなりのお金になると思います」とは徳済さん。


「俺が思うに、観光なんてどうかな。今なら、単純に異世界に行ける、というだけでも大金が取れると思う」と、俺も言ってみる。


実は、第2世界の軍組織や警察組織をこちらに連れて来て魔術訓練したり、科学と魔道のハイブリッド技術、とりわけ軍事技術の開発を行ってもお金になるのではと思ったけど、これは物騒なので言わないでおいた。

政治が絡むし、今はスルー。


「少し視点が異なりますが、素材集めや観光客が城壁外に出るときの護衛などの任務は、冒険者が担うことができると思いますね。こういった観光や素材集めそのものに税をかれば外貨は稼げるのではないかと」とは前田さん。


「なるほど・・・留学や医療と冒険は分った。それに魔道具の売却もな。しかし、観光と素材? 意外だな。続きを」と、ディーが言った。


「観光だけど、今なら、まず間違い無く、大金を払ってでも異世界に行ってみたいという人達がいる。その人達から大金を取ってツアーさせればいい。好みにもよるけど、恐竜を見せたり、モンスターを倒させたり、夜はこの国の郷土料理でも出せば満足すると思う。かく言う俺も、この手段で少し稼ごうかなぁ~なんて思ってた」


主に五稜郭に温泉旅館を造って。


「そこに医療や美容、アンチエイジングの付加価値を付ければ、客単価は高騰すると思うわ」と、徳済さんが合の手を入れてくれる。


確かに、第2世界で出来ない分野の医療は、高値が付くだろう。


「恐竜見せるだけでお金稼ぎができるのか? こっちの者であっちに行きたいという人はあまり聞かないけどな。それから何だ? 素材?」


「素材に関しては、動物、植物、鉱物、あるいは繊維類などの加工品、何でも売れると思います。最初は適当なものでも結構な値が付くと思われますね。例えば、恐竜の骨とか」とは高遠さん。


「場合によってはセットでもいいかもしれない。人を呼んで、人類未踏の地に入って、珍しい生き物とかを探してくるってツアー」とは俺。


「そうですね。プラントハンター、シードハンターや恐竜ハンターは需要があるでしょう。ガイドは冒険者が担ってもいいですし、単に委託を受けて、冒険者単独でそれを行う事も考えられます」とは前田さん。


「その素材が製薬や漢方や香辛料などの有用な植物なら、それを大量生産して売ればいい。時間は掛かるかもしれないけど」とは俺。


「薬の素材か。なるほどな」


「はい。私からも少し言わせて。正直、異世界に行ける人間を選定するだけでも、今ならもの凄いお金が稼げると思いますわ。私の父の情報ですが、お金持ちからポンとお金を積まれることもあるそうです。それからですけど、鉱物や石油などの地下資源の情報は、第2世界の既得権益側からもの凄いプレッシャーがあるそうです。要は大量の石油や巨大なダイヤなどを第2世界に持ち込まれないか、危険視しています」


徳済さんからの情報だ。メジャーや巨大カルテルが動き出しているのか・・・当たり前と言えば当たり前か。


だけど、こちらで石油は聞いた事ないな。

宝石は分らないけど。巨大エメラルドがごろっと落ちていたし。


「こちらでいう、巨大ギルドが新参者を排除するようなものか」と、ディーが言った。鋭い。


「おっしゃるとおりですね。少し話を戻しますと、多比良さんが提案したような観光の他に、この地を利用してお金儲けできるかどうか、若しくは危険で無いかどうかを確認したいという人達もいるのです。そういう意味では、この国の貴族を紹介するというだけでも莫大な利益になるでしょう」と、徳済さんが言った。


「しかし、それって危険なのでは?」と俺。


第2世界の強欲資本主義を入れると、あっという間に食い荒らされてしまう気がするのだ。


「そうなのよね。貴族は地方自治に関し、かなりの権力を持っていますから、変な約束をしてしまったらまずいとは思います。相手もお金を出す以上は何か利益を求めてきますから。そういう意味では多比良さんが言ったモンスターハントをさせて楽しませる、くらいがいいかもしれません。それから、私達が進めている美容魔術を利用した医療旅行ですね。こっちに来てしばらく滞在し、若返って帰って貰うっていう」


「なるほど。では、第2世界側と早めに外交関係を築いて、交流を進めた方がよいのか?」と、ディーが言う。


外交を進めたら、手広く商売はやれると思うけど、どうなんだろうか。


「そうですね。外交関係が出来ると、交流できる幅が広がります。大量輸送や様々な物品のやり取りが可能になるでしょう。ただし、トレードオフとして、国家が入ると規制ができたり、情報公開されますから、情報が安売りされることになります。無理に外交関係を築かなくても、旅行等は開始できると思います」とは徳済さん。


確かに、最初は秘密主義の方がお金は取れるだろう。この辺りは、日本人帰還事業と両立させる必要がある。

まあ、今年度の3月までの臨時体制としてもいいし、この会議はブレストだ。今日の俺たちの意見だけで決定するわけではない。


「私からも一点。今後異世界交流が進めば、転移に必要な魔力そのものに外貨の貨幣価値が出てきます。『魔王の魔道具』を使って国民の方から魔力を集めれば、それそのものが外貨になります」とは高遠さん。


おっしゃるとおり。魔力は万能なのだ。確か、前にもそういう話をしていたような。あちらのお金と魔力の為替レートの研究をしているとか。


「ふむ。なるほど。美容魔術にレジャー体験、素材ハント、それから医療留学の入国料でお金を稼ぐ、それから魔力そのものの売却が効果的だと。それで稼ごうと思うと、当面は入国料と美容魔術の教育料と施術料に税金を掛けることになるだろうか。魔道具の売却は未知数だな。あちらに魔力はないのだろう? いや、魔力もセットで売ればいいのか」と、ディーが言った。


「美容魔術の本質は若返りです。相当高額でも来たいという人はいると思います。ふっかけるだけふっかけましょう。安売りをする必要はないと思います。それに、ある程度入国料をはっきりさせておいた方が相手も動きやすいと考えます。完全秘密にするのではなく、ある程度お金を払えば情報が入ると分った方がいいでしょう」


「レジャーも同じだと思う。宇宙旅行で何億って出す人もいるし。ぶっちゃけ、宇宙に行くより異世界に行く方が簡単だしね」


宇宙旅行って訓練とか相当時間が取られるって聞くし。


「少し金融的な話になりますが、旅行や冒険者の入国に関し、保険業も出来るでしょう」とは高遠さん。


「ふむ。入国料金はや税率は今後協議しよう。料金は今度国の当局と協議して貰えたら助かる」


「分りましたわ。早速顧客の意見を聴取してみます。高額になりすぎても問題がありますから」


と、いうわけで国公認の異世界旅行事業が現実味を帯びてきた。

ただ、あのゲート俺のなんだけど。権益を主張していないだけで。もともと日本人帰還のためと思って無償貸与していたわけで。まあ、ラメヒー王国が独自ゲートを持つまでの話か。今はスルーしよう。


そう考えると、俺の場合、ゲートを使った運送屋なんかしたら、相当儲けることができると思うのだ。

転移に必要な魔力は距離が関係無い。何処にでもルート関係無しで輸送できるんだから。あまりやり過ぎるとマ国に怒られる気がするから、自発的にはやらないけど。

まあ、俺自身のお金儲けは今度考えよう。まずはラメヒー王国が潤って貰わないと。


「稼げるだけ稼いでくれ。ラメヒー王国には勝って貰わなきゃいけないと思っているし」と、言っておく。


「私達はこの国があってこその存在です。モンスターに負けてしまっては元も子もありません」と、徳済さんが締めた。


「済まないな。オレも可能な限りお前達の意見が通るように配慮するよ。エンジニアと医療留学と冒険者の増員は、直ぐに国に話を通そう」


ひとまず、外貨獲得の話は終わりかな。

ここで、少し違う方向性について相談してみることにした。


「それから、1点いいかな?」


「なんだタビラ。何でも言ってくれ」


「お前とガイア、異世界デビューする気ない? いや、写真をこっそり流そうかと」


俺は最近一眼レフでこっちの写真を撮っている。カメラの知識は適当だけど。


「は? 何言ってんのよ。いや、ガイアナーテさん? ひょっとしてそれなら・・・」と、徳済さん。


「どういう意味だ? タビラ、説明してくれ」


「日本は民主主義国家なんだ。その同盟国も民主主義国家。それには市民の意見やイメージというのがとても重要で」


「ふむふむ」


「ガイアは軍人だ。そして小さいし可愛い。しかも子供じゃ無くて大人っていうのもいい。要は、この国がモンスターに負けるとこの可愛い子が死ぬかもしれませんよってことだ」


「ちょっと、多比良さん。私から説明すると。日本や同盟国のアメリカは、国民の代表が政治を動かしています。よく知らない国に軍を派遣したり、武器を売ったりするのは国民が許さない可能性がありますが、それが、可憐な女性兵士がいる国だったら、国民の同意が得られる可能性があるのです」と、徳済さんが言った。


「なんだそれ。そんな愚衆政治・・・よくそれで国が成り立つものだ」


ディーがあきれかえっている。まあ、気持ちは解る。


「お気持ちはお察しします。ですが、これが億を超える人口を抱える国の解決策なのです」と、徳済さん。


「ふむ。まあ、ガイアなら別によいのではないか? 軍の、しかも移動砦の艦長なんだからな。パレードでもしっかり皆の前で敬礼していただろう? もはや公人だ」


「じゃあ、頃合いを見て流すか。その前に写真撮影か」


「多比良さん、まさかあの掲示板で流すつもり?」とは前田さん。


「そうだけど? 俺、あまりスマホ系のSNSとか扱えないし」


「貴方達、何かこそこそしてると思ってたけど、何? 掲示板で遊んでたの?」


「遊ぶとは失礼な。匿名で異世界の当たり障りの無い情報を流して、異世界信者を増やそうかと」


「実際、かなり反響はあるんだけど、まだ、偽物扱いはされてるな。まあ、俺たちもはっきり名前を明かしていないわけだけど。異世界の存在が公認になったら、メジャーなSNSで情報公開するのもいいかもしれない。というか、この手でも結構稼げると思う。外貨の話」と、前田さんがちゃんとフォローしてくれる。


「これは俺たちの遊びみたいな本気の活動。異世界の情報を流して、流言飛語の類いを吹き飛ばす!」


「本気で動画スタッフとか雇えば、『ようつべ』だけでも結構な稼ぎになるし、この国の現状を分かって貰えると思う。多比良さんは、結局マスゴミは頼らないんだろう?」とは前田さん。


「うん。マスゴミ死すべし。未だに俺が変態とか中学生を性的に大好きとか垂れ流してるし。桜子訴えるし。あいつらは許さん」


「あちゃぁ。やっぱり多比良さん、メディアに怒ってる? 三角系列からの情報でさ。取材要請がすごいらしくって、話聞いてみてって言われてたんだけど」とは高遠さん。


「マスゴミ死すべしって言っておいて。ちなみに、ディレクター首にしましたとかでは納得しないから。社長と主筆首でぎりぎりかな」


ま、そのうち怪人達が天誅を下すがな。それでもマスゴミを異世界に入れたくは無い。きっと、あることないこと吹聴すると思うのだ。


「タビラが怒りを露わにするのも珍しいな。オレも少しそいつらからは距離を取ろう・・・この国のためだったら、写真を少し流したりもいいと思う。SNSとやらでの情報公開も検討しよう。機密事項でなかったら、問題ないと思うしな。しかし、少し安心したよ。やっぱり、相談はしてみるもんだな。これで外資を稼ぐことができたら、異世界の武器の輸入ができる」


あとは、武器の輸入先だよな・・・三角重工が窓口になることになるのだろうか。その辺りはラメヒー王国の手腕に期待しよう。最悪、マ国が出てくるだろうし。


「まあ、後半年あるんだから、何とかなるって」


「あはは。わかった。ところで、お前はこれからどうするんだ?」と、ディーが俺の方を向いて言った。


「一度メイクイーンに行ってみようと思ってる。その転移門とやらを見てみたいし」


「うわ。多比良さん、俺も見てみてぇ~。だけど、これから忙しくなるからなぁ・・」と、根っからの冒険者である前田さんが本気で悔しがる。


「ん? 行った先で呼ぼうか?」


「え? まじか。できるの? え?」


俺の『シリーズ・ゲート』、あまり活用して来なかったけど、そろそろ解禁しようと思うのだ。もちろん、信頼出来る仲間内だけで。


「しようと思えば出来る。今のうちに冒険者ギルドに創っておくか。あれ? でもそれはまずいのか?」


空気と化していたツツの方をちらっとみる。この辺の判断は、俺も結構ツツに依存してきている。


「そうですね。貴方の秘密保持対策として、冒険者ギルドは少し人の行き来が多いですから、問題がありますね。ですが、もっと管理が強い、例えば、この屋敷のディー様の自室とかですと大丈夫かもしれません」


「なに? それって、オレの自室がタビラの軽空母と繋がるということだろ? 確かにオレの部屋はなかなか侵入できないとは思うが」


「じゃあ、繋げばいいじゃん。たまには、艦載機のガンナーしてもらうと助かるし」


「う、うん・・・じゃあ、あと、あとで・・・・」


ディーが柄にも無く恥ずかしがっている。


「あ、ああ。準備とかあるだろうし、後でまた来るわ」


ディーにゲート・キーを渡すことになるか。


ディーはラメヒー王国の要職に就いている人物でもあるけど、最初に国より俺を優先すると言ってくれた仲間だ。


信頼しよう。


こうしてお金儲けの話は終わり、俺たちはタマクロー邸を後にした。

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