第198話 プレ花火大会 準備編 9月下旬

<<清洋建設特別室>>


今日は花火のプレ大会。本番はサイレン秋祭りだか、その前の予行演習を行う。

だが、今回は、そのプレ大会もかなり賑やかになりそうな勢いだ。


俺が築城中の五稜郭は、あの後大量の石を運び続けたりして工事を進めてはいるが、本格的には清洋建設のコンペが済んでからの手はずとなっている。


それより前に・・・


「こちら五星リゾートの五星オーナーです」と人を紹介するのは清洋建設社長さん。


清洋建設側から、どうしても会って欲しいと言われ、納得したので目の前の人と会うことに。


まあ、あの五稜郭、旅館も造ると言ったからにはこういう業種の人が関わるのも仕方がない事だと思う。


「五星でございます。この度は多比良様にお会いできて光栄の極みです。多比良様の、異世界に旅館を建設するというお考え、大変感銘をお受けいたしました。その際には是非我が社をお使いください」


旅館が目的というわけはないんだけどね。


「・・・多比良です。どうも」


とても丁寧な言葉を使う人だ。さすがはリゾート経営のやり手である。ツツが警戒していないから、人となりは大丈夫なのだろう。


「多比良さん。先日は我々を歓待してくださってありがとうございます。本当に何とお礼を申し上げていいのやら」


「いえいえ、そんな。と、言いますか、今回は、私も少々助けていただきたいのですよ。あっちで花火大会をすると言ったら参加者も乗り気でして。料理に給仕にお酒にといろいろと準備する必要が出てきました」


「左様でございますか。全てお任せください。最高のおもてなしをご用意いたしましょう」


水を得た魚。五星リゾートさんは自信に満ちた笑みを見せる。


「一応、言っておきますが、今回はお忍びの参加者が多くて、誰が参加していたのかは他言無用になります」


「心得ております。私どのもお客さまには、世界中のVIPがおられます。秘密保持義務は必ず守らせていただきます」


「まあ、守らないときには『まこくさん』が来るだけですけどね」


一応、釘を刺しておく。


五星さんや清洋建設3人組が少しびびる。効果は抜群のようだ。日本に入ったマ国の諜報員は、『まこくさん』の名前でとても恐れられているらしい。

俺にアポイントを取ろうと考えてそれを実行できるような立場の人は、そのくらいのことは当然知っているようだ。

今回は、まこくさんの名前を出して、マ国関係であることを匂わせておく。


少しかわいそうな気もするが、美味しい話にはリスクもあるのだ。というか、裏切らずに、セキュリティをしっかりして貰えばいいだけだ。いつものビジネスと同じだと思う。


「では、プレ花火大会に向けて、その準備に取りかかりましょう」



◇◇◇

<<五稜郭建設予定地>>


と、言うわけで、プレプレ花火大会を企画した。


五星リゾートの料理人を異世界の軽空母に連れてきて、『出張料理人』や輜重隊のラーとムーらと料理の研究を開始。今回、食材の多くは日本から持ち込むが、こちらの食材や調味料なんかも当然使うことになる。


ひとまず、ランチに創作料理を出して貰った。クルー達の評判が非常によかった。

今日のディナーも、ご馳走の予定にしている。前に、彼女らには美味しい物を食べに連れて行くと約束したけど、結局行けず終いだった。今日はその代わりみたいなものかな。


今回、花火師も連れてきている。今、輜重隊にマルチロールを貸し出して現地を確認して貰っている。


どうもここから西側に見える丘と滝を使って何かするみたいだ。


しばらくすると、輜重隊のマルチロールが戻ってきた。


「花火の準備はOKだぜ。あまり数は多くないみたいだけど」とは峠さん。


「分った。まだ日が高いから、少し休憩していてください」


その後、見張り以外のクルー総出で飛行甲板の上にテーブルをセッティングする。今日は立食パーティにするつもりだ。


・・・・


時は夕暮れ、地平線の彼方に太陽が沈みそう。とても綺麗だ。ここ、五稜郭建設予定地は、南と東が海。西はひたすら荒野で、北はしばらく荒野、その奥が山岳地帯だ。


「じゃあ、そろそろ料理を出してもらおうか」


給仕係は五星リゾートからの2名と、元近衛兵お付きの女性達にお願いしている。


「艦長。私、お姉様と貴方について来て本当に良かったわ。とても幸せ」


「こちらこそ。ありがとマシュリー」


俺的には、褒められている気がしたので、素直にお礼を言っておく。

マシュリーは本気で嬉しそうだ。毎日が充実しているのだそうな。それは良かった。


料理が大皿で次々に運ばれてくる。自分で好きな料理を取って食べるスタイルだ。


お酒も好きなのを頼んで持ってきて貰う。俺は、とりあえず第1世界産のワイン。アルコール度数が低めでおっさんに優しいのだ。


「おいしいけろ。タイガ名物のアブラガエルがこんなになるなんて。感動けろ」


アルセロールが自分の皿に肉を大量に盛ってきて、バクバク食べ始めた。フランス料理っぽい複雑な味付けだ。確かに美味しい。


「おい、アルセ。お前少しはマナーを学んだらどうだ? 兵士時代からまったく変わってないじゃないか!」


アルセロールとマシュリーの漫才を楽しみながらワインを呷る。

俺は刺身の盛り合わせからイカ・タコ・貝類を選んで取る。これは日本から持ち込んだ素材だ。軟体動物好きとしてはありがたい。


「さて、日も落ちたし花火を見るか。彼らもずっとスタンバイするのもきついだろう」


今、花火部隊はずっと、城壁外に張り付いている。早く仕事を終わらせてあげたい。


「花火ってあれですよね。あの古城の湖で上がった・・・」


「ああ、オルティナ。あれは中学生が魔術で打ち上げたイミテーション。本物は今日のヤツ」


「ふふふん。意外と楽しみね」と、いつの間にか混じっていたノルンが言う。


「ノルン。お前は仕事しろ」


大将やオキタが働いているというのに、ノルンはすでにクルー達と混じってお酒を飲んでいる。


「あらやだ。私は戦闘要員よ? 料理人でも給仕でもないわ」


そういう問題では無いだろうと思ったが、大将とオキタがそれでいいなら他人のパーティに口を出すのも変だ。


「まあいいか。じゃあ、峠さん、花火の連絡お願い」


「おう」と言って、峠さんが無線機で連絡を入れる。


しばらく待つと・・・


ドン! ヒュ~~~~~~~~~・・・・・・・ドゴォオオオオ・・・・・・ンンンン・・・

バチバチバチ・・しゅわ~~~~


異世界の荒野に巨大な花火が打ち上がる。途中で何回も色を変えるタイプだ。

そして、大きい。


「「「「おお~~~~!!!!」」」」


立食会場から歓声が上がる。


「す、すごい! これが本当の花火・・・」


オルティナはじめ、この国の人達は皆目を丸くする。


対して日本人達はドヤ顔だ。


これは、この国の人達にもいけるかな・・・



◇◇◇

<<五稜郭建設予定地 後日>>


後日、プレ花火大会当日。


この日は異常に忙しかった。俺はアッシー君として縦横無尽に駆け巡った。


まずは朝から清洋建設特別室に飛んで花火と花火師、食材や酒と料理・ホールスタッフを転移。


清洋建設のおじさん3人と五星さんも連れてきた。

彼らも夕食会に参加する。彼らは日本ではスーパーゼネコンのトップ達だ。こちらの仲間に引き込むためにも接待しようと考えた。というか、イセが会いたいと言った。俺が選んだ日本企業が気になったらしい。


花火のセッティングは、前回と同じく輜重隊にマルチロールを貸し出して手伝ってもらう。

料理人チームは『出張料理人』と『輜重隊』の2人と合流した五星リゾートの人らで協力し合って、下ごしらえを開始して貰っている。


他のクルーで掃除やら椅子とテーブルのセットなどを行う。


飛行甲板に用意するテーブルは3つ。

マ国テーブル、ラメヒー王国テーブル、そして、日本テーブルだ。日本テーブルには、清洋建設3人組と五星さん1名、そして俺の席も一応清洋建設テーブルにしている。主催者だし。


さらに、飛行甲板の一角にショットバー用のカウンターを造る。そこに、サイレンから祥子さんを連れて来て、お酒の準備をしてもらう。日本から持ち込んだお酒やシェイカーなどの道具も渡しておいた。

今、サイレンには小田原さんがいる。後でディー達と一緒に連れてこないといけない。


・・・


準備中、少し休憩、皆で昼食をとっていると、少し離れていたツツが手に何か持って現われた。


「あの、多比良殿? イセ様より、『まさか、その格好で出るつもりではあるまいな?』だそうです」


ツツにそう言われながら、長細い箱を手渡される。

開けてみると服だった。別の箱には靴も入っていた。


そう言われてみれば、俺はずっと、ジニィとお揃いで作ったリバーサーペント皮の服を着ていた。あの皮は恐るべしで、春も夏も秋も問題なくはいている。とても良品だった。


だが、今回は非公式のプレ花火大会ではあるけれど、知り合いとはいえ貴族を呼んでいる。ちゃんとした服に着替えろと言うことなのだろう。


ここは、忠告に従って用意された服を着た。ジマー領の人達が着ているような少しだぼっとしたズボンに、上はシャツと道着みたいな服。それに黒いブーツ。これがマ国の正装なのだろうか。生地がいいのか柔らかく着やすかった。靴もぴったりだ。柔らかい革靴だった。


・・・・


さて、会場設営と花火の準備が完了、


アッシーとしてもう一働きする。

サイレンに飛んでディー達を連れてくる。


ディー一行は、トメとクリス、それから小田原さんが参加する。

実はタマクロー大公も参加の打診があったが、それはご勘弁願って聞き入れてくれた。今回のイセたちは非公式での参加なので、外交の仕事をするつもりはない。そんなところに外務卿を呼んでしまってはまずかろうというわけで。


なお、マ国からは、本来の主賓であるイセとザギさんとジニィ、それから魔王の娘が参加する。魔王自身も実は隠れて参加するらしい。あいつは恥ずかしがりだが、基本的に楽しいことは好きなのだ。


ついでに徳済さんもこちらに同行する。マ国メンバーは、ラムさんによって独自のゲートでやってくる予定だ。


・・・


さくっと、サイレンに飛んでディーとその仲間達を連れてくる。


「タビラ。花火大会かぁ。一体どういうものなんだろうなぁ。楽しみだ」


『シリーズ・ゲート』から出てきたディーがキョロキョロしながらも、楽しそうな笑みを見せる。


「ディー、今日は楽しんでくれ。今回はプレ大会だけど。本番はサイレンでやれたらと思ってる」


「旦那、頑張ってね。私が今日呼ばれるなんて思ってもみなかったよ。私なんて大した権力者じゃないのに」とクリスが言った。


「クリス。まあ、ディーの信頼が厚いってことだろ? お前は面倒見も良いしさ」


俺がそう言うと、クリスは嬉しそうな顔をしてくれた。


クリスは、かつて俺が穴に落ちた時に、いの一番に駆けつけてくれた。

なので、俺は彼女を恩人だと思っている。

その後の事件でもなんやかやと一緒に活動することがあった。彼女の見た目は筋肉ムキムキだから、万人受けはしないと思うけど。俺は気にしない。


「多比良さん。自分も呼んでもらっちゃって。いいのかな?」とは、元Dチームの小田原さんだ。


「小田原さん。もちろんいいですよ。ずっと日本で頑張って貰っているんですから。たまにはゆっくりしてください」


・・・


軽空母に着いたディー達が、清洋建設グループと挨拶を交わしている。

非公式とはいえ挨拶は必要だよな。


さて、次はイセだが・・・


挨拶を終えたディー達は、早速ショットバーで自分のお酒を注文している。

その様子をポケェと眺めていると、ラムさんがこちらに駆けてきて、そっと耳打ち。


「・・・タビラさん。イセ様が来られます」とラムさんが言った。


「分かった。もう準備はOKだ。呼んできて」


何だか無駄に緊張してきた。ラムさんのせいだ。


「タビラさん。ここはイセ様をエスコートすべきですよ?」とツツに釘を刺された。


エスコートなんて全く考えていなかった。

というかエスコートってどうやるんだ? いや、イセにエスコートなんて必要あるのか?

あいつどこにでもズカズカ行きそうなんだけど。


「・・・仕方が無い。ラムさん。どこに出てくる? エスコートって、手を繋いで歩けばいいの?」


「ゲートは軽空母の中に繋ぎました。タビラさんは、飛行甲板の出入り口の扉を開いて出迎えてあげてください」


扉を開けるだけでいいのか。そうか。


しばらく待つと見慣れた顔が軽空母の中に見えた。


俺はタイミングを見計らって扉を開ける。


「・・・」


入り口の向こう、イセが無言で右手を出してくる。


いや、手を繋げってことか? ここの扉はほぼバリアフリーだぞ? まあいっか。

イセの右手を左手で出迎え、テーブルに案内する。これでいいのかは不明だ。


イセの後ろにはザギさんとジニィ、徳済さんに魔王の娘ナナセがいる。相変わらずの爆乳だ。魔王本人はいない。まあ、どこかにいるのだろう。


イセが会場入りすると、周りがざわめく。

イセが来ることは伝えてあったけど、こいつがこういうことに参加するのは珍しいからな。


テーブルまで案内すると、イセがドカっと椅子に座る。

さすがの貫禄である。


そして、「さて、楽しもうぞ」と言った。


ちらっと五星リゾートのスタッフさんを見やると、『任せてください。大丈夫です』と言っているような顔をされる。

よし、任せた。


「イセ。お酒はショットバーで好きなモノを注文できる。お任せしてもいいけど。俺は仕事もあるし、別テーブルに座る。後で回ってくるから」


「最初はお任せでよい。好きなカクテルは後ほど頼もう」


「ああ、それから、俺が連れて来ている日本人達を紹介しておこう」


清洋建設さんらを連れてきて、イセや徳済さんと挨拶。さすがは大企業の経営陣だ。堂々と気さくに挨拶を交わす。


イセも普通に『ジマー家当主イセじゃ』なんて応じている。彼らは合格だったのだろうか。


「わしに付け届けは不要じゃ。むしろこちらから送っておいてやろう。日本でもこれから寒くなるであろう? マ国産の冬着なんかどうじゃ。自宅、実家、愛人宅、息子や娘宅全てにな。ぴったりのサイズをお送りしよう」


いやいやいや、これは脅し? 脅しなのか? お前達の家族は全て把握しているぞと。いざとなったらどうとでもなるぞと。今日の目的の一つはソレか。


「は、はい。光栄です」社長さんも顔を引きつらせている。


まあ、多少は釘を刺しておいた方がいいか。俺はどうも危機感が足りないし。足りない分はそれが得意な人にお任せしよう。


料理の方もテーブルに次々と運ばれてくる。お酒も行き渡ったみたいだ。開始どきかな。


「ではみなさん。始めましょうか」


内輪の宴なのに何故か緊張する。でも、和気藹々わきあいあいとしているし、企画して良かった。


その時、虚空から2本の腕が出現する。グレーの太い腕。これは魔王だな。その手にはタッチパネル式のデジタル機器が握られている。


そのタッチパネルを娘のナナセが受け取り、こちらに見せてくれる。


その画面には・・・『楽しみにしている。呼んでくれてありがとう』と、日本語で書かれていた。達筆だ。

やっぱりいたな魔王。どういう仕組みなのかは分らないけど、こちらの様子はうかがえているようだ。


しかし、どれだけシャイなやつなんだ。だけど、礼儀のつもりなのか、ちゃんとお礼を言うあたりは育ちの良さなのだろう。


その後、乾杯を経てプレ花火大会開始!


今は夕暮れ、西の大地に太陽が沈む瞬間である。とても美しい。

俺も、楽しみになってきた。

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