第192話 怪人の鼓動 9月下旬

まず、ゲートの一般的な話をしよう。


『パラレル・ゲート』用のアナザルームを2個以上重ね掛けすると、『シリーズ・ゲート』としての機能も実用上付加される。


例えば、第1世界のサイレンから、第2世界の三角重工に飛んで、そこから第1世界の軽空母に飛ぶことができる。軽空母が仮にメイクイーンの地にいたとしてもだ。

もちろん、第1世界のサイレンから、第1世界の軽空母に飛ぶことも可能である。


そういう多重掛けのゲートのことを、『パラレル・シリーズ・ゲート』と呼ぶこともある。


俺は、ゲートについてマ国と対等の権益を保有している関係で、マ国がゲートを創造する度に俺のゲートも増えていっている。


俺が持つ『パラレル・ゲート』は、実はすでに3つ。


一つは、日本人帰還事業用に冒険者ギルドに設置してあるゲート。これは機密の観点から、温泉アナザルームの魔力は使用できないようになっている。


もう一つは、普段使いの『パラレル・ゲート』で、こちらは日本人帰還用と同じく只の『パラレル・ゲート』であり、第1世界と第2世界に今の所一つずつしか出入り口がない。


ただし、このゲートは出入り口の大きさや途中のアナザルームの大きさを自分で自由に変化させることができるため、大物の移動が可能になるのだ。欠点としてはアナザルームに家具や調度品を置けないことだったりする。

後は単純で分かりやすいという便利さがある。こちらは温泉アナザルームの魔力が使用可能である。なお、ノーマルの『シリーズ・ゲート』と組み合わせることで、実用上は『パラレル・シリーズ・ゲート』と同様の使い勝手ができる。


最後の3つ目は『パラレル・シリーズ・ゲート』だ。これは10連(出入口が合計10箇所設置可能)であり、かなり贅沢な逸品だ。途中のアナザルームの大きさは15m×15mくらいある。こちらも温泉アナザルームの魔力が使用可能である。扉やアナザルームの大きさも変更できないことは無いが、変更しようと思うと10個のルーム全て同じように変更する必要があり、とてもめんどくさい。


なお、『シリーズ・ゲート』も第1世界用と第2世界用に5連タイプを1つずつ保有しているが、現時点ではあまり有効活用していない。

今後、拠点を増やしていけばすぐに枠は埋まると思われる。その時には任意に増やせるので大した問題では無い。増やし過ぎると管理が出来なさそうだけど。


要は、貸し出しているヤツは低スペックの使いづらいやつ。

大きな物を魔力切れの心配無く運べる『パラレル・ゲート』も持っている。

離れた複数箇所の、スクランブルな移動に超便利なゲートも持っている。

と言うわけだ。


ただし、この重ね掛けする回数、要は創造できるアナザルームの数には限界があると言われており、以前までの実験では100部屋までは問題ないとされてきた。


あまり枠を使いすぎると、俺が普段使用する魔術に制限が出てしまう恐れがあったため、これまでは100を制限値にしていたのだ。だが、その後の実験の結果、まだまだ余裕があるとのことで、現在は200部屋まで解放可能と判断されている。まだ200部屋を使い切っているわけではない。


話を戻そう。俺の10連『パラレル・シリーズ・ゲート』のキーは、いくつかを信頼できる人に託している。


だが、俺のゲートは他と比べると運用がかなり異なる。

その一つは、空間魔力を供給できる魔道具の設置が無いことである。

なぜならば、必要ないから。俺がゲートを使用する限り、温泉アナザルームの魔力を使用できるのだ。

しかし、このことは、他の人がゲートを利用できないということでもある。不便ではあるが、逆にセキュリティと考えればそれはそれでよいと今のところは考えている。


それで、今日はマイ・ゲート・キーを託している人達を集め、会議を開くことにした。そのキーを持っていると、扉の移動や消去、再設置が可能となる。要は何処でもこの『パラレル・シリーズ・ゲート』のアナザルームに入る事ができるのだ。


そして今回は、オブザーバーも呼んでいる。


アナザルームの中には、大きな円卓を運び込んでおり、アンティーク風の椅子も並べている。

今後、お金ができたら調度品なども運び込もうと考えている。


俺は、その円卓に並べられた椅子の一つに座り、参加者の到着を待つ。

ツツが俺の後ろに立ってくれている。雰囲気作りのためだ。


待っていると、とある扉から人が入ってきた。


「お疲れさん。お、だいぶ様になってきましたね。もう少し壁に何か欲しいところかな」


そう言う男性は、スキンヘッドでお目目がぱっちりしている。


「お疲れ様です。小田原さん。すみませんね、お忙しい時に」


「いえいえ、こちらが優先です」


そう言いながら、自分が入って来た扉の前にある椅子に座る。


さらに別の扉からも人がやってくる。

細身の女性。髪が無駄に長く、目が大きくて口が小さい。


「こんちゃ。ここ、待ち伏せができないから、驚かせようがない。今度空間魔力入れた魔道具持ってこよ」


「お久しぶりですユーレイさん」


「はいはい。椅子はここでよろしい?」


「どぞどぞ」


ユーレイさんは、器用に椅子をすり抜けてそのまま座る。本当に息をするように色々とすり抜ける人だ。


さらに、さらに、別の扉から別の人物がやってきた。


身長195cm、バランスの取れた体格に美脚美尻美巨乳。我が家の天使だ。

何故か、迷彩服に黒ブーツという自衛隊セットを身に付けている。角付きの仮面は付けていない。


「お父さん、ここでいい?」


「いいぞ」


桜子も目の前の椅子に座る。


さらに別の扉から・・・出てきた人物は女性。

長い髪を後ろで束ねており、歩くたびにフリフリと揺れる。

目が細いアラサー女子。アラフォーと呼んでもいい年齢だが、お情けでアラサー判定にしている。


「遅れた。ごめんダーリン。連れて来るの手間取っちゃって」


最近の俺の副官ポジである糸目だ。その後ろにはもう一人いる。


「いや、たいして待ってないぞ」


「よかった。はい。この人が元ケイヒンの私掠船しりゃくせん船長のホヤさん」


「この度はお呼びいただきまして。光栄です旦那様。なんなりとお申しつけください。イヒヒヒヒ」と言って、ニヤリと笑う。不思議と不気味さは感じない。きっとユーレイさんを知っているからだ。


この人は身長が低くて細身。御年70余歳らしいが、背筋もしっかりしている。

目玉が大きく、若い時は美人だったんじゃないかと思われる。

そして何故かセーラー服を着ている。ちなみに冬服だ。まあ、船乗りだったのなら、セーラー服も別に不思議ではない。


経緯不明だが、何故かうちの嫁に忠誠を誓っているらしい。

桜子が言うには自由に使っていいらしく、部下が他に4名、合計5名いるということで、手っ取り早く人数が必要な時には役に立つと思い、今回オブザーバーに呼んでみた。


2人が席に着く。


「では、怪人会議を始めます。議題は桜子の傷害罪と器物破損の告訴の件です。この問題をどう解決していくか、話し合いたいと思います」


「ねえ、お父さん。これ、普通に示談ではだめなの? 特に傷害罪の方。擦り傷、切り傷に脱臼くらいなのに」


「傷害罪の示談はお義父さんが言うには、示談金がべらぼうに高いそうだ。しかも、情報によると、示談金交渉の中で異世界利権に食い込もうとしているらしい。そんなやつらには天誅を与えるべきだ。器物破損については、交渉もめんどうなので全額弁償するらしいがな。まあ、お金はあるらしいから安心しなさい」


器物破損のお金の件は、お義父さんが支払ってくれるらしい。お金を払ってしまえば告訴は取り下げるそうだ。まあ、理由はどうあれ、故意に破壊してはいけないということで。


ただし、傷害罪の方はこのまま和解しないと、下手すると桜子に前科がついてしまう。なのだが、何と嫁がそれでいいと言っているらしい。もし、このまま新聞社らが告訴を取り下げずに桜子が起訴されるようなことになると、多比良家とメディアの関係が修復不可能なものになる。彼らの目的は異世界利権なんだから、それは彼らも望まないとは思うのだ。

ただ、俺がゲートの権益を持っていることは知らないはずだから、単に異世界利権の足がかりくらいに思っているのかもしれない。


言わば、桜子を巻き込んだチキンレースが開始されている。まあ、今の桜子なら、前科がついたところで影響はどうなのだろう。マ国留学もさせているから、何処にでも就職できそうだ。ただ、あいつの将来の夢は警察官だったはずだから、前科がついたらまずかろうとは思う。複雑な気分だ。


それに、先日、なんと防衛大学の願書を持ってきて、受験するかどうか悩んでいたのだ。締め切りが10月末らしく、この件が影響しないといいのだけれど。


「う~納得できないんだけど」


「桜子さん。今回は相手が一枚上手だよ。いい弁護士事務所を雇っている。司法も結局は金なのさ。今回はテレビカメラで証拠も残っているからね。もちろん、はらわたが煮えくりかえることだけど」とは小田原さん。


「怪人さん。天誅なら幽霊をけしかける? 不眠にするなり、気が狂うなりするまで。若しくはびっくりさせて物を喉に詰まらせてもいいね。毎日びっくりさせてあげよう。もちろん死ぬまで」とはユーレイさん。


「イヒヒ、ヤルんなら、酒を飲ませて酔っぱらわせた後に、両足を掴んで揺すればいいのさ。優しく掴めば証拠も残らんさね」とはホヤさん。


「金粉入手してこようか? こっそり全身に塗れば、本当に皮膚呼吸できずに死ぬか試せるぜ?」とは小田原さん。


ふむ。怪人っぽい手口だが、金粉で果たしてコロコロできるのだろうか。いや、無事でもトラウマにはなるだろう。朝起きたら、全身が金ぴかになっているのだから。


「普通に生物魔術で延髄切ればいいじゃない。若しくはお味噌の血圧高めてパン」とは糸目。


なぜか糸目のコメントで冷静になれた。当初の目的を忘れている気がする。


「あのなぁ、俺は暗殺したいわけじゃないんだ。第一、一人二人不審死か、完全犯罪の事故死若しくは自然死の工作が成功したとして、相手の方針は変わらないんと思うんだ。怪人は怪人らしく、恐怖で相手を屈服させて自発的に告訴を取り下げてもらわないと。そして二度と逆らわないようにね。うん。だけど、もちろん行為が露見したらまずい」


「イヒヒ。例えば夜人気のない帰り道、後ろからマダコが後ろをついて行くとか、そんな感じかねぇ」


ふむ。ホヤは怪人のあり方を理解しているのかも知れない。


「そうそう。イメージとしてはそれ。と、言うわけで小田原さん、情報はどんな感じ?」


小田原さんは手元に資料を広げる。


「傷害罪の告訴は3件だったな。某大手新聞社と某大手テレビ局、それから雑誌記者だ。この雑誌も出資元を辿るとこの某大手新聞社だから、3つとも繋がっているとみていいだろう」


小田原さんは、手元のA4用紙を1枚こちらに滑らせて渡してくれた。


「ふむふむ。被害者はいずれも記者やリポーターで普通の会社社員か。怪我の程度は軽傷だが暴行罪以上ではあるわけか。病院の診断書もあるし、警察も受理せざるを得ないのか」


「ああ、だが、この怪我をした下っ端を脅しても、事態は変わらんだろうな。そこでユーレイさんに指示系統を探ってもらいました。どうでした?」


「新聞社は主筆、テレビ局は専務と敏腕プロデューサー、雑誌記者は社長がグルなようです。もちろん、加勢している下っ端は沢山います」とユーレイさんは言って、こちらもA4用紙の紙を配る。


それにさらっと目を通す。


「主筆は嫁が元宝家女優、愛人は現役女優か。専務は嫁が元アイドル、愛人がAV女優。敏腕プロデューサーは独身だが、テレビ出演を餌にタレントを食いまくり。雑誌社長はソープランドにハマっていると。ううむ、ところでこの敏腕プロデューサーってなんでここに入っているわけ?」


主筆や専務や社長ならわかるけど。


「彼は主筆や専務の右腕と言われていて、コメンテーターやタレント起用に絶大な影響力があるらしいですね。彼がやりたい放題している実行犯です」とはユーレイさん。


「それに、彼から情報屋に依頼が入っている。どうも多比良さんの好みのタイプを聞きたがっている。女をあてがう気のようだぞ」とは小田原さん。


「またかよ。どうするか」


ケイヒンの悪夢再びか? いや、ここで有名女優やタレントの名前を挙げておけば、本当に愛人に? いや、それは流石にまずい。離婚の危機が来てしまう。


「どうせなら、彼らがうまくいったと考えた瞬間のちゃぶ台返しがいいですよね。どうせするなら」とはユーレイさん。


なかなかいい性格をしていらっしゃる。だが、いいかもしれない。


「ふむ。一理ある」


「まあ、あいつらが使っている情報屋の情報はこちらに筒抜けだ。逆に罠を仕掛けることもできるぞ」


「そっか。好みのタイプは、新垣○衣、浅田○央、真木よ○子、大地真○、土屋○鳳、吉田沙保○、斉藤○貴、大林素○、坂本○綾とか適当に答えておいて」


「統一感がねぇ! まあ、かく乱作戦と思っておくよ」とは小田原さん。


「好みの女性情報で罠を仕掛けるという手もあるか・・・」


「策士策に溺れるともいうよ、お父さん」


確かに。


「作戦はこれからじっくり練るとして、ケイヒン5人衆の能力的にはどうなんだ? 適正魔術とか得意技とか」


「ふむ。そうですな。ハマグリはポンコツで性悪です。特別優れていることはありませんが、○慰じいの補助具になる動植物を集めるのが趣味です」


「ふむ。怪人らしいな。役に立つこともあるだろう。それからなんだ? ラメヒー王国の王子に金的攻撃した人とか」


「オヒョウは相手の性欲を異常に高める生物魔術が得意です」


「ほう。大事な時に不意の勃起とかさせるのも面白いかもな」


「勃起など造作もない・・・ヤツの魔術はもはや強力な媚薬に匹敵します。目の前にいる人物なら誰でもやりたくなってしまうでしょう」


「ほほう。面白い。おデブちゃんのマンタはどうだ?」


「イヒヒ。ヤツは相手に無理やりご飯を食べさせることができます。どんなに辛く苦しくても飲み食いしてしまうのです」


「ほう。見た目以外にも使いどころがあるのか、なるほど。マダコはどうなんだ?」


「マダコは身体強化と魔術兵装が得意です。素の身体能力も高いので格闘戦に向いております」


「ふむ。見た目どおりか。ヤツは暗闇を歩いているだけで怖そうだな。優秀な怪人になれるだろう。ところで、お前は?」


俺は、一応、ホヤと名づけられた老婆を見やる。


「私はしがないババアでございますれば。まあ、船乗りの知識と、雷系の攻撃魔術を少々」


ホヤは大きな目玉をぎょろりと動かす。


「雷か。特殊効果として使えるかもしれないな」


「それに、我らケイヒン5人衆、日本語の方もずいぶん上達してきております。潜入捜査も可能です」


異世界の人は、語学に対し貪欲だ。その事は素直にすごいと認める。

だが、潜入捜査は無理があるのではないかと思う。


「よし、だいたい解った。今の所、告訴の方も示談交渉中ということになっているから、時間稼ぎが出来ている。そのうちに作戦を練ろう。また違った動きがあるかもしれないからな。では、今日は解散するか」


こうして、怪人会が始動することになった。

だが、怪人達がは実際に活動するのはまだまだ先だ。


なので、俺の次の活動はもちろんアレだ。

そう、築城である。もちろん、魔石ハントも行う必要がある。


次は魔石ハント兼築城に向けてサイレンの南方に飛ぶ。


異世界に五稜郭を造るのだ。

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