第193話 ただ今築城中 速攻挫折とヘルプ 9月下旬

<<五稜郭建設予定地>>


怪人会を終えた後、早速南方の五稜郭建設予定地に飛んだ。


今回の築城兼魔石ハントは、最初にバルバロに寄って『出張料理人』を拾い、人類未踏の地に入った。

今回、俺の冒険者パーティ『風雲!多比良城』の徳済さんと斉藤さんは来ていない。


代わりにタマクロー家が人を出している。

ディーから、艦載機の運用の勉強をさせて欲しいとの依頼を受けてしまったのだ。


今はバルバロから五稜郭建設予定まで移動完了し、軽空母の方は俺抜きで適当にその辺の魔石ハントに行かせている。


それで、俺はというと築城中。ここには俺とツツしかいない。


前回、城の平面的な形状はおおよそ決定しており、堀もある程度掘り進めている。


城の形は、まず築城予定地の中央に鋲を打ち、そこからコンパスの要領で細長く伸びが殆ど無い触手を出して繋いだ。

そのまま空を飛んで円を描いた。描くというか、土魔術を使って目印となる浅い溝を掘った。

巨大な円と、それより小さな円。


次に、所定の角度に沿って地上に線を引き、五角形の配置を決める。

線の上の所定の長さに印を付け、さらに堀を造るラインを決めていく。

時々上空から眺め、ずれていないか確認しながら。


堀のラインを決めたら、そこから大まかに堀を掘っていく。ここの海岸は全て岩盤が露出しているから、地盤はかなり堅固だ。

魔力量にものをいわせて強引に岩盤を土魔術で切り出し、それを反重力で持ち上げて岩を移動させるイメージだ。


今回はその続きで、ひたすら堀を造っていく。最初に恐竜が入ってこないようにしないといけないからだ。


掘り出した岩ズリは後で再利用するつもりであるため、城内予定地に適当に積んでおく。

日本人としては、あのラメヒー王国の城壁の様な垂直な壁はちょっと忌避感がある。だって、地震が起きたら一発でパタっと倒れそうなのだ。ここに地震があるかどうかは不明だが、温泉があるということは火山があるということだ。おそらく地震はあるだろう。

なので、新しく造る五稜郭は、地盤をかさ上げして造ろうと考えている。海ベタなんで高潮や津波も怖いし。


ただ、かさ上げのためには、堀の部分の岩だけでは全く石材が足りない。なので、どこかから岩を運んで来くる必要がある。岩は、近くの丘や海に岩盤が露出しているところがあったので、その辺から拝借する予定である。


・・・


半日掘った。堀にはすでに海水が流れ込んでおり、恐竜が簡単には入って来れない状態にまでなっている。なので、次は城郭部分を着手。

ただ、城郭工事に入る前にやっておくことがある。


「さてと・・・」


ユーレイさんにお願いして買って来て貰った道具を取り出す。


「それは何をなさっておられるんで?」


「まずは地盤高の基準を造ろうと思って」


ここには月がある。だから、当然潮汐もある。


「高さの基準ですか。なるほど。ここには何もありませんからね」


「今は秋で潮が大きいから、まずは最低水準面をざくっと決める。そこからだと作業がしにくいから、そこから上に10m上がったところに水準点を設ける。あっ、ツツちょっとこのスタッフ持ってて。多少ずれてもいいから」


ツツに、水中から切り立っている崖に沿わせて5mスタッフを持って固定してもらう。

その上にさらに5mスタッフを当てて、だいたい10mの高さを設定する。


これは定義の話なので、多少、適当でも何も問題は無い。高さを定義した以降の作業はきちっとさせないとずれてくるけど。


土魔術で、基準点を設ける箇所の岩盤面を水平にして固める。その上に買って来てもらった測量用の鋲をこれまた土魔術で固定させる。とても便利だ土魔術。


「よし、ツツありがとう。もういい。ここが、水準面から+10mの基準点と定義する」


「はい。これから、かさ上げ工事するんですよね」


「そう。城壁の内部は+15mにする予定。今が大体+10mだから、5mのかさ上げか。港湾部分は低くするから、途中スロープにするけど」


「半径300mがすっぽり入るお城ですよね。かなりの土量になると思いますけど」


「そうだな。半径300mの円形の外側には星のとがってる部分が出てくるから、かなりの量になる。西の滝と海ベタの温泉の位置なんかを考慮して大きさを決めたから、本物の五稜郭よりも大きくなってしまった」


「本物の五稜郭ですか。昔の日本の方もなかなかロマンをお持ちだったんですね」


「そうだよな。さて、基準点も出来たし、+15mの高さを出したら、その高さまで石を運び続けるか」


・・・・


その後必死で何往復もして石材をせっせと運ぶ。だが・・・


「ぜんっぜん埋まらないな。無謀だったか・・・お堀の形も少しいびつな気がするし」


「これからさらに城壁と通潤橋と温泉旅館に日本庭園、それから港湾に防波堤が必要なんですよね」


「飛行場や台場、上下水も考えると気が遠くなるなこれ」


まだ2日目ではあるんだけど。思えば長崎県の端島通称軍艦島は、ここの数分の1くらいの大きさしかない。そこに5000人も住んでいたんだから。そのくらいの大きさで十分だったのかもしれない。


「お!? 軽空母が帰って来ましたよ」と、ツツが遠くを眺める。


水平線の彼方に我が軽空母が見えた。


「もうすぐ日が沈む。今日はここで一泊だ。堀までは間に合ったから、恐竜は入ってこないだろ」


「ですね」


・・・・


「うっわぁ~~~これ、今日一日でやったんだよね。一体どれだけの魔力を使ったの?」


オキタに感心されるが、彼女は、俺が備蓄してきた魔力を使ったと思っているみたいだ。俺の魔力量は一応秘密なので黙っておく。


「だがなオキタ。これ、まだ全然足りてないんだ。というか少しゆがんでるし。ちょっと悩み中」


「ふぅ~ん。というか、1人でお城を造ろうとするなんて、どれだけ無謀なんですか!」


オキタは、表情をくりくり変えながら突っ込んでくる。しかし、無謀か・・・確かに一理ある。


「そうだな。これは無謀だったんだ。そのとおりだオキタ」


「何? 一体どうしたの?」と言って、オキタがきょとんとする。


「ツツ、ちょっと日本に行くぞ」


「はいはい」



・・・・

<<日本>>


「もしもし、小田原さん?」


日本にサクッと飛んで小田原さんに電話をかける。今、小田原さんは、日本にいてラメヒー王国やマ国、第1世界にいる日本人のために色々と動いてくれている。マ国の密偵達とも連絡を取り合っている。


『多比良さん。お疲れです。どうしました?』


「人と会いたい。セッティングできるかな」


『今の第2世界で貴方の誘いを断る人はいませんよ。誰ですか? 総理大臣でもアメリカ大統領でもアラブの大富豪でも連れてきますよ』


ふむ。頼もしい。


「そんな大げさな人達じゃない。会社の社長」


『どこのです?』


「うちの会社の親会社。うちの会社、俺をクズ呼ばわりしてクビにしやがったけど。親会社は大きなとこだから利用してやろうかと」


『ああ、多比良さんとこの親会社ってスーパーゼネコンでしたよね。すぐに呼んできます。何処に連れて行けばいいですか?』


「本社は東京だよね。『病院』でいっか。時間は明日の朝で」


ここでいう『病院』とは、徳済さんの息のかかった病院だ。シークレットで会議室を貸してくれるのだ。


『了解』


・・・・

<<次の日の病院>>


「どうも、済みませんでしたぁ~~~~~~」


次の日、知らないおじさん達に出会って1秒で土下座される。一応、社長、専務、技術部長さんらしいけど。


「・・・あの、一体何事でしょうか」


ここは病院の一室。俺、ツツ、糸目と小田原さん4人の前に、3人のおじさんがやってきた、と思ったらいきなりこれだ。


「こ、この度は子会社とはいえ、貴方のことをクズ呼ばわりし、しかもクビにしてしまうとは。あいつはクビにしました。貴方が望めば我が社の役員の椅子を用意します。それから、貴方のご自宅は我が社が建替えさせていただきます。何なりとお申し付けください」


「いやいや。あの社長もあれでいいとこあったんですがね。まあ今更ですか。自宅はもういいですよ。今は第1世界の方に寝床がありますし」


「・・・はい。分かりました。ですが、そちらの話はまた別の機会に。それで、本日はどのようなご用件でしょうか・・・」


「ちょっと手伝って欲しいことがありまして。まずは、異世界に行きましょうか。よろしいですね?」


今、民間同士の異世界間交流は少しずつ進んでいる。異世界転移した600人関係のほかに、高遠さんが三角系の企業、徳済さんが病院関係などと交流を進めている。


だからというわけでもないが、俺もちょっとだけ人の手を借りることにした。

もちろん、今の自分の立場を理解した上で、利用する。


「はい。もちろんです。あなたとお知合いになれたこの幸運に感謝いたします」


ここにいる3人全員を連れて行く。流石に変な真似はしないだろう。そんなことをしたら、異世界利権からパージされるだけだ。一応、ツツの顔をみる。ツツが首肯する。

怪しいことは考えていないみたいだ。


「じゃあ、私の後に続いてください。行き先は荒野ですが、料理は一流を呼んでいます。お楽しみください」



・・・・

<<五稜郭建設予定地>>


異世界転移は普通に成功し、今はスーパーゼネコンのお偉いさん3人を連れて、軽空母で五稜郭近くの荒野を遊覧飛行している。

時々恐竜がいたりして、その度に歓声があがる。まるで接待しているみたいだ。


「・・・ここが異世界。素晴らしい。何と美しい大地だ」と社長さんが言った。


大の大人が涙を流して感動している。まあ、気持ちは解る。ここは、海も山も森もあり、とても美しい。


「あなた方はここで生き抜いてこられたんですね・・・」


それは少し誤解がある。


「最初に降り立ったところは、お城の中でしたよ、流石に。その後も基本は街中です。私は偶然この空飛ぶ乗り物を入手できまして。こうして自由に空を移動しています」


「素晴らしいことです。日本人が異世界に行って半年、このような立場に立つ傑物が出るとは」


「ここに、街を造りたいと・・・我々がいち早くここと関係を持てるとは・・・」


少し、気の早い方がいらっしゃる。街では無くてお城だというのに。


「色々と認識に齟齬がありそうですね。食堂の方に移動しましょうか」


遊覧飛行時間は終わりにして、本題に入ることに。



・・・・

<<軽空母 食堂>>


食堂の畳席に座り、打ち合わせ開始。


「改めまして。私は清洋建設の社長、穴熊でございます。お見知りおきを。他の2人は専務と技術部長になります」


社長さんは長身のガタイが良い紳士だった。


「少し、気になることがあります。あなた方は、本当に清洋建設の職員なのでしょうか」と、ツツが横から質問を入れる。


ツツには、こう言ったセキュリティに関することは、独自に動いてよいと伝えてある。


ここで、穴熊社長の顔が真っ青になる。まさか嘘があると?


「ツツ様。私からよろしいでしょうか」


そう言うのは技術部長さんだ。


「はいどうぞ」


「私が清洋建設の技術部長であることは間違いのない事実です。ですが、私にはもう一つの肩書きがあります。ベクトルというアメリカの会社の役員です。出向役員というやつですね。そして、こちらの専務は日本の大手銀行からの出向です」


ベクトルの名前なら俺でも知っている。世界最大のゼネコン。アメリカ本社の多国籍企業だ。


「なるほど。あの世界最大のゼネコンさんでしたか。日本のゼネコンってこうなっていたんですね」


「我々も生き抜くためにはこうせざるを得ない部分もあるのです。分かっていただきたい」とは社長さん。


「あの、私は銀行からの出向になりますが、建設会社は巨額の資金が動きますから、こういった人事はよくあるのです」とは専務さん。


「なるほど。大手ゼネコンだったら、いろんな人達が入っていることは理解できます」


「今、三角というコングロマリットと、徳済会という巨大病院がすでに異世界利権に食らい込んでいます。我々建設業は取り残されないように危機感を感じていたのです」


「こちらの土木工事は魔術で行います。あなた達にあまりうまみはないかもしれませんよ?」


「魔術による土木工事の研究はこれからでしょうが、我々は世界各地で土木と設備関係を纏めて手がけてきました。きっと役に立ってみせます。まあ、おっしゃられるように、建設機械メーカーは割を食う可能性はありますが」と、ベクトルの役員を名乗る男が言った。


彼の見た目は日本人、歳の頃は50代だと思う。髪の毛ポマードか何かでがっちりと固めている。


「ベクトルさん入れると、私、売国奴とか言われないかなぁ。すでに言われてはいるんですけどね。異世界に日本を売った売国奴って」


最近、徳済さんの家でテレビやネットのニュースを見せてもらった。特にネットニュースのコメント欄には、何で俺が日本に全面協力しないのか、という意見はどのニュースにも一定数入っていた。


「最初に異世界とパイプを築いたのは日本人である貴方達です。ですから、日本が一番得をする権利があると思います。ですが、これより外国からの圧力が高まります。まず間違いありません。そんな時、我が社の名前が役に立つ時が来るでしょう」と、ベクトルの人は言った。


「私は、ここでアメリカ的な国造りをしようとしている訳ではありませんよ?」


ネオコンとか勘弁願いたい。


「そんなことは言われるまでもありません。ここにはここの法があると認識しています。ですが、考えてみてください。例えばあの人口の多い赤い国が入ってきたらどうなりますか? 日本とアメリカは同盟国です。きっとうまくやれます」と、にこやかに答える彼。


「ここで外国を除外しても、異世界交流が始まればどうせ外圧で入ってくるでしょうからね。まあいいでしょう。今回は本当に私の趣味みたいなものですから。そもそも街造りではありません」


俺は、側に置いていた五稜郭の模型をチラ見する。


「ははは。そこの模型、そしてここの堀の形、五稜郭ですね? 望む所です。そういう遊び心は大切なのです。いいじゃないですか。力を貸しましょう。我々はその五稜郭の建造で、ここの施工ノウハウを学ばせて貰います。職員を魔術士として教育するまたとない機会です。本来、それだけで多額の費用を払うべきことでしょう」


「そうですね。タダより怖いものはない。欲望は多少むき出しの方がやりやすいですね。私はここのお城が出来てしまえばそれでいいし。そのうち、こちらの貴族を紹介しましょうか?」


「ありがとうございます。ですが、我々が思うに、異世界間移動が行えるあなたこそが最重要人物であるかと。情報では、異世界を移動する際には、まず女性2人がいる不思議な部屋に行くはずなんですが?」と、ベクトルの人が言った。短期間なのに情報が早い。異世界渡航した誰かがしゃべったんだろうな。


女性が2人いる部屋とは、日本人会が日本人帰還事業として使用している方のゲートだ。

女性2人の役割は、魔力切れ等の安全対策と監視。俺には安全対策は必要ないし、監視ツツとラムはすでに付いている。


さて、どうしよう。

ミッションは、彼らを味方に付けてスーパーゼネコンの力を利用したい、でも秘密が広まるのは防ぎたい、まあその辺りかな?


「・・・少し、リップサービスをしましょう。『パラレル・ゲート』は。この事を秘密にしていただける限り、我々は良きパートナーになれるでしょう」


本当は2つとも俺のなんだけど、情報は小出にすることにした。


目の前の3人は、じっとこちらの目を見つめ返す。俺もこちらに来て、権力者と言われる人達とやり合ってきた。肝も据わってきたと思う。


負けじと不適な笑みを浮べてみせる。これはイセの真似だ。


数秒見つめ合う。


向こうさんの専務がチラリと目線を逸らす。


「では、料理を運ばせましょうか?」


俺は、この静かなにらみ合いを止めることにした。


野郎と見つめ合っていても何も面白く無い。

そろそろ、『出張料理人』の料理を堪能してもらおう。彼らの料理は元々美味しかったけど、最近とても洗練された気がする。


・・・・


昼食を取りながら、今後の方針を協議する。


土木工事に必要なものは、まずは測量データだ。


明日にでも航空測量と深浅測量用の機器をエンジニア付きで派遣して貰うことになった。

また、航空写真用のカメラと高度計を貰うことに。これでいろいろな写真を撮影できる。

もちろん、来て貰うエンジニアは秘密を守れる信頼出来る人材のみという約束だ。もちろん、データの漏洩もNGだ。


そして、設計については社内コンペを開くことを提案された。

当面は異世界の話であることは伏せて、IFの話として五稜郭的なお城の建設についてお題を出し、社内の技術者に知恵を出し合って貰う。


そこで情熱ある優秀な職員を抽出して、異世界の話を持ちかける。

そしてスペシャルチームを組んで、それから本格的な設計やらを検討する。3次元技術を活用した図面とかも想定している模様。楽しみになってきた。

ちなみに、ここの五稜郭は恐竜やモンスターから身を守る拠点の意味合いもあるけど、一応、俺の構想、温泉旅館的な機能を付けることは伝えてある。それを含めてのコンペだ。


そういうわけで、本格的な施工部隊が入るのはまだ後の予定になった。


そのうち日本国の総理大臣が決定し、正式に異世界が承認されて国交が始まるだろう。そうなれば、正々堂々と設計や工事発注ができる。


当面は、工事の依頼は保留状態のまま、先に測量と設計のみを進めることになった。


また、工事費用などの面も保留。俺の保有する現金は心許ないけど、異世界間取引が始まれば違ってくるはずだ。


なお、最初に派遣される測量部隊は、今回の食事代で相殺されるとして、俺の手出しは無しとなった。

そういう感じで、この五稜郭構想は、清洋建設さんと時々ベクトルさんが極秘でバックアップしてくれることに。


今日の所は解散した。

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