第172話 晶編 ケイヒン燃ゆ 9月中旬

<<移動砦 突撃中>>


あのぉ・・・なんで、私は今ここにいるのだろう。


ここは、移動砦の中。怒りにまかせてオキタちゃんやシス、ルナや綾子さんと一緒に乗ってしまった。一体どこに行っているんだろう。


びゅおびゅおと凄い音を立てながら飛んでいる。いや、この移動砦はおじさんのヤツと違って窓が少ない。なので外の様子は分からないけど、間違い無く凄い勢いで飛んでいる。


ここは広いフロアで、皆体力を温存するために横になっている。

ここの部屋だけで10人以上いるだろうか。

ああ、私も少し寝よう。隣ではオキタちゃんも寝てるし。おやす・・・・


・・・・

<<ケイヒン伯爵領>>


ドゴォオオオオン!


とてつもない衝撃で強制的に起こされた。

今、一瞬、体が無重力になったんだけど! その後床に叩き付けられて痛いんだけど!


「着いたぞ! 着陸失敗したがな。さあ、ゴウゴウゴウ!」


え? 着陸失敗したの? どうなってるの? あの人はアルティメット・バルバロさん。この移動砦の艦長らしいけど。


「出口から出られない!? なら、屋上から出るぞ! 急げ」


え? はい?


「アキラ、屋上に行こう。というか、この移動砦、少し傾いていない? 階段登り難い」


・・・


移動砦の屋上に昇ると、かなりの高さだった。というか、石積みの建物の上に移動砦が乗っている。


「ここって・・・お城?」


「いや、ケイヒン伯爵の屋敷に、うちらが乗ってきた移動砦が突き刺さっているわね。飛び降りるしかないか」


「うん。そうだね」


「飛ぶって・・・というか晶たち、戦い慣れていない?」


「移動砦は訓練したし。このくらいは平気」


「安全装置もあるしね。行くわよ!」「ほいっす!」


先にシスとルナちゃんが飛び降りる。シスの綺麗なツインテールがフワリと舞い上がる。


「私も行くわね」 続いて綾子さん。


私とオキタちゃんもそれに続いて飛び降りた。周りも冒険者の人とかも次々と飛び降りる。


でも、降りたら何処に行けばいいんだろう。


・・・


「うわぁ。何だ! 敵襲!? うわぁ!」 パン! 「が?」 


「確保!」


先頭を行くアルティメットさんが敵を文字通り蹴散らしながら突き進む。倒した敵は不思議な道具でがんじがらめにされていく。


「クリア! 伯爵がいない!? A班は屋敷の奥を探せぇ! B班は港に繰り出せ! 不動産を差し押さえろ。こいつら、絶対許さん。日本人はどちらかに付いて行けぇ!」


この移動砦にはバルバロ辺境伯領からやってきたクルーの方が10名くらいいて、アルティメットさんに付き従っている。とても強そう。まるで軍人さんみたい。


「どうするの? 綾子さん?」


「B班に付いていくわよ」


「え? うん」


・・・・


アルティメットさんもB班に同行するみたい。

凄い勢いで敵をねじ伏せていく。


「なんだ? 何事・・・ぶはぁ」


「おらあ。ケイヒンはバルバロに攻め入った。逆侵攻じゃぁ~~~」


アルティメットさん、ずっとあの調子。凄い。


「ハァ!」パン! 


綾子さんも凄い。回し蹴り一閃!


カラン!


相手の護衛の人が持っていた棒が足元に転がってくる。


これは、アレだ。魔術兵装。これって、元の金属の形によって、魔力を通した後にいろんな形になる。ある程度は、術者のイメージで制御出来るらしいけど。

これは1本の真っ直ぐな棒・・・どこかアレに似ている。そう、竹刀に。


思わず拾い上げる。


「ぼーっとしちゃ危ないわよ。アキラ」


「うん、シス、大丈夫」


「晶ちゃん、それって、兵装?」


「うん。オキタちゃん・・・そうみたい」


「どうしたの? 晶ちゃん」


うん、これは竹刀、いや、剣の魔術兵装・・・剣? いや、刀・・・そう、これは刀。


道場時代を思い出す。期間にして僅か2ヶ月。でも、とっても楽しかった2ヶ月。おじさんの娘さん、桜子先輩。この間アルセロールさんに会って思い出した。


あの人って、桜子先輩にそっくりな時がある。あの人の体付き。ううん。骨、関節、筋肉、その全て。歩いているだけで誰か分かる・・・ああそうか、あの人は桜子先輩だったんだ。だから、仮面を被って、たまに志郎君を抱きしめて。


もう、おじさん。日本に帰れるかもって、ある意味嘘だったんだね。もう、とっくに帰れたんだ。そして、今度は日本人達皆をお家に帰そうとしている。


きっとそうだ。


なあんだ。うふふ。楽しいな。なんだろう。この感じ。私だけだ気付いたおじさんの秘密。


そして、この棒を持つと不思議な感じになる。分かるの。倒せるなって。目の前の敵を。


「コテェエエエ!」 ボン! 障壁を破って腕に当たった! 私の剣道は通用する。


「ぎやぁああああ」 腕が折れたと思う。相手がのたうち回る。


すかさず冒険者の人が捕縛してくれる。


「晶先輩、大丈夫っすか?」

「ちょっと、思い出しちゃった。私、剣道習ってたの」

「そうなんすか」

「みんな行くわよ! 倉庫はこの先」


・・・・


「港だ! ケイヒン伯爵はここの元締めだ。ぶんどれ!」


倉庫街に着いた。アルティメットさんはどんどん先に行くけど・・・


「おお~~~!!」「ぎゃぁ~」「オラぁ」「なんだ!? お前達は」「先生先生~~」「護衛を呼んでこい!」「させるか~」


どんどん抗争が広まっていく。大丈夫なんだろうか。もし、負けたら・・・


「晶さん、大丈夫。僕も手伝う。『出張料理人』オキタ! 晶たちに助太刀する!」


「うん。行こう」「「「おう!」」」


私、システィーナ、オキタちゃん、ルナちゃん、それから綾子さんでひとかたまりになって進む。


一応、冒険者ギルドの人の近くにいるようにした。

冒険者ギルドの人達は全てが日本人ではないみたい。半分くらいがこっちの人だ。


そして・・・


「来たか! お前達はバルバロがただな。ケイヒンまで攻めてきやがって。俺たち船乗りを舐めるなよ」


大きな倉庫の前に20人くらいの人が待ち構えていた。倉庫の先には船も見える。


流石にもう奇襲の時間は終わっていた。相手も防御を固めていたみたい。


「敵は20人か。こちらは冒険者10人と私達。絶対にやれるわ」


「けっ! あめぇ。お前ら! やるぞ」「「おう!!」」


倉庫の先、船からも人が降りてくる。


人がどんどん増えていく。こちらは女5人と冒険者10人。待っていては人数的に不利になる。


バババババン! ババババババババババババ・・・・


「うわぁ? 何だこれは」 「がはぁ」 「ぎゃぁ」


一瞬で耳の感覚がなくなる。衝撃波で意識が飛びかける。


ぐっと我慢する。


空だ。空からオレンジと黒い何かが降ってくる。


いや、降ってきた後、微妙に角度を変えて敵だけに当たって爆発している!?


ババババババン!


「ぐ、ぐおおお」「誘導弾だ! 耐えろ! 障壁を張れ!」「おわあああ」


「ぐうっ」 すうっと、耳の痛みが無くなる。意識もはっきりしてきた。


「皆大丈夫?」


「オキタちゃん?」


「僕が治した。これはきっと援護射撃だ。今のうちに」


「うん」


誰か解らないけど、空から援護してくれる人がいる。

この戦いも、きっと大丈夫だ。


「こ、こいつらぁ・・・」「ぐうう、頭がいてぇ」


大半の人は目や鼻や耳から血を流している。倒れて動かなくなっている人も。

でも、無力化したわけでは無いみたい。


「ぐう、舐めるなよ・・・バルバロめ!」


「よし、畳みかけるぞ!」「おう!」


冒険者の人達が距離を詰めて行く。


「ゴラァ!」


一人こっちに来た!


ならば!


「イヤァアアアアア! メェン!」 バリィゴン!


目の前の男の人の頭部い思いっきり面打ち! 魔術障壁を軽々突破して頭部に当たった!


「ちょっ!? 晶ちゃんすごい! 容赦無いね。よし、僕がこいつらの治療を担当するから、遠慮なくやって!」


治療、そうね。殺してしまう心配はないのかな? なら、思いっきり切れる。


「くっなめるなぁ!」


汚い人が、ハンマーみたいな魔術兵装で殴りかかってくる。

あんな重そうなもの持っていたら、いい的だと思う。


「キャァアア! コテェ! メェン!」  バン!バン!


最初の小手で魔術障壁突破して腕を折る。次の面で頭部攻撃して無力化。

うん。この人達、弱い。


・・・


「うぉ~」「セイ! ルナ、そっちお願い!」「お母さん。こっちに爆弾頂戴!」「メェン!」「ランチャ~」「冒険者の意地を見せろ!」


ドン! ボン! ガン! ドガン!


「先生、先生~~~こいつら強い。押し切られます。頼んます!」


「ふん。こいつら、最近出てきた冒険者とやらだろう? まあいい。給料分くらいは働いてやる」


なんか、偉そうな人が出てきた。


「ははは、お前ら、聞いてビビるなよ。この方は元英雄級の水属性魔道兵だ。数多のモンスターを屠ってきた生きる伝説よ」


変な着流しを着た小汚いおっさんにしか見えない。


「英雄級ですって? なぜそんな人がここで用心棒なんて!?」


シスが何か言っているけど、今なら隙だらけよね? こっち見ていないし。


先手必勝・・・


「キャアア! メェン!!」  バン!  固い!? はじかれた! でも!


「メェン! メェン! メェン! メェン! メェン! メェン! メェン!」


バン バン バン ピシッ ピシ バリ


よし、衝撃が割れた!? 次で渾身!


「何だこいつは! 俺は魔道士・・英雄の・・ぐ、このガキがぁ」


「キャアア!」 「ポイズン! なぜ、出ない! あいつは? まさかキャンセル・・・」


パリン・・・障壁が割れた! 割れた隙間に抜き手!


「はぁああ~~燃えろぉ!」


抜き手から渾身の炎!


私は魔術はあまり強くないけど、近くで炎を出すくらいはできる。

この距離なら相当熱いはずだ。


ぼぉおおおおお~~~~ 「ぎゃぁああ~~~~」


「晶さん、それ以上は駄目!」直ぐ後ろにいたオキタちゃんに体を引き離される。「死んでしまう。出でよ水球! 炎を消せ」


「はぁはぁはぁはぁ・・・・」


「・・・が・・・ぐ・・・ア・・・」


目の前で炎に包まれて転げ回る人に、真上から水球が覆い被さる。


「あちゃあ。皮膚の火傷はすぐに治るけど。叫ぶから肺の中も焼けてる。でも、ぎりぎり死なないかな? 皮膚だけ治しておく」


オキタちゃん、お医者さんの知識もあるのかな。


「ああ・・・先生が・・・そんな・・・」


「あんた達はどうするの? まだやる?」


残った人は皆その場に座り込んでしまった。


「いえ、降伏します・・・」


「よし。私達はここの倉庫を占領しておきましょう」


「俺たちは仲間の応援に行ってくる。じゃあな。あ、晶ちゃん。卒業したら冒険者やらない? そっちのお嬢ちゃんも」


「いえ、私は、その、まだ進路は」「僕は料理人」


「なに中学生ナンパしてんのよ。早く行きなさい」


「はぁ~い。綾子さんも冒険者やればいいのに」


冒険者チームは別の所に行ってしまった。これにて私達は一旦休憩。


倒した人達を拘束したり、治療したり、木箱とかでバリケード作ったり、交代で休憩しながら過ごす。


空を見上げる。さっきは空から何かが降ってきた。


満天の星。いや、どこか変。ここの空には、がある。


その星が流星群の様に一斉に降りてくる。


ドドドドド・・・・・・

遠くで爆撃音が連続で響き渡る。

闇夜の港街がフラッシュ連写のように断続的に明るくなる。


夜空には、まだ動く星がある。


「あれって、魔術だよね」


「爆弾を咥えた黒い鳥が見えた。多分、あれは・・・」


そう言うオキタちゃんの目線の先のは不思議な鳥がいた。

夜に鳥? 輪郭が少しおぼろげに見えるけど。


もう一度流星群。

ドドドドド・・・・・・

連続爆発の音が響く。


あれはきっと日本人の仕業だと思う。ここでもう少しまったりしようと思った。


しばらくすると、少しずつ空が明るくなってきた。



◇◇◇

<<アルティメット・バルバロ部隊>>


「全員、進撃を停止せよ! これ以上戦線を広げるな。人が足りなくなるぞ! 制圧した拠点の防衛に移れ!」


「おおう!」「資材でバリケードを造れ」「交代で休憩しよう」


アルティメット・バルバロは、夜空に浮かぶ『動く星』と、目の前にいる夜のツバメを見比べる。


「ふん。気にくわんが、今回は助かったか。ちっ・・・日本人、か。波乱が起きねばいいがな」


彼女の呟はケイヒンの夜に消えていく。



◇◇◇


バルバロ家と日本人対ケイヒンの抗争は、王国軍が仲介に入るまで続けられ、本日未明、サイレンにおけるケイヒンの9割の不動産は、バルバロ家と日本人により差し押さえられた。


ケイヒン領はさすがに全ての制圧は不可能であったが、移動砦による突撃により、国軍の介入までに領主館と港湾施設の数割がその手中に落ちた。


まさに電撃作戦であった。

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