第144話 出撃! D部隊 8月下旬
<<ラメヒー王城 国王寝室>>
「ゴラァ! 起きろ国王!」
「ヒィイイイ!」
「おい。お前のところの貴族がなぁ。グ国の軍隊を国内に手引きしてんぞ!」
「は、はぁああ!?」
「おい、良く聞け。バッファ領内にグ国の移動砦が侵入。日本人とわしの親戚が攻撃された。これは由々しき事態じゃ。日本人を金で売ったという証言も出ておる」
「は・・・・・ははは・・・まじ?」
「今すぐ閣僚を集めよ!」
「は、はいぃ!」
「今、あちらには魔王がおる。緊急事態は落ち着いたとみてよいだろう。じゃがのう。グ国を招いた奴らは許さぬぞ!」
「はぃいいいい~~~~」
◇◇◇
<<ラメヒー王国 緊急会議>>
バン!
「お待たせした。国王よ。軍務卿ただ今参りましたぞ」
「来たか。とりあえず、お前とタマクロー内務卿だけに緊急報告だ」
「は? ここには国王と叔父上だけか」
小さな会議室に小さなおじさん3人が集結する。
「とりあえずだ。軍務卿。由々しき事態が発生した」
「ああ、そうだ。弟よ。我が国の貴族が神聖グィネヴィア帝国の軍隊を手引きして領内に侵入させたようだ」
「は? どこからの情報ですか?」
「マ国だ。イセ全権大使兼魔王の副官殿が先ほど怒鳴り込んできたわい」
「イセ殿か。それなら信頼のおける情報でしょう。詳しい情報はあるのですか?」
「ああ。またもやライン伯爵家の娘だ。あの糸目ではなく、今度は姉の方だ。そいつはヘレナに嫁いでいるんだが、日本人を1人10億ストーンで神聖グィネヴィア帝国に売り渡す契約を交しておった。実際にグ国側と申し合わせて日本人を国境付近に連れ出したらしい」
「な、なんと。それで、どうなったのですかな? それからこの情報はどこまで」
「軍務卿よ。日本人拉致事件は、現地の日本人と魔王の介入で阻止された。この情報を知っているのは、当事者とマ国を除くと我らだけだ」
「ひとまず最悪な事態は回避といったところですかな? で、バカどもには派兵ですかな?」
「そうだ。ラインの方は、先日の制圧部隊がまだ近くにいる。ラインに戻して再び占領せよ。ヘレナの方は厄介だ。距離があるし、あそこは外国の利権が絡み合っているからな」
「とりあえず、王都とサイレンの拠点は、寄子共々差し押さえましょう。ヘレナへの派兵は日本人に応援を要請するのはいかがでしょうか」
「日本人だと? 例の移動砦か」
「はい。件の移動砦もグ国側の日本人誘拐事件の現場近くにいたようです。偶然か必然か今は不明です。ですが、グ国側の移動砦と戦闘になり、艦対艦戦闘の末に撃破したようです。しかも2隻」
「なんと・・・いや、話を戻そう。で? タマクロー内務卿はその日本人達に応援を要請したいと?」
「はい。日本人達と言いますか、あの移動砦の機動力を借りるのです。あの艦のクルーは、実はブレブナー家、ランカスター家、バルバロ家、タイガ家で構成されています。それから、実はあのライン家の糸目も合流していたりしています」
「な!? 伝統貴族達が裏でバックアップしていたのか・・・」
「まあ、半分は成り行きでしょうがな。それにその移動砦の艦長は、私の娘の頼みなら多少は無理を聞いてくれるはずなのです。本来この手は使いたくはなかったのですが」
「ほう。お前が娘を使った計略を使うとはな」
「ふん。娘の意思でもあるのですよ兄上。それでですな。その移動砦に兵士を満載させて乗り込むのです。あれは乗り心地を考えなければ時速300キロは出るらしいのです。このことは、サイレンからヘレナまで1時間と少ししか掛からないという計算になります」
「なんと。我が国の移動砦とは移動性能が違いすぎるな」
「まあ、その分、装甲と耐久性、それから修復性には劣るようですがな。ですが、このような時には役に立ちましょう」
「分かった。すまんが弟よ。その日本人に頼んでくれぬか?」
「分かりました。クルーも貴族家出身ですからな。軍内部からの受けも良いでしょう」
「よし。その移動砦はいつ準備できる?」
「あの移動砦が戻ってくるのは明日の夕方の予定です。ですがこういった事態です。早く帰ってくるよう要請しましょう」
「そうか。すぐにその日本人の移動砦と連絡を取り、軍隊の輸送任務を承諾させよ」
「はは!」
「それにしても、ラインにヘレナですか。国境の地ほどしっかりしてもらわないといけないのに。これはなんとも由々しき事態ではありませんか? 叔父上」
「・・・我が国が王国として成立し300年。国として一つにまとまった時の理念が忘れ去れている気がしてならぬ」
「そうですな兄上よ。我らは、元は小さな部族がバラバラに存在していたに過ぎぬ」
「そうだ。我々は大破壊前には一つの国家だったという伝説だが、とにかくバラバラだったものが、国が大きくなるにつれて徐々にお互いを意識し始めた」
「そうして訪れた戦国時代。そしてフロンティア時代。我々のご先祖様はずいぶんと血なまぐさかった」
「・・・少ない入植地と富の奪い合い。そして虐殺、根切り、差別に迫害、奴隷に宗教戦争。我々のご先祖様は何でもやった」
「そうだ。そして、マ国の前身、魔道帝国にも度々侵入。略奪、奴隷。極悪非道の限りを尽くした」
「ふん。下手に戦闘能力が高かったのが禍したのだろう」
「結局多くの土地を他民族から奪い。今のラメヒー王国の下地が出来上がってしまった」
「我らの血塗られた歴史。暴力と略奪の歴史・・・」
「我らは様々な民族や種族を吸収し、やがて一つの文明圏を形造る。しかし、略奪にあった民族や種族からは当然不満の声が上がる」
「盛者必衰。虐げられた人々が反乱を起こすのも時間の問題であった。ついには内戦が勃発。今の戦争とは比べものにならないほどの血が流れた」
「一応、その時の勝者が統一国家を提言するも、そこでも戦争が勃発」
「戦争に次ぐ戦争。ははは、人類の敵はモンスターなのにのう。だが、ご先祖様は反省が出来たとみえる」
「いや、きっと指導者が天才だったんだと思うぞ?」
「ラメヒー1世とタマクロー1世・・・建国の父と母よ。血塗られた我々一族が、正当にこの地の支配者となれる条件はただ一つだった」
「まずは、武力で全てを解決することを改めた。そして・・・」
「・・・新しい国は、その機会が誰にでも平等なものであること」
「そうだ。誰にでも機会が平等に与えられて、そして自由な国。そういう国になることによって始めて、他人の土地を奪い取って栄えた我々が、この国を統治することの正当性が示される」
「我が国では、特定の民族や種族がそれを以て迫害されてはならない。例えそれが異世界人であってもな」
「はい。それが我ら、この血塗られた種族が、この国の支配者として許される唯一の方策なのですから」
「そのとおりだ。だからこそ許せぬ。そいつらは特定の民族を差別して迫害した。しかも金のために。今この時こそ、力を行使するべきだ。我ら古の呼び名、ドワーフの力をな」
「では、今回は・・・」
「そうだ、D部隊に招集をかけろ」
「御意」
◇◇◇
<<古城 翌朝>>
「タビラ!」
「おおう? ディーか。お前がここの責任者になったのか?」
早朝から、ディーとイセが『シリーズ・ゲート』で古城までやってきた。
「違う。親父に頼まれてな。単刀直入言うぞ、あのな・・・」
「ま、まじかぁ。あの移動砦を軍の作戦に編入って・・・俺はサイレンに戻っていいのか? え? 俺は現場責任者? まじで? じゃあ、俺はここに足止めか。日本人会どうしよう。ゲートで帰ろうか。でもなぁ。あれはまだ秘密・・・まあ、日本人会の方は徳済さんたちがいればいいかぁ。俺、ああいうの苦手だし」
「お主、『シリーズ・ゲート』のこと、まだ秘密にしておるのか。魔力はマ国に融通してもらっておるとか言えばよいだろうに」
「いいのかよ。そんなこと言って。まあ、場所の問題や人材の問題もあるんだけど。まあ、おいおい考えよう」
確かに、魔力はマ国が出している、ということにしておけば、俺を足代わりにしようという人は少なくなるかもしれない。
「じゃあ、タビラ、申し訳ないが、移動砦は連れて行く」
「ここにいる80人くらいの日本人はどうするんだよ。それから犯人」
「日本人はピストンで運べばいいだろう。どうせ何往復かするんだし。犯人はしばらくこの城で尋問だな」
「そっか。任せるよ。うちのクルーはラメヒー王国の貴族の娘だ。俺から一言かければ、十分働いてくれるだろう。俺はちょっと、精神的に疲れた。オルティナに指示してスマイリーを見送ったら、湖畔の散歩でもしてくるよ」
・・・
<<イセと魔王と娘>>
「スマイリー、魔王、帰るぞ」
「はい。じゃあ、帰るね」
「ぐふふ」
「お疲れだったな。家に帰ったらよく休めよ」
「うん」
・・・
<<桜子親衛隊>>
「あの・・・」
「なんじゃ、おぬしらは。何? 百鬼隊を辞めたいじゃと? ふむ・・・そうか。だが、辞める必要はない。お前たちには、特務を与える・・・」
「「「・・・はは!」」」
・・・
<<湖畔 散歩中>>
朝の湖畔をツツと散歩すると、向かいから見知った日本人の一団が歩いて来た。
「あ、イネコさん」
「おや、多比良さん。おはようございますよ。イネコさんは、お眠りですよ」
「そうなんですか」
車椅子で散歩中に眠ってしまったのか。気持ちのいい朝だもんな。
昨日の騒動で疲れただろうし。
湖畔の散歩道で出会ったのは、元Dチームのイネコさんとそのお友達軍団だ。
昨日の謎の魔術の話を聞こうと思ったんだけど、疲れているようだし今度にしよう。
さて、少し時間ができたな。
移動砦はサイレンに帰るけど、高速輸送艇はある。
噂のTレックスくんでも探しに行くか。
湖畔を後にして、移動砦に戻ろう。
とりあえず、みんなを送り出さなきゃ。
これが終われば、やっと、日常に戻っていく・・・かな?
◇◇◇
<<多比良八重>>
あの晩は、危うく旦那とニアミスするところだった。
ぎりぎりのところであの危険な森を抜けだして、古城にたどりついた。
百鬼隊に制圧された古城に忍び込み、眠ったツバメ達が保護されていた部屋のベッドの中に潜り込んで、眠ったふりをしていたら、魔王に発見されてしまった。くそ、カンのいいやつめ。
でも、うまく、最初から城内にいた感じで発見されたから、きっと、ツバメプロデュースを見に来て、日本人拉致事件に巻き込まれて隠れていた、という風に思ってくれただろう。
城さんは強いから。
さて、今からサイレンまで、少し時間ができた。頭の中を整理しようかな・・・
この世界の不思議、謎、奇跡。
勇者召喚の儀、大破壊と月の謎、ラメヒー王国の真実。
イセ、
そして、勇者と私の使命。
さて、どこから整理していこうかなぁ・・・
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