第142話 日本人拉致計画 キャタピラー子爵の暗躍 8月下旬
<<数時間前 古城ミッチェル>>
時は古城から花火が打ち上げられる少し前まで遡る
「おい、いつまでだ? いつまで我らはこれに付き合えばいいんだ?」
いらついた感情を隠そうともしていない
今、キャタピラー子爵がいる会場の先では、ツバメプロデュースという男性アイドルグループが歌って踊っていた。
興味の無い人にとっては苦痛なのだろう。それに、キャタピラー子爵には別の心配事もあった。
「この地には他の日本人グループも来ている。なぜこのタイミングなのだ。しかも、グ国から奪った移動砦でだ。何の因果なのか」
「とりあえず、このコンサートはヘレナ夫人が楽しみにしていらっしゃったものです。何でもこの後お楽しみがあるとか」
「そんなことはどうでも良い。用事を片付けてサイレンに帰りたいものだ。一刻も早くな」
実のところ、このキャタピラー子爵という人物は小心者なのかも知れない。
子分のワックスガー元準男爵は貴族の位を失っても
「おやおやぁ。どうされましたかな? キャタピラー子爵様。せっかく大金を払ってお呼びしたアイドルグループですよ? 楽しまないと損でございます」
「ふん、ザヴィエルか。アレは女性を楽しませるための催しだ。興業として否定はせぬが、私が見なければいけないというものでもあるまい」
ぱちぱちぱちぱち~~~~~~~~~~~~~~
「お? 今終わったようですねぇ。では、そろそろ我らの仕事ですかな?」
「ふん。私は日本人を連れて接待旅行をしているだけだ。何も知らぬ」
「そうでございましたねぇ」
「アンコール! アンコール! アンコール!」
「なんだ? アレは」
「ああ、あれはアンコールです。ああやって叫ぶともう一度歌手が戻ってきて1曲歌ってくれるという日本人が持ち込んだ文化です」
「ふぅ~~~~~。どうでもよい。早く終わらせろ」
「まあまあ。どのみち、
「くっ、まあよい。これも、商売のためだ」
キャタピラー子爵は、ワインを傾ける。
一体どうしてこうなったのか。
自分は魔術で立身し、対スタンピード討伐隊の常連となり、エース級魔道士にまで上り詰めた。スタンピード討伐隊で貰える魔石によって多額の資金も得た。
妻も愛人も集めまくってやりたい放題。先の激戦も、何とか生き抜いた。
そして、後一手で名門タマクローの姫を
ここまでは全て順調だったのだ。
なんやかやと愛国心もあるつもりである。
それなのに、金のためとはいえこのような売国行為を余儀なくされている。
このことはキャタピラー子爵にとって屈辱であった。
「ふう。救いなのは、こいつらが日本人であることだ。ラメヒー人ではない」
下手くそな歌を遠くで聞きながら、独りごちる。
・・・・
「よし、そろそろどうだ?」
今はツバメプロデュースの催しが終わって30分くらいだろうか。
「いやいや。向こう岸のバーベキュー集団ですが、ここからでも見えるくらい煌々と明かりが付いています。でも、夜も遅いので、もう少しでお開きでしょう」
「・・・ふん。その明かりが消えたら決行だな。いや、その前に俺たちはここから帰っておかないといけないがな」
「あなた方のアリバイ工作は完璧ですよ。あなた方は今バッファにいらっしゃることになっています。ご迷惑はおかけしません」
「ふん」
キャタピラー子爵はワイン片手にその時を待っていた。
ドン! ヒュ~~ン ヒュ~~ン バンバン!
ドン!ドドンドン! ヒュ~~ン ヒュヒュヒュ~~ン バンバン!・・・・
パチパチパチ・・・・・・・・・・・・・
ヒュ~~ン ヒュヒュヒュ~~ン バンバン!
突然の不規則な爆発音。
「な、何事だ!?」
「分かりません。ベランダから砲撃のような音が。確認してまいりましょう」
「我々も行くぞ」 「はい、キャタピラー子爵」
キャタピラー子爵とワックスガー元準男爵、それからザヴィエルは部屋を飛び出した。
「あの、キャタピラー子爵殿、あれは何事ですか?」
「こちらが聞きたいわ。何だあの音は」
そうしている間にも爆発音は連続で鳴り響く。
「いえ、私にも何が何だか」
「とりあえず、音の方に行くぞ」
古城の廊下を3人が走る。
・・・・
「おい。何だコレは」
ドンドンドン! ヒュ~~ン ヒュヒュヒュ~~ン バンバパン・・・・パチパチパチ・・シュワ・・
「おお~~~うまいな」「た~まや~~」
「よし、次はデカいの行くぜ? ぎゃははは」「俺のは3色に変わるやつだ。どうだ」「けけけ、ここならぶちかまし放題じゃねぇか。池しかねぇからな」「ははは、酒も飲めるし最高だな」
「綺麗~~~~あなたたち、やるわねぇ」「おお~~~」「花火じゃねぇか」
「・・・こら、お前達、何をやっている?」
「は? 何っておっさんよぉ。花火だよ。花火」「そうだぜ? 夏といえば海と花火だ」「花火知らねぇのかよ! だせぇ。田舎もんじゃね?」
「ここは海じゃ無くて池だけどな。ぎゃははははは」「うへへへへへ」
「そらぁ!」
ドン! ひゅ~~~~~~~~・・・・・・・・・・・ドゴォォオオン!
「おお、でけぇ。新記録じゃねぇ?」「おお、アレって何尺玉だぁ?」「わかんね」
キャタピラー子爵は頭が痛くなった。どうもこいつらは単に空に魔術を打ち出して音と光で楽しんでいるようだ。
保護者達もそれを咎めるどころか逆に感心している気がする。
サイレン生まれのキャタピラー子爵には、花火というものが理解出来なかった。
「ぐっ、い、いや、お前達。迷惑になるからやめなさい」
「はぁ? 何でだよ。サイレンなら分かるけどよ。ここには誰もいねぇべ」「そうだ。あっちの日本人達も俺たちの花火見てきっと楽しんでると思うしよ」「だせぇっ」
「くっ・・」
キャタピラー子爵は、口げんかには弱いのか、中学生に言い負かされてしまった。
だが、これではいつまで経ってもあの国の移動砦が近づけない。
予定では向こうの宴会が終わった後に、日本人達を魔術で眠らせ、この城に某国の移動砦を横付けして
パガン!
一瞬で湖一帯が照らされる。
「な、何です? 今度はどうしたんでしょうか」
「あれは・・・照明弾。とんでもない規模だ」
「かぁ~~~分かってねぇなぁ。花火ってのはああじゃねぇだろ。やっぱり花を咲かさないと」「ははは、お前、いつ花火職人になったんだよ」
「あれはおそらく、広域殲滅級の雷系生活魔術『ライト』だ。通称、照明弾。何故、一体誰が放ったんだ?」
ベランダから望める湖面は、巨大な光球に照らされキラキラと輝きを反射する。
「このクラスの魔術を放てる魔術士は限られているはずだ。それがなぜこの地に? そして、なんで今のタイミングで・・・」
一人ごちるが答える者はいない。
「くっ、おい、ザヴィエル。どうなっている?」
「そうですねぇ。相手も花火にびっくりしただけだと思いますが、今ので仲間が勘違いして動き出さないかが心配です」
「面倒になる前に眠らせるか」
「そうですな。お手伝い願いますよ?」
「・・・仕方あるまい。ここまできたら、失敗されても困るのだよ。おい、ワックスガーよ、眠りの魔術を準備せよ」
「はは!」
ドン! ドン! ドン!
砲撃音が静寂なはずの古城に響き渡る。
「あ!? うちから撃ちましたね。せっかく隠れていたのに。これは下手すると艦対艦戦闘になります」「くっ、作戦開始だ!」「はい!」
日本人達に向けて、一斉に眠りの魔術が放たれる。
・・・・
「よし、ちゃんと名簿を確認しろ。1人も逃すな。ばれたら私達の立場がまずい。日本人と、それからツバメもだ。料理スタッフと給仕、それから旅行代理店は大丈夫だ。あいつらは全員グ国のスパイだからな」
「はい。しかし、50人もいると、ここにいない者達もいます」「そうだな、手分けして探すぞ」「はい!」
「ところでヘレナ夫人は何処に行かれたのだ?」
「夫人はツバメたち5人と個室に入られました。今頃はきっと・・・」
「そうか。まあ場所が分かっているならよい。後は日本人だけだ。全部眠らせろ」
「はは!」
この古城で、日本人狩りが始まった。
・・・
「いました。クローゼットの中でセック○してました。何とか眠らせました」
「興奮状態にあるヤツには眠りの魔術は効き辛いからな。よし、次だ」
・・・
「トイレで物音が!? ・・・いました! ここでも? お盛んですね」
「日本人の言葉に旅の恥は掻き捨てというものがあるらしい。よし。次だ」
・・・
ドン! ドンドン! バン!
湖上で繰り広げられる砲撃の音を聞きながら、キャタピラー子爵とワックスガー元準男爵は日本人を探すべく部屋をしらみつぶしに当たっていく。
「外では移動砦戦が始まったか。グ国は軍艦。大して日本人の移動砦は武装解除されていると聞いている。グ国が有利だろう」
「そうですね。あの日本人の移動砦、殆どを食堂やお風呂に改装したとか。もったいない」
「まあ、今はそれで助かっている。あのままあいつらもやられてしまえば目撃者は無くなる」
「そうですね。ここは人類未踏の地の
「そうだな。ん、なんだ? この部屋からあの時の声が聞こえるぞ?」
「は? いや、ここは確かヘレナ夫人のお部屋です」
「そ、そうか。ここはスルーだ」「はい」
・・・
<<古城 玉座の間>>
日本人狩りの2人が
そこに見えるは4つの人影。1つは玉座に座っていたが。
「な? なんだお前達は、ここは玉座の間だぞ」
こつこつと歩きながら、自身も玉座の間に入る。
「ふぉふぉふぉ。別に、立ち入り禁止の看板は無かったですよ。今は王様気分を味わっていたんですよ。これも、観光の醍醐味ですよ」
キャタピラー子爵とワックスガー元準男爵が邂逅したのは、4人の老婆。
「ふん。おい、やれ・・・」
「は! 子爵様、スリープ! ・・・あれ? スリープ!」
「まさか、私達を眠らせようとしていますよ。私達の脳みそは、すでに半分眠っていますよ。そのようなものは、効きませんよ」
「スリープ! ・・・くそ、何故だ・・・何故効かないんだ」
「ふん。私が魔術戦で倒そう。最悪、40億減っても仕方がないだろう・・・」
キャタピラー子爵の両腕に、魔力が集中していく。
ラメヒー王国、スタンピード討伐隊エース級魔道兵の実力は伊達では無い。
「私も。こんなババアどもを倒すのは訳ありません」
ワックスガー元準男爵も魔力を練り上げる。新興貴族は荒事も日常茶飯事、バルバロには負けたが、彼も戦闘経験くらいはある。
「ふがふが」
「そうですよ。姉御。こいつらはザコですよ。気を付けるべきは敵移動砦群。勇者と聖女が来ている可能性もありますよ」
「な!? どうしてそれを・・・お前達は一体・・・」
「・・・ふがふが」
「そうでございますよ。姉御はこの城の防衛に徹してくださいよ。
「舐めるなよ、ババアどもが。私は年寄りにも手加減はせんぞぉ!」
すっと、何かが立ち塞ぐ。2人だ。
「がははは。この変態がぁ。威勢だけはよかごたんねぇ」
1人目は、目玉の大きい大柄な女性。筋骨隆々の背中を見せながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ぐけけけ。
2人目は、目玉の小さい細身の女性。こちらはすばしっこいバネのある動きで立ち上がる。
「今は1人少ないですが、こんなヤツラは余裕ですよ」
「ふがふが」
「田助さん、角力さん、やっておしまいなさいよ」
「ゴラァアアア!」「ケェエエエエ!」
ラメヒー王国エース級魔道兵と、日本人老婆の魔術戦闘が始まる。
・・・
「死ね、ばばあどもがぁファイア・ソード!」「アイス・フィンガー!」
「熱かぁ~~~~~~~~~~~」 ボゴン!
「冷たかぁ~~~~~~~~~~」 パァン!
「ホレェ! ちんちん痛かろがぁ~~~~~」 バン!
「こんドリルち○ぽがぁ、汚なかぁ~~~~」 パン!
「オラオラぁ!」「クケェエエ、ケェエエエエ!」
パンパンパンパンパンパンパンパンパン!
「二人とも
「はいよ」「姉御、これからどうします?」
「ふがふが」
「分かりました。全ての敵を倒し、こん城ん旗ば全て日の丸に変えてきます」
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