第115話 晶の独白と空飛ぶブーツの帰還 8月下旬

おじさんがマ国出張に出て、20日近くが経とうとしている。


その20日間で、私の周りにも色々と変化があった。


ある日、学校から帰るとバルバロ邸横のぼろアパートが無くなっていた。

ここのぼろアパートは、おじさん御一家が住んでいたところ。

先日、引っ越したと聞いていたから、もともと壊す予定だったのだろう。


一瞬そう思った。


しかし、モルディベートさんと綾子さんから、驚愕の事実を教えてもらった。

日本人の中学生男子が、なんとバルバロ邸に乗り込んで襲いかかったてきたらしい。


その際、家臣の人とモルディベートさんが殴られたと。モルディベートさんは個人的にも恩のある人だ。その人を殴るなんて許せない。


そんなこんなで貴族同士の抗争に発展してしまい、結果、バルバロ家が勝利。


で、件のぼろアパート。実は抗争相手の持ち物だったらしく、敵拠点として破壊したらしい。モルディベートさんが殴って。


何でもあのぼろアパート、日本人中学生がたむろしていた重要拠点だったとか。


寄子であるシスティーナも知らなかったらしく、討ち入りメンバーから外されたことをとても悔しがっていた。


モルディべートさん曰く、『お前はすぐに大砲を撃つから駄目』だそう。懸命な判断だと思います。


抗争の結果、相手のワックスガー準男爵家は、物理的に潰された。準男爵の位も全ての不動産を奪われたことから、剥奪になったらしい。


この国のルール。貴族間の抗争は、実は合法らしいのだ。ラメヒー王国は、貴族が抗争を行う権利を認めている。もちろん同じ国家内のこと、そこには様々な規制がある。


曰く、抗争に至る正当な理由があること。

曰く、武力行使の前には、事前に届け出を出しておくこと。

曰く、関係の無い人に手をだしてはならない。

曰く、広域破壊魔術は使用してはならない。

曰く、抗争中は相手の拠点を占領できる。

曰く、抗争の結果を持って、それを理由に復讐してはならない。


また、届け出の規定、助太刀の制度や、国王に仲裁を求めることができる権利、抗争後の賠償、捕虜の扱い、不動産査定など、細かいルールもあるという。


ここの国家のことはよく分からないけど、日本も江戸時代前までは戦国時代だった。

日本とこの国が同じとは思わないけど、まあそんなもんなんだ、と考えるしかない。


それと、今回、綾子さんもバルバロ家の助太刀として参戦(綾子さんは家臣ではないから、助太刀に該当するとか)。


自分のお店の隣がたまたま抗争相手の物件だったらしく、敵拠点として制圧。

なんと、ここの不動産は綾子さんの持ち物になる可能性があるとか。

現在、王城で審議中らしい。


それから、バルバロ家に襲撃を行った男子中学生は7人。


全員、綾子さんとモルディベートさんに倒されて、ぼろアパートに待機していた残り3人共々バルバロ家側の捕虜となった。

この捕虜に関しては、賠償金とそれ相応の不動産の譲渡によって、今は解放されているらしい。


そして、その男子中学生グループの中には、かつてのルームメイト、えりかがいたみたい。


えりかは、私を襲って謹慎していた時期があったが、謹慎明けのその日から男子グループに合流したらしく、ずっと、男子に囲まれて暮らしていたそうだ。

えりかの心情は私には分らない。苦しかったのか、楽しかったのか。今は日本人の大人達によって、その男子中学生グループから離され、今はシエンナ子爵家で保護されている。


辛気くさい話はここまでにして、私達は、学校の夏休みに入った。ここ、ラメヒー王国の夏休みは、8月の中旬から9月の中旬まで。


バルバロ家対ワックスガー家の抗争が8月上旬。今は、それから2週間ほど経っている。この2週間で起きたことといえば、バルバロ邸がまた立派になったこと。


まず、ぼろアパートがあっという間に更地になり、1階の厨房と宴会場が広がり、宴会場から見える庭には、日本庭園が出来た。枯山水というらしい。


そして、宴会場の2階にある女子用の居住区には、ベランダが付いた。

前は、目の前がおじさんと志郎くんのアパートだったけど、今は、枯山水の山とか目隠し用の植木がみえる。

ずいぶん立派になった。


そして、神社が完成した。もともと鳥居だけはあったけど、社はなかった。

今回はその社が建ったわけだ。


その新築祝い? 神事? には私も参加した。


宮司さんは、あのノックおじさんだった。私達を見つけるととにかくノックを進めてくる人。そのノックおじさんが神主の格好をして、儀式を行った。

厳かな雰囲気のもと、ここ異世界に初の神社が誕生。


神社の名前は、八重垣神社。


スサノオの尊が八岐大蛇やまたのおろちを倒し、奥さんを貰って新居を造った昔話がある。その昔話に出てくる。八重垣を祭る神社だとか。

でも、私は見てしまった。この神社のご神体を。


はっきり言うと、あれは男根。


私は県外から転校してきたので、棚中学校がある街の事はよく知らないけど、どうやら男根信仰がある土地柄だったらしい。昔から子作りは大事なことだから、そういう信仰があることは理解はできるけど。


秋には、この神社でお祭りがあるらしい。今から嫌な予感がしてならない。


それから、人も少しだけ変わった。いや、成長したと言うべきか。


まず、志郎くんが成長期に入ったらしい。あの子、最初に会った頃は、とても小さかった。身長140センチ無いくらい。ところが、この4ヶ月で目に見えて大きくなった。10センチとはいわないけど、それに近いくらい伸びた。


それからシスも。システィーナの実家はとても田舎だったらしく、さらに兄弟が20人もいたため、男爵家といえどもひもじい生活だったらしい。ところが、ここで生活するようになり、栄養状態が改善したことでとても肉付きがよくなった。お尻とかお胸とかがとても女性らしくなってきた。


そういえば、加奈子ちゃんも結構女性っぽくなってきたかも。


今は、私、シス、加奈子ちゃんでパシュートの練習をしているので、体付きの変化はよく分かる。


話は飛ぶけど、おじさんが冗談で始めた土魔術を応用したスケート。なぜかこの国で大ヒット。スケート靴も沢山作られてよく売れているらしい。

日本人からは魔術を利用した新しいスポーツとして、この国の人からは異世界のめずらしいスポーツとして、連日バルバロ家のグランドで沢山の人がスケートの練習をしている。

その中でも何故かパシュートが人気で、今度大会も行われる。私は、シスと加奈子ちゃんとでチームを組んでいる。ちなみに男子は、エリオット、留学生男、志郎くんのでチームを結成している。


人といえば、先日凄い人に会った。身長190センチ。黒髪ショートカットの女性。


日本にいたときに知り合ったおじさんの娘さん、志郎くんのお姉さんの桜子先輩を彷彿とさせた。顔も丸顔で一重まぶたなのでよく似ている。


その人がいきなりバルバロ邸を尋ねてきた。

聞こえてきた話し声によると、桜子先輩のそっくりさんは、どうも仕事を首になったらしい。なので、親同士が仲良いモルディベートさんに相談しに来たらしい。


モルディベートさんはいやいやながらも最後には折れて、何とかしてあげるみたい。

モルディベートさんは長女だそうだが、こういうときとても面倒見がいい。この間、クリスさんという方も雇っていたし。


それから、モルディベートさんの妹も、ここサイレン屋敷の運営のために実家から応援に来てくれた。モルディベートさんにそっくりな妹さん。確かアルティメットさん。


なので、この屋敷も結構賑やかになった。


そして今日。


朝食を終えて日課の朝風呂に入って戻ると、何やらいろんな人がバルバロ家の宴会場に集まっていた。


徳済くんのお母さん、徳済多恵さん。それから綾子さんに1年生の担任の目久美先生。トメさんに小田原さん。クリスさんに桜子さんのそっくりさん。確かアルセロールさん。

もちろん、バルバロ家の人々も。


「みんなどうしたの? 何かあるの?」


「あら、晶ちゃん。おはよう。今日はね、多比良さんが帰ってくる日なの」


徳済さんが答えてくれる。


「え? そうなんだ。志郎くん、何も言ってなかったけど」


「連絡はタマクロー家経由でありましたから。昨日の晩に。そこからシエンナ子爵家に連絡がきて、私が皆さんに今お知らせしたのです」


トメさんは確かシエンナ子爵家の嫡男。この国は電話は一般的ではないけど、一応通信装置はあるみたい。


「でも、どうして? おじさんが出張から帰ってくるだけなんでしょ?」


「アキラ。そうとも言えるがタビラ殿はな、どうも神聖グィネヴィア帝国とマ国との戦争に介入して、大戦果を挙げたらしいんだ」


モルディベートさんが答えてくれるが意味が分らない。


「はい?」


「あの人、用事は秘密だなんて言ってたけど。一体どういうことかしらね」


「いや、凄かったけろ。マ国での人気ぶり。タビラ殿もホント男前で。お付きの双角族の人もカッコよかったけろ」


おじさんが男前って何か違和感があるけど。でも、そういう式典だったら何割増しかで男前になるのかも。


「アルセちゃんは、戦勝式典は見たのよね。温泉都市ユフインかぁ・・・私も行ってみたいわ」


そう言うのは徳済さん。


「戦勝式典自体は、勇者とそのタビラ殿の従者が決闘を始めてしまって、決闘ばかり見てたけろ」


「決闘! 私も見てみたかったなー」


シスちゃん。あなたはもう少し落ち着こうよ。


「勇者くんとあいつの従者との決闘? どうなったの、それ」


綾子さんも決闘が気になるみたい。


「あの人にかかれば勇者なんてザコけろ。1秒で負けました。勇者が」


「は、はあ。怪我はないのよね」


「一撃で尻をぶたれて股関節脱臼けろ。その後は、魔術治療ですぐに治りましたけど。そういえば勇者の前にも剣士が同じようにお尻をぶたれて股関節脱臼したけろ」


ところで、この人の独特なしゃべり方は、方言か何かなんだろうか。


「そ、そう。お尻を・・・まさか・・・あのね、アルセちゃん。その双角族の人、どなただったの?」


お尻に反応したのは目久美先生。


「それが聞いてくださいよ。仮面の女性けろ。スマイリーさんっていいます。もうカッコよかったけろ。まず、舎弟が剣士にやられて、自称聖女が双角族を侮辱して、それで決闘が始まったけろ。あ、最後は聖女もヤッてましたね。ザギィ流シュイン術で」


「ザギィ流シュイン術?」


「はい。魔術障壁をあっという間に脱がせたあと、水魔術でこう、ふにふにふに~~と。今、女近衛兵の間で流行ってるけろ。主に暴徒鎮圧用にしようって。男性用も開発しましたし。帰りの竜車で」


「シュイン術って、まさか手淫・・・」「・・・それ、多比良さんじゃ、いや、まさか・・・ね」「先生? あなたもそう思われます?」「私もなんだか、それ、中身がタビラさんのような気がしてきました」


徳済さんと目久美先生とトメさんがおかしなことを言う。仮面の女性がおじさんでシュイン術? 私には理解できなかった。


「あの~しゅいんって?」「あ~~、そういえばさ。戦勝の褒美にすごいの貰ったんだって?」「ああ、そうですね移動砦けろ。今日はそれで戻ってくるらしいです」


誰も私の質問に付き合ってくれない。


「あ、あのう?」「あのね、晶ちゃん。今度ね?」


「は、はい・・・」


今は話してくれないようだ。

隣で加奈子ちゃんとシスティーナが真っ赤になってもじもじしている。こいつら何か知っているな? 後で問い質そう。


「さてと。あいつの帰り、何時になるか分らないんでしょ? ひとまず、お昼はどうするの? みんなここで食べるなら用意するけど」


夏休みの今、学生達はかなりの数がここで過ごしている。

厳密にはバルバロ邸の本邸ではなく、野球場、弓道場、陸上競技場の部屋を改良して合宿場にしている。そして、結構な人数がバルバロ邸で御飯を食べる。

綾子さんは、夏休み中、朝の部とお昼の部は完全にバルバロ邸で働くようだ。


私達、体育部のメンバーは、一日中何かの運動をしている。今日は午前は野球。午後はスケート。

合間に、魔道具の魔力補充をしたり、お掃除したりしてお小遣い稼ぎ。今は施設も増えたから大変だけど、お金は助かる。

ちなみに、他のメンバーもお手伝いをしてお小遣いをもらっている。志郎くんは少し雷に適性があるので、明かりの魔道具担当として重宝しているし。


そうこうするうちに、朝風呂に行っていた男子もぞろぞろと戻って来た。もちろん志郎くんもいる。


「あ、シロくん。今日、お父さん帰ってくるみたいだよ」


「え? 本当? 久しぶり」


志郎くんも嬉しそうにしている。

私も久々に会うので少し楽しみ。


・・・・


おじさんの話は一旦おいておいて、今は野球の練習に集中。

ノックおじさんからノックしてもらう。


カキーン!カコーン!サッコーイ!

いつもの音。いつもの雰囲気。


「移動砦だーーー!」「なんだあれは、見たこともないぞ!?」「なんだ? また抗争か?」「いや待て、あれはタマクロー旗だ。タマクロー家の移動砦なんだろう」


何かざわつき始めた。


「アキラぁ。おじさんじゃない? 帰って来たんじゃ」


「シス、そ、そうかもね」


「みんな見に行っているし、行ってみない?」


「で、でも」


今はノック中だ。


「晶ちゃん。行ってきなよ。帰って来たらまたノックしようか。ノック」


「はい。分りました」


「ぎゃあ!? 何よアレ。黒い。普通じゃないわ。大きさはそうでも無いけど」


「あれが移動砦? 私が前に見たヤツはもっと大きくて石積みだったけど」


黒い移動砦。黒革のブーツみたいなやつが、バルバロ邸の横にゆっくり入って来ている。


「は!?・・あ、あれは、まさか・・・ロングバレル! タマクローの至宝、間違いない!」


「あ、シス。何処に行くのよ」


シスが急に走り出した。

私も急いで追いかける。他のメンバーも練習を止めて野次馬のごとく、黒く巨大な空飛ぶブーツの方に向かっている。


遠くで黒い巨大ブーツから人が出てくるのが見える。え? 何あれ。


巨大な白と黒の毛皮ぽい何かを纏った人が降りてくる。モルディベートさんと何やら話しているみたいだけど。


あ、シスがそれを見て『びくぅ』となっている。シスはおじさんが少し苦手だから。では、あれはやっぱりおじさん?


「おじさん!? おじさんなの?」


「お!? 晶か。久しぶりだな。そうだ。晶に渡そう。お土産」


「はい? お土産? いや、おじさん、この白黒の毛は何?」


「黒いのがオキで、白いのがイキだ。ペットショップで買ってきた」


「は?」


「これは毛長ウサギじゃないか。どうしたんだこれ。お土産って言ってもな。このウサギはおいしくないぞ。2匹じゃ毛もあまりとれないし」


「おいおいモルディ。食うなよ。こいつらは食料じゃないぞ。知り合いがペットを飼えなくなって。引き取ったんだ。1匹じゃかわいそうだから、ペットショップでもう1匹買ってきた」


「何だと? まったくしょうが無いやつだ。飼いきれないんなら、ペットなんか飼うんじゃない。うちで飼うとなると誰かが食いそうだ。システィーナとか、おっさんとかな。どうしようか」


「いや、食べないでくれると嬉しい。この移動砦で飼ってもいいんだけど、俺もちょくちょく出かけるからなぁ。ここなら、こいつらも寂しくないだろ」


「しょうがないやつだ。別にいいぞ。でもフンの躾は大丈夫なんだろうな」


「トイレトレーニングは大丈夫だ。したくなったら、自分でトイレに行く。後は、枯れ草の餌やりと、洗浄魔術で洗ってやってくれ」


「餌は、庭に放てば勝手に食うだろう」


「う、うさぎ? これウサギなの? これ、大きな毛玉としか」


「だろ? ほれ、手を出してみな」


両手を前に出すと、おじさんが白い毛玉を渡してくれる。暖かい。そして少し動いている。

何これ、何処が顔なのかも分らない。


「この白いのがイキ。そして、黒いのがオキ。あ、徳済さん」


「ち、ちょっと。どうすんのよこれ」


「大人しくて人懐っこいヤツだから、すぐに慣れると思う。抜け毛も意外と少ないし」


おじさんが、近くにいた徳済さんに黒い方を手渡す。モルディベートさんが毛玉を撫でている。


「ふむ。もふもふして気持ちいいな。こうしてみると、食う気は起きないな。なあ、シス。食うなよ? あれ? シスのやつ、何処行った?」


「あれ、シスちゃんいない」


白い方をもふもふしながらシスを探す。


「・・・タビラ殿。不審者を捕まえた」


空飛ぶブーツの奥から別の人が出てきた。男の人だ。

頭に2本の角!?


その人がシスを脇腹に抱えている。

何かでぐるぐる巻きにされて。


「離しなさいよ。私は上に行きたいの!」


「どういたしましょう。タビラ殿」「お尻ペンペン」「承知」パン!パン!パン!パン!「ぎゃぁぁぁぁ! やめて、止めてよ」


シス自慢のツインテールが垂れ下がってしまって。


「あ、あの。おじさん? シス?」


「ああ~~。ツツ殿! お久しぶりけろ」


「おお! あなたは。その節は、どうも。お久しぶりでございます」


「お? お前は確かアルセロールだったかな? 元気か?」


「はい? 元気と言いますか。私、タビラ殿とは初対面だったはずけろ?」


「ん? そうだったっけ。そうか、スマイリーから聞いたのかな? そうかそうか。色々あって、ワケが分らなくなってた。すまん」


「スマイリー殿!? あの方は元気でありますか?」


「あの、お取り込み中、悪いんだけど、帰って来て何か言うことはないの? それから、この大きいヤツは何なの? 一体どうするのよ。これ。この毛玉も」


徳済さんが脱線しかかった話を元に戻してくれる。それからこの毛玉がもぞもぞ動きだした。


「・・・ただいま。この移動砦は今から『ラボ』に持って行く。ここにはウサギを預けに来ただけ」


「・・・おかえりなさい。ここにはウサギを置きに来ただけなのね?」


「寄ったのはそうだけど。移動砦を預けたらここに戻ってくるつもり」


「そう。じゃあ、話はそれからね」


「ああ、俺も徳済さんに話があるし」


「そ。待ってるわ」


おじさんと徳済さん、会話は短いけど、なんか良い感じ。そうだった。わたし、この2人をお父さんとお母さんと感じたんだ。この異世界での両親。


「ところで、システィーナはどうすればいい? ウサギ食うんだろ、こいつ。締めとくか?」


おじさんはモルディさんに変な質問をする。シスはツツさんと呼ばれた男性の脇に抱えられたままだ。


「お前にやる」「いらん」「私だって、誰がアンタなんかと」「・・・この移動砦。ロングバレルの砲撃手が空席なんだが?」「私と結婚してください」「・・・砲撃手が空いているって言ったな。それは嘘だ!」「な、何よ嘘だったの!? ひどい!」「うっせぇ。お前まだ学生だろうが」「学生じゃないならいいの?」「だめだ、勉強しろ!」


シ、シス、おじさん苦手だったんじゃないの? 一瞬でまるで以前からの友人のようになってしまた。この一瞬で。そして『ロングバレル』って何? でも、砲撃手? 移動砦のクルーかぁ。


「ね、ねえ、おじさん? 私がこの移動砦のクルーになるとしたら、ポジションは何処かな?」


「晶は、そうだな。副艦長として、隣に座ってもらうか、もしくは、砲撃手とかどうかな」


「ふ、副艦長? いいの?」「な、なんで、晶が砲撃手なのよ。ここは私でしょう」「ロングバレルは火属性魔力の補充が必要だからな。それに晶の方が当てそうだし」「な・・・」


わたしが、この移動砦の副艦長・・・


「お父さん」


「お!? 志郎。ただ今」「お帰りなさい」「少し大きくなったか?」「うん」「よし、タマクロー家まで乗っていくか?」「うん」「よし」


「え? 乗れるの? 私も行く。連れてって。あの屋上のロングバレル見せて!」


「じゃあ、私も乗る!」


おねだりしてみる。


「しょうがないな。タマクロー邸までだぞ。よし、急ぐか、操縦席でディーを待たせてる」


やっぱり、おじさんは私に優しい。


「ぎゃぁ~~! みたいみたい。私も乗りたいーー」


シスがバタバタ暴れている。


「しょうがないやつらめ。ツツ、屋上に連れて行ってやれ。安全装置を装備させとけば大丈夫だろ」


「やったぁ!」


「ただ、ロングバレルは街中では触るなよ。絶対に」


「街中で駄目ってことは、外ならいいのね?」


「砲弾と魔力が自前だったらいいんじゃないか?」「ヤッターーーーーー!」


シスにも優しい。今度、私ももう少しおねだりしてみようかなぁ。


「晶は操縦席にするか? 屋上にするか? 志郎は?」


「私も屋上」「僕も屋上」「あ、あの、私もいいでしょうか」


加奈子ちゃんも乗っかってきた。


「ついでに私達もいいでしょうか。タマクロー邸まで行くのなら」


トメさん。クリスさん。小田原さんも乗るみたい。


「まあいいか。5分くらいだしな。よし、みんな乗り込め~」


「「「「わぁ~い」」」」


結局、私達って子供なのね・・・

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