第114話 ラメヒー王国 王城 +新興貴族暗躍中 8月中旬

<<ラメヒー王国執務室にて>>


ここはラメヒー王国執務室。ここに国の幹部達が緊急招集されていた。


宰相、軍務卿、内務卿、外務卿、筆頭王宮魔術師をはじめとする国家の重鎮達。


「速報じゃ。勇者が武者修行中に決闘で負けた」


「なんだと!? なんということだ。誰だ。誰に負けたのだ? それから、勇者の様態は? あとは、剣士と彼女がおっただろう。どうなった?」


「全員纏めて負けたそうです。勇者と剣士は尻をぶたれた衝撃で股関節脱臼。彼女の方は、相手の非殺傷系の水魔術で気絶したそうです」


「相手は? 相手は誰だ? どういう戦いだったのだ?」


「相手は、双角族の女性です。戦いは、剣士の方は数合撃ち合うことが出来たそうですが、その後、一撃で吹き飛ばされました。勇者の方は、『僕が相手だ』というセリフを言った1秒後に一撃でやられました。彼女の方は、その後すぐにやられました。何でもザギィ流の使い手だったとか」


「双角族だと? イセ殿と同族か。それにしてもザギィ流、恐るべし。確かイセ殿のメイドがザギィだったはずだ。あの女性、双角族でもないし、剣士にも見えないが、実は凄腕だったとは。勇者め、なんというやつらと決闘したのだ。ところで、決闘理由はなんだ?」


「はい。決闘理由は、まず、勇者がその双角族の女性を自分たちの性処理女にしようとしたようです。そして、それを止めようとした双角族の男性、彼は舎弟だそうですが、剣士がその舎弟に手を出したのがきっかけだそうです。ちなみに、その舎弟の名前はツツ・ジマー氏、ジマー家出身者です」


「なに? どう見ても悪いのはこちらではないか。どうすれば、どうすればいいのだ。双角族は白兵戦最強と言われる部族ではないか。それに、マ国のジマー家といえばマ国最強の軍隊を擁する家だ。いったいどう落とし前を付ければいいのか・・・」


「それが、イセ殿といいますか、双角族の宗主ジマー家からは、特に何の抗議も来ていないようです。おそらく、決闘の結果が全てではないかと」


「そうか。決闘での出来事は決闘で全て終了したと。そちらからの圧力は大丈夫なのか。よし、こちらからも抗議などは止めておこう。それよりも、問題は勇者が弱かったということだな」


「いや、少なくとも、『白兵戦では双角族に勝てない』ということが分っただけです。勇者の本分は遠距離の広域魔術です。勇者殿もさすがに街中でそれを使うことはしなかったのでしょう。それから、剣士殿も双角族相手に数合耐えたのです。ここは弱いというより、むしろ褒めるべきかと」


「そうか。負けたのが双角族で助かったと見るべきか。勇者は我が国が莫大な予算をつぎ込んで召喚し、正式に勇者として認定した存在だ。いまさら弱かったなどとは公表できん」


「では、今までどおり、だな。仕方あるまい」


ラメヒー王国は、30年前の悪夢を踏襲していた。ちっとも反省していないようだ。


「次の情報だが、ユフイン方面におけるマ国対神聖グィネヴィア帝国、通称グ国との戦争の詳細が分ってきました。マ国のイセ殿率いる航空部隊が、グ国軍の航空部隊を壊滅させ、地上部隊に大打撃を与えたようです。さらには古代兵器を含む移動砦を20基以上ほぼ無傷で鹵獲した模様です」


「なんと、完全勝利ではないか。ラメヒー王国向けの全権大使なのに、遠く離れた戦場にも参加していたのか。彼女だけは怒らせたらまずい」


「まだ、続きがあります。その際には、日本人も参戦。グ国の航空特殊部隊100名以上を彼1人で壊滅させたそうです。名前は、鬼軍曹タビラ。この度の功績で少佐に昇進しております」


「な!? タビラだと!? やはり、ただ者では無かったか」


「タマクロー大公、ご存じですか?」


「娘の知り合いだ。今、その娘をタビラ殿に同行させておる。戦勝式典には娘も参加しているはずだ。彼を、なんとかラメヒー側に引き込むように命じているが・・・」


「分った。タマクロー大公、今は其方に任せよう。しかし、その娘が引き込みに失敗した場合、別の貴族家の娘を派遣する。いいな」


「承知の上である」


「それにしても、何故そんな強者を見落としておったのだ。お主の見立てではどうなのだ? 筆頭王宮魔導師よ」


「分りませぬな。魔術判定も完璧ではありませぬ故」


「くっ、そうか」


「さらに続きが。そのタビラ少佐ですが、マ国が鹵獲した移動砦の1基を貰ったそうです。その移動砦でラメヒー王国に帰ってくるから入国許可よろしく、とりあえずタマクロー旗を立てておく、と書いてあります」


「おお、ティラネディーアがやってくれたか・・・」


「おめでとうございます。タマクロー大公、ですが、この文面だとそのタビラ少佐個人に与えられたように感じるのですが」


「この件は、娘が帰ってきてから私が直接確認してみよう」


「御意。では、次の議題です。ワックスガー準男爵が、バルバロ家と抗争してわずか半日で潰された件です。詳細が分かってまいりました」


「まったく、バルバロ家に喧嘩を売るバカがいたとはな。詳細を聞こうか」


「はい。実は、ワックスガー準男爵家は、日本人ご婦人方を自宅に呼んでパーティーを度々開いておりました。そのうちの15名ほどが、ワックスガー準男爵家やその縁の貴族家に住み込んでいたようです」


「ほう。それはそれで凄いじゃないか。それで?」


「それが、その住み込みの女性からの要請で、彼女の息子に護衛を付けることになったそうです。ですが、その息子がエロかったらしく、その護衛と共にバルバロ邸に押し入り、屋敷の割譲を迫ったそうです。なんでも、バルバロ家に下宿中の日本人中学生、リン国の留学生、それからバルバロ家の女家主とセッ○スしたかったとの供述が得られています。なお、その母親の女性もバルバロ家に恨みがあったらしく、強行策を推し進めた一因らしいです」


「な、なんで、そこでそうなるのだ。普通に日本人と仲良くしていれば良いものを。しかし、ワックスガーといえば、サイレン中に不動産を持つ新興貴族。いくらバルバロでもこんな半日で潰すなどは」


「なんでも、そのエロぼっちゃんと、ワックスガー家の護衛がバルバロ家に踏み込んだ時には、ブレブナー家、ランカスター家、シエンナ家、バッファ家、それから日本人が会議中だったらしく、その場で全員バルバロ家の助太刀に回ったそうです」


「なんだと? サイレンの街そのものに喧嘩を売ったようなもんじゃないか。タマクロー本家はいないが、バルバロにシエンナとバッファはタマクロー派だしな。それで、これ幸いとみんなして新興貴族を狙い撃ちにしたのか? こういったことも行き過ぎると、横暴になるぞ? 少しやり過ぎではないのか?」


「それなんですが、抗争を見物していた一般人も結構おりまして。最初に手を出したのは、そのエロ坊ちゃんとワックスガー家の護衛だったようです。なんでも、バルバロ家の年寄りの家臣をボコボコにし、女家主にも顔面パンチを食らわしたそうです」


「・・・そうか。それは怒って反撃しても仕方はないか。ところでその女家主はどなただ? 今のバルバロは、前回のスタンピードで民間人に死傷者を出し、少しピリピリしておるからな」


「ええっと。モルディベート・バルバロとのことです。バルバロ辺境伯の長女ですね」


「ほう、聞いたことがある。確か学生時代、いじめを受けていたにもかかわらず、怒りもせず勉強をし続け、ずっと主席をキープしていた才女だとか」


「私も聞いたことがありますぞ。何年にも亘ってずっといじめを受けていたけど、普通に学校に通っていたと。ですが、いじめっ子の1人が、いじめの一環で彼女の弁当をヒックリ返してしまい、その長女が初めて怒ったとか。その後、いじめっ子はその舎弟や寄子の取り巻き共々その日のうちに学校を辞め、さらにはサイレンのバルバロ邸の土地が大幅に広がったと聞いております。一体何があったのやら。ちなみに、その弁当は、炊いた白米をびっしりと詰めた弁当箱の真ん中に、赤い植物の実を1つぶだけ乗せたものだったとか」


「抗争に発展してからは、ワックスガーも少しは抵抗したようですね。ですが、サイレンにおけるワックスガー家の全ての不動産は、バルバロ家とそれに加勢した者達に瞬く間に抑えられました。その日のうちに」


「ううむ。すさまじい。しかし、金儲けだけしか考えが無い新興貴族と、たたき上げの武闘派貴族との抗争だ。勝負は最初から付いていたな」


「はい。しかし、ここで1つ課題が出てきまして、バルバロ家に助太刀した者の中に、日本人がいます。彼女は1人でワックスガー家の護衛、用心棒、兵隊を軒並み倒して、タマクロー領の不動産を1つ抑えたらしく、貴族で無い彼女にその不動産を与えるか否かが議論になっています」


「ふう~。難しいな、その判断は。しかし、無碍に不動産の所有を認めないと、バルバロやブレブナー、ランカスターからの横やりが入り兼ねない。むやみに認めると国中で抗争が多発しかねんが、今回は、伝統貴族の傘下で戦ったことでもある。認めるしかあるまい」


「そうですな。それが妥当でしょう。それよりも、ワックスガーの寄り親はキャタピラー子爵です。さらにキャタピラー子爵の寄り親はヘレナ伯爵になります。彼らの経済力は我が国でもずば抜けており、この抗争が引き金となり、大規模な抗争に発展しないかが心配です」


「そうだな。そこはよく注視せなばならん。引き続き監視と報告を頼む」


「それにしても、また日本人か。そんな剛の者をなぜ見落としていたのか」


「探せばまだいそうだよなぁ。そういう人物。冒険者ギルドのメンバーも相当強者揃いらしいしな。まあ、この議題は今度で良いだろう」


「はい。それでは最後の議題ですが、タイガの湿地帯でカワイカが大量繁殖しているとのこと。釣り人が大量に押しかけてタイガの街が賑わっています。ちなみに、カワイカ釣りには日本人が持ち込んだ『餌木』という技術が使われており、それが人気の一因のようです。ちなみに、カワイカはアブラガエルの天敵ですが、そのアブラガエルがカワイカに食われて漁獲量が激減しているそうです。また、カワイカは頭がよく、アブラガエルの養殖場も襲われて養殖業に被害が出ています」


「この議題はなんだかなぁ。まあ、生き物の繁殖は自然の摂理だから、仕方がない部分もある。カワイカもアブラガエルもおいしいから、我々としてはどっちでもよい。日本人が持ちこんだ『餌木』というものにも興味があるが」


「いや、まあしかし、アブラカエルはアブラが取れますからなぁ。あのアブラはとても美味です。巷では、そのアブラを使って竜肉やカエル肉をしゃぶしゃぶするのが流行だそうですぞ? 何でも日本人がやり始めたとか。でもまあ、他の話題よりはどうでもいい情報ですなぁ。では、これにて今日の議題は終了します」


「はい、それでは解散」


◇◇◇

<<ラメヒー王国 ヘレナ伯爵夫人、キャタピラー子爵、ワックスガー元準男爵の暗躍>>


「ワックスガー元準男爵。今回は助けてやれず済まなかったわね。今回はサイレンの有力貴族の殆どを敵に回してしまったから。我が伯爵家としても助太刀はできなかった。代わりに、お前とその家族は我がヘレナ伯爵家の家臣とする。しっかり働きなさい」


「はっ! 助かります。路頭に迷うところでした。では、最初の報告です、我がワックスガーが所有していた不動産のほぼ全てが、バルバロ、ブレブナー、ランカスター、シエンナ、バッファに渡りました。また、サイレンの繁華街にある風俗店の店舗が日本人女性に奪われた件、国はその日本人が不動産を所有することを認める意向です」


「ぐっ。貴族間の抗争ならまだしも、日本人か。もとはといえば、今回の抗争の原因も日本人なのに、その日本人女性が抗争の利益を得るとはな。だが、国が認めたのだ。今回は仕方があるまい。それに、例の投資が成功したら余裕で買い戻せるしな」


「次に、ワックスガーの屋敷におりました日本人のシングルマザーの会の者ですが、3人全て、キャタピラー家に移しております。彼女らは相変わらず、仕事もせずに食っちゃ寝しております」


「伯爵、私のところでも10人はきつうございます。少し、引き取って貰えませんでしょうか」


「いや、これ以上は無理ね。ヘレナ領ならまだしも、サイレンの屋敷では今の5人が限界」


「はい。ご無理言いまして申し分けありません・・・」


「では、次の議題です。『神聖グィネヴィア帝国にある古代遺跡に眠る財宝を我がラメヒー王国に運ぶ事業』ですが、アルケロンの大群に襲われた財宝を海から引き上げて、海洋都市国家ホゲェからヘレナの街までの輸送中に、盗賊に財宝を全て奪われた件ですが、討伐隊が敗北。財宝は失われました。どうしましょうか」


「なんだと!? ぐっ、くそう。この事業にこれ以上こだわっては損失が膨らむばかりだ。とりあえず、全ての報告を聞こう」


「次の『極楽蛇の養殖場に10億スト-ン投入すれば、毎月1億ストーンが戻ってくる事業』ですが、一部の養殖場でタイリクヌタウサギが大量発生して養殖場の地面に巣穴を開けられ、そこから極楽蛇が大量に逃げ出していましたが、前回出資したお陰で少しは回収出来たようです。ですが、大半は失敗し、今月の入金は、1つの養殖場あたり、6000万ストーンになる見込みです」


「六割か。だが、何も手を打たねば5000万になるところだったのだ。今はよしとしよう」


「それから、カピパラ講ですが、ラメヒー王国の法律でも違法行為に当たることが確定しました」


「くそ。まあ、これは元々グレーだったからな。すぐさま撤退しろ。我々の痕跡を残すなよ」


「はい、分りました。次の報告ですが、『タイガの湿地帯におけるアブラガエルの養殖事業』の件です。今年は、何故か天敵のカワイカが大量発生しておりまして。養殖のアブラガエルにも多大な被害が出ております」


「な、なんですってぇ! アレは長年掛けて研究してきた事業だったのよ? やっと今月から出荷が出来るようになったのに。楽しみにしていたのに。くそう、カワイカめ!」


「しかし、全滅と言うわけではありません。今年は、天然のアブラガエル漁が壊滅状態でして、単価が高騰しております。出荷量は減りましたが、何とか餌代の回収は出来る見込みです」


「そう、初出荷は絶対にうちに届けなさい。流行のアブラしゃぶしゃぶなるものを試してみたいのよ」


「分りました。さて、次の報告ですが・・・これは、グ国のプビット男爵が貴族位を剥奪になった? どういう意味でしょうか?」


「ば、馬鹿者! プビット男爵は、プビット通貨を発行しておる貴族だ。グ国間との取引で便利だから使っておったはずだ。確か、極楽蛇の事業は全てプビット通貨での取引だ。おい。プビット通貨は今どれだけラメヒー王国のストーンに換えている?」


「え? そ、それは、どういう意味でしょうか。何も行っておりませんが?」


「な!? じゃあ待て、プビット通貨通貨が紙くずになったと言うことは、極楽蛇の事業収入の全てが吹き飛んだのか? そういうことか?」


「え? そんな、まさかそんなことが・・・」


「どうすれば、一体どうすれば・・・」


「あ、あの、本日最後の報告です。グ国と関係のある機関投資家がこちらに伺うそうです。貸した金を返してもらう話があるとのこと」


「ま、まずいわね。今、借金を引き剥がされたら、とてもまずいことになる。いや、ここは腹をくくるしかない。無い袖は振れないのよ。やつらに貴族の権力を見せつけてやるわ。何も恐れる必要はない」


「はは! では、後日、彼らとの面会をセッティングします」


新興貴族の暗躍は続く。

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