第108話 マ国へ 魔石ハントと懐かしいやつら 8月上旬

「お父さんおはよ! 今日は早いんじゃ?」


「おはよう。いや、これが普通」「おはようさん。サクラコ」


朝からジマー領に宛がわれた部屋でディーと朝食をいただいていると、娘がやってきた。


桜子の移動は、パラレル・ゲートとシリーズ・ゲートを駆使し、日本からジマー領に簡単に来れるようになっている。


「あ、ディーちゃんも一緒だったんだ。そしてこのウサギも。ねえ、このウサギ、名前は何て言うの?」


娘はディーを『ディーちゃん』と呼ぶことにしたようだ。年上と言うことは説明しているんだが、ディーも別に気にしていないし、いいのだろう。というか、今の桜子は鬼の面を被っているため、『ちゃん』付けでしゃべると微妙に違和感がある。


「ウサギの名前か? いや、知らないな」


「名前知らないの? 信じられない」


「そんなもんかな。ウサギって鳴かないから、いまいちコミュニケーションが取りづらいというか。なんというか」


「でも、お父さんが、一番接してるんだからね。ちゃんと世話してあげてよ」


「世話はしてるさ。昨日はこいつ、寝てたら俺の布団に入って来たんだぜ。可愛いだろ」


「ふぇえ・・・いいな~。ウサギちゃん、布団の中に入ってくるんだぁ・・・」


「いや、オスだからな、こいつ」「その情報、今はどうでもよくない?」


「と、ところでな、タビラ、今日はどうするんだ?」


「ああ、今日は、フェイさんとヒューイと一緒に魔石ハント。なんでも、イセに相談したところ、回答があったらしくって、そのお勧めの場所に行こうかなと」


「え? モンスターと戦えるの? 楽しみ」「お前はもう少し、緊張感をもってだな」「はぁ~い」


・・・・


朝食を終えて、会議室に入る。今日はここで待ち合わせ。

しばらくすると、見知った顔の2人が入ってくる。


「タビラさん、ここ数日、席を外しててごめんなさい。今日から復帰します」


「いや、フェイさん。こちらは趣味みたいなものですので、どうぞお構いなく」


「え? 趣味、ですか。分りました。頼もしいです。では、今日のフライトプランを説明しましょう」


フェイさんは、大きな地図を取り出す。


ここ会議室には、俺、娘、ディー、フェイさんとヒューイ、それから双角族の護衛2人がいる。双角族の護衛は、男女1名ずつ。先日外に出た時には、さらに男女1名ずつの合計4名が付いてくれた。少し過保護なんじゃとは思うけど。


「ここジマー領の東、先日通ってきたラメヒー王国の国境都市ラインの北に当たる場所には、広大な山岳地帯が広がっています。ここは人類未到の地。大破壊前はわかりませんが、少なくともここ3000年は殆どヒトは踏み入っていません。ここのモンスターの中には、発生して1000年を越える物がいてもおかしくはありません。今回は、この大物を狙います」


「ほう。大物かぁ。そうきたかぁ」


「せ、千年物だと? 一体、どれほどの魔石に育っていることやら」


「タビラさん親子がいれば、やつらの討伐も可能と判断しています。イセ様は、この辺の大物魔物を根こそぎ倒そうと考えなさっています。大型魔石を集めたいと」


「千年物はマ国でも滅多に出ませんので、貴重品だと思います」


「ふむ。この距離だと、東に500キロ以上飛ぶ? どうするんだ? 高速輸送艇だと戦闘がしにくいよな」


「ここから東400キロの位置にマ国の街がありますので、そこまでは高速輸送艇で行きましょう。そこからは、基本、単独飛行で。ディー様はタビラ殿が抱えて飛ばれたらよろしいかと」


「了解。ところで、その千年物モンスター。タイプは何なんだ? 分かればでいいんだけど」


「そうですね。長寿なのは、タラスクが多いと言われています。行動範囲が狭いので。ですが、発見が容易なので、大型タラスクは狩られやすいとい側面もあります。便宜的に人類未到の地とは呼んでいますが、有力貴族などが魔石を求めて踏み込む場合もあるのです。ですので、小型タラスクか、案外ゴブリンなんかも強力な個体が出ると、しぶとく生き続けます。場所によっては鬼ヤドカリも。まあ、現場に着いたら空から探してみましょう」


・・・・


ひとまず、高速輸送艇で山の麓の街まで飛ぶ。一応、双角族の護衛2人も連れてきた。だけど、魔石ハント中、護衛の2人はその街で待機だ。単独で飛べないらしいし。


フルハーネスを2セット出して装着し、ディーと俺の体を繋ぐ。いずれは、ハーネス内蔵の服が欲しい。今度、針子連合に作って貰おう。


「では、行ってきますね」「「ご武運を!」」


護衛の2人を残して街を飛び立つ。

目の前には見上げるような巨大な山々がそびえ立っている。

なるほど、これが人類未踏の地。見渡す限り、ヒトが住んでいた痕跡が無い。今朝に見た地図が正確だとすると、この山岳地帯の範囲は、日本列島の本州がすっぽり入るくらいの大きさがあった。


この山岳地帯はラメヒー王国のラインから、王都、サイレン、ルクセンの先くらいまで続いており、北の海とラメヒー王国を遮っている。

この山岳地帯は、きっと太古の昔よりラメヒー王国を他国から守ってきたのだろう。


そんな山々に反重力による飛行魔術で近づく。眼下にはうっそうと茂る森や岩が延々と広がっている。


ちなみに、今の飛行形態は、バリアを張った俺とディーのセットの後ろに、フェイさん、ヒューイ、桜子が身を寄せている。


やっぱり、俺の後が楽なようである。


「フェイさん! この高度でいい? モンスターは見える?」


「この高度で大丈夫です。あまり降りすぎると奇襲攻撃を受けますので。しばらくまっすぐ飛んでください。速度もこのままで」


「了解!」


今は時速100キロくらいで進んでいる。フェイさんとヒューイがじっと、地上を見下ろしている。モンスターを見つけるために。


「ゴブリンの群れ! あそこの湖畔に固まっています」


「・・・練習がてら狙ってみるか。桜子、ゴブリンは基本、空を飛べないが、物を投げてくる。気を付けろよ!」


「了解!」


桜子は、すでに適性のある反重力魔術を上手に操り、かなり堅い魔術障壁も展開できる。魔術兵装にも適性があるようで、戦闘タイプの才能の持ち主なのだ。


高度を落としながらゴブリンのいる湖畔に近づく。


「気付かれた! 散開せよ! 攻撃開始!」


モンスターの目が赤く染まる。人間を発見した証だ。


フェイさんが、攻撃開始の合図を出す。フェイさんとヒューイが槍の投擲を開始。


「タビラ、どうする? オレも撃つか?」


「撃つ? できるなら頼む。桜子、飛び込むのは少し待て。遠距離で数を減らしてからだ」


「タビラ! アレを出してくれ。オレの武器だ」


「おう」


ディーが持ち込んだタマクロー家の魔術戦闘装備。


その名も『ロングバレル』。


長さ2.5mくらいの金属製の筒。内径は直系3センチにおよび。無骨な金属の端部に照星が付いただけの物体。実際には筒の途中に魔術的ギミックが仕込まれているらしい。これに土魔術で取っ手を付けたり照準器を付けたりしている。


本当は、砦の上などに設置して使用するらしいが、今回は俺がアイテムボックスから取り出すと同時に反重力魔術を掛けて、担ぎ上げる。


今回は、俺は担ぎ上げ担当、ディーは弾込めと照準と発射を担当する。


「よし、いいぞ。砲弾も出してくれ」


魔石ハントに出ることが決まった後、ディーが必死に作っていた砲弾。単なる土の塊に見えるが、ディー曰く作るのにこつがあって、結構気を使うらしい。


かつて、ガイアとマシュリーが即席で『ランチャー』撃っていたが、それとは違うと言っていた。


バリアを皿の形にして砲弾も出す。うん、空中戦用にあの高速輸送艇を改良しても良いかもしれない。フェイさんやヒューイも飛行中に休みたいだろうし。


「準備良し、タビラ、一瞬だけ止まってくれ」


「ゆくぞ~~。桜子ぉ! 俺達の後には入るなよ」「うん」


射線が対象に向いた状態で一瞬止る。


「当たれぇ! 『バズーカ!』」


ドム! という轟音と共に、ロングバレルの前後から炎が吹き出す。


音はひどいが揺れは少ない。どうやら、前後に同じ質量の物を吹き出して運動エネルギーを相殺しているようだ。


そして照星側からは、勢いよく砲弾がゴブリンの群れに向けて飛んで行く。


ドオオオオ~~~ン!


着弾と共に爆発を起こす。


「おお、結構凄いな」


近くのゴブリンが吹き飛ぶ。


「まあな。今の砲弾はザコ用だ。大物用もあるが、ゴブリンにはもったいない」


「よし! 遠距離戦は終了。白兵戦でとどめ! 森に入ったヤツは深追いするな、 恐竜が出るぞ!」


「「了解!」」


フェイさん、ヒューイ、桜子がちりぢりになったゴブリンに飛び込んでいく。


桜子は日本刀を抜刀。その日本刀を触媒とし、長さ3mくらいの光り輝く刀が出現する。格好いい。


俺とディーも高度を徐々に下げていく。


・・・


「終わりました。タビラさん。この湖畔でお昼にしましょう。ちょうど良さそうです。見晴らしもいいですし」


「了解、ディー。ロングバレルを仕舞うぞ。着地する」


「了解」


地上に着くと、ヒューイと桜子も戻って来ていた。両手には沢山の魔石を抱えて。


「どうだったんだ? 大物はいたか?」


ディーとの結束を外しながら成果を聞いてみる。


「そうですね。せいぜい100年か数百年物でしょうか。この大きさだと流石に千年は生きていないでしょう」


「そうか。休憩後また探そう」


「そうですね。でも、これだけで100~200万ストーン以上の価値はあると思います」


「わぉ。小一時間の稼ぎでそれか」「ねえ、ストーンてなあに?」「通貨。価値は円とほぼ同じ。この魔石を売れば100万円から200万円になるってこと」「うわぁ~大金持ちだ」


・・・

<<弁当を食べながら駄弁ること数十分>>


「さて、昼飯もトイレも済ませたし、午後の部、行きますかね。ディー、ロングバレルは最初から出しておこうぜ。それから、砲弾の方は、ベルトとかに付けれないのかよ」


「そうだな。盲点だった。砲弾入れは今度造ろう」


オレとディーはハーネスで体を繋ぎ、ロングバレルも装備。そのままの状態で上昇する。


まずはモンスター捜索モードで飛行隊3人は俺の後にしがみつく。


「じゃあ、出発。それから、もしもの事があるから、ロングバレルの後には立たないで」


「「「了解!」」」


・・・・


山岳地帯のうろうろを再開。


高い山々を縫うように飛ぶこと1時間。そこに、はいた。


「空母!? あそこ! デカい」


フェイさんが叫ぶ。


「は? あれが空母。怪魚。確かに空飛ぶ魚だ」


谷の部分にゆっくりと遊弋する巨大な長い飛行物体がいる。

俺たちの眼下を体をくねらせながら飛んでいる。その怪魚の姿は、大きさとここが空であることを無視すれば、まるでリュウグウノツカイのようだ。


「あれは大物です。倒しきれないと、人里まで追いかけてきて街を襲います。でも、この戦力ならやれるでしょう。勝負しましょう」


冷静なフェイさんが興奮気味になっている。


「ちょっと待て、どういう作戦でいくんだ? あいつら、艦載機がいるんだろ? 確か羽虫が」


「あの大きさなら1万匹以上いるでしょう。スタンピードの歴史でもあの大きさは聞いたことがありませんね」


ヒューイが解説してくれる。


「作戦はそうですね。爆発系の遠距離攻撃をありったけぶち込んで羽虫を減らした後、徹甲弾系の狙撃を繰り返し、とどめはタビラさんの触手かその日本刀で切断することにしましょう」


「ううむ。行けるんなら行くか」


「タビラ、うちらには火適性者がいない。まずは、オレのロングバレルで羽虫を減らそう。この魔道具は土で出来た砲弾に火属性魔術を付加できる機能がある。補充しておいた魔力が尽きるまで、だがな」


「お願いします。我ら3名は、飛んでくる羽虫を遊撃しましょう」


「飛ぶ高度はどうしようか」


「ロングバレルを当てやすいように少し落として、もう少し近づいてくれ」


「了解!」「わくわくするね、お父さん」「そうだな。お父ちゃんの触手を見せてやる」


・・・


「射程に入った! 打つぞ!!」「「「「了解!」」」」


ドン!


「連射で行くぞ!」


ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ピューピュー、ドン!


遠くで発射音と砲弾の風切り音がこだまする。


モンスターは鳴かないが、あの怪魚、相当嫌がっているように見える。ロングバレルから発射された砲弾の爆風にやられた羽虫が、バラバラと落ちていく。しゅわ~となりながら。


「どんどんいくぜぇ!」


ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


しかし、羽虫は落ちるが、本体にダメージはあるのか? あれ。相手の表面で爆発しているだけに見える。


羽虫が一斉に飛び立ちこちらに向かう。空母自体も赤い目になり、こちらに向けて突進してくる。


「こっちに来た。加速して交差する。すれ違いざまに触手で一撃入れてみる。ばらけるのはまだ待ってくれ!」


「「了解!」」


相手の進行方向を交すような進路を取って加速する。

左腕の中指に付けた謎物質の指輪に魔力を送り込む。

途中、羽虫がばさばさと体当たりしてくるが、バリアに跳ね飛ばされる。


『相手の攻撃は俺には効かない』この事実だけで心に余裕が出る。


「食らえ!」


ロングバレルとは逆の左手から赤い触手を生やす。枝は無し。

1本物の赤い触手が空母に刺さる。そして、飛翔する運動エネルギーと合わせ、ちょうど切り裂く形になる。


「刺さった! でも、ちょっと浅い。というかこいつでけぇ!」


空母型は確か全長50~100mではなかったか。こいつはどう見てもそれ以上、200mくらい?。


フェイさんとヒューイもすれ違いざまに魔術の槍を投げつけている。全弾命中しているがダメージ入ってるんだろうか。デカすぎてよく分からない。


すれ違いの後、十分距離を取って旋回する。

すぐにロングバレルの間合いに入る。


「今度は徹甲弾でいく。タビラ! ロングバレルの銃口を相手に向けてくれ」「わかった!」


ドン! ドン! ドン! ドン!  バシ! バシバシ!


爆発しないから派手さはないが、ちゃんと命中している。というか、端の方に当たった玉は貫通している。


「まだ死なないのか、あいつ」


「しぶといですね。でも、相手にこちらを攻撃する手段はほぼありません。このまま粘ってダメージを与え続けたら、我らの勝利です」


「よし、距離を保ちつつ、遠距離で仕留めるぞ! ディー、玉はあと何発あるんだ?」


「済まん。もう少しで無くなる」


「何? なら、一撃離脱戦法ヒットエンドランか?」「そうですね。仕方ありません」「ちっくしょう。もっと沢山造ってくればよかった」「いいさ、ディー。今度一緒に造ろう。作り方を教えてくれ」「あ、ああ」


ドン! ドン! ドン! バシ!バシバシ!


「バズーカはこれで終わりだ」「了解、ロングバレルは仕舞う。ヒットエンドランに切り替える。加速するぞ! 振り落とされるなよ」「「了解!」」


相手に向けて加速開始。肉薄攻撃とはいえ、50m近く離れてはいる。


「はぁあ!」 両手の触手を振り回す。  バン! パン!


当たってはいるんだけど。ヤツの体が巨大過ぎていまいち効いているのかよく分からない。

フェイさんとヒューイの槍も着弾するが、一向にしゅわ~とならない。


「もういっちょ!」


小さく旋回してもう一度肉薄。


瞬間、空母級の表面がパリパリ鳴っている気がした。


触手と槍が空母級に当たりまくる。


「丈夫なヤツだ。いつ死ぬんだよ」「空母級にリジェネ機能は無いはずです。このまま気長に押し切りましょう」「フェイさん! あいつ帯電してませんか? パリパリしてますけど」


「空母級にそんな能力はないはずだ・・けど、確かに稲妻が・・・」


パァン! ピシャン! ゴゴゴゴゴ・・・・・・・・


「うわぁ! 目が・・・・」


「くう~~~結構、ぴりぴりしますね」


「このバリアは完全に絶縁出来ない。アレを続けられたらまずい」


「今ので帯電なくなりましたね」


「ホントだ、連射は出来ないのか。よし、突撃!」


もう一度突撃する。


「ねえ、お父さん。次は私にやらせて。切ってみる」


「大丈夫か? 一撃入れたら離れるんだぞ。帯電する前に」


「大丈夫。うまくやるから」


「よし、タイミングは任せた。行ってこい!」


娘は器用なヤツだから、きっとうまくやるだろう。


空母上空にさしかかり、フェイさんとヒューイが魔術の槍を投擲開始。


「行ってくる」


娘が俺のバリアを抜け、空母級に向けて落下していく。

綺麗なダイブだ。


「「あ!」」


後の2人が声を上げる。


「え? どうした! どうかしたのか?」


俺は前を向いているから後は見えない。


「く、空母級が・・・まさか」


「どうしたんだ?」


気になって気持ち小さく旋回する。

そこには綺麗に3等分になった空母級、怪魚が落下しながらしゅわ~となっていた。


「は?」


思わず反重力魔術の集中が切れそうになる。


「タビラさん! あそこです。魔石が露出してます。あそこに急いで」


「分った! 娘はどうなった?」


進路を落下する空母の魔石に向けながら聞く。


「サクラコさんなら、あそこです。上空にいます。さっきは、剣で」


「剣!? 切ったの? あいつ、空母切ったの? 日本刀で?」


「そのように見えました。こんなことができるなんて・・・」


「フェイ! 浸るのは後。魔石を回収しましょう」


「すまん、ヒューイ。分った」


フェイさんとヒューイが空母の残骸に向けて飛び立った。


・・・・


空母級モンスターの魔石回収後、今は山岳地帯上空をマ国方面に向けて飛んでいた。

ゲットした魔石は、フェイさん曰く、『かなり大きいけど、年代は分らない』とのこと。帰って専門鑑定に出さないと解らないらしい。でも、空母のものなら、最低でも1個100万からなんだと。


「ところで、羽虫にも1匹1匹魔石があるんだよなぁ。回収しなかった魔石ってどうなるんだ?」


「そのままですね。魔石は腐蝕にもかなり強いですし。まあ、羽虫の魔石は小さいです。1万匹分集めても価値はほとんどありません」


「そうなんだ。しかし、桜子。お前、よくあんなの切れたな」


「うん。刀を利用した魔術兵装は、何処まででも伸ばすことができる。でも、伸ばせば伸ばすほど、切断力は落ちる。今回のあれ、弱ってたし、ぎりぎりの長さまで伸ばして切ってみたんだ。元気な状態なら、切れなかったと思う」


「そっか、オレのロングバレル『バズーカ』も少しは役に立ってたのか」


「『少しは』ってディーちゃん。最初のダメージがあったからこそ、切れたんだよ」


ディーが少しいじけている。途中、弾切れしてからのお荷物状態がショックだったらしい。


・・・1時間後・・・


「もうすぐ山を抜けますね。もう少し北だと思います」


「了解」


ここにはGPSが無いから、飛行移動は目視とカンが頼りだ。実は方位磁石はゲットしたので、進みたい方角は分かるし、後は山の形とか川や湖で判断する。今は、フェイさんとヒューイの記憶を頼りにして進む。


・・・さらに30分後・・・


「見えました。あの街です。高度と速度を落としてください」「了解」


速度と高度を落として街に近づいていく。


ここまでくると、地上の人まではっきり見える。


畑仕事の人、街の人、馬車、そして爆走するバイク・・・バイク!?


「おい、ディー。あれ、バイクじゃないか?」


「ほんとだな。『ラボ』が作ってうちが売り出してるバイクだ。まだ軍にしかないはずだが。それにあの竜車。車輪と車軸のところが少し輝いている。反重力ベアリングだろう。というか、王家の旗がみえるな。なぜうちの王族がこんなところに?」


「桜子。お前の存在は秘密事項だからな。それは忘れるなよ」


「分ってるよお父さん」


「面倒事はごめんだからな。無視して、護衛を回収したらすぐにジマー領に戻ろう」


「それがいいと思うぜ。こんな時期に軍の護衛付きで王族の最新鋭竜車なんて。厄介事に決まっている」


「お? あれは・・・」


「どうした?」


「・・・俺の知り合いだな。あのバイク。少し手を振ってやろう」


あいつらは、近衛のモテない3人娘。フラン、マシュリー、オルティナだ。懐かしい。わずか数時間の出会いだったけど、よく覚えている。というか、その後にあいつらの姉や兄達に出会ったというのもある。


高度を地上数mまで落とし、先頭を行くフランと速度を合わせる。

サングラスを外して挨拶。


「よう! フラン! フランじゃないか。久しぶり」


「・・・・は?・・・ぎゃぁああああ~~~~~~」


あ、フランのバイクがバランスを崩す。道ばたの石にタイヤが蹴躓いたようだ。よそ見運転するから。


「大丈夫かフラン!」


触手でフランをバイクごとキャッチ!


「ぎゃぁ! フラン先輩が化け物に掴まったぁ! 止めてけろぉ~~~!」


後ろの竜車から声が聞こえる。


「黙れ! この見学専門がぁ。アレは日本人よ。それに、ティラネディーア様がいらっしゃる」


「あれは、タビラ殿、どうしてこんなところに?」


「すまん。オレ達は急いでいる。フランは置いていくから、また今度~~」


フランをゆっくり地上に降ろして再浮上。


いや~懐かしい連中と会えてよかった。元気そうで何よりだ。


でも、護衛と合流したらさっさとジマー領に帰ろう。

俺は、彼女らより先に着くため、街に向けて加速した。

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