第107話 マ国へ ジマー領滞在編 +勇者の移動 8月上旬
「おはよ! あれぇ、お父さんまだ朝ご飯食べてるの? イセさんも」
「ああ、昨日は夜遅かったからな」
今は朝9時過ぎだ。他のメンバーはとっくに朝食を取り終わっている。
ケイ助教は学園都市に行き、フェイさんとヒューイは朝からイセの娘オキの捜索に出かけて行った。
ディーは、同じテーブルで食後のお茶を飲みながらまったりしている。オキのペットであるウサギを抱っこしながら。
「で、昨日は結局見つかったの? その、オキさん」
皆の視線がイセに注目する。
「いや、見つかっておらん。置き手紙には、しばらくそっとしておいてくれと書いてあった。あいつは、単に職務を放棄して逃げ出したに過ぎん。もう、このような捜索は止めようと考えている」
「でもさあ。オキさんって、まだ15歳なんでしょう?」
「もうすぐ16歳だ。分別は着いていなければならない年齢じゃ。しかし、これで魔王内定の話はなし。ジマー家当主も今後どうなるか分らなくなった。いや、内輪の話はもうよい。これはジマー家の話じゃ。それよりも、本来もっと重要なことがある。異世界の話、転移魔術の話、課題は山積みじゃ」
「イセ。一人娘なんだろ? 捜索は続けた方が良いと思う。昨日は心配するなとは言ったけど」
「心配には及ばん、お主の言うとおり、あいつの魔術は優れておる。それに自分から出て行ったんじゃ。苦労しても自業自得というもの。それに、止めると言った捜索は、今の闇雲に探すような行為の事じゃ。別の形での捜索は続ける」
「そうか。これから、どうするんだ?」
「予定通り、わしは今日中に首都ハチマンに行く。国王との謁見のためにな。だがのう、仕事が増えた。次期魔王の話じゃ。戻りは少し遅くなるだろう」
当初の予定では、昨日が歓迎式。今日はイセとジニィ、ザギさんだけで首都ハチマンに行き、国王と会談する予定となったいた。
「じゃあ、俺たちがここジマー領にしばらく滞在する予定自体は変わらないんだな?」
「そうじゃ。可能な限り早く戻ってくる。済まなかったな。本当は、今頃お祭りムードだったのに。娘のせいで水を差してしまった」
「いやいや。そんなこと無いよー。じゃあ、私の留学もまだ先かなぁ」
「桜子の留学は、今は学園が夏休みだから。魔王に家庭教師を頼もうと考えておったのじゃ。それまでは、お主さえよければ、ジマー領に毎日遊びに来てくれ。一般常識の授業や魔術訓練はここでも出来るからな」
「わかった。お父さんもここにいるし、毎日来るよ」
「ああ。ここでのお主の教育の件は、すでに部下に伝えてある。わしは、昼前にはここを発つ。しばしの別れじゃ」
「そうか。お仕事頑張って来てくれ」
俺は、精一杯の笑顔を作ってみた。最近、イセのお陰で表情筋がよく動くようになった気がする。
・・・
<<ジマー領 城下町>>
「しかし、みんな双角族だな」
「しょうがないじゃん。日本に行ったらみんな日本人みたいなもんでしょ?」
「そうだな。さて、土産物は何かないかな」
「土産ねぇ。ラメヒー王国には土産文化は無かったからなぁ。そんなにぽんぽん品物を配ったりしたら、逆に身構えらえれてしまう。それに、渡す品物にも気を遣ってしまうしなぁ」
俺、桜子、ディーでジマー領の町を練り歩く。桜子は例の自衛隊ファッションに鬼の面を着けている。かなり迫力がある。
一応、イセがつけてくれた双角族の護衛が4名も同行している。
元々の護衛であるフェイさんとヒューイは、空からオキを捜索中。イセはもう探すなとの指令を出してはいるが、もしもの事があるといけないということで、移動距離1日くらいの範囲は徹底的に捜索するらしい。
「お? 装飾品のお店か」
「なに? おとうさん。装飾品なんかに興味があるの?」
「いや。今、こっちに来ている日本人達がさ、装飾品を作って商売しようとしてて。マ国の市場調査をしようかと」
「ふぅ~ん。たまにはお母さんに買ってあげなよ」
「あいつは、俺が選んで買った物なんて着けないと思うけど」
「そ、それは、まあ、確かに。『物じゃ無くてお金がよかった』なんて言いそうだけど」
「だろ? というか、基本口きいてくれないけどさ、発言するとしたら、『私、そんなもの買えって言った? ねえ、言った? そんな余裕があるのなら、お小遣い返して』とか言いそうだ」
「あ、それそれ。たぶんそれ。でも、お父さん、未だにお母さんと会話してないんだ・・・」
「はあ。タビラの奥方って独特なんだなぁ。じゃあさ。魔道具屋に入ろうぜ。マ国といえば、魔道具だ」
「ほう。そういえばそうだったな。マ国は魔道具と繊維類が特産品」
「へぇ~。そうなんだ」
「そうだぞ。お前も、社会や地理の授業を受けた方がいいな。為になるぞ。異世界が倍楽しくなるかも」
「授業か。1人は寂しいな」
「お父ちゃんも一緒に受けてやろうか? どうせ暇だしな」
結局、授業は王城時代の10日間だけ。しかも、魔術の訓練は我流。
「え? うん。一緒に授業受ける」
「お? あれが魔道具屋だ。入ろうぜ」
・・・
「いらっしゃいませ、軍曹殿。本日はどういった御用向きでしょうか」
「ん? え、いや、魔道具をみてみようかと。特にこれと言った目的はありませんが。ぶらっとですね」
「はい。ごゆっくり見ていってください。気になったものがあれば何なりとご説明いたしますよ。係の者に声をおかけください」
「はい。その時は」
なんかもう顔ばれしてる。昨日、あれだけ歓待されたし。食事会は気絶してたから知らないけど。いや、イセが俺の体で飛び回ってたのか。まあ、もう、どうでもいっか。
「ディー、何かお勧めとかあるのか? 魔道具類」
「ここにあるのは照明と水道だな。家庭用みたいだ。旅行用とかだったら、魔動ひげ剃り。魔動歯ブラシ。魔動脱臭器。魔動ランタンなんかもあるな」
「ふ~ん。あ、しまった」
「どうした? タビラ」
「俺、お金持ってねぇや」
「何? 両替してこなかったのか」
「いや、タマクロー通貨はロストしたし、ランカスター通貨も半分溶けた」
「そ、そういえばそうだったな。アレ本当だったのか。しかし、タマクローだけでも2000万はあったはずだろ?」「残高照会したら0ストーンだった。話しただろ?」「ねぇ、なんの話?」「お前にはまだ早い」
「仕方がない。オレが出してやるよ。何か欲しいものあるか?」
「いや、それは悪いって」
「じゃあ、貸しでいいからさ」
「ちょっと待てよ。そういえばさ、ここで稼げないかな。どうせ暇だし。魔石ハントとか」
「魔石ハントぉ!? やってみたい!」
桜子が反応する。
「フェイさんとヒューイの手が空いたら相談してみよう」
「で、桜子は何か欲しいものはあるか?」
「いや、魔道具なんて分らないよ。武器とかなら」
「武器なら触手がお勧め。その辺に生えてるので十分使えるし」
「え~、触手なんてカッコ悪いよ。やっぱり日本刀がいい」
そう言うと、娘は左手に握りしめた日本刀を掲げて見せる。
こいつは、完全にここをファンタジーと思ってやがる。いや、そんなに間違っていないのか?
「ここにある魔道具は家庭用みたいだから、武器屋に行ってみるか」
・・・・
武器屋に到着。先ほどのお店と同様、店長が出てきて挨拶される。俺は有名人なのか?
「ところで、ディーって魔術の方はどうなんだ? 属性とか。それに戦闘技術というかモンスター戦とかできるのか?」
「属性は土。若い頃はスタンピード討伐戦にも参加したんだぜ? 遠くで大砲打ってただけだけど。オレの荷物にあっただろ。長いヤツ。実家から一応持ってきたんだ」
「ほう。大砲。アレってそうなのか。そういえばガイアも使っていたな。ランチャーだったっけ?」
「え? あいつ、ランチャー使ってたのか?」
「そうだぞ。俺に向かって」
「は? 人に打ったのか! 一歩間違えれば死ぬぞ」
「あ、ああ。そうだな。でも手加減したって言ってた。ちゃんと」
「そうか。そういえば、あいつとお前の馴初めって一体」
「え? なになに? 女の人? お父さん、隅に置けないみたいね」
「今度話してやる」
「なんか身内の恥部を語られるみたいで嫌だな」
「いいじゃないか。それに、王城にはガイアの他にも色々いてな。モテない4人集が」
「モテない言うな。ガイアは出会いが無かっただけだ」
「そうだな。美人ではあるのだが」
「じゃあ、お前が貰ってやれよ」
「俺は不倫はしない主義だ。重婚も、俺のコミュ能力ではちゃんと円満生活ができる気がしない」
「な? そ、そうか。お前の不倫の定義がよく分らんが、そうなのか」
「むぅ~私だけ仲間ハズレ」
「済まん、桜子。今度話してやろう」
・・・
武器屋を物色。ここの武器屋は金属製がメインで、俺は殆ど扱えなかった。
どうも金属と相性が悪いらしい。やっぱり植物の茎か。それと、イセに貸して貰っている両手中指の輪っか。この謎物質はなかなか強力でいい。今度、イセに材質を教えて貰おう。
それから、魔石を使用したような戦闘用魔道具はあまりお店には撃ってないらしい。そりゃそうか。
「オレも久々にモンスター戦するか。なあ、タビラ。魔石ハントにはオレも連れて行って貰えるんだろ?」
「そうだな。俺とのハーネス連結か高速輸送艇になるけど、それでいいならいいぞ」
「了解。移動はそれでいい。あとは、気分的に斧を買おうかな。ここの斧、格好いいな」
「斧? そういえば、タマクローのマークって、あれは斧?」
「そうだな。斧に斜めの三本線がタマクローのマークだな。ここの金属製の斧はなかなか良物みたいだ。1本買っていこう。お前達も欲しいものがあったら言え。買ってやるよ」
「私、こっちの革ベルトで日本刀を腰に下げたいかな。何かちょうど良いやつないかな」
「店員に聞いてみよう。俺は特にないかなぁ。大概は日本人職人の手作りでまかなってるし」
「え~い~な~お父さん」
「あ!? でも、お前のそのお面は格好いいな。ないかなそういうの」
「それも聞いてみようぜ」
・・・
結局、この日はディーが金属製の手斧を購入。桜子が日本刀の鞘ベルトを固定する器具を購入して終了。鬼のお面は無かった。
その後、昼食と街ブラで日中は終了。夜はディーと2人きりになったが、一緒に温泉に入ったくらいで特にイベントなし。いや、サウナ中にディーが入って来たけど、仲良くぐだ~として終了。
帰って来たフェイさんとヒューイに魔石ハントを相談。イセと相談するとのことで、この日は終了。
夜、イセの娘オキのペットのウサギが、俺の布団の中に侵入してきた。可愛いので抱いて寝た。
こいつは、オキがいなくなっても落ち着いており、悠々自適の生活を送っている。今は仕方が無いので俺が世話している。フンの方は、したくなったらトイレ箱に自分で移動してするのでとても楽。それから、脱臭の魔道具があって、臭いは全く気にならない。なので、後は枯れ草の餌を与えて、1日1回洗浄魔術で洗うだけ。
ちなみに、このウサギは、2歳のオス。名前は知らない。
◇◇◇
<<その頃の勇者>>
多比良達がジマー領を街ブラしている頃、勇者一行は、一路国境検問所に向けて移動していた。
オフロードバイク3台に守られた最新鋭竜車(大型走竜3頭引き)が、国境都市ラインからマ国との国境検問所に向けて爆走する。
「速い! やっぱり速いですねぇ。楽しい~~キャッハー!」
「おい、フラン! はしゃぐな。戦列を乱すな」
「でも、お姉様。ここの道は走り易いですわ。それに、走らないとやっていられません」
「そうだな、マシェリー。あいつら、四六時中いちゃいちゃいちゃいちゃ・・・」
「お姉様、前方に見えるの、恐竜じゃないですかねぇ」
「本当だ。追い払うぞ。コラァ、フラン! あの恐竜を追い払え」
「りょお~~~かい!」
前方の恐竜の群れに向かってフランが単騎駆けしていく。程なくして、轟音が鳴り響く。この技は、音を出すだけの魔術。恐竜は倒しても死骸が通行の邪魔になるだけなので、追い払うのが常識だ。
「お姉様! モンスターもいます。あれは、サイクロップス!?」
「何だと! こんな街道近くに。フラン! フラァ~~ン! 巨人だぁ~~~」
「りょ~~うかぁ~~~い!」
恐竜を追い払ったフランのバイクがさらに加速する。巨人に向けて。
「げっ、あいつ突っ込みすぎだ」
「フランの魔術障壁なら大丈夫ですわ。それよりも、サイクロップスの後ろにゴブリン3体!」
「私がフォローに入る。マシュリーは暫定指揮を! あの色ぼけ御者に指示を出しておけ」
モンスターに向けてオルティナがバイクで駆けて行く。
色ぼけ御者とは彼女達の同僚の女近衛兵。うまく勇者のお手つきになり、この旅にも竜車の御者としてい付いて来ている。
彼女の名前はアルセロール・タイガ、20歳。通称アルセ。決して美人ではないが、巨女で体付が色っぽく、勇者がじろじろ見てたところに聖女に声を掛けられてお手つきになった。ちなみにフランは21歳、マシュリーとオルティナは24歳なので、今回の近衛隊の中で一番若い。
「了解。ごらぁ! アルセ! 速度を落とせ。モンスターだ」
「分りましたよう。先輩~~それよりも、私と交代してくださいよぅ。竜車は、竜車は地獄ですぅ。あいつら、ずっと、バコバコしてますぅ~~~。変わってけろぉ~~~」
「いやだ! この非処女が。しばらくそこで反省してろ!」
「いやぁ~~~あたし、行為を見せつけられる担当なんですぅ~~。非処女じゃありません。処女です! 先輩~~お願いですぅ~~~助けてけろぉ~~~~~~」
彼女はどうやらお手つきにはなっていないらしかった。お手つきの定義にもよるが。
彼女の容姿(身長190センチ程度の巨女、巨乳、筋肉質、丸顔の一重まぶた)は、日本にいる誰かを彷彿とさせた。そんな彼女の容姿が自称聖女の嗜虐心を刺激したらしく、夜伽を見せつけられる担当に任命。
夜な夜な勇者と自称聖女がまぐわうところを見せつけられていた。毎回、縛りあげられて、目の前に接合部分を近づけられて、卑猥な言葉を投げかけられる。
そして、今も御者席の後ろでは、アンアンアンアンアンアンアンアン声が聞こえるのである。
性癖的にノーマルな彼女にとって、ここはまさに地獄であった。
「へっ! ば~か。ば~か。お前、最初自慢しまくってただろうがぁ! そこで毎日悶々としてろ!」
「はぁ~~~~ん」
ラメヒー王国の近衛隊は今日も元気一杯であった。
ちなみに先ほどのサイクロップスとゴブリンは、無事にフランとオルティナが倒し、その魔石は勇者一行に手柄として取られましたとさ。
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