第92話 部会後、午後からの話 と新興貴族暗躍中 7月下旬

「いらっしゃぁ~い。あ、多比良さんに徳済さん。今日は日本人会? お疲れ様です」


「こんにちは、祥子さん」「祥子。ランチ2つ」


「了解」


注文してカウンターに座る。巨大エメラルドの目の前。


徳済さんはここの席がお気に入りだとか。


「さてと、サイレンについて約2ヶ月かしら。いろいろと問題が生じてきてもおかしくない時期ね」


「そうだなぁ。ひとまとまりだった日本人も徐々にばらばらに」


「三角商会や冒険者ギルドは国中を飛び回っているし。それで、貴方はこれからどうするの?」


「どうって言ってもなぁ。タマクロー家の手伝いと魔石ハントで十分食べては行ける。それから、少し、その、試したいこともあって。マ国と相談していることがある」


「ふぅ~ん。それは秘密っぽいわね。いつかは教えてね」


「ああ、必ず・・・」


あの温泉アナザワールド、日本と繋がっているかもしれない空間。あそこの謎がはっきりしたら、相談する時がくるだろう。

その時までは秘密にするしかない。


「シングルな人達はどうなるんだろ。補助は打ち切るんだろ」


「あの補助、説明にもあったけど、殆ど配られてないわ。幹部達の懐に入っているだけ。アレを打ち切っても路頭に迷いはしないわよ。結構な人数、貴族のお世話になっているようだし。それに、大半の人は、働き始めている。補助金の役目は終わったわ」


「まあ、ここの生活って、子供の学費と食費はほぼ無料。住宅費も無料だからなぁ。しかもこの国、結構、日雇いの仕事が多い。さらに、余った魔力を売れば十分に食べていける」


「そうなのよ。気付いて? この国にはスラムが無い。戦争孤児達も、大部分は彼らの親が所属していた貴族家が面倒を見ているし、結構善政なのよこの国。日本人達も甘ったれてはいけないわ。例え、この国の人達が一方的に連れてきたのだとしても。自分たちの未来は、自分たちで切り開くのよ」


「そうだね。徳済さんは強いや」


「何よそれ。まあ、それから学生よね。中学3年生くらいならやりたい盛り。この問題は困ったわね。ここには青少年保護条例がないわ。法の裁きも期待できないし。相手に貴族がついているのなら、簡単に手を出したら貴族の抗争に巻き込まれる」


「彼らについては、ひとまず、相手の女性が日本人かどうかの確認。それから動く感じ?」


「そうよね。例えば、若い中学生の燕を囲っている貴族のご婦人かもしれないわよね。それはそれで問題だけど」


「健全なお付き合いなら俺たちが怒るのもスジが違うよなぁ。でも日本人中学生が関係しているんなら、せいぜい、その準貴族さんの寄り親に同格以上の貴族から指摘して貰うとか? どうなんだろう。別の貴族の介入。まあ、俺らの確認が早いか、ワックスガーとバルバロの戦いが勃発するのが早いか、今はなるようにしかならない」


俺たちはこの事件を解決するための組織ではないのだ。自分たちの仕事もある。


「お待たせ。今日はハンバーグよ」


駄弁っていると頼んでいたランチが届いた。


「お、ハンバーグか。今村さんが居ないから、綾子さん作?」


「そうよ。綾子も大分腕を上げたわよ。今村さんのと遜色ないわ」


「へぇ~、いただきます」「いただきます」


・・・・・


「あ、あの多比良さん? あの人から、ワインの差し入れですって」


「はい? 昼からワインは少し。でもハンバーグには合うのか?」


「止めておきなさい。お腹壊すわよ」


「そうだよなぁ。祥子さん、これいらないって言っておいて」


「わかったわよ」


「あら。失礼ね。私が奢ってあげる話なのに。どうもこんにちは多比良さん。貴方、もてもてね」


この人は、シングルマザーの会の副会長。総会にも出ている人。名前は知らない。

とても肉感的な女性だ。色気があるというか、会長ほどではないが美人ではある。

さて・・・どうしよう。


「そりゃどうも」


「お隣、よろしいかしら?」


良いとも悪いとも言っていないのに、彼女は俺の隣に座ってくる。大きなお尻でドカっと。


「あら、貴女、ツレのいる男性をナンパだなんて、少し失礼ではないかしら?」


「貧相な女は黙っていなさい。今は私が多比良さんと話をしているのよ。奥さんでもないくせに」


どうしよう。困った。こういうときは触手か? 触手を使うか? 俺、この異世界に来て、困った時はだいたい触手でどうにかしてきた実績がある。今では、手元に植物の茎がないと安心出来ない。


「確かに奥さんでは無いわね。で、貴方はどうするの? この女と飲みたいの?」


「飲むわけ無いだろ。この後も友達のところに出かけるのに」


今日は、マ国大使館に行く予定なのだ。定期的に体を貸さないと空間魔術の実験が進まない。

酔った体を貸すわけには行かない。何が起きるか分らないから。


「ねぇ。その後の予定は? 一緒に飲めば仲良くなれるわよ。どう?」


体をぐいぐいさせてくる。なんか嫌だこの人。ジニィのぐいぐいなら良いけど、この人のは嫌だ。


「今日は、友達の家に泊まりに行く予定で・・・」


「うふ、可愛いわね。じゃあ、夜は遊び放題じゃないの」


ヒィ!? このおばはん、足を絡めてきた。俺の薄いバリアが接触を防いでくれるが、ぞわぞわとする。


俺は見えないように護身用の植物の茎を持つ。そっと、リバーサーペントの皮を外す。皮を付けたままだと、メイスやバットのようになってしまうからだ。


ゆっくりと魔力を流し込み、触手をにゅるにゅると伸ばしていく。


「どう? 私と来れば、貴族とも仲良くなれるわよ? 新興のお金持ち貴族よ? 貴方はバルバロ家と親しいのよね。そこって、田舎者の貧乏野蛮人なんでしょ? こっちにいらっしゃい。田舎じゃできないようなことをさせてあげるわ」


もう少し、後もう少し。脳内にトイレマップを出現させる。この居酒屋、トイレは男女別で1つずつ。残念なことに女子トイレの構造は知らない。だから・・・


「んふ。黙っちゃって。悩むことなんかないわ。私が、いいこと・・・」


「今!」


「え?」


一瞬で真横の女に触手が絡みつき持ち上げる。


「成敗!」


そのまま居酒屋の男子トイレに直行! そして、便壺に彼女の大きなお尻をはめ込む。サイズ的に出てこれないはずだ。


そして、魔力注入! 触手に大量の魔力を流し込む。


「触手、脱着!」


俺の触手はひと味ちがう。魔力を大量に流し込んでおくと、親元から切ってもしばらくは触手だけで生き残るのだ。


今、彼女は極太の触手でぐるぐる巻きにされ、口の中にも突っ込ませている。


リバーサーペントの皮を戻して完了。


「あ、あなた、何をしたのよ。消えたわよ。彼女」


「彼女は、男子トイレに入る趣味があったようだ」


「何? 男子トイレ?」


「さあ? それよりも、お会計してもらおう」


ミッションコンプリート。後は、今日の出来事を脳内から消し去るだけ。しかし、困った時はやっぱり触手だなぁ。頼りになるわ。


「何処に行ったのか気になるけど、まあ、いいわ。少なくとも、アレより私の方を選んでくれたってことでいいのね?」


「選ぶ? まあ、そうなるのかな。まあ、今日の出来事は脳内から消し去る予定」


「そう・・・貴方って器用なのね」


徳済さんは少しだけ嬉しそうだった。


◇◇◇

<<触手にぐるぐる巻きにされた女性の独白>>


「ゆ、許せないわ。私に恥を掻かせて。それに、あんなの、婦女暴行じゃない。でもここは日本じゃない。警察はいない。衛兵に言っても何も証拠はない。あの触手も消えて無くなってしまったし。だけど、日本じゃ無いからこそ、出来ることはある。見てなさい。絶対に仕返ししてやる。なにがバルバロよ。まずは貴族に連絡して、それから・・・」


◇◇◇

<<男子中学生グループ 総会から数日後>>


「へへ。お前ら、見たかよバルバロ邸の女主人。すげぇスタイルしてたぜ。そろそろ、あいつの貧相な体は飽きてきたとこだったんだ」


「まったく、オレなんかあいつしか知らないからな。しかし、いきなり『ここに住みたい』と言っても流石に無理だったか。兵隊といっても1人じゃな」


「ああ、あそこに住めれば、四六時中、女主人や晶達と一緒に暮らせるからな。ヤレる時なんていくらでもあると思ったんだがな」


「それで、知り合いの貴族から兵隊の追加は届いたんだろ。あいつら何処行ったんだ?」


「ああ、あいつらなら、今、あいつと遊んでいる。喜んでたぞ。新しいお友達が出来たって」


「それと、母親と同じグループの人がな。バルバロ邸に恨みがあるらしくて。強行に出るようかなり強く主張しているらしい」


「ああ、聞いたぜ。そのグループが受け取っていた補助金が全カットされたんだと。元に戻して貰うよう頼みに行ったら、口に無理矢理異物を突っ込まされて遊ばれたらしい。でも、結局、補助金は戻らなかったと」


「ヒデェ話だな。それでどうするんだ? 兵隊がいても、正面から襲うわけにもいかんだろ。夜か?」


「そうだな。夕方は銭湯と飯屋に人が沢山いるからな。時間は考えないと。それから、兵隊もまた追加されるかもしれん。うまくいけば、あの競技場とかの利権も手に入るわけだし、こちらの貴族も乗り気だ」


「そうか。俺らは女が手に入れば言うこと無いからなぁ。じゃあ、襲撃のタイミングとかは貴族に任せよう」


「今から楽しみになってきたぜ。晶はおれがもらうぜ」「じゃあ、おれはあのドリルの子」「じゃあ、おれは木ノ葉だ」「おれは、留学生」「え~おれも晶がいいけど」


「なんだ? じゃあよ、バルバロ家の女主人は誰が担当するんだよ」


「いや、あいつ、目つきが怖いし。なんというか、見た目は悪くないけど、なぜか萎えるというか」


「そうだよなぁ。見る分にはいいけど、実際にヤルとなると、ひとまずはパスかな」


「そうか、あいつに立候補するヤツは誰も無しか・・・」


男子学生グループは今日もやることしか考えていなかった。


◇◇◇

<<とある新興貴族>>


「キャタピラー子爵、あの日本人女、いかがでしたか?」


「うむ。悪くはない。性技もなかなか。私の変態プレイの数々にもついて来てくれる。少し年齢が高めなのがアレだが。しかし、私はヤルまでの課程も好きなのだがね。最初の夜会ですぐに体を許すとはいささかやりがいがなぁ。まあ、よい。10人の妻達にも飽きて来たところだ。ありがたくいただいておくよ。ワックスガー準男爵。タマクローの姫とヤレるのはまだ先だろうから、暇つぶしみたいなものだな」


「ははぁ。私の所では持て余していましたゆえ。後15人ほどおりますがどういたしましょうか」


「日本人を抱えるのはいいのだが、経費がなぁ。後10人は、うちに呼べ。それから、ヘレナ伯爵夫人に相談してみよう。日本人との交友を進めよと言っていたしな」


「済みません。助かります。それに、『神聖グィネヴィア帝国にある古代遺跡に眠る財宝を我が国ラメヒー王国に運ぶ事業』の方も、もうすぐヘレナに財宝が着きますし。資金的にはそれで余裕が出来るはずです」


「極楽蛇の事業もカピパラ講も順調だしな。15人くらいどうとでもなる」


新興貴族の暗躍も続く。


◇◇◇

<<マンガ研究会>>


「よし、おじさんVS角の人編は完成ね。これで一区切り着いた~」


「ねえねえ、私、秘蔵のネタがあんだけど、ちょっと、聞いてくれる?」


「なによ、もったい付けて」


「私、あのおじさんの娘さん知ってんのよ」


「ほう、それで?」


「ラメヒー城でそのそっくりさん見かけたの。近衛兵にいたわ」


「ふむふむ。・・・い、いや、あんた、まさか、そんな・・・やんの? それ」


「行きましょう。禁断のネタ。もし、ばれてもこの国の近衛兵に似た人がいるんですって言い訳できます」


「これはネタ的にヤバイ。保険を掛けて、角を生やしちゃおう」


「ナルホド。これは娘ではなくて、鬼ですって言い張るのね。さすが会長!」


「よし、それで行こう。次回作は、怪人キャッスルVS謎の角の少女」


「分りましたわ。ラフは私が描きます。それと、ツバメプロデュースの方はどうなっているのですか」


「ああ、あれ? 順調すぎるというかなんというか。ほんとは『ヤリに来てくれるアイドル』を目指していたのに、ほとんどツバメ斡旋所になりつつあるのよね。まあ、儲かってはいるし、もうしばらくこのままで行こう」


「らじゃ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る