第86話 エメラルド拾いと魔石ハント 7月中旬

「おはようございま~す」


「タビラ殿か。おはようだな。どうしたんだ? 今日は。子供達なら、さっき登校して行ったぞ?」


バルバロ家の屋敷に着くと、モルディが対応してくれた。本当にここの貴族家はどうなっているのか。普通はメイドか執事が対応するだろうに。まあ、とりあえず用事だ用事。


「お弁当の受取りに来た」


「おおそうか。まだアヤコが居るはずだ。受け取るといい」


「あ! あんた来たのね。今日は10個ってどうしたのよ」


調理室の奥から綾子さんが出てきた。


「今日は徳済さんと石拾い。あと、最近、俺もパーティを組んでて。冒険者パーティ」


「へぇ~。あんたって、仕事何やっているのか謎よね」


「今日は城壁工事を少し手伝って、石拾いして軽く魔石ハントかな。石次第」


「ふぅ~ん。石ってあれでしょ? うちの店にある綺麗な石。お土産に貰ったやつ。本当に落ちてるのね」


「落ちてるよ。徳済さんが欲しいんだって」


「飛んで行くんでしょ? 今度私も連れて行ってね」


「分った」


綾子さんとのフライトまでには、何かしら改良を施そう。綾子さんで堅くしたら顔を真っ赤にしてグーで殴られそうだし。イメージ的に。


・・・・


カラン!カララン!


「いらっしゃい。あ、多比良さん。もうみなさん揃われてます」


「おはようございます。前田さん。あれ? 徳済さんとフェイ達が一緒にいますね。お互い知らないはずですけど」


フロアを見ると、フェイとヒューイ、それから徳済さんが駄弁っていた。


「そうなんですね。でも、多比良さんと知り合いって、何となく分かったみたいです」


「空飛びそうだもんね。あいつら」


俺が冒険者ギルドに入ると、別々に待ち合わせしていた徳済さんと、水鳥っぽいフェイ&ヒューイ組が一緒にいた。


「ほんと、どこから探してきたんだか。あの人達、絶対にただ者じゃありませんよね」


「まあ、類は友を呼ぶのかもね。今日はサイレン北部のシエンナ家の石切場近くに行くけど。その後はその辺で適当に魔石ハント」


護衛2人組のことは適当にはぐらかす。


「あの辺に仕事に行っている人は居ないわね。毎度確認ありがとうございますね」


「いえいえ。俺も日本人グループのために何か出来ることをね」


「お~い。多比良さん! こっちに揃ってるわよ~」


「徳済さんが呼んでる。じゃあ」


「行ってらっしゃい」


ギルドマスターの奥さん。巨乳めがねさんが元気よく送り出してくれる。


「フェイもヒューイもお疲れ。何で顔見せ前に3人揃ってるんだか。まあいいや。ここの用事も済んだからバルバロ邸の庭に行こう」


「了解した。タビラ殿」「了解」


と、言うわけでバルバロ邸の庭に移動。


「あなた、この人達とどうやって知り合ったのよ。どう見ても素人じゃ無いわよね」


「まあ、気にしちゃいけない」


フェイとヒューイはイセに付けて貰った護衛。前職は知らない。今はサイレンで冒険者ギルドに登録していて、俺が城壁外に出るときにはついてきて貰っている。

この2人は飛行能力も申し分ないし、対モンスター戦もできる。野生動物の知識にも精通していてとても頼もしい。


最近、この3人パーティで色々な所にお出かけしていたりするのだ。


・・・・

バルバロ邸の庭に到着。ここは、日本庭園付近の芝生の上。


「タビラ殿。本当にこの女性を連れて飛ぶのですか?」


「そうだ。そのために色々と準備したんだ」


「タビラ殿がいいならいいのですが」


「物理的に俺とハーネスで繋がってるし、俺が突然気を失っても、無事に着地出来る装置も作ってある。大丈夫だ。いざというときにはお前達がいるだろ?」


それに、徳済さんは、結構反重力が使えるようになっている。例の安全装置が無くても、まるで月面を飛び跳ねているかのように、ぽ~ん、ぽ~んと地上を飛び跳ねながら歩く?ことができる。アレはアレで少し楽しそう。


「へぇ~。安全装置ってのは気になるね。今度教えてね」


「単なる反重力補給装置だけど。分かったよフェイさん。さて、徳済さん。準備はOK」


「反重力安全装置は装着OK。触手棒もOK」


前回のテスト飛行での反省を踏まえ、今回は少し改良している。


変更点その1。俺と徳済さんを結び着けるための触手棒は、俺が手で持つのでは無く、徳済さんのベルトの前面に装着。

これにより、そこまで体が密着しなくなる。

変更点その2はまた別のステップ。


そして、タマクロー印のマントを羽織る。


「あら、貴方、何? そのマント」


「タマクロー家のマント。工事現場に行くときにはこれを付けるように言われてて。まあ、身分証明代わり?」


「なるほど。さて。いつでもいいわよ」


「了解。ではバリア展開! さ、乗ってください」


変更点その2。搭乗者のお尻の下に、椅子みたいな形のバリアを展開。徳済さんには、それに座って貰う。


アレとの接触を防ぐために。


そして、俺と徳済さんのハーネスを繋ぐ。


「では、ハーネスOK。安全装置OK。バリアOK。触手展開! クリア。上昇します!」


「出発しんこ~~~~~~!」


徳済さんは結構ノリノリだ。空が怖いとかないらしい。


まずはぐんぐん上昇させる。あまり加速を付けすぎると徳済さんが首を痛めるかも知れないので加減する。


上昇が終わると、フェイさんとヒューイが後ろに回る。


「タビラ殿。我らは後ろでよろしいか?」


「いいぞ。腰に捕まってくれ」


この2人は反重力飛行のプロではあるが、バリアは使えない。高速で飛ぶと風圧が辛いらしいのだ。なので、飛行移動中は俺の後ろに入りたがる。かなり楽なのだそう。そりゃそうだよな。殆ど浮いているだけでいいのだし。


二人が俺の後ろに回り、腰ベルトを掴んだのを確認する。


「じゃあ、バリア展開! 水平移動行くぞ~~」


「「了解」」


バリアで、4人を囲む。これで何か物が当たっても大概は大丈夫。バリアは薄紫色に輝くので、膜に包まれている感じになる。何かに包まれていると、上空でも安心感が出る。

水平方向にぐんぐん加速させる。


「きゃぁ~。Gが凄いわね」


「今日は200キロくらいしか出さないから大丈夫」


「最大どのくらい出るのよ?」


「正確は不明。最大でなら、ざくっと時速400キロくらいは出てるかな。平均」


「早いわねぇ。国の端から端まで1日かからないんじゃないの~?」


走行中は、結構、風きり音がごうごうとする。色々とバリアの形を変えたりして工夫はしてるけど、一定以上の音はしてしまう。


「最大航続距離はまだ怖くて試してない。今、色々と国中を探検してるんだけど」


「楽しそうでいいわねぇ。空が飛べるなんて」


「色々な所に行くけど、実はサイレンが一番御飯が美味しかったりする。あそこが一番住みやすいかもね。まだラメヒーから出たことはないから、外国は知らないけど」


6月のモルディとの工事現場の仕事が終わった後、俺の仕事はもっぱらタマクロー家の城壁工事の手伝いと、魔石ハントになっている。


今まではルクセン、タイガとその周りの小さな都市くらいまでは行動範囲を広げている。


「せっかく飛行装備作ったんだもの。今度どこか連れて行ってね。貴方のお勧め」


「お勧めって、言ったって。今度、釣りしようと思ってるくらいだけど。ああ、あと、バルバロにはいずれ行く。あそこは一度行っておかないと」


「釣りかぁ。何が釣れるのよ。海にまで行くの?」


「いや、川でも結構釣れるらしい。川イカを狙ってるけど。いずれは海まで行きたいかな」


「イカ? 川にイカがいるのね。凄いわ」


「綾子さんのお店の夜メニューにあるじゃん。あのイカの干物の正体。川イカだって」


「ええ? あれ? 川で取れるのね」


「そうそう。だから、今度釣って、綾子さんのお店かモルディのとこに持ち込もうかと。お、そろそろ着くから減速します」


「もう着くのね。それと、その釣り、私も連れて行ってよ。城壁の中って窮屈なのよ。外に出たいわ。それに、釣った魚をお店に持ち込んで食べるとか、かなり贅沢」


「釣れなかった時がまずいけどね。その時は、近くの街に寄って新鮮なヤツを買って帰ればいいと思ってる。さて、フェイさん、ヒューイごめんだけど、弁当を見張り櫓の冒険者に届けてくれない?」


「「了解」」


2人が、6人分の弁当を届けてくれる。下から日本人冒険者が手を振ってくれる。俺と徳済さんは手を振り返す。

フェイさんとヒューイが戻ってくるのを待って、そのまままずは工事現場に飛ぶ。


「ごめん。フェイさん、ヒューイ看板貰ってきて」


「「了解」」


下から工事現場の監督が手を振ってくれる。こちらも手を振り返す。


「こうしていると、仕事中に悪いわね。なんだか」


「気にしちゃいけない。では、石切場に飛ぼうか」


・・・・


「お疲れ様。多比良さん。看板預かろうか。ん? お腹に誰かいるのか?」


「お疲れ、小田原さん。その言い方だと、俺が妊娠したみたいじゃないか。この子は徳済さん」


石切場に就くと、ここの管理者であるシエンナ子爵のところに就職している小田原さんが出迎えてくれた。

元Dチームの小田原さん。元気そうで何より。徳済さんを降ろしながらながら世間話をする。


「多比良さん。あっちじゃ、みんな変わりはないか? 息子さんとかも」


「ああ、息子は元気だよ。お友達の木ノ葉ちゃんがお隣に来たしね。部活も一緒で頑張ってる」


「部活?」


「部活というか。体育部と自称して、いろんなスポーツやってるみたい。この間は野球の試合やってた」


「へぇ。女性部員らも?」


「そうだね。晶とか頑張ってたよ。うちの子と木ノ葉ちゃんは、障壁癖が治らなくて野球が出来ないらしい。陸上やスケートの方に興味があるみたい。いつもグランドでパシュートの練習してる」


「障壁癖? それにパシュート!? なんでパシュート?」


「さ、さあ?」


・・・・


一通り駄弁った後、本題に入る。


「言われてた珍しい石は、この辺に投げておいたけど。クズっぽいヤツは集めきれてない。なあ、これはやっぱり宝石なのか?」


「俺はそうだと思うけどね。ここの人は興味は無いみたいだけど」


「興味が無いのは、今のところ、よ。絶対に。化粧や、刺繍、木、皮、骨を使った飾り物はあるのよ。石も絶対に人気がでるわ。貴方が小田原さんね。石集めありがとう。これに値段が付きだしたら、お礼はするわ」


「そうなるといいんですがね。期待せずに待ってますよ。一応、ボスにも伝えています」


「シエンナ子爵はサロンでとてもお世話になっているわ。よろしく言っておいて。値段か付きだせば絶対、貴族家も助かるはずよ。でも、男の人ってロマンが無いわねぇ」


徳済さんは、大きく『やれやれ』のポーズをした。そういう所がおばさんっぽい。


「じゃあ、徳済さんは、しばらくここでいい? 麻袋を持ってきたけど使う? 俺は今から仕事を終わらせてくる。フェイは徳済さんの方にいて。ヒューイは俺と来てくれ」


「「了解」」「わかったわ」


さて、今日は石拾い時間を見越して多めに運ぶか。


・・・・


今日は、看板の半分くらいを消化した。稼ぎは・・・半日で5万程度? まあ、俺のわがままと付き合いでやってる都合のいいバイトだから、金額の大小はどうでもいいや。最近、稼ぎはタマクロー通貨にして貰っているから、いくら稼いだのか実感が無い。


ふよふよとヒューイと一緒に徳済さんのもとに。


「仕事終わりました。守備はどうです?」


「結構拾ったわよ。結構大きいヤツもあるし、とても綺麗な結晶もあったわ」


「そっか。きりがいいので、そろそろお昼?」


「そうね。任せるわ」


俺は最近覚えたアイテムボックスから、弁当と飲み物を取り出す。

ちなみにアイテムボックスと呼んでいるが、単なる小さなアナザルーム的なヤツで、時間停止はないし、内容物リストみたいな便利な機能はない。ただ、俺の場合、アイテムボックスを並列で造れるため、分別しようと思えばできる。


「便利ね。その魔術」


「ん? そうそ。便利。覚えるのに苦労したけど」


「そうなんだ」


ずるして覚えたなんて言えない。

適当にその辺の石に座って食べ始める。


「いやぁ。綺麗ですね。この石。宝石というのですか」


「フェイ。貴女のネックレス、作ってあげるわよ」


「ふふ。いいのかな。私なんかが着飾って。それに、これ、何だかイセ様に似合いそう」


「イセ様?」


「ええ。マ国の全権大使様ですよ。タビラ殿と知り合いの」


俺がイセと知り合いなのは、別に秘密ではない。


イセ達からすると、逆に周知してもいいくらいみたい。

変な嘘をつくより、精神衛生上いいのだけれど。

もちろん。例の空間魔術に関しては秘密だ。あれがばれたときの俺の立場はまだ謎。いきなり監禁されるようなことはないだろうけど。

とはいえ、俺からは積極的にイセとの関係を言いふらしたくはない。面倒事が増えそうだし。


「ふ、ふぅ~ん。イセ様って女性なのよね。じゃあ、プレゼント第一号は、その方でいいかしら」


「似合うのかなぁ。俺の感性はまったく当てにできないけど」


「今度、特徴聞かせなさい。何かしら見繕ってみるわよ」


「そういえば、これって、どうやってペンダントのトップとかにするつもり?」


「ああ、それね。原石の形を生かしたものにするつもり。でね。石と紐との取り付け金具は、貴族様用には、貴金属を考えてるわ。実はね。結構あるのよ貴金属。日本人が売ったヤツがね。全部買い戻してるけど。金銀、プラチナ。紐は皮で作るしか無いと思うけど」


「売り払ってるんだ。貴金属は貴重と聞いたけど」


「そうなのよ。シングルマザー関係が売り払っているわ。その辺のリサイクルショップに。いいように買い叩かれて。今は、私と針子連合、それからラボの人とで買い戻してる最中」


「そっか。色々とあるんだなぁ。シングルの人らも、普通に働けばいいのに。俺なんてこの間、ヤッたことにしてくれって、頼まれたんだよ。誰かと寝ないとお金が貰えないとか言われて」


「は? あんたそれ、どう処理したの? ヤッたの?」


「するわけないだろ。『してくれ』じゃ無くて、『ヤッたことにしてくれ』ってお願いだし」


本当は、1回ならさせてやる、みたいなこと言われたけど。


「どうしたのよ」


「目をつぶった隙に触手で男子トイレに閉じ込めて逃げたよ。いや~怖かった。下手すると、俺とその人がやったことにされるとこだった」


「あんた結構子供っぽいわよね。でもまあ、正解かもね。最適解ではないにしても」


「さて、お腹も膨れたし、少し休憩して、魔石ハントして帰りますか」


・・・・


「タビラ殿! 3時の方向に巨人、10m級」


「よし、仕留めよう。今度は俺?」


「お願いします」


「じゃあ、徳済さん。急降下行きますね」


「はい! 行って! うぉおおお~~~~~~あああああああああああああ~~~~~~!」


「よっと!」


急降下からの触手巻き付け攻撃。その後急上昇。一応、徳済さんが首を痛めないように急な方向転換はせずに戦っている。


「はぁはぁ。あ~~たのし~~~~~~」


楽しいんだ。


「じゃあ、必殺! イヅナ落としぃ~~~~~~~~」


再び急降下。


「きゃぁぁぁあああああああああ~~~~~~~~~~~~」


まるでジャットコースターを楽しむ小娘。

まあ、いいけど。


地面に落下した巨人がぐしゃっとなって、しゅわ~となる。

で、魔石をヒューイが拾って来てくれる。出来る男だ。以前の話、こいつの尻が痛くなった原因がずっと気になってるけど。


「さて。何匹仕留めた? そろそろ帰るか」


「タビラ殿! 鬼ヤドカリだ! あそこで休んでる」


「何だと? あいつどうやって倒すんだよ。俺、雷なんて使えないぞ?」


「ああ、あいつはですね。単体でいるときは、ひっくり返して中身が出てくるのを待ってればいいんです。怖いのはスタンピードの時だけで、野良の時はザコです。そのくせ魔石は大きいから、お得なんですよ」


「そうなのか。じゃあ、俺がヒックリ返してみよう」


ヤツはじっとしているので、簡単に触手で掴んでヒックリ返せた。


「流石ですね。普通は、爆発でヒックリ返すのですが。この後は、まあ、見ててください」


フェイとヒューイは、飛んだ状態で手に魔力で作った槍を出現させる。


待つこと約1分。


鬼ヤドカリの本体が、殻からひょっこり出てきた。デカい貝殻を再びひっくり返すつもりだろう。


「「今!」」


2人同時に槍を投擲! ヤドカリ本体の体の柔らかい部分に突き刺さる。

だがこの個体。少ししぶとかったようだ。2人は、追加で槍を投擲する。


しばらくすると、殻ごとしゅわ~っとなる。


「おお。あっけない」


しかし、この2人。息ぴったりで顔も髪の色も羽毛も似ているのに、これで赤の他人とは。もちろん、同じ部族らしいので、何代か遡れば親戚なんだろうけど。


「やりました。魔石取ってきます」


「サンクス。ま、今日はこいつで終了かな」


「そうね。もう夕方だし」


・・・・


バルバロ邸に戻ると野球やスケートの練習が始まっていた。

オレ達は日本庭園の芝生に降下する。


「到着」


「ああ~~。久々の地面ね。自分の足で歩くのって、大変。いいわね。飛べるの」


「まあまあ、人にはそれぞれあるから。今日は、俺たちはギルドに魔石預けて終了。珍しい石の方はどうする?」


「ラボに持って行って」


「なぬ!? 最初からそっちに降りれば良かった。まあいっか」


俺たち4人は、てくてくとラボに珍しい石を預け、ギルドに魔石を預けた。


「さてと、今日は疲れたけど、貴方に御飯奢る約束だもんね。そちらの2人はどうするの? 御飯食べる?」


フェイとヒューイは俺の顔を伺う。返答に困っているらしい。

まあ、この2人は冒険者パーティ。御飯くらい日本人と行っても良いのではないか。


「お前達がいいなら一緒に行こう。今、サイレンで宿取ってるんだろ?」


「ご一緒します。ここの御飯おいしいんで」


「正直でよろしい。お姉さんにまかせなさい」


今日の晩ご飯は徳済さんの奢りで皆で行くことに。

そんなこんなで珍しい石、推定エメラルド拾いは終了。


・・・・


「ただいま」


軽く飲んで食べて帰ったが、夜は更けているので、少し小声。


「あ、お父さんお帰り」


「起きてたか」


リビングでは息子が水を飲んでいた。漏らすなよ? 嫁は奥の部屋で寝ているようだ。今度はそっとしておこう。


「うん」


「学校は楽しいか?」


「うん」


「部活は楽しいか?」


「うん。楽しい」


「そうかぁ」


異世界に来て2ヶ月以上が経った。なんやかやとここの生活にも馴染んできた。


本来、異常であることが異常でなくなる。いいことなのか悪いことなのか、まあ、いいことだと思っておこう。今日は寝るか。こうして平穏な時間が過ぎていく。

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