第57話 城壁工事22日目~ タラスク来襲 6月下旬

「おりゃ~~~~~~」


どごどごどごどごどごどごどご、ばら、ばら、ばら


「はぁ~これは肉体的にきつい」


俺は今、小さめの石を網タイプの触手で大量に運んでいた。


もはや適当に巨大石の間や根元の部分にぶち込んでいる。


後は、他の石工の人らが綺麗に整えてくれる。


この工事の仕様は、なんと天端の幅と、高さだけなのだ。見た目はどうでもいいのだ。


だが、この国の人達は、律儀にしっかりと石を組んでいく。

ちなみに、地震はほぼ無い国らしい。


不文律というか、矜持があるのか、この国の人は、仕事は真面目にこなすのである。工期にはルーズだけど。手抜きやごまかしとかはしない。この世界の人達にとって、城壁は生命線だから、ちゃんとしておこう、っていうのはあると思うけど。


「タビラさ~ん。今度はこちらにお願いしま~~~す!」


「わかったー!」


工事は今日で最後だ。一応、検査が明日なので、その時間帯までは作業ができるが。


で、進捗の方はなんとかなりそうである。


最初からこの方法でやればタマクローの方も早かったかもしれないが、この方法は金がかかりすぎる。

魔力譲渡ならまだしも、魔石代が結構ばかにならないらしい。

それから、移動砦の動力や魔術戦闘装備の備蓄も使ってしまった。


ちなみにランカスター家の魔術戦闘装備は、魔石が沢山付いた杖だった。

この魔術戦闘装備には、いろんなタイプがあるらしい。ただ、用途はどれも魔力の回復。形自体に意味は無いとのこと。


「ぴぴ~~~~~~~~~ぴぴ~~~~~~~~~」


なんだ?


物見櫓から警報がなる。


警備員達は、最初は移動砦から監視していたが、櫓が出来てからはそこに移動して監視任務に就いていた。

土魔術で創った大砲がハリネズミのように突き出ている。


とりえず仕事を止めて飛んでいく。


「どうしたんですか?」


ゴブリンくらいだったら、瞬殺のはずだ。


「タラスクがいます。まだ遠くですが、ゆっくり歩いています。サイレンの兵士に連絡しておいた方が良いでしょう。我々では少し部が悪いですね。倒せないことはありませんが、城壁がやられるかもしれません」


「わかった」


今、城壁がやられるのは困る。


タラスクは確か戦車みたいなモンスターで、火球を飛ばしてくるタイプだ。


「歩くのが遅いな」


伝令を出した後、タラスクが過ぎ去るのをじっと待つ。

スタンピード中で無い時の奴らは、人や人が造った構造物を認識しないと襲ってこない。堅くて厄介なタラスクは無理に倒す必要はないのだ。

そのうちハンターズギルドか兵士が討伐するだろう。


「お~い。どうしたんだ?」


モルディがやってきた。


「いや、タラスクだ。さっき伝令出しただろう」


「知っているさ、私が言っているのは、どうして倒さないんだということだ」


「いやいや、今の俺らの火力では倒しきる間に反撃を受けてしまう。そうすると、せっかく造った城壁が壊されてしまうだろ?」


「そうだったのか。あいつの魔石は結構高いからな。倒して売れば一儲けなのに」


「へぇ~そうなんだな。あのサイズでどのくらいになるんだ?」


「50万はくだらないだろう。大きいヤツは100万を越えるからな」


「お金は欲しいが・・・今は工事だ。やめとこう」


「残念だな」


「ちょっと、タビラさん。トメーザさんが城壁の外にいます」


「何だと?」


「運悪く石切場から移動してきたみたいですね」



「あ、見つかりました。タラスクの目が赤に変わりました」


「トメぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


「トメのやつもタラスクに気付いたみたいだな、トカゲを全力疾走させてる」


「討ち取るしかありませんね。みんな、攻撃準備! カノンの標準を合わせろ! それから障壁準備だ!!」


「「「おう!」」」


現場が慌ただしく動き出す。


「モルディベートさんは砦の方に退避していてください。タビラさんはどうされます?」


「俺は上からけん制してみるよ。トメを逃がさなきゃ」


「分かりました。みんな! 動けぇ!」


総員戦闘配置状態だ。


カノンと呼ばれた長い筒を持つ大砲をタラスクの方に合わせている。


俺は邪魔にならないようにかなりの高度を保ってタラスクに近づく。


こいつは、足は遅いが射程が長い。しかも甲羅が堅いので、倒しきるのが面倒らしいのだ。大体は一人が足止めして砲撃を邪魔しながら、強力な狙撃で倒す戦法が取られる。攻撃が通らなかったら、その時点でこいつを倒しきるのは難しくなる。また、水魔術で砲撃が無力化できるらしく、スタンピード中など攻撃手の手が回らないときは、無効化だけして倒すのを後回しにされる場合がある。


それだけ倒しきるのが厄介な相手なのだ。


パン! シュ~~~~~~~~~ドォン!

櫓からカノンが発射される。が、当たらない。


パン! シュ~~~~~~~~~ドォン!

微修正してもう一発。しかしこれも当たらない。


動く相手に当てるのは難しいのか? それか下手なのか。


「よっと!」


とりあえず、触手で攻撃! バシン!と顔に当たるもまったく効いている様子ではない。

上からみると、こいつは亀だ。頭と尻尾が長いけど。


こいつの大きさは甲羅の長い方の大きさが20m位。学校の25mプールにすっぽり入りそうな大きさ。

タラスクにしては結構大きなサイズだ。


スタンピードの時にはこんなのが万単位で出るんだろ? そんなのどうすんだよ。


ドゴォオオオオン!


タラスク付近で爆発が起きる。歩みが止っていない。爆発系の魔術はあまり効いていないようだ。

そして、ヤツの方はまだ射程圏外なのか、城壁側にどすどすと歩き続けている。


遠くでトメが城壁の中に退避したのを確認する。


ひとまず安心か。


俺は石切場の方に飛んでいく。


「おおおおおおおおお~~~~」


2日ぶりの巨大石塊を持ち上げる。


こいつをあいつの上に落としてやる。


巨大な石を掴んだまま、タラスクの方に戻るとヤツの足が止っている。射程圏内に入ったのか?


さらに、カノンから発射された砲弾がぼこぼこ当たっているようだが、まだ倒せていない。


こりゃあ難しいかもな。軍が到着するまで耐えるしかないか?


ドゴォオオオオン! タラスクが火球を発射!


緊張が走る。物見櫓の周りに薄紫に輝く膜が出現する。


ゴォオオン!


おおー。火球をはじいた。


すごいな。あれが広域魔術障壁!?


次はこちらの番かな? 俺は停止しているタラスクの真上に移動。


よ~く狙ってぇぇぇ~落ちろ!


触手用の植物の茎を手放し、石にかけている反重力魔術を切る。お気に入りの植物の茎も落下していく。ちょっともったいないけど、その辺に生えているやつだし。


この辺、手順を別にすると、タイミングをしくじって、手が石に引っ張られて大変なことになるリスクがあるのだ。確実なのは、茎ごと手放すこと。


ピュゥ~~~~~~~ン! ゴシャ!


命中。少し尻尾側にずれてしまった。


物見櫓側で歓声があがる。


だが、このカメ、まだしゅわ~ってならない。


俺は予備の植物の茎を腰から引き抜くと、触手を巨大カメの首に巻き付ける。


カメは長い首をだらんと垂らし、ぐったりしている。


「よいしょぉ!」


反重力全開! だが完全には持ち上がらない。一体何トンあるんだ? こいつ。300tどころではなさそうだ。


中途半端に上がった。


パン!シュ~~~~~~~~~ドォン!

パン!シュ~~~~~~~~~ドォン!


櫓からの砲撃が再開された。


途中まで持ち上げたカメのお腹を狙っているようである。

これで何とかならないかな?


パン!シュ~~~~~~~~~ドォン!

パン!シュ~~~~~~~~~ドォン!


砲撃系の攻撃連射。ここからだと良く見えないけど、砲弾はちゃんと刺さっている気がする。少なくとも、はじかれていない。


カメがしゅわ~となった。

死んだかな? 俺は巨大カメを持ち上げていた予備の茎も手放した。


・・・・


「お見事でした。我々では火力不足でしたね。軍の兵が来るまで耐えなきゃいけないとこでした」


ここは、居住区から結構外側に出たところだ。軍が来るのにも時間がかかるのだ。


「いえいえ。結局倒したのはそちらの砲撃でしたからね」


俺たちは日本人らしくお互いに謙遜し合う。


「報酬はどうしましょうか」


「契約どおりでいいのでは?」


契約では魔石の売却益の半分は冒険者に。

ここで異論を言っても時間の無駄だ。そのために契約があるの。

無言でぺこりとお辞儀をされて、俺の方は移動砦の方に向かった。


「タビラ殿、ご苦労だったな。城壁の被害も無かったようだしな。しかし、そなたは強いな。これならハンターが勤まるんじゃないか?」


モルディが事務机に座たままねぎらってくれる。


「ハンターねぇ。お金が稼げるのはいいんだけど、危ないのがなぁ。後、俺の場合、同じようなタイプで無いとパーティが組めない気がする」


「ははは、そんなに上手な反重力の使い手はそうそういないからな。そういった物達は軍のエース級魔道兵かそれ以上になっているだろう」


「ふ~ん。魔道兵ねぇ。確か儲かるって言ってたな。ところでモルディ。お前は何をやっているんだ? もう終わりだろ? うちの作業」


「ああ、書類関連の整理だよ。それから経理関係だな」


「おおそうか。俺も給料まだ貰ってないからな。街の方の現場は、日払いにしてくれてたけど」


「その辺も精算中だ。私は計算は得意なんだ」


「・・・一応、見せてもらってもいいか?」


こいつはポンコツだからな。タマクロー工事区間の工事が終わった後にも石材が届いたり、アマカワの支払いを多めに払っていたり、この間は計算一桁間違っていたからな。

俺もパソコン使えない現在では、少々あやしいけど。


どれ。

食費、請負費では1200万か。請負費というのは、工事の費用3億円の根拠となる金額で、別にその通りに使う必要はない。工夫して低く抑えれば儲かるし、現場代理人の腕の見せ所なのだ。


げ、食費は900万しかかかっていない。毎日芋食ってたからな。しかしケチりすぎだろう。

石材費は、4800万のところ、5000万、微増だ。これはトメの処に支払われる。

アマカワ費用は1200万のところ、600万。工法の工夫で後半はかなり使用を減らしたのだ。それなのにこの女は最初の見積もり通り、1200万払おうとしていたのだ。俺が止めたけど。


人件費は7800万で当初予定とほぼ変わらず。しかし、少し気になることが。


「強制労働者って、雇うのに1日1万かかるんだな」


「ああ、それな、実際に本人に支払われるのは半額だ。残りは一旦、強制労働署に支払われて、その後は被害者の救済とかに使われる」


「へぇ~。これも公共事業だからなぁ。犯罪被害者の救済も兼ねているのかぁ。この施設費っていうのは何なんだ? 6000万もあるけど」


「ああ、それは移動砦の運用費だ。これはタマクロー家から借りているから、タマクロー家に支払われるぞ」


「高っか。金持ちにはお金が集まってくる仕組みがここにもあるわけか」


タマクロー側には、自分達の移動砦を貸し出すだけで、6000万のお金ががっつり入ってくる。もちろん、動かすための魔石費などもここに含まれているようだが。


で、問題はここの諸経費だな。本来9000万に抑えなければならない部分だ。

その計算を今モルディがやっているようだ。

書類が結構膨大だ。

工務店から購入した機材費もここに含まれる。


「おい、ここのバルバロ邸改修費の1000万というのは何だ?」


「ああ、それはこの間、うちを改修したんだ。すごいんだぞ?」


「・・・ここの工事費で支払っていいのか?」


「ん? どうせここの工事で儲かったお金はうちのものになるんだ。城壁関連事業は税金がかからないからな。同じ話だろう?」


ここの流儀なんだろうか。まあ、スルーしよう。よく見たら、サイレンの屋敷の維持関連費や、バルバロ本国への仕送り費が3000万位計上されている。


「・・・これ、全部足したら3億超えないか?」


「そうなんだ。だから何処を削ろうか悩んでいるんだ」


こ、こいつ・・・


「俺の金はあるんだろうな」


「もちろん確保しているぞ。22万ストーンだったな」


「いや、一日2万だから44万だ」


「なに? また計算し直しじゃ無いか。というか赤字になりそうなんだ、頼むよ」


「実家の仕送りとか屋敷の維持費とか、この辺少し削ればいいだろう」


「仕送り削ったら妹達の着る物がなくなるからやめてくれ。お金が欲しければ、ほら、モンスター狩ってくればいいじゃないか。今なら、公共事業中だから魔石取引税がかからないぞ? 今多分、この辺のやつらリポップしたばかりみたいだから多いと思うぞ? 公共事業中の魔石ハントは、ちょっとグレーなところはあるんだが、あんまりやり過ぎなければいいぞ。目をつぶってあげよう」


「・・・こ、この」


ぽんこつは。でも、こいつの処の屋敷の改修は、晶たちのためと聞いている。

とりあえず、狩ってくるか。少しなら、あのカメのドサクサで目立たないだろう。


「狩ってくるけどよ。44万に満たない部分は保障しろよ」


「くっ。がめついヤツだ。まあ、仕方が無いか」


こいつには色々と世話になったからな。今回は大目に見るか。


・・・・


出かけに、物見櫓に詰めている冒険者たちに挨拶する。


「あれ、多比良さん。どちらへ?」


「ちょっと散歩」


「ああ、ひょっとして噂のアレですか? 公共事業中の魔石ハント。いいですねぇ」


「・・・タラスクが出たんだ。まだ近くにいて、襲われてもいかん。ちょっと行ってくる」


「いてら~」


・・・・


モンスター狩りを行った。


巨人3匹を仕留めて戻ってきた。10m級1、小さいヤツ2。約2時間の成果だ。多分、10万以上はするだろ。

ゴブリンもいたけど、魔石の回収にわざわざ下まで降りるのが面倒なので無視した。森の中は危険だし。

取ってきた魔石はモルディに預けた。売りさばいて後で売却益をいただく。


日暮れ前に戻ってきて、いつものメンバーで晩ご飯を食べた。ネメとドネリーは、これから徹夜作業するらしい。だが、俺は寝る。頑張ってくれ。


明日、検査の後、3家揃って、宴会をする約束をして今日は解散。



くいっくいっ。モルディが顎でマッサージベッドに寝るように指示する。


・・・俺も何も言わず、ベッドに寝る。こいつは、俺が結婚相手でないと分かっても、この辺は変わらずに接してくれる。

少しだけ、モルディのKY力に助けられている気がした。


「ところで、ここの移動砦、いつまでここに置いておくんだ? 宴会の後は泊まれるのか?」


モルディに馬乗りされた状態で下から問いかける。


「明日まで泊まっていいぞ。明後日の昼過ぎに移動予定だからな。もう、明日には軍がここの物見櫓に入るから、本当はもう移動していいんだが、掃除やら後片付けやらでな。それでようやくこの工事も本当に完了だ」


「ああ、俺は20日くらいだったけど、モルディたちは6ヶ月もここにいたんだよなぁ」


今、殿部のお肉をこれでもかと揉まれている。気持ちいい。


「そうだぞ。私の婚期が6ヶ月も伸びてしまった。タビラ殿。私との婚姻の話、考え直してくれてもいいんだぞ?」


そろ~っと、モルディの手が腹の下の方に伸びてくる。


「最初からなかったろう、そんな話。お前は美人なんだから、そのうちいい出会いもあるさ」


「そうだ、私は美人なんだぞ。ちくしょう」


モルディは、俺の下着の中に入れようとしていた手を引き戻してくれた。密度が濃かった時間もこれで終わり。俺は、明日、この移動砦でぼ~として過ごす予定。いや、正確にはあの温泉ルームのこととか考え事がいくつかある。


・・・・


「は!」


夜、不意に目が覚める。ちゃんと俺の部屋だ。マッサージの後、普通に部屋に入って寝たはずだ。


汗だくになっている。寝る前にモルディに洗浄魔術はかけて貰ったんだけど。ぐっしょり湿っている。


時間は午前0時。深夜だ。だが、3時間は寝たので、体のだるさはかなり取れている。

明日の起床時間は自由。食事係の人に迷惑かけないように7時くらいには起きる予定。いつも4時起きだったから多少の夜更かしはいいだろう。


・・・温泉に、入るか。

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