第58話 全裸の戦い

温泉に入るか。


『開け』


扉がさっと現われる。


暖簾のある玄関スペース。


「!?」 何か違和感がある。なんだろうか。少しぞっとする。


自分で創ったはずの空間なのに未だに少し怖い。


靴を脱いで畳の部屋へ。一応、リビングを覗く。変化無し。


・・・更衣室に行くのがめんどくさい。今は寝間着の上下2枚しか身に着けていない。かつてディーがやっていたように、畳の上にすぱぱぱっと寝間着を脱ぎすてて温泉エリアに入る。


まずは体を洗う。この世界で買った石けん。

俺は髪が短いので、洗髪はすぐに済む。


さて、温泉温泉。


岩風呂に近づく。


ぴちょん!


「ひっ!?」


後ろを向く。何もいない。気のせいか。


ゴト


怖い。サウナから音がした気がする。


そろりそろりとサウナの入り口、木製扉の前まで移動する。


サウナ前の水風呂がわずかに波立っている気がする。気のせいか?


サウナの扉には窓が無い。確認するには開けるしかない。


木製扉の取っ手に手をかける。


きぃ~ぃ。


中からむわぁっと熱気が漏れてくる。


「・・・な」 一瞬、心臓が飛び跳ねそうになった。


『アナザルームは術者の願望が反映される』


こ、これは。


女性? 女性だな。


長くすらりとした手足。


豊満な胸とくびれたウエスト。ストレートの黒髪と角。角? 


そして白目。だらしなく開いた口。


ぱかーんと開かれた手足。そして、全身汗だく。


『アナザルームは術者の願望が反映される』


こ、これが、これが俺の願望だというのか。


くっくうぅ~。涙が出てきた。


俺はモンスター娘がタイプだったのか。いや、鬼だから妖怪か? 俺の深層心理では、こういうのが。


こういうのがっ・・・理想の女性・・・その、S○X人形ダッチワイフを創造してしまったというのか・・・


顔は? 顔は良くわからない。斜め上を向いているし、白目だし、口開いてるし。


ぱかーんとなっている太ももの間を見たい。

しかし、ここからでは死角になってて見えない。見るには正面に回ってしゃがみ込む必要がある。


・・・仕方が無い。

ゆっくりと正面に回り込む。

そして、おもむろにしゃがみ込む。


よし! 見え・・・・ない!? 足が閉じた!?


くっ。いけず・・・


手で広げるか。


ん? ふと視線を感じて顔をあげる。


いつの間にか、白目が黒目に変わっている。黒目がでかい。思いっきり目線が合う。


そして、この鬼はニタァ~と笑った。


「・・・」 バタン! 一瞬でサウナから出て、全力で扉を閉じる。


怖い! コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ


「○××○△◇×」ドンドンドンドン。


出てこようとしているぅうううう。

中からドンドン叩かれる。何か叫んでいるが、分厚い木製扉で聞こえない。


ドンドン。ドンドン。ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。


やべぇ。力尽くで出てこようとしている。


俺は全力でサウナの木製扉を外側から押さえ付ける。


ガン!ガン!ガン!ガン!「○××○△◇×~~~~~!」


この重量感は体当たりだ。やべぇ。力が強ぇ。くそ。


ドガン! ドガン! ドガン!


今!


体当たりのタイミングに合わせて扉を開ける。そして反重力全開で離脱!


「!うわぁ」 ばしゃん! ゴン! 「がぁあ!」


後ろで音がする。


急げ急げ。とりあえず、植物の茎だ。最近、あれがないと安心できない。


「ぐ、ぐぅおおお。待て、今なら、おぬし、怒らぬから、ちょっと待て、いや、一発は殴る」


シャベッタァ~~~~~~~~~。


植物の茎コレクションにたどり着く。急いで手に取る。


どうする? 外に逃げるか? しかし全裸で移動砦に逃げたらどうなるか。


「よしよし、そこでじっとしておれ、いや、殴らないから。少し話しをしよう、な? どうだ」


こいつ、さっきは殴るって。


というか、今のこいつは全裸、全身汗だくで髪がこれでもかと乱れて顔とかに張り付いている。エロを通り越して怖い。まったく全裸を恥ずかしがっていないし。


「くっ!?」


とりあえず空に逃げる。ここの謎空間、怖いからあまり行きたくなかったけど、仕方が無い。


「反重力か。面白い! 遊んでやろう」


飛んで追いかけてきた。俺の戦闘経験で空戦は無い。空から一方的に戦っただけだし。


鬼女が全裸で追いかけてくる。一直線だ。怖い。全裸の女の人に追いかけられるのって、こんなに怖かったんだ。


「ハァ!」 網タイプの触手を投げかける。先手必勝。


あたりは真っ暗だが、ここは何も無い空間。少しの明かりはあるので、相手の場所はわかる。


「なに!?」


鬼女が回避行動をとる。ぎりぎりで回避された。

しかし、この鬼女は動きが単調。線形的というか。


接近戦闘は苦手なタイプか?


ならば、俺の相手ではない!


右手に蛇皮を巻いた植物の茎。左手に網が出せる植物の茎をもって、鬼に対峙する。


「はぁ!」


まっすぐ行くと見せかけて、バリアを蹴って横に飛ぶ。そのまま相手との距離を詰める。


「オラァ!」 メイスタイプの触手で殴りつけて、相手の障壁の間合いを計る。


少しかするも外す。ここに来て全裸の女性を殴りつけるのに躊躇してしまう。


「くぅ。早いのう。どれ」


バン!


いきなり俺の真横で爆発が起きる。


バリアで防げたが、何枚かはじけ飛んだ。


「硬いのう。楽しめそうじゃ」


くっ、こいつ、のじゃ系だ!


どう攻めよう。一度殴りつけてみるか。


「ハァ!」


急接近する。


バン!バン! と爆発が起きるが多少後ろに飛ばされるだけでダメージは無い。


「セイ!」 ガッ!


か、堅い。今までのどの相手の障壁よりも堅い。

こいつは、強い。


バン!バン!バン!バン!バン!バン!


めちゃめちゃに爆発攻撃を受ける。


「がぁぁあっぁああああ~~~~~~!」


ガン!バチバチバチバチ!


相手の障壁を掴んで引き裂こうとしたけど、剥がせない。 相手の攻撃もこちらに届かない。これは泥試合か?


というか、なんで俺戦っているんだ? こいつは殴っても大丈夫なのか? そして俺たちは何で全裸なんだ? 動く度にぶるんぶるん震えて結構痛いんだぞ? あいつもぶるんぶるんしているけど。


「オラァ!」 ガシィ!


「ふん」 バン!バン!バン!


・・・・

<<1時間くらい経過>>


予想通り、泥仕合になっていた。


「シィ!」 避けられた。


疲れてきた。俺は連日の肉体労働で疲れてるんだぞ? 明日も仕事だぁ、どうしてくれんだこらぁ。


バン!バン!バン! ゴアァ! ぱぱぱぱぱぱぱぱ


攻撃を避け続ける。爆発に炎に銃弾みたいなヤツと、結構多彩だ。全部効かないけど。


「・・・」


相手の鬼も疲れてきたのか、最近、口数が減った。


「ラァア!」ガン! 「ホレェ!」ガン! 「ホレェエエエ!」ガン!ガン! バチ


ぐう、少しヒビは入るが打撃ではどうにもならんぞこれ。


ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! バシン!


うわぁ。砲撃系怖い。1発当たった。相当数のバリアが吹き飛んだぞ。


・・・・

<<さらに約1時間後>>


「取ったぁ!」


やっと触手で相手を掴んだ。


「うぉぉおおおおおおお~~~~~潰せぇぇぇぇ!」


渾身の力で相手の障壁を握り潰す。触手で。


バリバリミシミシと音を立てている。

300トンの岩をも掴めるこの威力。思い知れ!


「・・・むっ」


バリ! 鬼女が何も無い空間に手を突っ込んだ。腕が切れて無くなっているように見える。

だが、突っ込んだ腕を引き抜くと、そこには朱色の布が握られていた。


なんだ? 今さら恥ずかしくなったのか? 2時間も全裸ファイトしておいて。


その布は、大きい魔石が付いている。


まさか!?

俺は、ランカスター家のネメが持ってきた杖を思い出す。

アレは多分、魔術用の戦闘装備。だとしたらまずい。


瞬間、灼熱の炎が出現する。


全力離脱! 炎が迫る迫る迫る迫る。逃げる逃げる逃げる逃げる。


間に合わない。

バリア全開! 耐えろぉ!


夜の空に巨大な火球が出現する。


・・・・


「・・・惜しかったの・・・ここの空間も、これで」


「あまい!」


俺は、自分の火球の爆発を見つめながらボケェとしていた鬼女に下から飛びついた。

こんな空間で爆発を受けても吹き飛ぶだけ。あまりダメージは無い。少しくらくらするけど。


「なんじゃと?」


久々にこいつの声を聞けた。


「がぁあ、破けろぉあ!」


鬼女を障壁ごと両腕で掴んで、温泉の岩風呂に向けて落下させる。植物の茎はさっきの爆発の衝撃で落としてしまった。


いつの間にか、かなりの上空まで上がっている。温泉が拳くらいの大きさになっている。というか、ここはさながら無間地獄。飛行能力なくここに落ちたら、多分、無限に落ち続ける。


落ちながら思いっきり、魔術障壁を破ろうと魔力を引っ張る。バチバチバチバチ・・・。


!? 相手も俺のバリアを引き剥がしにかかる。ミシミシ・・・・


俺たち2人はいつの間にか、向かい合って魔力の引っ張り合いを行っていた。今度はどちらが先に障壁を破るのかの力試し。


「「がぁああああああ~~~~~~~~~」」


バチバチバリバリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2人してすごい形相で引っ張りあう。お互い全裸で。


もうそろそろ温泉だ。相手もがっちりこっちのバリアを掴んで離してくれない。

これはチキンレース。


2人とも頭から温泉に突っ込む。


「!!」 激突する瞬間、捕まれていたバリアを外して真横に飛ぶ。


目指すは畳部屋。植物の茎を求めて。


「ガァア!」


なに!?


横から? 相手もこっちに!? 飛ぶ方向を読まれてた?


ここは明るい。障壁越しに相手の顔が確認できる。


パリッ・・パリッ・・・・


この鬼女、額に血管が浮き出ていらっしゃる。怒ってる? 両腕で俺の両腕の上からがっつり締め付けられる。バリアはさっき外したから、今は俺の貧弱な魔術障壁しかない。


目が合う。数秒見つめ合う。


「ふっ」 凄い形相の鬼がすこしだけ優しい顔をする。

「けっ」 よく考えたらここは俺のアナザールームだ。何勝手に入ってやがる。


バリ! ミシッ!


次は、お互い魔力の引っ張り合い勝負。ここで、相手の魔力を全部吸い尽くした方が勝ち。


ごろごろ転がりながら魔力の吸い合い勝負になる。


シュゥグゥガ! ゴウゥゥゥゥンンンン!


強烈な光と音。


あ!? その瞬間何も分からなくなった。

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