第45話 晶事件の後始末とスタングレネード +日本人会専門部会 6月上旬

晶の事件、人事異動、アナザルーム、商品開発、ディ-がティラネディーア(女性)だった件、最近、色々あって混乱しそうだ。

さらに寝不足。


今日は、朝からタマクロー邸に行って晶と面会。温泉も気になるが、こちらを優先。


その後、間に合えば日本人会の専門部会に参加したい。

夕方もひょっとしたら、晶事件の後始末があるかもしれない。


明日は人事異動日だから、その準備もしなければならない。結構忙しいな。


今日の家族の予定は、息子はお友達の家でお遊び。御飯は朝昼は外で、晩は俺と食べる。

嫁は朝昼晩外。息子に聞いたが、今日はオーディションとコンサートらしい。ハマっているのかな?


こんな日でも朝のルーチンはしっかりこなす。


ただ、疲れていたからか、髭を剃られながら寝てしまった。

このお店に通うのも、明日でしばらくお預けになる。少し寂しい。


・・・


「いらっしゃいませ。タビラ様ですね。ご主人様がお待ちです」


ディーの屋敷に着く。年かさのメイドが出迎えてくれる。


「おう。来たか。トクサイの方はもう来ている。落ち着いたら、この部屋に来い。今後の事を話そう」


ディーに一言挨拶を済ませると、晶の方に案内される。


「タマジョウ様はこちらにいらっしゃいます」


晶の部屋に到着。


「ああ、多比良さんが来たわね。晶ちゃん。話せる?」


「大丈夫です。徳済さん。もうなんともありませんから。おじさんも、おはよう」


「おはよう。元気か?」


「元気。朝ご飯もいただいたし。でも、迷惑かけちゃったかな」


「迷惑かけたのはあの中坊。そうだろ? 落ち着いたらディーが来いって言ってたぞ? どうする? もう少し休憩?」


「そんなに急がなくてもいいじゃない。あなたも座って。少し話しをしましょう」


徳済さんがソファを進める。女性陣2人はベットに座る。

確かにその通り。俺はソファに座る。


「さて、犯人はあの2人?」


「いや、もう一人ね。別の女の子と部屋に居たわ。シエンナ子爵が身柄を確保したって」


シエンナ子爵とはトメのことだろう。あいつは意外と出来る男だったようだ。あの日、学長に連絡し、犯人の身柄を全員抑え、女性の救出も行ったらしい。


「ほう。トメのやつ、やるなぁ」


「貴方、シエンナ子爵とも知り合いなわけ?」


「あいつとは強制労働署の同期だからな。というか、あいつは子爵の嫡男で子爵ではなかったはずだ」


「いや、そうだけど。いや、貴方と話しをすると脱線するからいけないわね。それでね。あの3人は現行犯だから謹慎処分。女性の方も男性を女子寮に入れて晶ちゃんを襲うのに加担したんだから、その子も謹慎。でもね。まだいるらしいのよ。獣男子が。そいつらを一掃するまで、寮は安心出来ないわ」


「なんと。そんなことになっていたとは」


「そうよ。男子はここに来て身体が活性化しているから、性欲も上がっているの。中学生なんて、元々旺盛でしょう? だからね、先生方には警告を発していたのよ。ただ、ここにはマスコミも教育委員会もない。それに先生達、準貴族になったからって、少し私たち一般日本人を下に見てんのよね。しかも事なかれ主義でさ、何も手を打っていなかったってわけ。晶ちゃんはその被害者よ。ある意味、加害者の女の子も被害者ね」


「男子も難しい年頃。日本だったら、年上の兄弟や先輩、ネットや本などでいろんな情報を仕入れるんだろうけどなぁ。今は性の吐け口を生身の女性に向けている。よくないな」


「境遇に同情はするわ。でもね。今回は、親が居ない子を狙ったのよ。許せないわ」


「晶と獣男子。接触させては駄目だろう。午前の授業は義務教育課程だろ? どうする? 午後は選択だからどうにかなるだろうけど」


「一応、クラス替えを提案してみるわ。男子クラスと女子クラスに分けるの。そして、ちゃんと性教育をするのよ。今はやっていないのよ。性教育。それまでは、信頼置ける友人とずっと一緒にいるしか無い。それに関しては、少し考えがあるわ」


「では、学校では友人とつるむと。それは解ったけど、そもそも論、晶は寮から出た方がいいと思うけどさ」


「晶ちゃん。いい?」


「はい」


「私の息子の颯太そうたね、野球部の。あいつ、彼女いるのよ。ソフト部のキャプテン。3年1組の斉藤茜ちゃん。お母さんは針子連合ね」


「え? 徳済くんと茜って付き合ってるんですか?」


「まあね。日本時代から付き合ってたのよ。絶対に性行為はするなって、言ってるけどね。毎日自分で処理するように言っているわ。でも、逢い引きはしてるわね。お互いいい感じに性欲処理できてるならいいけど」


『女の会話はエグい』これは噂で聞いたこと。この噂、本当だった。


「後は武くんも含めて、午前中はずっとこの3人と一緒にいなさい。午後は、小峰さんとこと多比良さんのお子さんたちと一緒なんでしょ? 後、バルバロ家とメイクイーン家の人ね」


「はい。最近はずっと一緒にいます。今はその2人、王都に行ってて」


「ひょっとして、その2人が居ないから昨日決行したのかもね。後は、休日もずっと一緒に居てくれる人とかが居るといいわね」


「休日も知り合いの屋敷に行って遊んでるんだろ? うちの息子も行ってるからな。晩ご飯までちょくちょくお世話になっちゃって」


「うん。バルバロ辺境伯領の屋敷にはよく遊びに行ってて。メイクイーン家の人も同じ所に住んでて。女性だし、話しやすくって」


「そこの屋敷から通学できないかな。木ノ葉ちゃんも心配だから一緒に入れて。バルバロ家にはちょっと、知り合いもいるから頼んでみようか?」


「貴方、バルバロ家ともコネがあるの? まあ、今はいいわ。どう? 晶ちゃん」


「う~ん。あそこのお屋敷は部屋が少なくって。お金もあまり無いって言っていたし。聞いて見ないと分からないけど」


「お金のことは、日本人会が何とかしてくれるわよ」


「ディーに相談してみれば? バルバロって、タマクロー派だろ? あそこの長女、タマクローの工事現場の現場代理人だし」


「そうね、あまりディー様にばかり負担をおかけしたくないけど」


「その、ディーという人。私たちと同じくらいの年齢に見えるけど?」


「あいつはああ見えて35。家系的に全員美肌らしいから、若く見えるんだろ」


「35? あれが美肌というレベル? 男性なの?」


「ん? 本当は、貴族の名前を気安く言ってはいけないけど。あいつの名前はティラネディーア、女性だぞ? でも、ディーと呼ぶように最初に言われたから、ディーと呼んだ方がいい。あの体格は、遺伝的なものらしい。大きくならないんだと」


徳済さんが目をまん丸にして口をぱくぱくさせている。何やってんだ? この人。


「あの、貴方? ディー様は男性って言っていなかったかしら?」


「いや、俺も最初そう思ってたんだよ。あいつって、一人称も『オレ』だろ? 実は、昨日、ぶっちゃけられて。女が男の格好って、その理由は、まあ、察して欲しい」


「なるほど。理解したわ。そうなると晶ちゃん預けて大丈夫かしら?」


「大丈夫だ。無理に迫るタイプじゃない。あいつは面倒見がいいイケメンだよ」


実際の所、ディーの女性遍歴は知らない。だけど、女を侍らせている風ではないので、多分大丈夫だ。


「大貴族で行政機関の署長さんかぁ。仕事も出来そうだし、信頼するしかないか」


晶は、目線を俺と徳済さんとの間をいったりきたりさせながら、ぽかんとしていた。


・・・・


「来たな? アキラと言ったか。元気そうでなによりだな」


話が落ち着いたところで、晶を連れてディーの部屋へ。


「この度はご迷惑をおかけしました」


晶がぺこりとお辞儀。


「いや、悪いのはあいつらだ。気にするな」


「で、これからどうするんだ? 我が家としては、オレとオレの客に対する無礼として、学校側に苦情を申し入れた。だが、学校内の事については、どうすることもできないぞ?」


「はい。学校内のことは、日本人で何とかいたします。問題は、住むところなんです。学生寮はしばらく信頼がおけません。もちろん、アパートでも同じことです。晶の友人に貴族様がいらっしゃって、そちらに住まわそうと考えているのですが、今は王城の用事でいないらしいのです」


徳済さんが晶の代わりに説明する。


「その貴族は、バルバロ家らしんだが、どうも屋敷が小さいらしくて。何か良い案は無いだろうか」


俺も援護射撃。


「ふむ。その貴族の名前を教えてくれないか?」


「はい。エリオット・バルバロさんと、システィーナ・メイクイーンさんです」


最後は、晶自身が説明する。


「なるほど。タマクロー家の寄子達ではないが、バルバロ家ならうちが見面倒見役だからなぁ。メイクイーンはバルバロ家の寄子だし。そういえば、メイクイーンの大砲娘が来ていたな。叙任式に出てそのまま学園に入学するとか言っていた。だが、バルバロとメイクイーンは本当に金がないからなぁ。これからリン国の留学生も迎えるらしいし。う~ん」


「実は、保護して欲しい子は後1人、合計2人になるかも」


「加害者側の娘だったら、かなり強めの謹慎処分になるらしいから、うちでは無理だぞ?」


「いや、別の子だ。親がこちらに来ていない子なんだ。そういう子が狙われやすいだろうからな」


この際、木ノ葉加奈子ちゃんも押し込もう。


「ふ~む。中級クラス以上の貴族だったら、即OKなんだろうがなぁ。卒業後に日本人と関係が出来るわけだろ? 青田買いで良い投資だと思うぞ? ただなぁ・・・バルバロとメイクイーンかぁ。お金がないとこだからなぁ」


「その子、広域魔術障壁に適性があるらしいから、物件的にはかなり有望株だ。あと、そんなにお金ないのか? そのバルバロ家とメイクイーン家」


「お金はないだろうなぁ。長女がサイレンに出稼ぎに来るくらいだからなぁ。広域魔術障壁の子はうちでも欲しいけど、戦いに出て始めて活躍する魔術だからなぁ。まあ、その2人が帰ってくる日まで、この屋敷に居るといい。もう1人含めてな。部屋はあまりまくっているからな」


「「「ありがとうございます!」」」


「ははは。タビラに体で払ってもらう予定だから、気にするな。明日から頑張れよ。お前が行く現場、そのバルバロ家の工事だぞ。頑張ってきちんと儲けを出してくれよ」


あの工事か。嫌な予感しかしない。


・・・・


その後、晶を屋敷に残し、徳済さんは学校に。


時間ができたので、俺は日本人会の部会に出よ。今からだと遅刻するが、仕方が無い。

今回は、切子の試作が出来るということで、少し楽しみにしていたのだ。


・・・


会場に着くと、すでに会合が始まってしまっていた。反重力ベアリングと切子の試作品が机に並んでいる。


「お待たせしました。遅れてごめんなさい」


「いえ。昨日の事件はもう噂になっています。仕方がないですよ。今は自分たちの仕事をしましょう」


「はい。今日はもう切子の試作品ができたんですね」


「ええ、そうです。見た目には、ほぼ日本の切子と変わりません。しかし、もう少し目の細かい研磨剤があった方がつやがでるのでは? ということと。日本人の作であることを示す、ブランドロゴを入れようかという話が上がっています」


「へぇ。ほとんど完成品じゃないですか」


「後は色のバリエーションの研究もあります。焼き付ける金属の種類で色が変わりますから、より美しい色を探しています」


「それが出来たら金型を増やしていろんな形の切子を生産したいですね。カットパターンの方は、主な購買層として想定している貴族の意見を聞いてみたいです。その時は多比良さん、よろしくお願いしますね」


「はい。いいですよ」


いいと言っても、俺の知り合いはタマクロー派くらいだけど。


「後、多比良さん。研究用に少しお願いしてもいいでしょうか」


大量の空魔石が入った箱が出てきた。


俺、寝不足で疲れてんだけど、まあいいや。


「いいですよ」


箱の中に手を入れてガシャガシャする。徐々に魔石が透明から琥珀色に変わっていく。


「こんなもんでしょうか」


「ありがとうございます。助かりますよ。これでしばらく持ちます」


「いえいえ。こんなんで役に立つのなら、ちょくちょく、入れに行きますよ」


・・・・

<<お昼 日本居酒屋 昼の部>>


「いらっしゃい。多比良さん。綾子ぉ~多比良さんが来てくれたわよ~」


「お~う。ありがとな~」


祥子さんが接客してくれて、厨房の奥の方から綾子さんがお礼を言ってくれた。


「ハンバーガー1つ。後お茶」


「は~い」


俺は日本人会の後、お昼に1人でここ来ていた。


しばらく来られなくなるから行き納めしておこうと思って。


お昼も1時近いのに、結構混んでいる。流行っているらしい。


「お待たせ」


綾子さんがハンバーガーを持ってきてくれた。


「・・・晶が襲われたんだって?」


「ああ。俺、昨日は壮行会で偶然学校にいたんだよ。晶が中坊2人に追いかけられてて。びっくりした」


「晶を颯爽さっそうと助けたんでしょ? いよっこのヒーローめ。良くやった!」


「そんなんではないけどね。少しお灸を据えただけ。逆にクレームが来ないか心配だよ。学校ではお月ちゃんとかがボディーガード役になるんだろ? 午前中は徳済さんの息子さんカップルがガードするとか」


「私もその辺の話は聞いたわよ。娘も茜ちゃんも強いから、中学生くらいなら守ってくれるわよ」


「何気に晶も強い。炎で攻撃して逃げてきたらしいから。あいつはあいつで強いんだよ」


「後は住むとこどうすんのよ。今回の事件現場って女子寮でしょ? あり得ないわよね」


「ああ、そこはさ。俺の職場の人の所にしばらく泊めて貰えることになった。木ノ葉ちゃんも一緒にいいって。今、徳済さんがその辺、調整してる。晶って、友人に貴族がいるらしくて。今は王城に行ってて居ないけど、そのお友達が帰ってきたら、そちらに移るかもってさ。経済的理由で無理かもしれないらしいけど」


「へぇ~昨日の今日で早いわね。私もルナに伝えておくわね」


「うん。あ、それと、俺、明日から6月末まで出張だから。しばらくこのお店にも来られなくなると思う」


あれ? 前にも言ったっけ。


「そう。まあ、お土産期待しておくわね」


「お、おう」


お土産かぁ。


・・・・


夜は、息子と2人で適当な飯屋さんに入った。

カウンターに並んで座る。


「お父ちゃん、明日から、仕事でしばらく帰ってこなくなるからな」


「うん」


「お前よ~。もしもだぞ? 木ノ葉ちゃんが暴漢に襲われたとしたら、お前が守ってやるんだぞ?」


「わかった」


本当に分かっているんだろうか。


「これ、お母さんから」


「ん? なんだコレ」


ジッポライターくらいのサイズのナニカが3つ。


「作ったんだって」


よく見ると、取り扱い説明書が付いてる。


『引き金を外して2.5秒後に強い光と音を出す。使う前には耳を塞いで目を閉じよ』


これ、スタングレネードだ。


嫁は確か、魔道具の工場に就職したんだったか。一体何を作る工場なんだろうか。


護身用ということ? 嫁の愛情なんだろうか。俺はありがたくいただくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る