日本人600人の異世界転移 彼の地で日本人はどう生き抜いたのか

蛇ヶ谷四十九

第1章 プロローグ編 異世界転移と王城

第1話 スタンピードと勇者召喚

<<異世界、スタンピード討伐戦の一幕>>


ここは異世界。


この異世界は、魔法のある世界。魔法に異種族、それからモンスターが存在する。


この世界の人々は、人類の天敵であるモンスターとの戦いに明け暮れていた。


この世界のモンスターは、何故か1年に1度、スタンピードを起こす。


今、この国では未曾有の規模でスタンピードが起きていた。


そして、今まさにこの時、この国の軍隊はそのスタンピードに立ち向かっていた。


文字通り、国家の存亡を掛けて・・・これは、そんなスタンピード討伐戦の一幕


・・・


「今よ! 撃て!!」


ドン!ドン!ドン!


土塊で出来た無骨な大筒から砲弾が放たれる。


かけ声を上げるのは、年端もいかない少女。大きくカールの入ったツインテールが特徴的な美しい少女だ。


「よし、命中! あの大物はもう虫の息よ! 抜刀隊!! 突撃せよ!」


「「「うぉおおおお~~~~!!」」」


戦士数名が騎乗の竜に乗り、戦場に突撃を掛ける。


「よし! 次はあいつよ! 土と火魔術士は砲弾用意! 狙えぇえええ~~~い!」


「狙いよぉ~~し」「撃て!」


ドン!ドン!ドン! 


巨大な亀のようなモンスターに砲弾が激突する。


時折、別の城壁からも熾烈な砲弾や火魔術が飛び交う。


「あちらもまだ生きているようね。こちらも負けていられないわ。次弾用意!! 次はあの巨人よ! 城壁に近寄らせるな! ザコは無視せよ!」


「了解!!」


「撃てぇ!」


ドン!ドン!ドン! 


・・・・


どれくらい時間が経ったのだろうか。

最初は地平を埋め尽くすような状態であったが、モンスターの勢いが弱まったように感じる。


「メイクイーン男爵様! モンスターがこの街を迂回して行きます。あと少しです!」


「よし、システィーナ! 広域魔術を使え、敵を追い払うのだ!」


「しかし、あの方角は別の街です! 追い払ったら、敵がそっちに!」


「よい。まずは自分が生き残ることを考えよ! それに、あちらは辺境伯様がいらっしゃる。我が国最強の軍がいるのだ」


「分ったわ! 火魔術士! 大砲に魔力を込めろ! 広域殲滅魔術だ!」


「「「はい!」」」


・・・・


荒野を埋め尽くしていたはずのモンスターの大半は消失し、この街の周囲には、まるでモンスターを拒むかのような火柱が立ち上がっている。


「敵、完全に転進。我が街の城壁から離れて行きます」


「よし、抜刀隊を出せ! それから、城壁の修復だ! 急げ!!」


「はは!」


「メイクイーン男爵様! 王国軍も転進して行きます。モンスターの群れを追いかけて行くつもりでしょう」


モンスターをがっつりと抱え込んでいた巨大な砦群がゆっくりと動き出す。


これは、この国が誇る巨大決戦兵器、移動砦だ。


「何と! 王国軍も半数は死傷しているはず。流石は将軍。この状態で士気を保っているとは・・・よし! こちらからも追撃隊を出す。システィーナ!」


「はい!」


「・・・行けるな?」


「お任せを!」


「しかし男爵様、システィーナお嬢様はまだ未成年です。追撃戦といえども城壁の外に出たら危険です」


「国家の危機に我が領地から兵を出さぬ訳にはいかぬ! 済まぬな、システィーナ。今は最早お前しかおらぬ」


「お任せを! 抜刀隊! 私に続け! 騎乗突撃でモンスターを追いかける!」


「は!」 「私もご一緒します」 「是非私も!」


「全員来い! 突撃!!」


少女と戦士数名が、走竜に乗って荒野となった領内を一直線に駆けてゆく。


「よし、勝ち鬨を上げよ! それから、城壁の修復を開始せよ! 民間人にも応援要請だ!」


「はい。聞いたか! 勝ち鬨だ! 勝ち鬨を上げよ!」


周りから一斉に勝ち鬨が上がる。勝ち鬨は瞬く間に街中に伝播し、領民に安堵と興奮を与える。


これから日が沈むまでの間、領民総出で破壊された城壁の復旧が行われる。


この国、いや、この世界にとって、城壁とは絶対に死守せねばならないものである。


モンスター、それから凶悪な野生生物から身を守るために。


こうして、国家の存亡を掛けた大規模スタンピード戦は、人類側の勝利に終わろうとしていた。



◇◇◇

<<ラメヒー国家 勇者召喚の儀>>


勇者召喚とは。

それは、ここではないどこかの世界、そこに住む住民は、なぜか魔術に関し、高い才能を示す。異世界人が最初に召喚されたのは、偶然だったと言われているが、異世界の発見により魔道研究が進み、現在では人為的に召喚を行うことが可能となっている。

それ以来、世界各国で異世界人が召喚され、その高い魔術的才能により各地で武功をあげている。しかし、勇者召喚にはリスクもある。召喚者が無能だった、という話ならまだしも、呼び出した者が敵対した、というケースも起きていた。


そうして呼び出された異世界人魔術士のことは、いつしか畏敬の念を込めて”勇者”と呼ばれるようになった。


さて、この国”ラメヒー王国”は、およそ1ヶ月前、『スタンピード』戦に辛勝するものの、多くの魔道兵を失っていた。

今回はこの戦力の穴埋めのため、この禁断の魔術に踏み切ろうとしていた。


・・・この場所は、ラメヒー王国、玉座謁見の間である。


勇者召喚の儀を前にして、王は玉座に、その両翼には国の重鎮達が居並ぶ。

みな一様に緊張した面持ちをしながら、勇者召喚の時を待っていた。


「それでは勇者召喚の儀を始めます・・・魔力注入を開始せよ」


低い声で開始を告げたのは、この国の王宮魔導師筆頭。


「注入開始。術式が展開されます」


実際に魔道具を操作するのは部下の2人、王宮魔導師の次席とその部下だ。なお、次席は長い髪を後ろで束ねている、糸目がチャームポイントの女性だ。


謁見の間に置かれた魔道具に、糸目の王宮魔導師次席が輝く巨大な魔石をはめ込む。

すぐに魔道具が反応し、光を放つ。


「・・・勇者召喚術の発動に成功。術式は無事、次元の狭間を飛び越えたようです。現在、自動術式に移行、勇者探知が開始された模様です。転移発動まで、今しばらくお待ちください」


魔道具を操作した糸目の女性魔術士が術の推移を告げる。


「ふう、我が国としては30年以来の勇者召喚。少々心配しておったが、ここまでは順調、であるか」


この張り詰めた空気の中、国王が独りごちる。


「後は、術式が勇者にふさわしい人物を自動判別し、その者の足下に狙いを定め、転移陣を発動させます。向こうの様子にもよりますが、後数分から数十分はかかるでしょう」


王宮魔導師筆頭が説明を入れる。


「噂の最新技術か。間諜が仕入れたとのことであるが、さて、いかほどであろうの」


「王弟殿下。あなたの勇者嫌いは私も理解しております。しかし、これも強い勇者を呼ぶためのもの。これまでの勇者召喚術に、異世界勇者候補の魔術的才能を見抜く鑑定術を搭載したのです。それに、今回の召喚座標は、『戦闘民族』が住まう地。必ずや強者が召喚されるでしょう。それに、このことは御前会議で決定したことですぞ? タマクロー殿下?」


「・・・そうであったな」


術の発動から10分ほどが経過しただろうか。玉座に続く通路の中央、玉座から15mほど下の位置に転送の魔方陣が浮かび上がる。


「おお・・いよいよであるか」


王が興奮気味に玉座から立ち上がる。集まった皆が、魔方陣の放つ光に釘付けとなる。

王は、魔法陣の光に照らされながら、これまでのことを思い返していた。今回の召喚は反対意見も多かった。それを振り切って召喚を行う聖断を下した。多額の国家予算も費やした。


それに、『戦闘民族座標』という情報も手に入れることができた。今回の術式に組み込まれた極秘情報。かつて魔王を倒したと言われる伝説の勇者の出身地。その空間的座標に召喚術式を飛ばしたのだ。

きっと強く、気高く、慈悲深い勇者が来てくれるに違いない。

王は、国家存亡を賭けたと言っても過言ではない、大魔術の美しい光に見入っていた。


魔方陣の光が強まる。一瞬、ひときわ強い光を放つと、中央に人影が現れる。

そのシルエットは長身の男性のように見えた。


次いで人影が2人目、3人目と増えていく。


人影が合計4人くらいになった時だろうか、少し光が収まったようである。


「おお・・・成功したようじゃのう。ようこそ我が国へ! 歓迎しよう! 異世界の、勇者達よ!」


王は、事前に用意しておいた歓迎の句を告げる。


しかし、その瞬間、光の奔流が急激にぶり返し、至る所に直径10mくらいの光球が出現する。


「なに!? 召喚術が終わらない? 暴走か!?」


王宮魔導師筆頭の男性が叫ぶ。


その光球はどんどん出現し、玉座謁見の間、通路、その下の外広場にまで広がっていく。


「いけない。魔道具を止めて。急いで!」


「と、止まりません! 一体どうすれば・・」


「叩いて! 叩くのよ! 叩いてその魔石を外すの!」


「はい! 叩きます!」


下っ端魔導士と、その上司である糸目の女性の2人がバシバシと魔道具を叩く。


しばらくすると、徐々に光球の出現が収まる。


「よし、止まったわ。しかし・・・これは・・・」


実際の時間は1分ほどであろうか。

光の奔流が収まり、その中にいた人影達の全貌が視認可能になる。


一番最初の魔方陣にいた人物達、そして光球から現れたおびただしい数の、何故か同じ服装をした子供たち。外広場には大人達の姿もあった。

 

ほとんどの人物は黒髪で、みな行儀よくきょろきょろとあたりを伺っている。何人かは興奮しているようであったが。


「・・・一体、何人おるんじゃ?」


 王の呟きに対し、即座に回答できるものはいなかった。


この日、弱小国家”ラメヒー王国”に、日本人600人が異世界転移した。


召喚された日本人達の異世界ライフ、もといサバイバルが始まる。

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