第36話 *気持ち悪い表現があります*苦手な方はご注意下さい*
意識が
ぬめっとしたものが酸素とともに喉に落ちてくる。気持ち悪い。ジャムに似たようなねっとりしたものが喉にへばりつく。
『がはっっっっ』
白目のまま半ば強引に上体を起こす。勢いよく口内のものを吐き出す。口の中に鉄の味が広がる。一緒に吐血もしたようだ。
もう何も出ないが酷い吐き気を
どうやら私は砂浜に横たわっていたらしい。私が吐き出したものは黒っぽい。ワカメような海藻に似ている。そういえば口の中が
まだ目がちかちかする。全身を
『気が付いたようだね。のんびりと眠っていたようだけど、回復したのなら戻った方がいいと思うよ? 今回は君の完敗だね。他の方法で強くなるしかないね』
後方から聞こえた声。私はびっくりしながらさっと後を振り返る。そこにいたのは私によく似たコイツだった。
急に頭を動かしたせいか後頭部がめちゃめちゃ痛い。あまりの激痛に私は頭を抱えて砂浜を転げ回る。
砂浜をのたうち回ったので口の中にざらざらとした砂が入ってきた。喉が凄く
鼻にまで砂が入ってきた。苦しさに
普通の海水を飲んだり、海の中で目を開くのは自殺行為である。塩分濃度が高く身体に有害だからだ。身体に切り傷があるならなおの事、痛烈な苦しみを味わうことだろう。
私はぼんやりとした頭で考えた。おそらくここの海水はほぼ塩分が含まれていない。
私は恐る恐る海の中で目を開く。ほんの少しだけちりっと痛むがすぐに慣れた。思い切って口を開け鼻うがいをした。これは流石に痛かった。
鼻も口も
心身が回復する。生気に満ちて
海の中が鮮明に見える。エメラルドブルーの海。こんなに綺麗な海だというのに魚は見付からない。
桃色や
しかし魚は一匹も見当たらない。珊瑚や海藻が生きているのだからプランクトンや微生物はいるのだろう。
その
この海がどうしようもなく恐ろしく思えた。
私は慌てて海から飛び出す。跳ねるように海水を乱暴に
海中は浮力のおかげで身体が軽い。しかし砂浜に出た途端に重力に押し潰される。私は砂浜でばたりと倒れた。顔が砂に
せっかく綺麗になった身体にまた砂がべったりと付いた。これでは
『なんだ! この海は!? パワースポットか!? 聖域か!? ……ここどこだ? 教えろ!』
私は仰向けに寝る。ぜえはあと落ち着かない呼吸をした。視界の中にはコイツの姿は確認できなかった。だが私が呼べばひょっこりと出てくるに違いない。
見渡す空は白っぽい。上に向かうと少しずつ薄い青空になっている。水平線に浮かぶ黄色い太陽は眩しい。朝日なのか夕陽なのか見分けがつかない。風がないこの空間で黄色い雲は流れて形を変える。不規則に動く白い波。
『口の聞き方がなってないね。君は考えてばかりだけど……あまり
砂浜を歩く音がしない。それでもコイツは私のすぐそばに現れた。うんざりとした声を落として私を見下ろす。不機嫌オーラ全開なコイツ。
距離が近い。私が手を伸ばせばコイツの足首を掴める。
物事が上手くいかない。そのストレスをコイツに無性にぶつけたくなった。私が
『ああー! 今ディスっただろおお!?』
ちなみにディスるとは『馬鹿にする』という意味だ。コイツはさらっと私を
『もうそれ
『やかましい! 私の質問に答えろ!』
後頭がまだズキズキと痛む。自分の大声に耳がキーンとなった。
ダメだ。なにをやっても裏目に出る。こういう時は動かない。静かにして周りを観察するのだ。
『君は自覚があると思うけど精神が未熟だね。実際に戦う時に、頭も心もバラバラのままで上手く切り抜けられるのかな? 君の身体はまだ回復してないよ。
『さっき私の口の中にあったものはなんだ?』
『ワカメだよ? 海水で洗ってまた食べたら良いと思うけど。僕も正直嫌だし……新しい物をとって食べてね』
『念のために聞くが、あのジャム状のワカメは……君が噛んで私に飲ませたのか?』
お互いに睨み合う。そして無言。
オーマイガー!!!
自分に瓜二つの野郎からディープキッスをされてしまったのか!!!
今更なにもかもが手遅れかもしれない!
しかしながら! 嫌なもんは嫌だあああ!!!
私は大泣きしながら海の中に入る。自分の喉に人差し指を突っ込んで懸命に吐こうとする。
残念ながらなにも出てこなかった。最悪だ!
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