第33話



 深くちるような深呼吸をする。それと同時に意識が吹っ飛んだ。

 どう表現すればいいのか……感覚的に別次元に移動した。



 目を開けたら辺りは真っ暗だった。

 本当に自分が目を開けたのかはさだかではない。


 何故なぜなら私はついさっきまで狭く薄暗いトンネルの中で地面に座り、胡座あぐらをかいていたからだ。

 そこからチャクラに呼ばれて、私の意識だけが別次元へ飛んだのだ。



 すなわち、私の本体である身体は今もずっとそのままでトンネルの中で座っているだけだ。




 真っ黒なもやが私の中に入ってくる。じりじりと浸食しんしょくをされているようだ。



『真っ暗で何も見えないぞ!!!』



 急に大声を出してみた。私の心に不安と恐怖を植えつけようとする真っ黒な靄。それを振り払うために自分の声で威嚇いかくをしたのだ。


 空間に少し木霊こだまする。まるでささやくような音となって自分の耳に戻ってくる。



 誰からも返答がない寂しさと自分の声が聞こえる安堵感あんどかん

 立ちくしていても仕方がない。歩いたとしても進めるとは到底とうてい思えないが、何もせずにいると精神的にしんどいものがある。




 私は自分の身体からはっされているエネルギーを読み取る。視界にはただ暗闇が広がっている。試しに自分の手首や指を動かしてみたが、目で確認することはかなわなかった。





 風もない。音もない。自分以外の存在を感じない。オーラすらも感じない。



『ここは一体いったいどこだ?』



 異世界転生とかだったらここいら辺で神様や女神が登場するのだが、どうやら私の場合は違うらしい。


 うん。異世界転生したくないし。今世こんせでやり残したことが山程ある。




 林檎との約束。じーちゃんとの約束。

 そして、自分との約束。






 あ、そうだ。私はまだ死んでないじゃん!






 何をしに、この異空間に来たんだっけ?








 私の思考は次第にぼやけていく。

 私の名前は? 私の目的は?







 私は…………?









 一瞬のことなのか、それとも膨大な時間を費やしたのか、まったく頭では理解ができない。

 ただ、意識に感じる空気がこの世のものとは思えなかった。


 強いて上げるなら宇宙空間。

 それか……未知の生命体の存在がゆるされる霊的な空間。


 偉大なマンガがある。それに『神と時の部屋』という摩訶不思議な空間があった。伝説のアニメである。アドベンチャー(大冒険)なストーリーなのだ。



 そういえば、今の私はまさにそんな現状になっていた。



『危な……! 私は私の存在をあやうく忘れるところだった!』



 私はやれやれ……と自分のひたいの汗をぬぐう。その汗が見えた。


 ん? 見えた……?


 私が『えた』ことを確認する。




 刹那、視界が一気にひろがった!!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る