第21話






「その前に、林檎の髪をツインテールに戻さないとな」



 青空の下。私と林檎は笑い合う。林檎は普通に笑っていた。それが凄く新鮮だった。


 まあ、しかし。七月半ば。屋上で太陽の光をサンサンと浴びては、汗だくになる。夏の制服の白いワイシャツが濡れている。不快だ。


 そういえば、林檎の白いブラウスの第一ボタンが無いままだった。コンパクトなソーイングセットは、制服の緑のパンツのポケットに、いつも入れている。



 う〜ん。汗が気持ち悪い。アフロが蒸れる。屋上に逃げたのは失敗だったかな。



「屋上は風が強いから、い上げるの無理。鏡を見ながらむすぶよ。中に入ろう?」



 林檎が屋上のドアへと近付き、止まる。私も気配を感じる。誰かが屋上へとやってくる。



 ――――どたどたばたんっっ



「ちょっと! アフロ! 日直の仕事、サボんなや! しゃあないから、ウチが持って行ったわ! お礼言って!」


「ありがとうございます」



 林檎と二人で、このままずっと、良い雰囲気に浸っていたかったが、慌ただしく事態は変化した。


 屋上のドアを激しく閉めたのは、高梨葵だった。なんだか、プリプリと怒っていた。



「アフロ! あんた、さっき教室で、林檎ちゃんとイチャついとったから、男子達が荒れてるよ! 今、林檎と教室戻ったら、フルボッコされるわ」


「な、な、な! なんだとおおおおおお!?」


「林檎は学年一のアイドルや! ウチはこの八雲私立中学校で、一番可愛いと思う! そんなアイドルと、突然出てきたアフロの、仲良しこよしちゃんを見せ付けられたら、殺意湧くで!」



 私と高梨葵の会話は白熱する! お互い額に汗を流していた。


 高梨葵はなせが、ファイティングポーズを取っている! そのポーズは空手とボクシングの中間みたいな、見慣れない構えだった!


 私もつられて、ムエタイもどきの構えを取る。いや、実際には戦わないので、チャクラは練ってない! 安心してくれ!


 こう見えて、私は平和主義だ! 林檎の前で、クラスメイトの女子に手を挙げるなんて、言語道断ごんごどうだん! 百害あって一利なし!



「なにか! 解決策はないのか!!?」


「ウチに言われても……。あ! 幼馴染み設定やったら、許されるんじゃないの?」


「実は双子の兄妹とか!? いやしかし! その場凌ぎで、余計にややこしくなるんじゃないか!?」


「おお! 地味アフロのくせに、頭良いな!」


「アフロは地味じゃないいい!!!」



 私と高梨葵の口論はまだ続く! お互い取っ組み合いをしそうな距離になってきた!

 このまま相手の胸ぐらを掴んで、投げそうだ! 一本取りたくなってきた!


 いや! ち、違うぞ!!! それじゃただの格闘バカぢゃないか!



 つーか! 林檎さん!!? 急に絶対零度の微笑みを浮かべてるううう!!?


 殺気放ってます!!! 恐いんですけど!!? 何がそんなにお気に召しませんか!!?



 ――――え? 私、なんか、やらかしてる!?



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