第19話




「そうだよ、葵ちゃん。武本くんは見た目は乱暴だけど、好きな子は真面目な可愛い子だ。葵ちゃん、素が良いから、もっと清楚にしたら良いよ。武本くんが好きなんだよね? 神木くんも口は悪いけど、葵ちゃんを心配してるんだ。武本くんは隣のクラスだよね? 今から行って、確認する?」



 林檎さあんんん!!! このご恩はけして忘れませぬ!!!



「林檎ちゃん。ウチ……ほんとはね、不良の星矢が好きなん違うんよ。星矢な、こそっと、お年寄りの荷物を運んだり、電車で妊婦さんに席を譲ったりするんよ。ウチ、星矢の誠実なとこが好きなんや。今からでも、間に合うかな?」



 高梨葵は葡萄色ぶどういろの目を潤ませて、林檎の群青の双眼を見詰める。



「大丈夫だ! 『もう遅い!』なんてない!」


「アフロに聞いてない! てかそのアフロ、本物?」



 高梨葵はキッと、私を睨む。睨んだ後で、私の頭をジーっと見ながら、手を伸ばした。

 自分の席に座っていた高梨葵は、サッと立ち上がり、私のアフロを触ろうと近寄る。



「やめておきなさい。伝染うつるわよ」


「伝染るかああああ!!!」



 しかし、私に迫ってくる高梨葵を阻むように、林檎が間に入った。高梨葵は林檎に従い、自分の席に戻る。



 またうっかり、私は高梨葵に啖呵たんかを切ってしまった。しかし二度は、高梨葵から文句以外のアクションがあった。


 歩み寄り精神だろうか? 私は透明人間じゃないのか?



 これは『林檎さんマジック』か!? 林檎が側にいることで、私は空気ではなく『クラスメイト』として扱われるのか!?



「伝染るわ」


「伝染るか! ポメラニアンのようにモコモコの毛だ!!! 触ってみろ! くせになるぞ!」



 私は遠慮を忘れて、林檎の細い両手首を掴む。そのまま、私の小さなアフロヘアーをポンポンと触らせる!



「神木くん、ポメラニアンの性格知ってる?」



 林檎はまるで、小型犬を可愛がるように、私のアフロをわさわさ撫でていた。


 なんだろう。なんか、急に恥ずかしくなってきた! 公共の場で、私は林檎に遊ばれている!? 羞恥心しゅうちしんか!?



「活発で警戒心が高くてよく吠える。しかし! 愛くるしい見た目、大好きなご主人には騎士のように忠誠が強い! まるで私のようだ!」



 ぐさっ! 私は自分の言葉が槍のように刺さった! 私はけっして、ドMじゃないぞ! 林檎さんに合わせたら、こうなってしまったのだ!



「い、いつまで、やっている! やめれえぇ!」



 いたたまれない気持ちでいっぱいになる! なんか屈辱的くつじょくてきだ!


 きゃあああ〜嬉し恥ずかし十四才!!!


 いや待て。私はまだ誕生日が来てないぞ! 十三才だ! まるでツンデレぢゃないか!



 私は赤面したまま、日直の仕事を放棄して屋上に逃げる! 林檎さんももれなくついてくる!!!


 恐っっ!!! 助けてえ! ○ンパンマン!!!



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