・頼慈 令恵SIDE③

《誰だ、攻撃してるのは!》

《今攻撃しても無駄だぞ!》

《違う、俺たちじゃない! 川の外からの攻撃じゃない!》

《中だ! 爆発は、川の中から起きてるっ!》

《誰か潜ってるのか?》

《でも、あの爆破なら自分にもダメージを受ける! 自滅する気か?》

《自爆覚悟で攻撃してるって事かよ!》

《おいおい、そうなったら賞金はどうなるんだっ!》

 その台詞に、私は慌てる。自滅プレイをするようなプレイヤーが出てくるとは、流石に想定していなかった。ルール上、特別区管理者を倒したチームが賞金を獲得できる。このままでは、私たちの作戦は失敗してしまうっ!

《あ、碧希くん! 川の中に自滅プレイする人がっ!》

 私の貧困な語彙でも、碧希くんは状況を把握できたらしい。激しい運動をしている様な荒い息を上げながら、彼は私に問いかける。

《落ち、着け。梟は、装備品を、変更、し、たのか?》

《え? ま、まだだけど》

 言いながら、私も多少落ち着きを取り戻していた。如何に他のプレイヤーが自爆覚悟で攻撃したとしても、梟ちゃんが今の装備品を変更していないなら、『戦車』にダメージは入らない。そして他のプレイヤーが自滅プレイをしているチームを探しているが、誰も該当者がいない。更に、違和感がある。まだ、川の中で爆破が続いているのだ。もし自滅プレイをどこかのチームがしているのであれば、それだけ自爆するプレイヤーを集めなければ、自爆できるポイントを用意しなければならない。川の水を堰き止める作戦を知っているならあり得るかもしれないが、ネットでもその情報は公開していないのだ。そんな不確実な状況で、これ程人を、ポイントを、つまりお金を集めれるものだろうか?

 まだ激しく続く水飛沫と濁音を、電話越しに聞いていたのだろう。碧希くんは、思いつめた様な声を絞り出す。

《そっちを、選んだ、か。覚、悟を、決めたの、か、梟……》

《え?》

 疑問の声は、更なる爆音がかき消した。そして、碧希くんの言った言葉の意味を、私は見た。

 進んでいるのだ、爆発が。私たちの方に、川の中から盛大に吹き上がる水飛沫が、近づいてくる。

《嘘、でしょ?》

 言いながら、それでも現実は変わらない。状況は、想定していた中で、最悪の状況になってしまったようだ。

 他のプレイヤーが言った通り、自分でもダメージを受けるだろう。川の中では、呼吸をするのも辛いはずだ。

 でも、進んでいるのだ。

 江戸川区の特別区管理者は、『戦車』は、梟ちゃんは、川の水を砲撃しているのだ。銃口に何かが詰まった状態で弾を撃てば、撃った弾がその異物とぶつかり、銃身が破裂する。川の水という異物が詰まった状態で砲撃すれば、如何に『戦車』と言えども、いや、『戦車』という強力な装備品を使うプレイヤーキャラクターだからこそ、自分自身が受けるダメージは大きくなる。まさに自爆、自滅行為だ。

 しかし、撃てば川の水は吹き飛ばせる。水がなくなれば、僅かながら息苦しさからも解消される。そして何より、前に進める。

 予想通り、装備品は損傷していた。五本の砲門は根元から折れ、三本の砲門は半壊、四本の砲門も醜く歪み、残りも無傷とは言い難い。何より固く守られていた頭部は左側が露出し、胸部も右肩が露になっている。

 しかし、それでも渡り切った。

 梟ちゃんは防御力も、そして攻撃力も残したまま――

《――私だ》

『戦車』は私たちプレイヤーが待ち受ける河川敷、江戸川病院前野球場に辿り着き――

《勝つのは――》

 江戸川区の特別区管理者は――

《勝つのは、私だぁぁぁあああっ!》

 ボスに迫る挑戦者(私)たちに、その猛威を振るう。

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