2章

師匠マスター、この魔法陣はどうなってるのでしょうか?」


弟子の幼さが残る声で我に返った。


魔導書を読んでいたのだが、いつの間にか昔のことを思い出していた。


弟子は彼が初めてだ。


魔法が存在するこの世界でも、一名しかいないと言われる『不死身のヒト』になってから、千年余りが経過した。


魔術学の進歩は目まぐるしかったが、多くの技術が失われた。多くの魔術師も失われた。


その悲しみを共有できるものは、いない。


わが弟子にどれだけ残せるだろうか。


師匠マスター?」


押し黙っている私を怪訝けげんに思ったのか、弟子が声をかけてきた。


「ああ。少し考え事をしていてね。どれどれ・・。なるほど。魔法陣の中心に負荷がかかりすぎているね。その棚の、上から五番目の、右から十二番目の本の百十二ページに詳しく乗っているよ」


私は、考え事の内容を悟られぬよう、一息にしゃべった。その試みは成功したようで、彼は疑いもせず、いつも通りに目を輝かせて本棚に駆け寄った。


私が指定した本を手に取ると、魔法陣がインクで描かれた小さな金属板に向き合うと、羽ペンを動かし始めた。あの羽ペンは、魔法を扱う特別製だ。


私が弟子をとるといったとき、多くの魔術師が驚いた。皆私に魔術師を進めてきた。


黄昏たそがれ魔術大学の彼が妥当ではないか。いやうちの大学の生徒の方がいい。家の塾のせいとは優秀だ。一番笑ったのは、わが最新鋭の研究施設で作成された人造人間はどうだろうか。というものだ。


まあ私が結局弟子にしたのは、全員の予測を裏切って、とある孤児院にいた少年なのだが。


それが彼だ。名前はなかったので、私が、『コナー』と名付けた。私が見込んだ通り、彼は呑み込みが早いわけでも、魔力が多いわけでもなかったが、努力家だ。


かつての私も、確かこんな感じ立ったと思う。彼は、本を読みながら魔法陣を少しづつ調節している。生き生きと。楽しそうに。


私は彼の人生を傷つけたくはない。だから彼に教えない。悪魔を呼び出す術を。


私は、また魔術書に目を落とした。

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