12時発、1時着。/3つの心の旅【第3話】すれ違い

秋色

第3話 すれ違い①冬の朝

 朝の空気が昨日より何度か低い。急に学校指定のコートが頼りなくなる日だった。琴音は高校の校門前の長い舗道を歩いていると、後ろから走って来る足音に気が付いた。

 それは同じ演劇部のクラスメート、カオルとしおりだった。

「琴音、おはよ。歩くの、早くない?」とカオルが言うと、隣の栞はケラケラ笑って「矢井ちゃん、おはよう。意外な速さだね。競歩に出られるよ」と言う。


「おはよう。今日は一段と寒いよね。だから速く歩いてるんだよ、早く教室に行きたいだけ」


「本当寒いね。こんなに寒いと学校行くのがかったるくなるー」とカオル。


「本当! どうせ部活も今は放課後、オンラインでの練習だし、学校行っても張り合いないよね」と栞。

 新型肺炎の影響で演劇部は今、活動を制限されている。


「他の文化部は、もう普通に活動してるとこもあるのにね」と琴音もポツリと言う。


「やっぱ山田先輩の事も関係あるよね?」とカオルが言うと、すかさず栞が「山田先輩はコロナじゃないよ」と訂正する。


「でも一応、病気でしょ? 演劇部に病欠ばっかいるのはまずいんじゃない?」とカオル。


「そう言えば……」と琴音は気になっていた事を半ば独り言のように口にする。「先輩はまだ退院できないのかなぁ」


「もう退院してるかも。ずる休みかもよ」とカオル。

「かもね。ありそう」と栞も言って、二人はキャーキャー盛り上がっている。


 山田友加里は、自由気ままなイメージの三年生の部員。女子とは思えない豪快さで、大きな笑い声でみんなを圧倒する。夏休みは金髪で、甘い香水の香りをプンプンさせて練習に参加していた。美人は美人だけど、男女問わず、その美貌についての意見は分かれている。いつも行動は突発的、衝動的で予想がつかない。だから特に演劇部の部員達の中にはやりにくいというイメージが出来上がっていた。


 でも琴音は知っていた。友加里は誰よりも迫力のある演技ができる事を。演技の天才だって事を。



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