第三章

「さぁ、オレたちの街へようこそ!」

 そう言って出迎えてくれたのは、この『牧場』を取りまとめているというズラドゥスという人間の青年だ。少し痩せているが、藍色の瞳は輝いて、生き生きとしている。黒い髪と肌は艶があり、食事に困っている様子はない。

 俺は口元を押さえながら、ズラドゥスに話しかけた。

「この『集落』は、随分煙が凄いな」

「まぁね。多分、『科学(ヴィエダ)』、中でも『電子機関(エレクトロニケェストロイ)』ではなく、『蒸気機関(パラニィストロイ)』が発達しているからかな」

 そう言って、ズラドゥスは口元だけを覆う防毒面越しに笑った。彼の防護面には無数の歯車が回転しており、時折排気弁から水蒸気が吐き出される。通行人たちも、皆防毒面を身につけている。形も様々で、鳥の嘴のようなものや、吸収缶へやたら管がついているもの、吸気弁だけがやたらと大きいものや、巨大な耳のような補聴器がついているものもあった。

「なぁ、ズラドゥス。防毒面がなくても、本当に大丈夫なのか?」

「基本的には水蒸気だけだからね。でも、街の地域によっては空気中の毒の濃度が高いところもあるから、そこは行っちゃダメだよ」

「そういう場所は、是非早めに教えてもらいたいね……」

 早速身の危険を感じながら、俺は『牧場』を見上げる。煙があらゆる建物から立ち上り、太陽の光がまともにここまで届かない。光を補うためか、街燈がやたらと立っているが、その色は赤や緑、それに黄色等様々で、統一感がなかった。その建物には煙を逃がすための鈍色の管が無数に張り巡らされ、蒸気が吹き上がる度に、錆びついた歯車が耳障りな音を出して動き出し、集まって液体になった汚水が、あちらこちらで水たまりを作っている。そしてその水たまりの上を、四つの巨大な車輪がついた、歯車でできた馬車のようなものが、蒸気を出しながら通過していった。

 ……どうやら、この『集落』の人間は、かなり自由に生活させてもらっているみたいだな。

 そう思いながらも、俺は別行動を取っているクゥニとメラスに思いを馳せた。

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