第39話 丸秘報告書

 ――コンコンコン。


 妖しげな月が空に輝く静かな夜、村を開拓するために今後どうするべきかと思案している俺のもとに、ノックの音が飛び込んできた。


「入れ」

「うわぁー!? ショボい村なのに自分だけめっちゃ良いところに住んでるじゃないっすかー! マジで神経疑うっす」


 神の書斎に軽い声で入って来たのは、み空色の髪を片側だけ編み込んだ天使ウリエル。


「やかましいわぁ! 俺は神なのだから当然だろ!」

「にしても、格差がヤバすぎるっす。ウリエルなら日中虫眼鏡で柱を集中攻撃しているところっす」

「神の社を燃やそうとするなッ、ばかたれ!」


 顔とスタイルがいいから雇ってやったけど、雇う天使を間違ったかもしれんと、神は今頃になって後悔している。



「で、わざわざ何しに来たんだ?」

「調べてくれって言ったのはウゥルカーヌス様の方っすよ」


 ぷくーっと頬を膨らませて不貞腐れるウリエルは、丸秘報告書と書かれた紙の束を机に投げつけた。


「おお! 見つけて来たか!」

「探すの苦労したっすよ!」

「で、近いのか?」

「かなり遠い上に、全員バラバラっすね。現在はガブリエルがなんとか一つの場所に集め、こちらに向かわせようとしている最中っす」

「よし! ガブリエルにはそのままこちらに誘導するように伝えるのだ。すぐにこちらから迎えを差し向ける」

「了解っす! あっ、それと」


 退室しようとしていたウリエルがメイド服を、外套を翻し振り返る。


「トリートーンが血眼になって探してるみたいっすよ」


 一瞬息が詰まる。

 嫌な汗がツーっと頬を伝った。


「……バレてないんだろうな」

「幸い、約束の大森林ここには冒険者すら滅多に近付きませんから、しばらくは大丈夫っすよ」

「そうか」


 ほっと息をつく。


「でも、できるだけ急いだ方がいいっすよ。トリートーンはこちらの陣営を見つけるために、冒険者を雇ったみたいっすから」


 それだけ言い終えると、ウリエルは闇に消えていった。


「こんなショボい村、今襲われたら一瞬でゲームオーバーだ。急がねば」


 翌日、黒翼馬ダークペガサスが引く特殊な荷馬車に乗って、約束通り食糧や資材を運んできた商人のカインに、俺は急ぎの仕入れを頼んだ。


「ここからずっと東、ですか?」

「そうだ。ワンダーランドを抜けてただ東に進めばいい。そうすれば、目当てのものは自ずと向こうからやって来る」


 複雑な表情を浮かべるカインだったが、


「分かりました。ウゥルさんを信じてみます!」

「無茶を言ってすまんな。あっ、それと、これは約束のコンドームだ!」


 一度天界に戻り、別世界に移動して大量に仕入れてきたコンドームを、村の倉庫に大量に保管している。それを木箱に詰め直し、カインに売って利益を得る。


 今のアーサー村にとって、これが唯一の収入源である。


「相変わらず凄い量ですね」

「こっちのは『オナホル』まで届けてくれるか?」


 俺はカインに売る分と、バリエナに売る分のコンドームを荷馬車に乗せる。


「これは運送料と、今回のお代だ! あっ、それとこれは今回の経費だ。何かあったらここから使ってくれ」

「こんなに、ですか!?」

「何か変か?」

「……いえ、かしこまりました!」


 村に一泊したカインは、翌日には飛び去っていった。


「さて、目当てのものが到着するまでに、少しでも村を良くしないとな」

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