第38話 さらば、ワンダーランド

「もう、行くのか?」


 随分長いこと世話になったが、村に帰る日がやって来た。これから村を発展させるためにも、神たる俺がいつまでも不在というわけにはいかない。


「ああ。これからカインが色々と資材やら人手やらを運んで来ると思うけど――」

「分かっている。そちらは俺様に任せろ」


 ベルゼブブには現在俺がトリートーンと領地を賭けた神々の戦いゴッドゲーム中だということも伝えている。それを知った上で、彼は自分も力になると言ってくれた。


 さすがにベルゼブブ本人や、ワンダーランドの力は借りられないので、気持ちだけ受け取っておく。ベルゼブブではなく、ワンダーランドの兵たちによる協力ならば問題ないと思われがちだが、そこからベルゼブブの存在が知られると何かと問題が発生する。


 程よい距離間を保ち続けることこそが、お互いのためである。


「クレアちゃん、辛くなったらいつでも帰って来ていいのよ。結婚だけが女の幸せじゃないもの。でもね、神様と結婚できる機会なんて二度訪れないわ! このチャンス、必ずものにするのよ!」

「べべべ別に今すぐ結婚するわけじゃないんだから! なっ、なに言ってんのよママっ!」

「いい、初めての時は思いっきり股を開くのよ」

「やめてよママッ――!!」


 一体あの母娘は何をやっとんのじゃ。


「やっぱりスケベェエルフなんだじょ」

「エロッフだがや」

「分からないことがあったらオラの床上手な嫁に聞けばいいべ。スケベェなテクをたくさん知ってるから、きっと弟子に伝授してくれるだべ」

「誰がゴブリンの弟子になんのよっ! ふざけんじゃないわよ!」


 相変わらず賑やかな連中だと、白い目を向ける俺に、


「……すまん」


 父親としてベルゼブブに頭を下げられた。


「ところでさ……」


 ずっと疑問に思っていたことがあり、俺はこっそりベルゼブブに尋ねる。


「クレアって、悪魔なのか?」


 ダークエルフと悪魔のハーフである彼女は、どういった存在なのかということ。

 見た目はダークエルフそのものだし、クレアからは悪魔の薫りがまったくしないのだ。


「悪魔の血が極端に薄いためだ。それに……」

「それに?」

「あいつがまだ物心つく前に、悪魔の尾を引っこ抜いた」

「……マジかよ」

「翼は力を使わない限り、肩甲骨まわりの筋肉にしまわれている。バレる心配はまずない」


 それを聞いて一安心だ。

 神が悪魔と婚約したなど知られたら、それこそ神審判である。

 色々と厄介事ばかり背負うことになってしまったが、まあなんとかなるだろう。


「神様、早く帰るですよ! 村のみんなに早くお土産をあげるです!」


 まるでサンタクロースのソリのように、二頭の黒翼馬ダークペガサスが引く荷馬車には大量の土産が積込まれていた。


「なにから何まで、悪いな」

「命を助けられた身だ、気にするな」


 ベルゼブブと固い握手を交わす。

 かつての敵も、今では友だ。


「アーサーはせっかちだな。 ――さあ、行こう、我らがアヴァロンの神、ウゥルカーヌスよ!」


 俺たちはゴブゾウが御者を務める馬車に乗り込んだ。


「ゴブヘイとゴブスケはしっかり荷馬車を操縦するべ!」

「言われるまでもねぇだがや!」

「右に同じくだじょ!」


 窓から身を乗り出し、両親に手を振るクレア。


「パパ、ママ! あたし、あたし絶対に幸せになるからぁッ―――!!」

「クレアちゃん!」

「……いつでも戻ってこい」

「………」


 まだ結婚してないのだが、な。


「さて、行くか!」

「はいだべ!」


 俺の合図で太陽に向かって飛び立つ馬車と荷馬車。窓から見えた龍の背骨――魔族街ワンダーランドに別れを告げる。


「……また、いずれ」


 一同、帰路につく。


 そしてここから、ようやく俺たちの国作りが始まる。

 この先どんな試練が俺たちを待ち受けているのか、正直神たる俺にも想像がつかない。

 それでも、俺たちは進むのだ。


 神の加護は、ここに在る。





――――

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