第9話 アーサーの初体験
「ああっん、そ、そこは……あんっ!? いっ、いけませんっ!?」
「よいではないか、よいではないか」
「んんっ!? それよりお飲みになってくださ――あんっ!?」
村人たちが用意した巨大な祭壇。
最上に敷かれた座布団に腰を下ろす。
前方には食べきれぬほどの肉と酒がお供えされており、両サイドには美人若妻。
これらは神への貢物だ。
この村の連中は中々にわかっている。
村を救ってやった偉大なるこの俺を讃え、今宵は村をあげての宴。
そこには少し場違いな見た目をしたゴブリンの姿もある。悪さをしないならば問題ない。
ちなみに、ジャンヌ・ダルクVSホブゴブリンの決闘はわずか数秒で終わってしまった。
相も変わらずバカの一つ覚えのように突っ込んでくるホブゴブリンに、ジャンヌが聖剣フルンティングを縦一文字に振るうと、ホブゴブリンの体躯が脳天から真っ二つに裂けてしまった。
なんともあっけない幕引きだ。
「我らが偉大なる守護神、ウゥルカーヌス様。今宵は御降臨を祝し、娘たちが祈りの舞を披露させて頂きたく思います。どうぞ御緩りとお楽しみくださいませ」
「うむ」
村の年長者が合図を出すと、ビキニにシースルーな衣をまとったエッチな恰好の三人娘が登場。踊子のようだ。
「ほぉ、ジャンヌも踊るのか」
正直意外だった。
てっきり剣術意外には興味がないものとばかり思っていたが、一応村のルールには従っているらしい。
「ん……?」
酒を飲み交わす男衆のなかにアーサーの姿を発見した。前を向いて下を向き、そしてまた前を向いて下を向く。一連の謎動作を延々と繰り返している。
「なにやってんだ……あいつ?」
と、思ったが。
ああ、なるほど。
気付いてしまった。
アーサーの目線をたどった先には、露出度高めのエロい恰好をしたジャンヌがいることに。
「あの童貞……情けないほどにもじもじしよって」
あれでは側室はおろか、まともに正妃も作れんではないか。
アーサーには俺のために子孫繁栄という重大な使命があるというのに……。まったく。世話のかかるやつだ。
俺は
「しかし……本当によろしいのですか?」
「構わん。俺が赦す」
「では、そのように」
篝火を背に数十分間踊り続けていたジャンヌに、ミカエルはそっと近付き杯を差し出す。
「どうぞ。甘い果実酒です」
「ああ、すまない。ちょうど喉が渇いていたところだ」
「いえ、お気になさらないでください」
ミカエルから果実酒を受け取ったジャンヌは、豪快に喉の奥へと流し込む。
報告書によるとジャンヌはかなりの酒豪らしい。酒好きが功を奏して警戒されずに
「――――!?」
ビクンッ!?
飲み終えたジャンヌが背筋を伸ばしては目を見開く。
次いで――カランッ! と地面を転がるのは空の杯。
「あら……どうかしたんですか?」
天使でありながら悪魔の笑顔で問いかけるミカエル。
「なっ、なんでも……なひぃっ!?」
「大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ?」
わざとらしくジャンヌの体に触れるミカエル。その度に電気を流されたようにビクンッ! とジャンヌの体が大きく揺れ動く。
先程俺がミカエルに手渡した小瓶には、ゼウス14番目の子にして八女――アフロディテから毎月購入している媚薬が入っていた。
一滴でも飲めば全身が敏感な性感帯となり、噴き上がる性欲が抑えられなくなるという優れもの。
聖女を気取ったジャンヌ・ダルクは、果たしてどこまでエロスの神の媚薬に耐えられるかな? これはある意味見ものだな。
「はぁ……はぁ……うぅっ………」
「体調が優れないのですか?」
膝を折り、その場に座り込んでしまったジャンヌ。
村の連中も「どうした? ――どうした?」と心配して集まってくる。
媚薬を盛られたにも関わらず、彼女は未だに正気を保っている。
何という精神力の持ち主。思わず感服してしまう。
「ジャンヌッ! やっぱりホブゴブリンにやられた傷が痛むんじゃ」
「あっ、よせっ! あんっ……さ、さわるなぁんっ!?」
心配して駆け寄ったアーサーを突き飛ばすジャンヌ。
「強がってもダメだよ。すぐ我慢するのはジャンヌの悪いところなんだから」
慣れたようすでジャンヌに肩を貸すアーサー。
かろうじて立ち上がったジャンヌであるが、すでに足はカクカクだ。
すると今度はゴブリンたちが何事かと近づいてくる。
「メスの匂いがすごいじょぉっ!」
「この女ひょっとして発情してるんじゃねぇだかぁ? やらしいメスだなぁー」
「アーサー、手は
「ちぃげぇちぃげぇ! インパクトを考えたら手は腰じゃなくて肩に置くのがベストだよ。こうやんだぁ」
ゴブリンたちは好き勝手言いながら、その場で腰を振ってアーサーに手解きしている。
「「―――!?」」
最低なゴブリンたちの言動に、トマトのように赤くなるジャンヌとアーサー。
村人たちはゴブリンたちの言動に大爆笑。
「そうかそうか! アーサーとジャンヌももう15だもんな」
「にしても、ゴブリンにやり方を教わった人間なんてきっとお前くらいじゃないか、アーサー」
「違いねぇ!」
―――ぎゃははははっ!
「きぃっ、貴様らっ! 王しゃあぁんっ!? ぐ、ぐろうするなあぁんっ!?」
――がっははははっ!
悶えながら言っても逆効果である。
「アーサーさん、ジャンヌさんをそのままベッドまで連れて行ってもらえますか?」
「え、あっ………はい」
「わぁっ、わたしは一人でぇええっ……うぅっ」
「その体では無理です。大人しくアーサーさんに連れて行ってもらってください」
夜の暗がりに二人が消えていくところをしかと確認した俺は、にやりほくそ笑む。
「どうやら成功したようだな」
「はい! すべては神の御心のままに……です」
俺は酒を煽りながら神眼を発動する。
ちょうどジャンヌの家の扉を二人でくぐるところだった。
「あの、ウゥル様」
わくわく。
どきどき。
ってな感じで俺の横で正座するミカエル。
皆まで言うな。
ミカエルたそも二人の
「皆静かに!」
祭壇から皆に声をかけ、俺は神の御業をもって大きな篝火の真上に映像を投影する。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」」」」
部屋に入ったアーサーとジャンヌの姿が宙に映しだされると、中央広場はどよめきに包まれた。
「アヴァロンの王が男になる瞬間を、しかと皆で見届けるぞ」
はしゃぐ村人とゴブリンたち。
すっかり打ち解けたようで、肩を組んで酒を酌み交わしている。
「じゃあ……僕は戻るね」
ジャンヌをベッドに運んだアーサーが背を向ける。不意に彼女が手を伸ばし、引き止めるように彼の手首を掴んだ。
なんというドラマチックな展開。
媚薬を飲んでいるとは思えんほど冷静だな。
「も、もう少し……一緒に居てはくれないか……?」
「………まだ酔ってるもんね。一人にしちゃったら危ないよね」
浅くベッドに腰かける二人。
なんとも焦れったい距離感。
少し手を伸ばせば触れられるというのに、互いにそっぽを向いたまま時間だけが過ぎていく。
上映中の広場では、酔っ払いたちが下品な野次を飛ばして盛り上がっている。
夜に口笛を吹くんじゃないよっ!
「なっ、なんだか暑いね! 今夜は熱帯夜かな?」
先に耐えきれなくなったのは奥手なアーサー。
わざとらしく手うちわで顔を扇ぎながら、窓を開け放つ。
その時――ガバッ!
「ジャ、ジャンヌッ!?」
「す、すまない……アーサー。しかし、体が……もう我慢できそうにないのだ! 許せっ」
アーサーに覆いかぶさったジャンヌが、力任せに唇を奪う。
驚きに目を見開くアーサーだったが、やがて受け入れたようにゆっくり瞼を閉じた。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」
これには村人やゴブリンたちも大興奮。
「奥手なアーサーにはあれぐらい押しの強い女、ジャンヌがぴったりだ」
「ちげぇねぇ。俺は二人がくっつくんじゃないかってずっと思っていたんだ」
「俺もはじめての時を思い出しちまうよな〜」
「誰もてめぇの初体験の話なんて聞きたかねぇぞ! ぎゃはははっ―――」
二人の契に感慨深いと涙ぐむ者まであらわれる。
一方ゴブリンたちは……。
「あれが噂の痴女ってやつだべっ!」
「襲われたら誰も抵抗なんてできないじょ!」
「
「でもオラも、一度でいいからあんな強いメスに無茶苦茶に蹂躪されたいべさ」
「それ、すっっごくわかるじょ! オスのロマンなんだじょ!」
「興奮するだがなぁ〜」
ゴブリンは意外とドMな種族らしい。
「「「「「「―――あっ!?」」」」」」
ジャンヌがビキニを外して見事なEカップを晒したところで、俺は映像を消した。
当然、あちこちから不満の声が沸き上がる。
「アーサーはしかと男になった! これ以上は無粋であろう。それとベン・ダルクよ! 今夜はアーサー宅の工房で寝るがいい。よいな?」
「はっ! すべては神の御心のままに……」
深々と頭を下げるベンにうなずき、ムラムラした俺もミカエルとアーサー宅に帰ることにした。
俺もジャンヌを見習ってハッスルせねばっ!
翌日、アーサーとジャンヌを見る村人たちの目が、すっごくやらしかったことは言うまでもない。
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