第1章 世界最弱の少年
プロローグ 世界最強たちの悩み
あるところに、世界最強クラスと称される三人の女傑がおりました。
その強さはまさに人外。
1人は拳で山を吹き飛ばし、1人は魔法の一撃で数万の兵士を消し飛ばし、1人は回復魔法と補助魔法で人を殺せる意味不明女と恐れられていたのです。
たった1人で国を滅ぼしかねないそんな女傑が3人でつるめば歩く天災、魔神の再来、地域によっては邪神扱い。その強さをもってすれば大抵のことは彼女たちの思いどおりです。
しかしそんな3人にも手に入らないモノがありました。
それは――男。
強さだけでなく、三者三様に絶世の美貌を持つ彼女らです。
長命種ではありますが、ヒューマンに換算すれば二十歳かそこら。女の盛りも真っ盛り。
いくら幼い頃から各々の事情で戦いに明け暮れていたとはいえ、生まれてこのかた男性経験がないなど本来ならばあり得ません。
ところがどっこい、彼女たちは“最強”でした。
つがいにするなら自分よりも強いか、せめて同格であってほしい。いざというときは守ってほしい――相手に求めるハードルがあまりにも高すぎたのです。
他の2人には絶対に先を越されたくないという意地はありつつ、かといって妥協もしたくありません。
世界最強格である彼女たちに近しい強さを持ち、なおかつ性格や立ち振る舞いも完璧に自分好みであってほしい――そんな世界最強の無理難題に応えられる男などいるはずもなく、彼女たちは欲求不満を募らせているのでした。
しかしあるとき、そんな彼女らに天啓が舞い降ります。
好みの男がいないなら、自分で育てりゃいいじゃない!
これはとても良い案に思えました。
見込みのある若い男に自分好みの戦闘スタイルや立ち振る舞いを叩き込み、良い塩梅になったら“収穫”するのです。一から育てれば男性経験のない自分たちが変に気後れすることもないでしょうし、なにより存在するかどうかもわからない理想の男を探し求めるよりよほど効率が良いことは間違いありません。
善は急げ。彼女たちは早速、未来の旦那候補……もとい弟子候補を探しはじめたのでした。
……が、弟子探しはこれまた難航しました。
才能のある者はちらほら見つかるものの、誰も彼もが生意気で自信過剰。確かにその国や地域で右に出る者のいない才能や実力があれば自惚れるのも当然ですが、世界最強クラスの実力を持つ彼女らからしてみれば、中途半端な才能で粋がる小物にしか見えません。
まあ性格に難があるなら力ずくで矯正してもよかったのですが、調子に乗ったガキなどそもそも育てる気にはなりませんでした。
そんなこんなで旦那候補=弟子探しを始めてから早数か月。
3人は弟子をとるどころか弟子候補にすら巡り会えず、計画は早くも暗礁に乗り上げていたのです。
「あー、次はどこ行くかな。ウルカ帝国なんてどうだ?」
「あの国では以前、第二都市を壊滅させた件で私たちは皆指名手配されている。落ち着いて弟子探しなどできないだろう」
「だからだよ。あそこに行けばあたしらを捕まえようって骨のあるヤツがわんさか出てくるだろ? そいつらを叩きのめして、その中から見込みのあるヤツを攫えばいいんだ」
「う~ん、わたしたちに向かってくるような人って大体ベテランだから、もう伸び代のないおじさんばっかりなんじゃないかな~」
「ぐっ、確かに……」
などと、弟子はおろか次に向かう街や国の選定にさえ困る始末。
と、そんなときでした。
とある王国の北端に位置する世界最高峰の冒険者学校に勇者の末裔が入学する――そんな情報が3人の耳に入ったのです。
勇者の一族といえば、数百年前に人族を滅ぼしかけた最強の魔王――魔神を討ち取ったとされる英雄の血脈です。彼らはいつか復活するとされている魔神を今度こそ完全に討ち滅ぼすため、強き血を残すことにご執心。跡継ぎは代々優秀な伴侶を探すため、冒険者の聖地とも呼ばれる要塞都市バスクルビアの冒険者学校に入学するという伝統がありました。
3人は「これだ……!」と思いました。
勇者の末裔が冒険者学校に通う数年間、要塞都市バスクルビアには様々な理由で世界中から若き才能が集結します。その賑わいはまさに世界の縮図、未来の英雄の見本市。
勇者の末裔本人を弟子にしてもいいし、世界中から集まってくる若き猛者の中から見込みのある者を探してもいい。将来の旦那候補=弟子探しにはこれ以上ない理想的な環境です。
「あそこの学長とは顔見知りだしな」
「うむ、色々と融通が利くだろう」
「行ってみる価値は十分だよね~」
そうして3人は旅馬車も使わず、凄まじい速度でバスクルビアを目指すのでした。
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