探偵の饒舌な右腕

蒼衣ユイ

プロローグ

 本庄茉莉まつりは十一歳年上の兄・すぐるの顔が思い出せない。

 これは記憶喪失ではない。優は茉莉が十歳を過ぎたばかりの頃に勘当され疎遠になったからだ。

 勘当の理由は優の職業だった。全国屈指の有名大学を卒業し、社員三千人を超える有名一流企業に就職したにもかかわらずわずか一年足らずで退職した。そしてやり始めたのはなんと私立探偵だった。

 厳格な父はそれを許さず優を叩き出し、以来一度も合わないまま九年が過ぎ、今日が記念すべき十年目である。


 「昨夜未明、東京都世田谷区で探偵事務所を経営していた本庄優さんの遺体が発見されました」


 茉莉はニュースで初めて兄の今の顔を知った。

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