第4話

「私は所長の磯貝と申します。早速ですが、説明に入りますね」


彼は立ち上がると、室内をゆっくりと歩きながら、話し始めた。


「ここでは、私が開発した超高性能適職診断を受けることができます。もともと、とある外資系企業のデータサイエンティストとして働いていた私は、独自にある開発を進めていました」


磯貝は、部屋の隅に置かれていた酸素カプセルのような物体の隣で立ち止まると、そのボディを手のひらで叩いた。


「それが、この超高性能適職診断装置の開発です!」


「はあ……」


テンションの高さについていけない周平は、いかにも困っていますという顔をして相槌を打った。


磯貝は、そんな彼の反応には全く動じずに続ける。


「世界各国の教育機関や医療機関、そして経済団体と連携し、この装置には膨大なデータを読み込ませています」


「データ?」


「ええ。簡単に言えば、『どんな人間がどんな職業で成功しているのか』という内容のデータです」


磯貝は馴れ馴れしく周平の肩に手を置いてきた。


「この装置が、あなたを統計学的な見地から分析し、最適な職業を見つけ出してくれるのです」


周平は磯貝の手をさっと振り払うと、素朴な疑問を口にする。


「すごく改まった言い方をされていますが、それってたまに自己啓発本とかで見かけるやつですよね。あとはネット上にも無料の適職診断ってありますし。それとあんまり変わらない気がするのですが」


すると、磯貝は待っていましたとばかりに答えた。


「ええ、たしかに似たようなものはありますね。しかし、我が装置が画期的なのは、直接脳をスキャンすることで、人となりを把握できるところです」


「直接脳をスキャン?」


「既存の適職診断は、受診者にいくつかの質問をすることで、その人の性格を把握します。そして、その性格に合った職業をおすすめするという仕組みでした。しかしこの場合、その時の気分によって受診者は回答を変えてしまう可能性があり、回答の信頼性に課題がありました。そこで私は、脳を直接分析する手法を確立させました。これによって、受診者の人となりを客観的かつ正確に把握することが可能になったわけです」


にわかには信じられないが、磯貝の自信に満ち溢れた表情を見ていると、妙に納得させられてしまう。


「つまり、私の装置であれば、受診者の一時の感情ではなく、その人が持つ脳の特性に適した職業を提案することができます。その結果、これまでのところお客様満足度は100%です。必ずや、あなたの天職を見つけて差し上げましょう」


そして、磯貝は重そうに装置の扉を開けると、手順を説明する。


「診断の方法は非常に簡単です。あなたはこの装置の中で五分程度待機していてください。その間に装置があなたの脳を分析し、最適な職業を見つけ出します」


磯貝は腕時計をちらっと確認すると、「それでは早速始めましょう」と、無理やり周平を装置の中に押し込んだ。


勢いのまま怪しい機械の中に閉じ込められてしまったが、本当に大丈夫だろうか。


周平の心配をよそに、磯貝は慣れた手つきで装置の電源を入れる。


「ゴォー」という低い音とともに、装置がわずかに振動し始めた。


どれくらいそうしていただろうか。周平がビクビクしながらも、なんとかじっと耐え続けていると、突然装置から「ピピピッ、ピピピッ」という目覚まし時計のような音が鳴り響いた。


すると、磯貝が扉を開けて言った。


「お疲れ様でした。診断は以上になります。結果は後ほどご本人様に親展で郵送させていただきますので、待合室にお戻りください」


晴れやかな表情で呟いた彼に、周平はまだ疑いの眼差しを向けたまま、その部屋を後にした。


しばらく待っていると、受付の女性に名前を呼ばれた。


「それでは本日のお会計は、診断料といたしまして五万円になります」


思わずお札を数える手を止めた周平は、目を丸くして聞き返した。


「五万円もするんですか?」


「はい。ですが多くのお客様が後々安かったと言ってくださりますよ」


周平は、これは新手の詐欺かもしれないと思った。


しかし、サービスを受けてしまった今となっては後の祭りだ。


諦めたように肩を落としながら、クレジットカードをトレーに置いた。

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