【漫画原作】億万長者、買います! ― An Auction and a Billionaire ―

スイートミモザブックス

#プロローグ 君は僕のもの

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およそ二十年前。名家の子息、ジェームズは大伯母の所有するビーナス像に心を奪われていた。時間があれば、その屋敷に通い、ビーナス像をながめる。いつか譲り受けたいと願って。


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 ビーナス像の白い肌にふっと影が差して、ジェームズは窓に目をやった。日が落ちかけている。昼食のあとここに来て、このビーナス像をながめ始めたのだから、もう何時間もたったことになる。子供とはいえ、名家に生まれたジェームズは忙しい。学校に家庭教師、いくつもの習い事。それでもたまに休める日があれば、大伯母のバーバラのところに遊びに来ることが多かった。祖母と孫というほど年が離れた大伯母とは不思議と馬が合う。だからバーバラに会いたいのはもちろんだが、このビーナス像の存在も大きい。バーバラの屋敷はまるで美術館だった。大伯母は有名なアンティーク蒐集家しゅうしゅうかで、広大な屋敷には数えきれないほどの美術品が飾られている。

「ジェームズ」

 戸口から呼びかけられ、振り返ると、大伯母が立っていた。苦笑いを浮かべている。

「あなたは本当にビーナス像が好きねえ」

 うなずいて、立ちあがった。

 バーバラは隣に来て、ジェームズの頭を撫でた。しばしふたりで像を見つめる。

「ずっとながめていたくなるのもわかりますよ。でも、お茶にしましょうね。じきお夕食だから、お菓子は食べ過ぎてはいけませんよ?」

 十歳になるジェームズには、こうした子ども扱いがもうくすぐったい。それでも素直に答えた。

「はい、伯母様」

 バーバラはにっこりと笑い、先に立って歩きだした。ジェームズもあとに続いたが、一度立ち止まり、振り返った。夕陽を浴び、淡いオレンジ色の光と影に彩られたビーナスは、先ほどとはまた違う表情を見せている。いつか大伯母が彼女を譲ってくれたら……。いつか僕のものに……。

「ジェームズ?」

 ジェームズははっとして向き直り、苦笑いの大伯母のほうへ駆け出した。

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