第21話 第二航空戦隊
第一任務部隊のパイ提督が大慌てで目標変更指示を出していた頃、第一艦隊の高須長官のほうはとっくにそれを終えていた。
接触機からの報告によって米艦隊の構成ならびに陣形があらかじめ分かっていたからだ。
高須長官の指示はシンプルだった。
第一戦隊の「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「紀伊」が敵一番から四番艦までを、第三戦隊の「比叡」と「霧島」、それに「金剛」と「榛名」が敵五番艦から八番艦までを叩く。
第七戦隊の四隻の「最上」型重巡は敵のおそらくは「ブルックリン」級軽巡を、重巡「青葉」と同じく重巡「衣笠」に率いられた水雷戦隊は一六隻の米駆逐艦を相手どる。
その第一艦隊の上空を第二航空戦隊の「蒼龍」と「飛龍」から飛び立った六三機の零戦が駆け抜けていく。
その零戦の腹の下には二五番が搭載されていた。
第一艦隊の頭上を超え、さらに米水上打撃部隊を迂回しつつ六三機の零戦は米空母部隊から離れ、西進を開始した九隻の大型艦を発見する。
「小沢長官が予想した通りだな」
零戦隊を指揮する板谷少佐は眼下の光景を見てそうつぶやく。
指揮下にある零戦のうちの半数は自分と同じように母艦を撃破されたことで「蒼龍」あるいは「飛龍」に着艦を余儀なくされた第一航空戦隊の搭乗員だ。
「小沢長官によれば、敵の水上打撃部隊は第一艦隊と接触するのと同時に『大和』の存在に気づくだろうとのことだ。そして、決定的な不利を悟った敵は必ず空母部隊の護衛艦艇、特に一〇隻近くある大型巡洋艦を水上打撃部隊の指揮下に置こうとするはずだともおっしゃっていた。
もし、これらが第一艦隊と敵水上打撃部隊の戦いに乱入してくれば、第一艦隊は負けこそしないだろうが、一方でかなりの被害を出す恐れもある。そこで、貴官らは未然にそれを阻止すべく、敵空母艦隊の護衛艦艇に空襲を仕掛けてほしい」
二航戦司令官はそう言って、第一次攻撃隊として六三機の零戦を、第二次攻撃隊として八機の零戦と四三機の九七艦攻を「蒼龍」と「飛龍」から出撃させた。
九七艦攻については索敵任務にあたっていた機体がその半数近くを占めている。
それら機体は帰投後に燃料補給を実施し、空中退避するよう指示されていたものだ。
これは被爆に備え、格納庫を空にするためにとられた措置だった。
被爆した「加賀」は一七機もの九七艦攻を索敵に出していたが、もしこれらが格納庫に収められたままであったとしたら、あるいは同艦は致命傷を負っていたかもしれない。
一方、零戦は戦闘機でありながらも艦上爆撃機の廃止に伴って爆撃能力が付与されていた。
二五番を一発かあるいは六番を四発まで搭載できる。
とは言っても、その爆撃法は急降下爆撃ではなく緩降下爆撃かあるいは水平爆撃によるものだ。
急降下爆撃は命中率こそ高いものの、それを行うためには引き起こしに耐えられる機体強度と装備が必要となる。
もしそれを実現するのであれば機体の補強が必須となり、必然的に大幅な重量増を伴う。
だが、そうなれば零戦の運動性能や速度性能はがた落ちとなり、当然燃費も悪化するから脚が短く非常に使いづらい機体となる。
それゆえ、特別な機体補強をせずに済む緩降下爆撃を採用したのだ。
緩降下爆撃は急降下爆撃に比べて命中率が低い代わりに目標上空を高速航過出来るから被弾率も低い。
六三機の零戦は七乃至八機の六群に分かれて六隻の米巡洋艦に緩降下爆撃を仕掛ける。
投弾前に三機が撃墜されたものの、残る六〇機は定められた目標に二五番を投じる。
そのうちで命中したのはわずかに六発。
一割にしか過ぎない命中率は急降下爆撃から見れば惨憺たる成績だが、しかし被弾した六隻の巡洋艦のうちの半数が機関に甚大なダメージを被り、その運動性能を減殺されてしまう。
そこへ第二陣の八機の零戦と四三機の九七艦攻が姿を現す。
八機の零戦は九七艦攻の護衛として同行しているが、全機が二五番を搭載しており、敵機の妨害が無ければ米巡洋艦を攻撃するよう指示されていた。
一方、四三機の九七艦攻のうち魚雷を装備しているのは三〇機だけだった。
「蒼龍」と「飛龍」は大型の「赤城」や「加賀」に比べて魚雷搭載本数が少なく、米空母を撃沈した時点でそれぞれ在庫が一五本しか残っていなかった。
それら雷装機が七乃至八機の四群に分かれて米巡洋艦を攻撃する。
こちらは本職の艦攻搭乗員らによる雷撃だったので狙った四隻の巡洋艦すべてに魚雷を命中させることに成功する。
少ない艦で一本、多い艦で三本が命中し、そのいずれもが完全に行き脚を奪われた。
残る一三機の爆装九七艦攻は二手に分かれ無傷の米巡洋艦を攻撃する。
こちらもまた、零戦と同じ緩降下爆撃だったものの一機あたり二発の二五番を搭載しており、なにより雷撃や爆撃が本職の搭乗員だから零戦搭乗員たちよりも腕は良かった。
狙われた二隻の巡洋艦はいずれも複数の二五番を食らい盛大に煙を噴き上げる。
その頃には八機の零戦も最後まで無傷を保っていた米巡洋艦を攻撃、命中は一発だけだったものの煙突至近に命中した二五番は機関室に飛び込みボイラーを爆砕、米巡洋艦は大きく速度を衰えさせた。
一一四機の艦上機による攻撃で一隻が撃沈、八隻が中破から大破とみなされる損害を被る。
この結果、第一任務群と第一艦隊との戦いに九隻の米巡洋艦が介入することはなかった。
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