第17話
深い森の中を歩いていると、急に雨が降ってきた。急いで雨宿りできそうな場所を探していると、一軒の大きな屋敷を見つけた。こんな森の中なのに珍しいなぁと思いながら屋敷に向かった。屋敷の前まで来てみて、ふと妙な事に気がついた。全く人が住んでいる気配がしないのである。まだ全然住めそうなのに空き家なのだろうか?疑問を抱きながらドアをノックした。
「すいませーん、誰かいらっしゃいませんかー」
サラは大きな声で言った。
しかし返答はない。
「やっぱり空き家なのかなぁ?」
俺は辺りを見回しながら言った。
もしかしたらドアの鍵があいているかもしれないと思い、ドアを押してみた。すると、やはり鍵はかかっておらず扉をあける事ができた。中に入ってみると、驚きのあまり思わず悲鳴をあげそうになった。
なんと、ここはお化け屋敷だったのである。上半身しかない幽霊達が宙に浮いて動き回っていた。なんとも信じられない光景だ。俺達が固まっていると、そのうちの一人が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ、私ウルシーヌと申します」
ウルシーヌという幽霊はにっこりと笑った。
「あ、あの…貴方達は幽霊ですよね?」
俺はたじろぎながら聞いた。
「はい、そうです。不思議に思われるでしょうねぇ、まさか幽霊が実在するなんて…私達も死んでから知った事なんですが、死んでから幽体として現世に存在する者が稀にいるようなんですよ」
ウルシーヌは死んでいるとは思えないほど快活に話した。
まさか幽霊と会話する日がこようとは予想だにしていなかった…
「な、なるほど…何か特殊能力とかはあるんですか?」
幽霊の事を詳しく知りたかった。
「物体をすりぬける事ができます。もし人間やモンスターの体をすりぬけると相手は失神します。まぁすぐに目を覚ましますけどね。あと、塩をかけられると私達幽霊は消滅します」
俺が幽霊に対して持っているイメージと大体合致している。だが幽霊という存在は生きている人間に対してもっと敵対的かと思っていたが、この幽霊はとても友好的なので安心した。もし、幽霊が敵だったら塩を持っていない俺達はなすすべがない。すぐに失神させられてしまうだろう。
「そうなんですか…この家は貴方達の家なんですか?」
「いえ、空き家だったので勝手に住まわせてもらっているだけです」
「ちょっと雨宿りさせてもらってもいいですかね?」
「ええ、どうぞ」
俺達は家の中を歩き回った。そこら中お化けだらけなのであの世に来てしまったかのような感覚に陥る。しかし、見た目はお化けでも中身は生きていた頃のままのようだ。一体どういうメカニズムなのだろう。
サラは怖がるどころかお化けに興味津々のようだ。暇そうにしている一人の幽霊に話しかけた。
「貴方も元は人間だったんですか?」
「ああそうだよ、ちょっとは名の知れた魔導士だったんだが、ギガンデノスの部下に殺されちまった」
幽霊は悔しそうに話をしている。
「ギガンデノス本人には会った事はあるんですか?」
俺は身を乗り出して聞いた。
「いや、会った事はない。俺の仲間も誰も見た事すらなかった。全てが謎に包まれた不気味な奴だよ」
「そうですか…」
俺達はいろんな幽霊に話を聞いて回った。話しているうちにだんだん幽霊に対する違和感がなくなってきて、生きている人間に接する態度と同じように振る舞う事ができるようになった。
幽霊達と仲良くおしゃべりしていると、急に扉が開いて1人の生きている男が家に入ってきた。
「幽霊どもめ、1匹残らず浄化させてやるぜ!そりゃあ」
男は幽霊に塩を投げつけた。幽霊はスーッと消えていった。
幽霊達は怯え、逃げまどい始めた。
「きゃあー、殺されるー。もう死んでるけどー」
「そりゃあ!」
男は俺に向かって塩を投げつけてきた。
「あれ?浄化しないなぁ」
「俺は生きた人間だ!」
俺は男の頭に頭突きした。いいところに入ったようで、男は失神した。
「ありがとうございます、貴方がいてくれて助かりました」
ウルシーヌさんが俺にお礼を言った。
「いえ、いいんですよ。雨もやんだみたいですし、俺達そろそろ行きますね」
「そうですか、お達者で」
俺達はまた旅を再開した。ぬかるんだ道をトコトコ歩き、次の町を目指す。
しばらく歩くと「ルシフォーン」という村に着いた。今日はちょうどお祭りの日だったらしく、多くの露店に人が集まっている。
「ねぇねぇ、わたあめ買おうよ、アロル」
サラが俺のそでをグイグイ引っ張りながら言った。
「そうだな、せっかくだから食べていこう」
俺達はわたあめを2つ買うと、子供のようにがっついてすぐに食べてしまった。
次に金魚すくいをやった。俺とサラは1匹づつ釣ったが、飼うわけにはいかないので返す事にした。
そのうち盆踊りが始まったので村人達と一緒になって踊った。ムーオ村でもお祭りの日はみんなで踊ったなぁと昔を思い出しながら楽しんでいた。
「貴方達夫婦は踊りうまいねぇ」
おばちゃんが微笑みながら俺達に言った。
「ふ、夫婦なんかじゃありませんよー」
サラはあたふたしながら言った。
こんな会話を交えながら、村人達とも仲良くなってきた頃、突然牛型の角のはえたモンスターが村を襲ってきた。
「モンスターが出たぞー、みんな逃げろー」
村人は祭りを中断して、逃げ始めた。
「俺達に任せて下さい」
俺達はモンスターの前で構えた。しかし、魔法が使える気配がしない。
「ふははは、バカめ!俺が魔法を無力化してる事に気が付かなかったか!」
モンスターはそう言うと突進してきた。直線的な攻撃だからよけるのは簡単だが、もし一撃でもくらえば致命傷だ。充分注意しなければ。
俺は攻撃をかわしつつ、モンスターの横っ腹に思いっきり蹴りをいれた。
「そんな攻撃が効くわけなかろう」
モンスターのぶ厚い肉の前では全く通用しなかった。
困った事になった。魔法が使えないとコイツに勝ち目はない。俺も逃げ出してしまおうかと考えていた時だった。
「えい!」
突然ウルシーヌさんが現れ、モンスターの体をすりぬけ、失神させた。
「ひっ、お、お化け!」
村人達は戸惑っている。
「安心して下さい、この幽霊は味方です。ありがとうございます、ウルシーヌさん。おかげで助かりました」
俺はウルシーヌさんに頭を下げた。
「何かお役に立てないか後をつけてきたかいがありました。これでちょっとは恩を返せたでしょうか?」
ウルシーヌさんは微笑んでいる。
「このモンスターよく見るとうまそうだな」
1人の村人が失神しているモンスターを見て言った。
「試しに食べてみましょうか、俺が魔法で焼いてみますよ」
俺は炎を出し、モンスターをこんがりいい具合に焼いて食べてみた。
「うん、うまい!これはいける」
みんなでおいしくいただいた。
「私も食べたいなぁ」
ウルシーヌさんがよだれをたらしながら言った。
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